バンダイ深掘コラム「夢・創造人」

2020年1月31日

Vol.05 カードゲームプロデューサー<前編>~AIを取り入れた新しいカードゲームの実現~

今回取り上げるのはAIカードダス「ゼノンザード」。本作は「AIを相棒にして本格トレーディングカードゲームがプレイできる」ところに大きなセールスポイントがある。
国内でおよそ1千億円の市場規模を誇るカードゲームは、熱狂的なプレイヤーを生み出す魅力的なゲームジャンルだが、反面、複雑なルールは新規プレイヤーが参入しづらいというハードルの高さも生んでいる。この課題に、「ゼノンザード」はどのように切り込んでいくのか。今回はカード事業部デジタルカードゲームチームの小谷英斗に「ゼノンザード」の魅力と未来を語ってもらった。AIという最先端のテクノロジーをエンターテインメントにどう活用するか、そのユニークなアプローチと広がる可能性に注目して欲しい。
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カード事業部 デジタルカードゲームチーム 小谷英斗

AIが相棒となり複雑なカードゲームをサポート
共に強くなれる

「ゼノンザード」は、スマートフォンなどでプレイするデジタルカードゲーム(以下、DCG)だ。AIの導入により他のDCGにはない斬新なアプローチを行っている。カードゲームに特化したAIが相棒となり、カードゲーム特有の複雑なルールや戦術をサポートしながらプレイヤーを導いていくのだ。ゲームに慣れてきたプレイヤーはAIのアドバイスを活用しながら、自分なりの戦い方を考えるようになる。AIはさらにプレイヤーから戦い方を学び、より強い戦い方を学習していく。すると「世界に1人しかいない自分だけの相棒」が徐々に形成されていき、プレイヤーとともに強くなっていく楽しさを味わえる。これが「ゼノンザード」の最大の魅力であり、新しさだ。

AIが相棒となり、プレイヤーにアドバイスをしてくれる。

若い世代を中心に
本格的でスタイリッシュな
新しいカードゲームを

プロデューサーは、バンダイのオリジナルトレーディングカードゲーム「バトルスピリッツ」を6年間手がけた小谷英斗。「ゼノンザード」のコンセプトは「AIと共に、AIと闘う」。前述のとおり、複雑なルールはAIが把握しており、プレイ中、プレイヤーに細かくアドバイスをする。プレイヤーは複雑なルールをAIの助けで把握できる。相棒となるキャラクターの外見はかわいらしいマスコットキャラクターから、少年、壮年の男性、セクシーな美女からはかなげな美少女まで、非常に幅広いキャラクターデザインだ。さらに豪華声優達のセリフがキャラクター性を強める。キャラクターには性能差がないが、AIの成長により攻撃的だったり、防御が巧みだったりと個性を獲得していき、プレイヤーにとって思い入れの強い存在になっていく。

もう1つAIを使って可能になったのが、「アナログカードゲームの駆け引きの楽しさを、DCGで実現する」という点だと小谷は語った。例えば、アナログカードゲームには“割り込み”とも呼ばれる相手のアクションを打ち消したり、即座に対応することで相手を封じるやりとりに大きな楽しさがあるのだが、対人戦を主にした既存のデジタルコンテンツではバトルテンポの悪さからこれを実装していない。
対して、「ゼノンザード」でプレイヤーが対戦するのはAIだ。お互いのアクションのタイミングを気にすることなく戦えるようになり、じっくり考えることや、相手のアクションに対応するフェイズを用意することが可能になった。
このため「ゼノンザード」では、アナログカードゲームと同様に「相手が何をしてくるかわからない」独特の緊張感を生むことができ、奥深い駆け引きが楽しめる作品になった。AIとプレイヤーは“相互学習”によって成長する。1つの対戦が終わった後、結果画面でプレイヤーの戦い方をAIが評価してくれる。プレイヤーは将棋の“感想戦”の様に手順を確認することができる。カードゲーム自体初めての人でもAIに助けてもらうことで腕を磨き、白熱の戦いを体験できるという仕組みになっている。

個性豊かなオリジナルキャラクターたち

AIとの関係性は、
新次元の楽しさをもたらす

「『バンダイって、ここまでするんだ』というのを見せたいと思って「ゼノンザード」は生まれました。バンダイの従来のイメージを突き破るような、新しい挑戦をたくさんしています。それでいながらバンダイだからこそできる手法もしっかり活用しているんです」と小谷は語った。
柱となるゲームルールは「バトルスピリッツ」を開発したメーカーと協力し、自分たちなりの新しいルールを作り込んだ。AIや世界観、キャラクターは、これまでに取り引きの無かった全く新しいクリエイター集団を起用している。

まずはAIという新しい要素を導入するために、将棋の「電王戦」のAI開発などで知られるHEROZ株式会社(以下、HEROZ)にコンタクトを取り、プロジェクトを進めていった。HEROZは「人間対AI」というところをショーアップも含めて行っており、知見もある。「ゼノンザード」のAIはHEROZの研究が活かされているからこそプレイヤーの相棒となりゲームの面白さを教えてくれる存在にできたと小谷は語る。

原案・世界観設定には、「ブギーポップは笑わない」などを執筆した小説家の上遠野浩平氏を起用し、「ソードアート・オンライン」をはじめ、数多くのライトノベル作品をマネジメントする、ストレートエッジと原作を共同開発することで、スタイリッシュでユニークなキャラクターを作り上げている。
AIというと無機質なイメージ、また、バンダイは対象年齢が低いイメージをもたれがちだが、こうしたクリエイターを起用することで「AIと共存する近未来の世界」を表現。キャラクターを活用したメディアミックスはバンダイが得意とするところだ。「ゼノンザード」は、既存のイメージを変える挑戦も行いながら、バンダイらしい手法で展開する作品となった。
またゲーム展開だけでなく、世界観とキャラクター性にフォーカスしたアニメPV、アニメ番組の1話分に相当する30分近くの“0話”を制作するなど色々な挑戦を行っている。物語が動き出す1話も1月31日より公開予定だ。

ゲームのデザイン、AIの設計、キャラクターデザイン、世界観、物語……全てを1から作りだすために、膨大な力が必要となる。カード事業部渾身のプロジェクトであり、小谷にとってもはじめてだらけの挑戦となったが、この取り組みが実を結び、「ゼノンザード」は昨年の「Google Play ベストオブ2019」でゲーム クリエイティブ部門を受賞した。“最先端”の人達に評価されるゲームを作れた、というのは「ゼノンザード」開発において小谷の自信に繋がった。

従来のカードゲーム、eスポーツとは異なる楽しさを提示できるAIの可能性

「ゼノンザード」はさらに盛り上がりを見せていく。昨年12月からはランキングシステムが導入され、頂点を目指すプレイヤー達の動きが活発になった。プレイヤー達が腕を競う「eスポーツ」的な展開も考えられるが、小谷の構想は微妙に異なる。昨年11月に開催されたイベント、「ZENONZARD THE 5WALLS」では、その名のとおり、5体のAIが“壁”となってプレイヤーの前に立ちはだかる。会場に集まったプレイヤー達が力を合わせてAIを撃破し、最後に立ちはだかる最強AIを打ち倒した複数のプレイヤー達で、賞金を山分けした。

「他のeスポーツでは、プレイヤー同士はライバルです。しかし『ZENONZARD THE 5WALLS』では他のプレイヤーはみんな仲間。仲間で力を合わせて楽しく戦えるという点は、評価していただけたと思っています。「ゼノンザード」だからこそできるイベントです」。

さらに2020年春からは「全国最強決定戦」が行われる。こちらは最強のプレイヤーだけではなく、別枠で自分が育て上げたAIも出場させることができるという。最終決戦は、プレイヤー対プレイヤーで勝ち進んだ「最強プレイヤー」と、AI対AIで勝ち進んだ「最強AI」との戦いとなる。eスポーツとも異なる個性的なイベントで、今後もプレイヤーとAIの活躍の場所を提供していくとのことだ。

AIへの飽くなき探求心

小谷のAIへの追求心は尽きない。
プレイヤーと共に強くなるAI。勝利のみを追求した、最強プレイヤーにも負けないAI。「ゼノンザード」の開発段階でAIに無限の可能性を身に感じた。

目下検討中なのは、「デッキ構築(※対戦に使用するカードの選定)機能」。カードゲーム初心者の最初の壁となるのはデッキの構築だ。現在はAIが自動的に組むかプレイヤー自身で組むしかなく、「このカードを軸に使いたいけど、どうすれば良いか」、「今ある手札で有効な戦い方は」「さらにどんなカードがあればもっと強くなるか」といったアドバイスや、デッキの評価をAIでフォローしていきたいのだという。

「『遊びを知っている友達が横にいると面白さがわかりやすい』、その状況をAIで実現できたという自負があります。なおかつAIを無機質なものでなく、キャラクターとして作り込めたということに達成感を感じています。「ゼノンザード」は奥深く複雑なゲームですが、僕はあえてそういうものを作りたかったんです。AIとともにカードの特性やルールを学び、AIとともに対戦して、AIとともに勝利する。これまでにない達成感を感じていただきたいです。」と語った。

©BANDAI・STRAIGHT EDGE

ゼノンザード<ZENONZARD>公式サイト
https://www.aicarddass.com/zenonzard/

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