バンダイ深掘コラム「夢・創造人」

2020年5月15日

Vol.08 スマートシューズ・UNLIMITIV開発人<前編>~バンダイが手掛ける小学生向けスポーツシューズ~

「UNLIMITIV(アンリミティブ)」はバンダイが初めて手掛けた小学生向けの本格的なスポーツシューズだ。センサーユニットを靴にセットしBluetooth®で通信を行うことで、スマートフォンと連動し、ゲーム感覚で楽しく運動ができるのが大きな特徴だ。今回は「UNLIMITIV」を企画開発したアパレル事業部・新規事業チームの中澤洋介にインタビューした。>>後編はこちら

アパレル事業部 新規事業チーム 中澤洋介

「子ども向けのスポーツシューズ」に
しっかりと向き合う

「UNLIMITIV」は、「Active(アクティブ)」と「Unlimited(アンリミテッド)」を掛け合わせた造語で、「活動的で、かつ無限に広がる可能性」という想いを託している。

右足のソール(靴底)部分の「アンミリティブ専用センサーユニット」にウォーク、ラン、ダッシュといった項目が記録され、日々のデータを蓄積していく。

シューズとセンサーは別売りで、新しいサイズの「UNLIMITIV」に履き替えてもセンサーを入れ替えればデータをそのまま引き継ぐことができる。コイン電池式のセンサーは防水仕様になっており、1個の電池につき約8カ月の使用が可能だ。

スマートフォンと連動し、日々の運動データを蓄積する
UNLIMITIV公式サイト:
https://www.unlimitiv.com/

「UNLIMITIV」の面白さは記録したデータをゲームのように表現できるところ。「筋力」、「反応速度」、「跳躍力」など6つのトレーニングメニューでポイントを獲得でき、歩いた歩数のポイントと合わせてキャラクターが日本全国を走破したり、マップを進んでいき、ポイントを使ってコレクションを入手したりできる。

ゲームの手法を応用することで、勉強やトレーニングを促す手法は「ゲーミフィケーション」と呼ばれる。「足が速くなりたい」、「瞬発力をつけたい」、「もっとジャンプ力を上げたい」……「UNLIMITIV」にデータを蓄積させることで子どもたちはゲームのキャラクターのように自分の"成長"を可視化し、具体的なイメージとして捉えることができる。バンダイならではの強みを活かし、子どもたちにより楽しく、継続して運動をしてもらうようにしている。

トレーニング結果や歩いた歩数の記録がグラフで現れ、
日々のトレーニングで獲得したポイントでゲームも楽しめる

ユーザーからの反応も良かった。スポーツが得意な子はもちろん、苦手な子もゲームのグラフィックスやキャラクターに感情移入し、自分だけの目標を決めて努力ができるため、自分のペースで運動が楽しめる。こういった良い反応が得られたことはうれしいと、中澤は語った。

センサー技術、本格的なスポーツシューズ、さらには耐久性などさまざまな技術が凝縮された「UNLIMITIV」だが、「子ども心へのアプローチ」も大事な要素だ。「足裏のスパイクが恐竜の鍵爪と同じ機能を持っている」など、子どもの心を掴む、わかりやすくカッコイイイメージ作りは、バンダイが得意としていることだ。

昨年実装した「ニゲキル」というアプリは、バンダイナムコアミューズメントの施設を開発するチームの協力で、実際に存在するアトラクションから移植させてもらった。その場で激しく足踏みをすることで「エネルギー」を溜め、追いかけてくるさまざまな猛獣から逃げ切るというゲームである。「子どもに楽しんで身体を動かしてもらう」という方向は見えてきており、今後も進めていきたいと中澤は語った。

「ニゲキルモード」のアプリ画面
「ニゲキル」PV:
https://www.youtube.com/watch?v=bg2ZdkZIUF4

もちろんスポーツシューズとしてのクオリティの高さも「UNLIMITIV」は重視している。シューズ専門メーカーに負けない、可能ならばそれ以上だと思ってもらえるシューズを開発すべく注力している。

「バンダイが靴を作るとなると、どうしても"玩具"としての靴だと思われてしまう部分がある。だからこそ本格的なスポーツシューズを目指し、機能性やデザイン、日用品としての実用性にはこだわりました」と中澤は語った。

「UNLIMITIV」は小学生の行動を徹底的に研究し、「過酷な使用環境」への耐久性にも注力した。小学生たちは用途を考えて靴を履き替えることはせずに、ずっと1つの靴を履く傾向にある。わざと水たまりに入ったり、かかとをつぶして歩いたり、引きずって歩いたりという腕白な使い方にも十分耐えられるよう、丈夫なつくりにした。

ラインアップの中でもフラグシップモデルである「S-LINE」はヒールの部分にカウンターとなる"抑え"を入れたり本格的な機能を盛り込んでいる。最新作は「防水タイプ」。地面から4cmの高さの水たまりに足を踏み入れても水が入らない子ども用の靴の基準をクリアしており、さらに10時間防水という、ほかの製品以上に高い防水対策を行なっているとのことだ。

最新商品の防水タイプ。
女児向けのカラーも続々と展開している。
商品ページ:
https://www.unlimitiv.com/items/

また、「防水タイプ」は"汚れが落ちやすい"という利点もある。水をはじくため汚れもつきにくく、かつ水洗いで汚れを落としやすく、より"普段使い"にもオススメだと中澤はアピールした。

さまざまな専門分野との
繋がりが生み出す、
新しいスマートシューズ

中澤が「UNLIMITIV」の企画を思いついた最初のきっかけは、自分の子どもがとある子ども向けスポーツシューズブランドの靴が欲しいとねだったことだという。子どもが自らブランドを指定して靴を欲しがったこと、さらに世界的に有名なスポーツブランドを差し置いてそのブランドの名を挙げたことに中澤は驚いた。そのとき初めて「子ども社会には大人とは大きく違う価値観がある」という事実に気づき、「子ども向けスポーツシューズブランド」の存在を意識するようになったという。

子どもは「速く走れるようになるから」、「みんなが履いているから」といった理由でその靴を欲しがった。「子どもにわかりやすく『この靴を履いたら速く走れる』というイメージを伝えられれば、靴を欲しがってくれるのではないか?」と中澤は考え、アパレル事業部でのスポーツシューズ開発を考えたという。バンダイはそれまでスポーツシューズの開発経験がない。だからこそ挑戦できると思ったのだ。

中澤はそれまで男児向け玩具を企画する事業部に所属していたのだが、当時から「子ども用の靴という市場は面白いのではないか」と考えており、アパレル事業部への異動とともに、かねてから考えていたアイデアの実現を目指したという。

最初から靴、センサー技術と融合したスマートシューズというイメージがあったわけではなく、「子どもがそれを使うと速く走れるギア(道具)」というのがアイデアのスタートだったという。「靴の裏にバネを入れてみよう、付け替えられるスパイクはどうか?」、「かかとにファンを入れたら加速することができるんじゃないか?」といった企画も中澤は考えた。

「UNLIMITIV」は発売の3年以上前から開発がスタートした商品だ。当時は時計にIoTの機能を盛り込んだ「スマートウォッチ」も流行していた。その流れから協議し、「スマートシューズ」という方向が生まれてきたという。そこから肉付け、洗練を重ね「UNLIMITIV」が生まれたとのことだ。

本格的なスポーツシューズそのものがバンダイにとって初めてで、しかもシューズに入れるセンサー技術、スマホとの連動、スポーツ科学の裏付け、といったノウハウも全て新しい挑戦となる。中澤は自らの足で靴の展示会を周り、協力してくれる会社を探していったという。難しいと何社かに断られたが、面白いと賛同してくれるシューズ工場が見つかった。

センサー技術、スポーツ科学も同様に、業者や開発者が集まるところに足を運び、話を聞きながら自らも学び、協力してくれるメーカーを探していった。男児向け玩具の変身アイテムなどにも使われているセンサー技術のノウハウを協力会社に尋ねるなどして知見を集めていった。社内の電気設計担当チームも、通信や筐体設計の技術面や海外メーカーの紹介など、快く相談に乗ってくれて、発売に至るまでサポートしてくれて心強かった。と中澤は語った。

他業種との積極的な連携が求められた「UNLIMITIV」の開発だが、実はこう言った仕事の進め方は中澤自身が得意としていることだ。やりたいことをベースに他分野の話を聞き、さまざまな知見を集めていく。「自社の取引先以外にも、全く業界が違う方の話を聞き、そのノウハウを今の仕事に生かせるか、そういうことを考えることが好きなんです」と中澤は語った。

さまざまな新しい挑戦を経て商品化された「UNLIMITIV」だが、ユーザーである親子だけでなく、業界内、そして業界外からも大きな評価が得られたという。他のシューズメーカーや、「UNLIMITIV」で運動をもっと楽しくして欲しい、というフィットネス業界、教育業界、IT業界、医療関係からも反響があったとのこと。「UNLIMITIV」が切り開いた可能性に関して、中澤自身が気づかされたとのことだ。

最後にユーザーへのメッセージとして中澤は「『UNLIMITIV』は特別なものではなく、日常で使えるスポーツシューズです。しかしそれだけでなく、可視化することで、子どもたちがより運動したくなる、運動の楽しさを知る、そのためのアイテムになってくれればと思います。そのために、どんどん進化させていきたい。子どもたちが自分の可能性に気づくきっかけになってくれればうれしいです」と語りかけた。

©BANDAI
©BANDAI NAMCO Amusement Inc.
©BANDAI NAMCO Amusement Lab Inc.
UNLIMITIV公式サイト:https://www.unlimitiv.com/
UNLIMITIV PV:https://www.youtube.com/watch?v=4oVO6If9a3w

バンダイ深掘コラム「夢・創造人」への
ご意見・ご感想・リクエストを
お待ちしております。

後編をみる 一覧にもどる

その他のコラム