バンダイ深掘コラム「夢・創造人」

2020年2月28日

Vol.06 カプセルレストイ企画開発人<前編>~追究の精神から生み出されるヒット商品とは~

ガシャっと回してポンと出てくるバンダイのガシャポン®。ガシャポンから大きな“ダンゴムシ”が丸まって出てくるという、絶大なるインパクトで大ヒットを記録した「だんごむし」。今回紹介するのはその開発者であるベンダー事業部の誉田恒之だ。

緩衝材の役割を果たすカプセルを使用しない「カプセルレストイ」企画の第一人者で、これまでに「カプキャラ ドラえもん」、「機動戦士ガンダム EXCEED MODEL ZAKU HEAD」(以下ザクヘッド)などを手がけてきた。
今回はカプセルレストイをはじめとした商品への取り組みと、誉田ならではのこだわりによる商品の魅力を取り上げていきたい。
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ベンダー事業部 誉田恒之

人々を驚かせたいという思いから生まれた
「カプセルレストイ」

ガシャポンは100円から500円の間で価格が設定されている商品だ。購入後はその場で捨てられてしまうカプセルが商品原価に含まれていることは、あまり知られていない事実だろう。当時、中国の工賃の上昇がコストを圧迫しており、商品仕様やサイズに影響を及ぼしていた。
誉田は、「いっそ、カプセルを商品の一部にしてみてはどうか」と閃いた。カットしたカプセル分のコストを、商品に還元することができるからだ。その第1弾が2015年に登場した「カプキャラ ドラえもん」である。

「カプキャラ ドラえもん」は、ドラえもんの頭そのものがカプセルになり、内部に収納された胴体などの部品を組み立てることでフィギュアが完成する。サイズは約9cmと、それまでのカプセルトイのフィギュアとは一線を画すサイズで、インパクトは抜群。子どもだけでなく女性にも人気を集めた。その後も「ハローキティ」、「アンパンマン」など、さまざまなキャラクターで商品化され、今やバンダイのカプセルトイの顔となる人気シリーズだ。

2015年発売 「カプキャラ ドラえもん」
「カプキャラ」公式サイト:
https://gashapon.jp/capchara/

カプセルレス仕様に手ごたえを感じた誉田は、次に、男性向けのカプセルレストイに挑戦する。生まれたのが「機動戦士ガンダム」に登場する「ザク」の頭部のみのモデルだ。

2017年発売「機動戦士ガンダム EXCEED MODEL ZAKU HEAD」
「EXCEED MODELシリーズ」公式サイト:
https://gashapon.jp/exceedmodel/

ザクの頭部はドラえもんのように球体ではないため、球体にするための工夫が必要だった。誉田は試行錯誤の結果、組立用パーツを保護用のシェルで覆う「シェル(殻)構造」という新しい仕組みを生み出し、さらに大きなサイズのカプセルトイを実現させることに成功した。

誉田が中学生の頃、ガンダムのプラモデル(以下ガンプラ)が大ブームに。当時のガンプラは完成させるためには接着剤や塗装が必要だった。造形もシンプルなため、「改造」とセットで楽しむファンも多かった。誉田は、特に内部メカまで再現した改造に胸を熱くしていた。
その体験から、「ザクヘッド」はフォルムとディテールにこだわるだけでなく、頭部やノーズ部分のハッチを開閉できるようにして、内部メカまで再現した。また、ザクの特徴である「モノアイ」も可動式にするなど、ガンプラに夢中になった当時の気持ちを詰め込んだ。

内部メカにもこだわりの光る「ザクヘッド」

この「ザクヘッド」の企画を初めて部内でプレゼンテーションしたときは、決してポジティブな反応ではなかった。ガンプラがこれだけ普及している今、ザクの頭だけのモデルを、しかも500円というガシャポンでは高価格帯の商品を手に取るお客さまが本当にいるのか?———流通からの注文も計画にほど遠い数量しか集まらなかった。

しかし、発売直前にその評価は一変した。
日本での発売を前に香港のイベントで先行販売を実施した。情報を入手した入場者が会場に押し寄せ、自販機の前に大行列を成したのだ。この時、誉田はヒットを確信した。日本での正式発売後には即完売となり、再生産をして店頭に並べてもすぐに自販機が空となる状態が続いた。

「500円はガシャポンとしては高価格ですが、どこかひとつ尖った魅力があれば、必ず手に取っていただける。だからこそ『ザクヘッド』は妥協せずにサイズにこだわり、精巧な内部メカを大きなセールスポイントにして、見た瞬間魅力が伝わるようにしました。」

エクシードモデルシリーズは、車のジムニーなど男性をターゲットとしてラインアップを拡充しつづけている。なお、「ザクヘッド」もバリエーション展開が続いており、出荷数はまもなく累計200万個に達する。

虫嫌いの開発担当が
「だんごむし博士」に

誉田の快進撃は続く。「ガシャポンを回して、でっかいダンゴムシが丸まって出てきたら面白いんじゃないか?」―この絵面の面白さが、「だんごむし」企画の出発点だ。

2018年発売「だんごむし」
「ガシャポン いきもの大図鑑」公式サイト:
https://gashapon.jp/dangomushi/

2018年のおもちゃショーで商品が発表されると、瞬く間にSNSなどを通じて拡散された。関係者からの注目も高く、多数のメディアも取材に来た。「面白いと感じてもらえるとは思っていましたが、まさかここまで反響があるとは予想外でした。」と誉田は語る。

当初は丸くなるだんごむしのフィギュアが出せれば、という軽い気持ちでスタートしたが、大きな壁にぶち当たる。「丸くならない」のである。自然界に存在するだんごむしは、特殊な身体構造によってはじめて丸まることが可能で、それを樹脂では簡単には再現できないということに気づいた。

実は誉田は虫が苦手だった。開発のため「だんごむし」をPCで検索した時には、画像が表示されるのも耐えられないほどだったが、この“気づき”以降、だんごむしの体の構造の面白さ、生態、自然界の神秘に直面し、だんごむしの研究を本格的に始めるように。

丸まった「だんごむし」のCG断面図

「“丸くなるフィギュア”というコンセプトの面白さだけで勝負しようとしていましたが、途中からは本気で向き合い、徹底的に精密なだんごむしフィギュアを作ってやろう!と考えが変わりました。丸くなること加えて、本物の再現を徹底して追求することこそが、お客さまが求めるだんごむしの魅力に繋がると思ったんです。」

シリーズ展開を開始すると “丸くなる虫”というコンセプトで「まんまるこがね」という丸くなるコガネムシもラインアップに加えた。
「だんごむし」という商品名なのに、ガシャポンを回せば、だんごむしではない虫も出てくるという、ガシャポンのランダム性に面白さを持たせたアイデアだ。構造、変形ギミックの面白さに加えて、黒い目とフォルムもかわいらしく、まんまるこがねを目当てとする人も。だんごむしシリーズの売れ行きがさらに加速していった。

2019年発売「まんまるこがね」

「だんごむし」以降、生き物の構造の面白さや生命の面白さに魅了された誉田の企画は次なる「丸くなる生き物」へと向かっていく。

「だんごむし」の成功体験から自由な発想が生まれた

目をつけたのは「かめ」。甲羅が丸く、地上の生活に適応したリクガメである。今、爬虫類はペットとしても人気であり女性からの注目も高い。

2019年発売「かめ」

「だんごむし」では構造の面白さを表現したが、「かめ」では独特のかわいらしさを第一に表現したいと思った。手足に可動域を持たせ、大きく首を伸ばしたり、手足を動かしたりすることで、「だんごむし」ではできなかった「ポージング」ができるようにした。

また、年輪のようにかめの年齢を刻む甲羅の成長線から、手足の皮膚の質感にいたるまで彩色と造形にもこだわった。しかし、かめのフィギュアはこれまでも質の高い商品が多数発表されているため、それらに負けないものを目指すためには全く新しい要素が必要だ。

かめに関する知識を深めていくなかで、単純に手足が伸び縮みするだけでは、手に取った人を驚かせることが出来ないと感じとった。

「本物の再現を徹底して追求する」——加えてかめの骨格構造に注目し、首がS字状に引っ込む動きを取り入れた。

かめの骨格構造に合わせて作成した3Dデータ

「だんごむし」や「かめ」は、「カプキャラ ドラえもん」や「ザクヘッド」など、人気や購買層を推し量ることができるキャラクター商品とは異なり、お客さまのニーズを0から発掘し、興味を惹きつける要素をいれていかなければならない。そのため、社内の理解を得ることも難しい。しかし、誰もヒットを予測できなかった「だんごむし」の成功から、誉田はより自由な企画提案ができるようになった。

「どんな企画でも何かひとつ新しい要素を入れることでお客さまを自販機の前で立ち止まらせることが出来る。だからこそ、驚きのある商品を出そう」という雰囲気を社内で作ることができた。

次の新商品には「すずめばち」、「かまきり」などメジャーな昆虫が控えている。誉田は、自宅にどんどん増えていく虫の標本に家族から嫌な顔をされながらも、資料を収集し研究を深めているという。「メジャーな虫がテーマとなる場合、とにかく本物を突き詰めてその虫がもつ独特で新しい切り口を見出していかなくてはなりません」と語った。

2020年発売予定 
開発中の「すずめばち」と「かまきり」

「ただ虫を大きくしたフィギュアというだけでは人を惹きつけることは出来ません。その虫がもつ神秘的で特徴的な動きを手で触って感じとれるようにすることが大切で、それにより、子どものころは気づかなかったことを改めて学ぶことが出来る。それが、もう一度昆虫を手にとってみてみたいと思わせるために必要な要素だと思います。子どもの頃、生きものの図鑑を何度も読み直していた気持ちを、もう一度味わってもらえるような商品を出していきたいです。」と誉田は語った。

こだわりを語れば話は尽きない。この突き詰めていく姿勢こそが誉田をカプセルトイのヒットメーカーたらしめている所以なのかもしれない。そんな誉田の開発者としての道は、決して平坦なものではなかった。次回に続く。

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