2019年12月27日
キャンディ事業部の小曽根千恵が手掛けるのは、“食べられるマスコット”「食べマス」。
2015年の発売より累計出荷数700万個以上を誇るヒット商品だ。餡、砂糖、餅粉などを使い、さまざまなキャラクターを和菓子で再現する。
「食べマス」の最大の特徴はその造形。ドラえもんやリラックマ、ハローキティなどの人気のキャラクターがぬいぐるみやマスコットフィギュアのように、顔の形はもちろん、お決まりのポーズをとっていたり、リボンをつけていたり……和菓子であることが信じられないほどに細かい造形で再現している。キャラクター商品を数多く手掛けるバンダイのプライドをかけた、まさに“食べられるマスコット”なのである。
今回の「夢・創造人」では、「食べマス」の裏側に迫る。>>後編はこちら
日本の伝統「和菓子」×「キャラクター」×「全国展開」!
キャンディ事業部の新しい挑戦「食べマス」
バンダイの食品商品は、食品業界の基準だけでなく、玩具と同様の目線で、小さなお子様でも安全にお召し上がりいただけるよう形の安全性まで検討するなど、よりシビアなモノづくりに努めている。
「食べマス」には大きな課題があった。上生菓子である「食べマス」は、バンダイが配送をハンドリングするなかで初めての「消費」期限製品だった。
プロダクト面では、消費者に対して安全を保証するためのバンダイ内の検査方法やルールを、流通面では商品を消費者まで安全に届けるため、品質を保ちながら運び、店頭での販売環境や期間を管理するスキームを設定する。これらのノウハウがない中で1年以上をかけて体制を整え、2015年にようやく「妖怪ウォッチ」のキャラクターをモチーフとした第一弾商品を発売。総合スーパー10店舗でテスト販売を行った。
結果は、あっという間に売り切れに。満を持して全国展開に踏み切った。
現在「食べマス」の新商品は、期間・流通限定で展開中。全国のコンビニエンスストアや総合スーパーに向けて出荷している。
ここで筆者が抱いた疑問。「このクオリティの和菓子を、本当に一度に量産できるの?」
こだわりを共にする和菓子職人・和菓子工場との開発秘話
キャラクターをモチーフにした食品は数多く展開されているが、可食部分そのものが高いレベルでキャラクターを再現している商品はそう多くない。キャラクターの造形というのは非常に繊細なもので、目の位置が0.1ミリずれただけで、印象は大きく変わってしまう。
その点において「食べマス」は大変ご好評をいただいている。
累計出荷数700万個の生産規模で、キャラクターの世界観を崩すことなくお客様へ提供できているのは、結構すごいことなのだ。
「お客様に納得いただけるクオリティが実現できたのは、一重に理解・協力してくださる和菓子職人の方と工場との出会いにつきます。」と小曽根は語る。
「食べマス」は、和菓子工場の強固な協力体制のもと生産を行っている。
まずキャラクターと商品企画、販売時期などを決定するかなり前から、小曽根と職人で商品の詳細を詰めていく。試作品が完成するとそれを量産する体制を作り、工場で生産を行う。
面白いことに、この流れは玩具開発の流れと似ている。
玩具の場合、企画担当の想いを汲みとり、原型師が量産を前提とした“原型”を作り、量産に向けて金型などを作って生産していく。
「食べマス」も以前、そういったキャラクター商品の原型作成のプロが造形を担当し、それを和菓子工場で製作するという案もあったが、うまくいかなかったのだという。
餡とプラスチックでは、勝手が全く異なるのだ。
餡の粘度、それに適した造形。型の構造。生地の厚さ。温度や湿度。加えて、天然着色料で指定色を再現するための材料、調合、配色……和菓子職人にしか「食べマス」は作れないということが分かった。
また、細い手や小さなボタン、耳や角といった突起など、多様なキャラクターの特徴をどう再現するかには、毎回頭を悩ませている。例えばやわらかい餡で「ピンと一本立った角」の表現は難しい。それをどう成立させるか。どのようにデザイン落とし込み、発売にこぎつけるか。スタッフ総動員で知恵を出し合う。
加えて「もっとかわいらしくする方法があるか?」、「どんな商品なら、お客さんが思わず連れて帰りたくなるか?」……小曽根はキャラクターを扱うプロとして、キャラクターの魅力を表現することにおいて妥協を許さず職人に要望を伝えているという。
職人たちもまた、職人としてのプライドと長年培ってきたノウハウを惜しみなくつぎ込み、同じ目線で試行錯誤してさまざまなキャラクターの表現にこだわってくれるのだそうだ。そういった職人と出会えたことが「食べマス」の成功の第一歩だったという。
量産段階においても、キャラクターの造作がぶれることがないのは、工場のスタッフの高い技量と、量産体制をしっかりと整えてくださっているからこそだという。
それらの工程は非常に鮮やかで「見ると感動する」と、楽しそうに小曽根は語った。
季節感やキャラクターの好物を活かす、たべものとしてのこだわり
「食べマス」のこだわりは造形だけではない。もちろん“味”もさまざまな思惑で決定している。
子どものファンが多いキャラクターの場合はカスタード味やいちご味など、親しみやすい味を採用し、大人のファンが多いキャラクターの場合は甘さを抑えたビターなチョコ味や黒蜜味といったように、実際に手に取るお客様を想定して味を決めている。
また、モチーフとなるキャラクターの設定を味へ反映することもある。リラックマはプリン、ハローキティはリンゴなど、それぞれキャラクターに関連のある食べ物があれば、商品内容に生かしている。見た目だけでなく味でもキャラクターを楽しんでほしいという、バンダイらしいこだわりだ。
もうひとつ、春はさくらや抹茶、秋にはカボチャ、冬はゆず……といった具合に、移ろいゆく日本の四季を色彩やモチーフに取り入れ、和菓子としてのセオリーも成立させている。
味もまた商品を構成するひとつの大きな要素をとして、全体のバランスの中で決定しているのだ。
こどもたちの安全と健康に配慮した品質へのこだわり
小曽根の所属するキャンディ事業部では、1981年より玩具付き菓子の「食玩」を中心に、キャラクター菓子、パン、ケーキなど、おいしさが詰まったエンターテインメント性の高い商品を展開している。
玩具メーカーとしての色が濃いバンダイなだけに、時折「おまけの玩具や見た目が優先で、菓子自体のクオリティに重きを置いてないのではないか」という声を耳にすることがあるのだという。小曽根は、そういった声に葛藤を感じている。
「子どもが扱うモノづくりをしているバンダイだからこそ、子どもの口に入るものに関しての安全基準は非常に厳格なんです。」
バンダイの商品の味や安全性を追求する姿勢は、大手菓子メーカーにも全く引けをとらないと言い切る自信があると小曽根は語った。
「食べマス」の課題と今後の展開
「食べマス」新商品の展開時期は通常2~3週間、短いものは1週間にも満たない。この期間内にいかに「食べマス」を知り、店頭で見つけ、手に取っていただけるか。大きな課題だ。
最近では、アプローチの1つとして、一番くじ(※㈱BANDAI SPIRITSがコンビニエンスストアなどで展開する“ハズレなし”のキャラクターくじ)と「食べマス」を同じタイミングで店頭展開し、連動したプロモーションを打つなど、積極的に他部署や他企業と連携したプロモーション活動も行うようになった。
小曽根が理想とする「食べマス」のマーケティングは、キャラクターのファンに商品情報を確実に届け、キャラクターが最も盛り上がる発売日に商品を店頭に並べ、お客様の手(口)に商品を届け、楽しんでいただく。この体験が家族や友人にシェアされ、また同じ行動が生まれる。非常に短い販売期間のなかで、確実にこのサイクルを回す仕掛けをつくるのである。
営業畑出身の小曽根だからこそ商品そのものはもちろん、売り方にもこだわりたいのだという。
次回は、そんな小曽根自身の経歴や仕事にかける思いにも焦点を当てていく。
<後半へ続く>
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