2020年5月29日
子どもが楽しんで運動ができるようになるスマホ連動のスマートシューズ「UNLIMITIV」をテーマに、バンダイ アパレル事業部の中澤洋介に話を聞いた。後編は、中澤のこれまでの仕事への取り組み、そしてアパレル事業部を掘り下げていきたい。>>前編はこちら
さまざまな専門分野との出合いから、
新しいものを生み出す
中澤は元々食品リサイクルのベンチャー企業に勤め、その後は海岸の設計などを行う建築系のコンサルタント業務などをしていたといい、なかなか異色の経歴を持つ人物と言える。
バンダイ入社のきっかけは、その後上司となる人物から誘われたため。その人の話から「バンダイはとても色々なチャレンジをする面白い会社だ」ということを知り、入社を希望。新規事業部門への配属となった。中澤自身がここを希望したのはそれまでの仕事でも「何か新しいことを」と追い求める傾向があり、その気持ちを生かせる場所だと思ったからだ。
そこではペットボトル飲料のおまけフィギュアや、他社のノベルティ製作などに携わった。小さなフィギュアやプルバックカー、Tシャツなどを企業イメージに合わせアレンジし、製作するという業務を行なっていた。この仕事で企画の仕方、企業とのやりとり、商品製作のノウハウ、バンダイの品質基準など「バンダイのもの作り」を学ぶことができたと中澤は語った。
この頃から中澤は「さまざまな業種を引き合わせ新しいものを作る」ということをやっていた。日ごろからお付き合いのある協力会社だけではなく、中澤自身が会社を調べ、飛び込み営業のように会いに行き、仕事を進めていくこともあった。「さまざまな業種と協力しての商品開発」という姿勢はすでに最初の頃からあり、中澤ならではのビジネススタイルと言えるだろう。
「バンダイは他業種、さまざまな会社を"巻き込む"という形で仕事を進める社員が多いと思うんです。みんな、自分が考えたものを形にしたいという気持ちを強く持ち、色々な専門家にご協力いただいて実現する、というのはずっとやっていることです」と中澤は語った。
中澤は新規事業部門で"1.5mのガンダム"、「HY2M 1/12 ガンダム」を手がけている。(HY2MはHYPER HYBRID MODELの略)「HY2M 1/12 ザク」に続けて出たものだが、重さ、強度、1.5mのガンダムならではのバランス、さらに安全性など、従来の商品にはない新しい知識を多数要求される商品だった。これらの課題も中澤は専門家を集め商品企画を進めていった。ビーム・サーベルの表現には住宅建材の業者に相談するなど、幅広い知識を活用し、専門業者の協力を仰いだという。
この後中澤は男児玩具の部署に異動するのだが、ここでも等身大のアイアンマンや、R2-D2など大型商品を手がけている。完全なフィギュアではなく、壁から浮き出すような半立体のフィギュアで、コンビニエンスストアの立て看板の加工技術を応用したモノだ。この会社も中澤が調べてツテをたどり、群馬にある会社まで単身、車で向かって話を進めたとのこと。
また現在はBANDAI SPIRITSが運営している「ガンダムカフェ」の名物である「ガンプラ焼」も中澤が手がけたもの。鯛焼きのようにガンダムの姿をした"皮"に餡子が包まれているお菓子だが、声を掛けた鯛焼き業者からはガンダムの造形が細かすぎて、焼くための型が作れないと断られてしまった。引き受けてくれたのは栃木の伝統工芸である鋳物を扱う会社で、職人さんがこの複雑な型を作るのに挑戦し、実現できたという。この会社も中澤が調べて見つけた会社だ。
「ガンダムカフェはそのほかにも伝統工芸の技法を活かしたアイテムなどユニークな商品が多数あります。それらについては私は関わっておらず、後任の仕事です。業種を独自で探してコンタクトを取り、協力体制を作り上げ新たなものを生み出す。それは私だけでなくバンダイの社風だと思います」と中澤は語った。
専門メーカーに負けないクオリティ、
バンダイだからこそできるアパレル事業
次に質問したのが、バンダイ アパレル事業部ならではのこだわり。玩具メーカーとして知られているバンダイなだけに、「玩具メーカーが他の業界に手を出して」といわれることが少なくないことは、キャンディ事業部の取材でも触れたが、アパレルも同様だ。だからこそアパレル専門メーカーに負けないクオリティを目指して商品開発を行なっているという。
中澤自身もアパレル事業部に所属する前は、事業部が目指す"本気"がわからない部分もあった。しかし最初の子ども向け衣料商品を手がけていく中で、定番商品である「キャラクターが描かれたTシャツ」を例にとっても、印刷の技法、Tシャツに合うためのキャラクターのポーズや構図、見せ方など、「これほどか」と思うほどに細かく、そして力を入れて研究されていることを知ったという。そしてその技術は受け継がれつつ新たな研究により更新され続けている。そのことは中澤にとって、とても勉強になったと語る。
服のプリントは玩具と違って平面だ。表現の仕方は限られてくるし、効果的な方法も違う。だからこそよりキャラクターと服を魅力的にできる。そのこだわりに中澤は深く感心した。「UNLIMITIV」の時でも語られたが、子ども用のシューズは大人用では考えられないほど無茶な使われ方をされるため、高い耐久性が求められる。
服も同様で、子ども服ならではのノウハウは専門で研究しなくては得られない。そういった積み重ねをしっかりしなくては、アパレル事業は成り立たないのだ。アパレル事業部に所属することで驚かされることは多かったという。「アパレルにとって守らなくてはいけないこと」を高い水準で実現しているからこそ、魅力的な商品を開発できるのである。
また反対に「玩具としての服」というのもバンダイ アパレル事業部ならではのアプローチだ。普通の服では使わないようなキラキラとした素材や、キャラクターがまとっている服風のデザインなど、普通の服とは違う「キャラクター性」が求められる商品もある。この時にも服としてのクオリティや、肌の敏感な子どものための安全基準が求められる。アパレル事業部はそういったさまざまな課題をクリアすべく努力を重ねている。 それでいながら子ども向けの商品は「低価格」であることも求められる。非常にハードルの高い基準だ。
中澤も「UNLIMITIV」の開発にあたり、バンダイ アパレル事業部のプライドをかけてさまざまな課題をクリアしてきた。そのなかで、スポーツシューズ、そしてスマートシューズ機能で「やりたいこと」、「やってみたいこと」が大きく広がり、気づくことや見えてきた部分があった。
「『UNLIMITIV』は商品だけを見るとユーザーとなるお子さまにどれだけ多く使ってもらうか、運動してもらうか、というところでこちらはもちろん追求していきます。しかしそれだけでなく、"子どもの運動"という視野で、安全に、安心に運動をしてもらうには何かできないか、この楽しさを大人や、健康を気になさるシニアの方向けに広げられないかなど、可能性が見えてきました。もちろん海外にもお客さまがいる商品だとも思っています。商品単体ではなく、この商品が切り開いた先にはここから数年取り組む様々な仕事がある。何から取り組むかなどを考え、やっていかないとな。そう思うようになりました」。
「UNLIMITIV」はふとした思いつきをカタチにして実現した商品だが、これをきっかけに触れた「IoT(Internet of Things…モノのインターネット)」という視点が中澤に新しい可能性をもたらしている。そしてこれらを活用した情報の蓄積と活用をどうするかを考えることがとても面白いとのこと。商品単体からその商品に関するサービスまでが重視されていく昨今、バンダイとして何かできることはないか、この考えが今中澤に刺激を与えているという。バンダイ、そしてバンダイナムコグループとして活用する方法はあるか、エンターテインメント企業だからできるサービスを考えていきたいと中澤は語った。
©BANDAI
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UNLIMITIV公式サイト:https://www.unlimitiv.com/
UNLIMITIV PV:https://www.youtube.com/watch?v=4oVO6If9a3w
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