2020年3月13日
カプセルレストイ開発の第一人者として数々のヒット商品を生み出してきたベンダー事業部の誉田恒之。だが、その道は決して平坦ではなかった——。今回は誉田の開発者としての歩みと、驚きの新商品にフォーカスする。>>前編はこちら
開発者になるまでの長い道のり
誉田は入社後、男児向け玩具を扱う部署に配属された。開発を志望して入社したが、まずは商品の仕入れ担当となった。3年を経て、念願の開発担当に。しかし、わずか1年で営業部門へ異動となった。
「開発者としての見込みがないと思われたのでしょう(笑)。確かに『自分はもっと面白いものを作れる』という自信を誰よりも持っていたんですが、採算は取れず、頭の中で描いた面白さも形にすることができなかった。」
挫折とも言える経験だったが、もがき苦しんだ開発業務への未練はなく、むしろ営業の仕事に面白さを見出していた。7年が経つ頃、誉田に新しい挑戦心が芽生える。その視線の先には「海外」があった。
当時、海外ではまだまだ知られた存在ではなかったバンダイの玩具を世界中に届けたいという思いで、海外支社への赴任を希望。バンダイ香港(現BANDAI NAMCO ASIA CO., LTD.)へ出向することとなった。営業職を希望したが生産部門の人手が不足しており、仕入れの経験がある誉田は開発生産部門で新たなスタートを切ることになった。
「開発生産部門ではバンダイ本社で企画された商品を形にするのが主な仕事で、週の半分は工場に足を運びました。玩具に使用する樹脂の特性や金型の作り方、製品の見積もり方法などを学んだと同時に、自分は玩具開発に必要なことを何もわかっていなかったと痛感しました。それからは、わからないことがあると工場のエンジニアや社長に理解できるまで質問し続けました。『あの時、なぜ自分が思ったような商品を作れなかったのか』その答えがすべて工場にあり、目の前の霧が一気に晴れていくのを実感しました。」
香港に来て1年が経つころ、バンダイ香港の事業拡大を目的にまだ取引がないカプセルトイやキャンディトイなどの事業部門への営業活動のため、東京へ出張に行くことに。
しかし、どこの部門からも断られた。
「今生産している商品は得意先と立ち上げたものなので、他に生産を委託することはできない。」「仕事がほしいのであれば、新しい企画を持ってきてもらってシリーズ展開するしかない。」と言われた。
誉田の挑戦がここから始まる。工場で得た知識を総動員し企画を練った。あの頃のように無知ではない。誰も思いつかなかった企画、今までにないクオリティ、そして採算性——全部詰め込んだ商品を作って皆を驚かしてやる。
強い執念のもと発売にこぎつけた最初の商品が、ガシャポン「アンパンマントレイン」だった。手押し車の上にアンパンマンたちが乗っていて、前に進ませるとタイヤと連動し、車の上に乗っているアンパンマンたちが上下したり回転したりとそれぞれユニークな動きをするというもの。ゼンマイを仕込んだ先頭車両も用意した。
当時、バンダイで発売していたアンパンマンのカプセルトイは、フィギュアやスタンプなどコレクションアイテムがメインだった。そのなかで、ゼンマイを使用した遊べる商品は非常に珍しく、しかも他の車と連動するという画期的な商品だった。「アンパンマントレイン」は大ヒットし、現在まで続く人気シリーズとなっている。
開発者・誉田、覚醒
その後も、頭に浮かんだ面白いアイデアを次々と形にしていく。
次に企画したのが幼児に向けた「遊べるキーチェーン」。ガシャポンには、スイングとよばれるフィギュア付きのキーチェーンシリーズがさまざまなキャラクターで展開されていた。幼児向けであれば、フィギュアに手遊び要素をプラスしたらずっと握り続けてもらえるものになるのでは?と考えた。そこで、手足を動かすたびにチキチキと音を立てるというギミックを仕込んだ「チキチキアンパンマン」を発売した。
翌年には、「おす」「ひっぱる」など子どもが好きなアクションを取り入れたさまざまなスイッチをキューブ状の正面に設置し、押したり引っ張ったりすると上からアンパンマン達が出てくる「スイッチオン!アンパンマン」を企画。どちらも大ヒットとなり、発売から15年以上経つ今もシリーズは続いている。
カプセルトイが軌道に乗った後は、菓子・食品を扱うキャンディ事業部やグループ会社にまで仕事を拡大し、続々と斬新なギミックを取り入れた新企画を立ち上げ続けた。
誉田に求められているのは、ほかの人では思いつかない新しいギミックを仕込んだ商品だった。
そのため、「まだないもの」を探し続けた。
バンダイ香港には9年間在籍し、ずっと開発の勉強をし続けた。その後フランスの支社に3年間在籍し、帰国。大人向け商品を扱うコレクターズ事業部での2年間を経て、再びベンダー事業部に戻ってきたのだった。
ところが、配属されたのは希望していた開発ではなく、またしても仕入チーム。
それでも誉田は、「開発担当だけが企画をするのではない。バンダイは全社員が企画開発者だ。」という考えを貫き、仕入れ業務の傍ら新しい要素のある企画を考えては提案し続けた。
この時に出した2つの企画が、「カプキャラ ドラえもん」と「EXCEED MODEL ZAKU HEAD」だった。いずれも大きな話題を生み、ヒット商品に。大きな功績を挙げた誉田はついに開発に戻る。正式な開発チームに所属するのは、実に20年ぶりだった。
「長い間、企画を持ち込んで実績を出さないと次の企画が通らないという厳しい環境だったからこそ、開発の勉強へのモチベーションを維持することが出来ましたし、ほかの人には真似できないものを企画する力がついたんだと思います。だから、今では自分のいた環境はすごく恵まれていたと感じています。開発に戻ってきた今、この先も常に変わらず『新しい要素を入れ続けなきゃ』と思っています。」
開発になり最初に立てた目標が、「キャラクターのパワーに頼らずにヒットを起こすこと」だった。
「アレもできる、コレもできるは、何もできないことと一緒」という教えは、誉田が入社3年目の開発担当だった時に何度も先輩から聞かされた言葉で、バンダイの開発担当者の間で語り継がれている偉大なる先人の格言だ。これをノンキャラクターの商品で実証したいと思った。
「丸まること」、この一点にこだわりぬいた「だんごむし」はまさしく、それを体現した商品だと言えるだろう。
お客さまは一度驚いた商品に
2度驚かない
誉田の手がける最新作は、「インテグレートモデル マジンガーZ」だ。 “カプセルトイ史上、最大級の大きさを実現する”というコンセプトに挑戦。直径約7.4cmのカプセル状にまとまったパーツを分解し、組み立てると全高約20cmのマジンガーZの“胸像”が完成する。
従来のカプセルトイでは誰も考えもしなかった「大きさ」の追及に挑戦した商品は、誉田が進めてきた“カプセルレストイ”の新しい未来の姿と言える。
「2018年は皆さんに『だんごむし』で驚いていただきましたが、今年同じようなものを出してももう驚いてはいただけないでしょう。だから、毎年新しいものを出し続けなければいけない。アイデアが出て来なくなるまで、これからもずっと、お客さまを“あっ”と驚かせる商品を考えていきたいと思います。」
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