仮面ライダー変身ベルト開発現場に潜入!特別対談

小美濃 貴浩、渡井 康矢

仮面ライダー好きの大学生・岡本沙紀さんが、
変身ベルトの開発現場を訪れ、設計担当者にインタビュー!
設計の手順や苦労話、仕事のやりがいについて聞きながら、
バンダイのモノづくりの秘密に迫ります。

〈なりきり玩具〉にみる、感動を生み出すモノづくり

変身ベルトの設計は〈しくみ〉の提案から始まる

岡本

私は『仮面ライダー555(ファイズ)』の世代で、その変身ベルトがとても印象に残っています!

渡井

僕も一緒です。

小美濃

ファイズ大好きです。

岡本

そうなんですね!なんだか嬉しいです。今日はまず、変身ベルトをどうやって設計なさっているのか、基本的な流れからお聞きしたいと思います。

渡井

最初に、番組を制作している東映さんとバンダイの企画担当者が打ち合わせをして、僕たち設計担当者に「こういうベルトを今回つくりたいんだけど、できますか?」と依頼が来るところから始まります。僕たちがこれまでのノウハウを活かしつつ新しい技術を使ったギミックなどを提案すると、それをもとに企画担当者が外部の会社と打ち合わせをして、ギミックを表現した絵を描いてもらいます。その絵を参考に今度は僕たちがCAD(設計システムソフト)で設計データをつくっていくわけです。簡単にいえば、そういう流れで変身ベルトができあがります。

岡本

設計に着手するまでにも、たくさんの工程があるんですね。設計の方がアイデアを提案することもあるのですか?

渡井

(変身ベルト『デザイアドライバー』を手に取りながら)これは提案したんじゃなかった?

小美濃

企画担当者のつくりたいイメージを絵に描いていただくんですが、実際にカタチにした場合に「基板が入らない」「電池ボックスがちょっときつい」といった問題が起こらないか、初期の段階で僕たちが検討します。「ここを何ミリ大きくすれば入りますよ」などとこちらから提案して、それに合わせてデザインを変更していただくこともあるんです。

岡本

なるほど。

渡井

設計だからといって、企画担当者が考えるようなことを提案しちゃいけないわけでは全然なくて、子どもが欲しいと思えるものだったら、なんでも提案していいんです。

岡本

「発光ダイオードが発明された」「小型のICチップができた」など、最新の技術がおもちゃに取り込まれるケースもあると思うのですが、新しい技術についてはどんなふうに研究されているのでしょうか?

渡井

世の中にある新しい技術をおもちゃに活かせないか検討するプロジェクトがあるんです。さまざまなメーカーさんに「この技術はおもちゃに使えますか?」と問い合わせてリサーチしています。企画担当者から「こういうギミックは技術的に実現可能ですか?」とリクエストがくることも結構あるので、新しい遊びを実現できる特殊技術は自分たちで常に探していますね。

岡本

そうなんですね。設計のタイムスケジュールはどうなっているんでしょうか? 通年つくられているんですよね?

渡井

設計を始めてから発売まで約8か月ぐらいです。設計が2か月、工場がカタチにして調整する期間が2か月、量産する段階までいくのが2か月で、量産して店頭に並ぶまでに2か月で、合計8か月を要します。

小美濃

同時並行で複数商品の設計を進めていくこともあります。今年の仮面ライダーを放映している時に、すでに次の仮面ライダーの設計をやっていたり…。

岡本

ベルトだけで8か月だと、武器なども含めると通年になりますね。

小美濃

おもちゃをつくっていていいなと思ったのは、ほかの工業製品と比べると開発期間が短いことです。家電や自動車などでは設計から発売まで数年かかるものも多いですが、おもちゃは8か月程でお店に並ぶので、お客さまの声をすぐに聞けるのはいいですね。自分が携わった商品が発売されたら、SNSで反応を見ちゃいます(笑)。「楽しかった!」「おどろいた!」「感動した!」といった感想を見るととても嬉しいです。

渡井

SNSを見て一喜一憂しています(笑)。

おもちゃを“壊す”試験が一番大変

岡本

ベルトが光る・光らない、透ける・透けないといったギミックも、決まったコストの範囲におさめなければいけないから、すごく大変ですよね?

小美濃

めちゃめちゃ大変です。成型品の重量を少しでも下げるために余計な部分をカットしたり、バネが2個だったのを1個にしたり、細かな調整をしておもちゃとしての魅力はそのままになるべくコストを抑える工夫をしています。

渡井

企画担当から「コストを抑えられないか?」と要望をもらうこともあります。そういった時は「このおもちゃにとって一番の価値とは何か」を考え、例えばその価値が「レバーを開くときの気持ちよさである」となった場合には「音と光はいらない」と判断することもあります。音を鳴らすにはスピーカーがいるし、電池も入れる必要があるので。

岡本

デザインとしてあえて内側が見えるように設計したり、生産時に金型から抜きやすくしたり、そういったことも考えなければいけないんですよね?

小美濃

設計段階ももちろん大変ですが、その後の試験も大変なんですよ。

岡本

強度の試験ですか?

小美濃

ここにあるおもちゃは全部3歳以上を対象にしたアイテムなのですが、落下して一部が折れたりするとそこが尖ってケガしちゃう。そうならないように考えながらつくるのがまた難しい。この剣は落下試験でバキバキに折れちゃって。

岡本

細いですもんね! 子どものころは剣って尖っているほどカッコいいと思っていたので、初めておもちゃの剣を触ったときの印象が「意外と丸いな」だったんですけど、安全への配慮からだったんですね。遊び心地も調整しているんですか?

渡井

めちゃめちゃします!

小美濃

この剣は、しまうときのガチャンという感触がポイントで、グッと押し込むと……。

岡本

(写真のように実際に押し込みながら)あ、軽い! 押し心地が軽くて、カチッとはまるのが気持ちいいですね!

小美濃

中にパーツとバネが入っているんです。バネの強弱を選定する作業が、設計のデータを工場に提出したあとに発生するんですけど、これがかなり大変なんです。

渡井

僕たちが「このバネはちがう」「う〜ん、ちょっと足りない」っていろいろ検討して「これがいい」と思っても、企画担当者のイメージとは異なることもあります。みんなでコミュニケーションをとりながら遊び心地を考えている感じですね。

岡本

なるほど。これだけ複雑なカタチだと、壊れ方は事前にどのくらい想像できるものなんですか?

渡井

たとえば、『ゾンビレイズバックル』はトビラ部分が薄くて、ここが一番破損しやすいのはわかっていたんですけど、実際に落としてみたら、レバーが壊れて動かなくなったことがありました。自分たちで事前に気づこうと思っても、わからない部分がけっこうあるんです。

岡本

このトビラは、薄く角度がつけられてますね。

渡井

まっすぐだとバキッって折れちゃうんですけど、角度がついていると閉じるほうに力が加わって壊れないようになっています。

岡本

私は、設計図ができあがったら、すぐにカタチになると思っていましたが、商品として完成するまでには数多くの試行錯誤が行われているんですね。お客さまの気持ちになって触って、遊び心地を確認し、何度も壊して安全性も確かめていく。そこが一番大変そうですね。これらのパーツ一つひとつに、試行錯誤が詰まっているんですね。そう言われると、なぜ空洞になっている部分があるのかとか、今まで気づかなかったところが見えてきました。

熱意があればバンダイの〈モノづくり〉は楽しい

岡本

変身ベルトをつくっていて、一番「よっしゃ!」って喜びを感じるのはどのタイミングですか?

渡井

人によって違うと思います。僕は機構が好きなので、実はあんまり完成品には興味がなくて(笑)。想定した動きを試作で実現できた時が一番嬉しいです。

小美濃

僕は美術系の大学出身なのですが、外観がすごい好きで、たとえば横から見ると平行だけど正面から見るとすぼんでいる。まっすぐだとかっこよくない。そういうこだわりをちりばめつつ、塗装されて、最終的にパッケージが手元にきた時に嬉しくなります。

岡本

なるほど。意外だったのは「CADでつくる」「強度を見る」など、工程ごとに担当者が分かれているのではなく、プロダクトごとに分担されているところです。

渡井

プロダクトごとに担当者はいるのですが、「データをつくる」「試作する」「試験する」というそれぞれのタームで専門的な知識を持っている人とペアを組んでいるので、その人たちと綿密にコミュニケーションをとって、ひとつずつパスしていくイメージです。

岡本

いろいろと楽しい話をお聞きできて嬉しいです。最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。

渡井

「モノづくりは楽しいよ」というのが一番伝えたいことです。学生さんだとまだ何をしたいかわからない人もいるかもしれませんが、「モノづくりがしたい」って明確な気持ちがある人は、バンダイだと実現できると思います。

小美濃

僕は入社前からおもちゃが好きで、幼少期に買ってもらって遊んだ思い出がたくさんあり、ずっと携わりたいと思っていて、今その夢が叶っています。入社2年目ですが、若手でも熱量を持っていれば、会社を代表するようなアイテムもまかせてもらえるのがバンダイの特長です。そのことが学生さんに伝わると嬉しいです。

岡本

同じ仮面ライダーを見ていた同世代のおふたりが、すでに世に出ている商品に中心になって携わっている。そこが驚きで、私の夢も具体的にイメージできるようになったのが嬉しかったです。本日はありがとうございました!

岡本沙紀 プロフィール

東京大学工学部で橋や線路など社会インフラの設計を学んでいる。国際言語学オリンピックに日本代表として出場し、現在は日本天文学オリンピック代表理事、日本言語学オリンピック委員会理事、コスモプラネタリウム渋谷広報大使を務め、孫正義育英財団、日本宇宙少年団にも所属。大学受験の際、『仮面ライダーオーズ/OOO』の変身ベルトを巻いて勉強していた。

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