2020年2月14日
「AIと共に、AIと闘う」という革新的なコンセプトを実現したAIカードダス「ゼノンザード」。インタビュー後編では「ゼノンザード」を開発した小谷自身にフォーカスする。オリジナルIPを創出するカード事業部のビジネスについても改めて取り上げていきたい。>>前編はこちら
「バトルスピリッツ」で得た、
オリジナルIPを使った
開発の楽しさ
ジョブローテーションが活発なバンダイだが、小谷は10年間カード事業部に在籍している。入社当初は企画開発希望だったが、「まずは顧客視点を学ぶ」という上司の考えのもと営業担当からのスタートだった。
営業活動では商品をただ一方的にアピールするのではなく、「お客様が求めているものは何か」を考える重要性を学んだ。「開発にいると、『面白いものを作っている』という自己満足に陥りやすい。お客様に商品を届けるためには、代理店様や小売店様に、まずは納得してもらえる商品を作らないと商品そのものがお店に並ばないですし、商品を知って頂くためにプロモーションを行わなければ、自分が思っている『面白い』をお客様に認知してもらえないんです」と小谷は語った。
1年間営業を経験したのち、念願の開発担当に。カード事業部のオリジナルIPである「バトルスピリッツ」の企画開発を6年間担当した。バンダイは、アニメ作品がベースとなり商品を展開するビジネスが主流だが、「バトルスピリッツ」は、商品(カードゲーム)をベースにアニメ作品を展開している。「カードゲームの面白さをどうアニメ作品で描くか?」というのは、ストーリーやキャラクターをベースとして制作される作品とは違った難しさがある。アニメ制作の試行錯誤はとても刺激になったという。
「バトルスピリッツ」というカードゲームの面白さ、そこから広がる世界観やストーリー性、駆け引きの面白さなどに、小谷は絶大な自信を持っている。しかしカードゲームの場合、面白いのは「当たり前」で、数ある中から「だから僕は『バトルスピリッツ』を選ぶ」、と子どもたちからの支持を頂くためにはプラスαが必要だ。
面白さに貪欲だからこそ、子どもたちは大人以上にドライだと小谷は語る。わっと盛り上がったとしても、次に面白いものが出ればみんなそちらに行ってしまう。店頭大会などベーシックな展開以外に、他社にはできない魅力を盛り込むことも重要なポイントだという。その一つとして近年では、「デジタルモンスター」「仮面ライダー」「機動戦士ガンダム」などのキャラクターIPと積極的にコラボし、立ち上げから11年経った今もなお、ファンに新たな魅力を示し続けている。
バトルスピリッツ公式サイト
https://www.battlespirits.com/
AIという新しい武器を
どう使うか?
全てを0から作り出した
「ゼノンザード」
小谷が「バトルスピリッツ」で得た経験を活かして誕生したのが「ゼノンザード」だ。バンダイでは社員であれば誰でも挑戦できるビジネス提案制度がある。通常業務の傍ら、自分の知見やアイデアで全く新しいビジネスを会社に提案し、認められれば提案者が中心人物となり実現に向けて進めていく。小谷はこの制度を活用して、「ゼノンザード」を提案した。
企画は通ったものの、実現するにはそれぞれのエキスパートの力が不可欠だった。「これまでにないAIと融合したカードゲームを開発する」、「AIと人をテーマにした世界観、ストーリーを構築する」、「その世界を近未来というコンセプトでまとめ上げ、ビジュアル化する」、「その世界をアニメでアピールし、より広いユーザー層を獲得する」。彼らはどこにいるのか? ……小谷が「ゼノンザード」を進めるにあたり最も苦労したのが、このエキスパート達を見つける段階だったという。
バンダイには、長きにわたり商品開発業務にご協力いただいている信頼のおける得意先が複数存在する。しかし小谷は、全く新しいクリエイターたちを0から開拓する道を選んだ。
「カードゲームは外から見るとなにをやっているのかわかりづらく、手元で繰り広げられているゲームのドラマ性が伝わりづらい。『ゼノンザード』はプレイしていてカッコイイ、と思われるものにしたかったんです。最先端でスタイリッシュなモノというイメージを出したくて、それを実現するためにあえて普段「おもちゃ」開発にご協力頂いている方々ではなく新規の会社にお声がけしました」。
デザイン面で小谷がコンタクトを取ったのは、「君の名は。」「魔法少女まどか☆マギカ」と言った作品のクリエイティブを手がけたデザイン事務所、BALCOLONY.(バルコロニー)。「ゼノンザード」の根幹となるイメージやテーマから、デザインやフォント、イメージカラーなどを定めたプロジェクト全体の「スタイルガイド」の制作を依頼した。このスタイルガイドのおかげで、言葉では曖昧で説明しづらい「カッコ良さ」「スタイリッシュさ」を具体的に提示することができ、関係各社と意思の疎通を図ることができた。
AIに関しては、電王戦でプロ棋士や名人に史上初めて勝利した「Ponanza<ポナンザ>」の開発などでAIの企画・開発・運営で実績のあるHEROZ社と話を進めた。ここでは、打ち合わせの席で想定外のハードルが立ちはだかっていた。
「ホワイトボードを使ってご説明頂くのですが、それがもうわからない。数式ですよ?(笑)。でも恥ずかしがらずにわからないことを伝えて、ホワイトボードの写真を撮って、持ち帰って調べたりしました。1つ1つ勉強して、それでもわからないときは教えていただいて、プロジェクト立ち上げ当初はホント大変でした」。
「ゼノンザード」はいくつもの会社が関わるとても大きなプロジェクトだ。小谷はプロデューサーとして、プロジェクトの方向を決める“判定者”としての役割も果たさねばならない。このため、「わからないことはわからない」、では済まされない。大きなプレッシャーを感じながらプロジェクトを進めてきた。
開発者、プロデューサーとして、取材中も多忙さがにじみ出る小谷だが、現在3歳と昨年9月にもう1人生まれた子どもたちが、大きな“癒やし”になっている。「子どもがいるから頑張れる」と語る。出産が「ゼノンザード」のリリースタイミングと重なるのではないかと心配したが、無事立ち会えた。子どもたちのおかげで「ゼノンザード」に挑戦することができた、と話す小谷の顔が少しほころんだ。
AIが広げるカードゲームの未来
小谷は美術系の大学出身で、入社当時から「子どもが自由に組み上げて遊べる積み木を作りたい」という思いをずっと抱えてきたが、カード事業部での経験を通して次第にカードでしか表現できない遊びの面白さに気づき始めた。
商品主体のアニメ制作は、ストーリー、キャラクター、世界観などの根幹から商品に寄り添うことができる。アニメ制作まで組み込んだ壮大なマーチャンダイジングが展開できる部門はバンダイ内でも多くはない。だからこそカード事業部は社内からの注目度も高い。
「カードゲームは複雑で敷居の高いイメージをもたれがちですが、今回のプロジェクトでは世界観やキャラクターまで1から構築できました。カードゲームを題材にし、ここまで大きなプロジェクトが組めるカード事業部は魅力のある部署だと思います。」
「お客様の反応」も大きなモチベーションに繋がっている。さまざまな展開に対し、お客様がダイレクトに反応してくれる。このやりとりはとても有難いんです。と小谷は語る。メディアへの露出が多い小谷は、お客様から直接厳しいご意見をいただくことも多い。しかし、そこからはゲームへの情熱や愛情に溢れていることが伝わってくる。多くのお客様はゲームに飽きれば何も言わずに去っていく中、商品の品質、見た目だけでなく、そのカードが与えるゲームへのバランス、世界観への影響など、お客様から寄せられる建設的なご意見は日々参考にしている。
ご意見と向き合い、何も言わずに去って行くお客様の思いも組み上げていかなくては、人気のあるカードゲームにはならないのだと言う。
「低年齢層向け」、「女性向け」なら、どのようにAIを活用したカードゲームが作れるのか。小谷は今、「ゼノンザード」以外にも新たな「AIカードダス」シリーズの準備を進めている。
「今後もAIを活用して、新しいエンターテイメントを創り出していきたいと思っています。今後の商品にもぜひ注目してほしいと思っています」と語った。
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