バンダイ深掘コラム「夢・創造人」

2020年8月25日

Vol.11 バンダイCSRプロデューサー<前編>~バンダイのプロダクトマネジメント部による「出前授業」とは~

今回取り上げるのはバンダイのCSR活動について。CSRとは「Corporate Social Responsibility」、すなわち「企業の社会的責任」を指す。バンダイのCSR活動の一環である「出前授業」についてバンダイ プロダクトマネジメント部 品質マネジメントチームの岩村剛に話を聞いた。 >>後編はこちら

プロダクトマネジメント部 岩村剛

「出前授業」とは?

バンダイの管理部門の一つであるプロダクトマネジメント部にはお客様相談センターや、製品の品質を管理するチームなどがある。岩村はその中の品質マネジメントチームに所属し、「バンダイ品質基準書」というバンダイ製品の「安全・安心」を守るため、約370項目にわたる厳しい品質基準を設けた独自のルールブックを作成し、提示していく役割を担っている。

また品質マネジメントチームは、社内外においてCSR活動を推進し、アピールすることで「バンダイのブランドイメージ向上」に対しても真摯に取り組んでいる。

CSR活動の一環として岩村が担当しているのが小中学校の子どもたちへ身近なものであるおもちゃを例に環境問題や製品の安全などを学べる「出前授業」というカリキュラムだ。
「バンダイのお客さまである未来ある子どもたちに、企業だからこそできる普段の授業では学べない教育を届けたい」という想いから2014年に開始し、これまでに約600か所、60,000名もの子どもたちを対象に授業を行ってきた。(2020年8月現在)

出前授業の様子
「おもちゃの会社バンダイのCSR」URL:
https://www.bandai.co.jp/csrkids/

出前授業には2つの形式がある。1つは社員や専門講師が学校に赴き講師となって授業を進める形。もう1つは専用教材(DVDや教材)を貸し出し、それを使って学校の先生や教育指導者が授業をする形。

さらに、その授業プログラムも複数用意されており、学校ごとにそのプログラムを選択して受講することができる。1つ目は「おもちゃのエコを学ぶ」というテーマで3R(Reduce Reuse Recycle)から枯渇資源の消費削減や、再生材の利用といったエコロジーに配慮した取り組みを学び、中身を取り出したら捨てられてしまうガシャポンのカプセルや、緩衝材として使われるウレタンの余剰材料を活用し「カプセルはんこ」を作るという授業。
2つ目は「おもちゃのユニバーサルデザイン」。誰にとっても見やすい色使いの説明書、左利きの人でも使いやすいトランプや身の回りの公共施設の例から、より多くの人に使いやすくする工夫「ユニバーサルデザイン」の基礎を学び、トランプのパッケージを実際にユニバーサルデザインの視点からデザインするといった授業。
そして3つ目は「バンダイの検査員になって玩具の安全性を検査する」というテーマで、実際にプロダクトマネジメント部で行っている検査の一部を体験し、玩具に求められる「安全・安心」とはどのようなものかを学ぶキャリア教育要素を含んだ授業だ。

さらに現在はもう1つ「統計と品質管理」という新しいプログラムが加わる。この授業は中学生を対象にしたより専門的な内容で、多くのデータから導き出される傾向を導く「統計」を使って製品の品質を向上させながら生産速度を高めていくことをグループごとに競い合うワークショップを中心にした授業になる。東京大学教育学部付属中等学校の協力のもと、ブラッシュアップ中とのことだ。

授業プログラムに応じたキットが配られる

「エンターテインメント企業だから授業内容もとにかく楽しいものにしたいです。授業を受けた子どもたちが家に帰ってバンダイの授業が面白かった!と、お家の人に話してもらえるように、プログラムを作っているときは“ここで笑いを取ろう”とか、“歌を入れて流行らせよう”とかメンバーで真剣に話し合っています。」と岩村は語った。

~奇跡的な出会い~
NPO法人が出前授業の道を
拓いてくれた

このような出前授業の運営体制を構築できたのは、NPO法人の協力がなければ成し得なかったという。当時「エコプロダクツ展(現エコプロ)」をはじめさまざまなイベントに出展し、来場者の小中学生向けに展示やワークショップなども行っていたのだが、「イベント限定ではなく、もっとダイレクトに小中学校でたくさんの子どもたちに伝えることができないだろうか?」ということを考えるようになった。

2013年のエコプロダクツ展の様子

そんな時エコプロダクツ展の会場で知り合った杉並区の施設役員にNPO法人「スクール・アドバイス・ネットワーク(以下S.A.Net)」を紹介してもらった。S.A.Netは学校教育、社会教育と企業、団体や専門家などをつなぐ教育コーディネートを行っている法人。S.A.Netに協力をお願いし、学校とのマッチング、出前授業を実施することが可能となったのである。

岩村はS.A.Netの指導を受けながら2時限(45分×2)の小学校での授業プログラム「おもちゃのエコを学ぶ」を作成。2014年4月、はじめて訪れた都内の小学校で、都内でも一部でしか始まっていなかった「土曜授業」の枠を使って、およそ100名の4年生の生徒に体育館で行った。声は通らない、飽きて手遊びやお喋りを始める子、お世辞にも成功とは言い難い結果であった。岩村は子どもたちの声、教員の感想からプログラム内容が「ただバンダイのエコ自慢を子どもに披露しただけだった」と反省。S.A.Netからのアドバイスを受けながら、子どもたちの育成のために本当に必要なことを考え、幾度も修正し、その結果今のプログラムへ進化させることができた。

はじめての授業写真

授業もなんとか軌道に乗り、「さぁこれから実施校を広げていくぞ」となった時、直面した課題は「講師不足」。岩村ともう1人しか講師がいなかった。岩村自身も普段の業務もあり、こちらの活動専門というわけにはいかない。そこでS.A.Netと協力して作ったのが「講師を育成して派遣する。」という体制。主に子どもの扱いに長けている主婦の方々に授業の進め方を学んでもらい、バンダイ社員の分身「出張講師」として各小学校に派遣することで講師不足を解決した。

次にぶつかった課題は「日本全国へ拡大すること」。講師を派遣できるのは日帰りが可能なせいぜい東京都とその近隣の県が限界。全国の学校からの要望があっても断らざるを得なかった。
そこで、授業プログラムを映像化したDVDにワークショップ教材、指導マニュアルをセットして提供し、DVDの操作だけで誰でも授業の進行ができる「教材提供型の出前授業」を開発。映像もバンダイらしい要素をふんだんに盛り込んだ番組構成にして、興味を引きやすいキャラクターの登場や、クイズ、歌などを取り入れた楽しい内容になっている。

子どもたちの興味を引くために、DVDの演出へもこだわった

「とにかくS.A.Netとの出会いは奇跡的でした。杉並の施設役員さんに“学校で授業したいんですけどどうしていいかわからないんですよね”って相談したら、行きつけのいい店知ってるんだけど今から行ってみる?くらいのテンションでその日のうちにS.A.Netさんを紹介していただいたのですよ。S.A.Netさんから現在の公立小中学校の実情や学校の担任の先生や校長先生の話を聞くと、新学習指導要領に基づくキャリア教育やプログラミング学習、外国語授業といった内容は学校教員だけでは対応が難しいこともあり、官民連携が望ましいがノウハウがない、という悩みがあることも知り、それを間に入って繋いでいただけたことに大変感謝しています。
「『新しい形の授業』は学校単体では難しい。そこに我々の想いと合致するプログラムを用意できたのは良かったです。」と岩村は語った。

また、学校や施設間での「口コミ」のパワーが強いと岩村は言う。「バンダイの出前授業が良かった」という評判が反響を生み、それが教師や指導者たちの勉強会などで波及し「うちの学校・施設でもやりたい」と広がっていく。昨年では静岡県の児童クラブで夏休みに合わせてまとめて30か所以上から希望があったという。準備していたキットの数が不足するほどの反響だったが、「子どもたちが喜ぶ面白い授業をやりたい」という児童クラブの想いが強く伝わってきたとのことだ。

楽しく学べる授業プログラムを作成する
バンダイ流ノウハウ

「“子どもたちに楽しんでもらう玩具を企画・製造・販売しているバンダイだから出前授業も他企業よりも楽しくないといけない”と自らプレッシャーをかけています」と岩村は語った。
岩村はプログラムを作成する際、楽しく学べるための5つのルールを設けている。これは岩村が以前玩具の企画開発担当だった時の経験を活かしているとのこと。

1)ターゲットとニーズは最初に決める
どんなに内容が良くてもニーズがなければ出前授業の申し込みは来ない。学習指導要綱や学年別の単元からニーズを読み取る。例えば、ユニバーサルデザインは4年生の2学期に習う、環境学習は3年生など。それに合わせて自社の活動と組み合わせ骨子を作る。

2)子どもたちの目線にあわせ、一緒に考えるスタンスで
子どもたちが普段の生活の中で疑問に思っていることや感じていることからストーリーを作る。例えば、ユニバーサルデザインの授業では「ペットボトルを捨てる時にフィルムを剥がして捨ててるけどたまに剥がしにくいのあるよね。これどうなっていたら剥がしやすくなる?」と、まずは子どもが想像しやすい事象から始める。

3)授業についてこれない生徒をつくらない
飽きさせない工夫として3択クイズを随所に入れている。ほぼ100%正解する3択。
正解して褒められることで自信がつき授業に対するモチベーションが持続する。
「これはありえない」という笑いが取れる選択肢もわざと入れる。悪ふざけで手を挙げる子がいたら、もうこの授業に興味を持っている。

4)何かになりきらせて非日常をつくる
ユニバーサルデザインの授業では「パッケージデザイナー」に、おもちゃの安全授業では「新人の検査員」になりきらせる設定を入れている。いつもと違う自分になることでいつもより高い集中力とパフォーマンスを発揮することが多い。「キャリア教育の一環として将来就きたい職業のことを考えるきっかけになるかもしれない、と期待もしています。」

5)体験やワークショップは後半に入れる
終わり良ければすべて良しとまではないが、楽しい体験で授業が終了すれば記憶にも残るし、前半で学んだことを実践できた達成感が楽しく振り返り学習できることにもつながると思っている。

うまくいった授業では、授業後の子どもたちの質問の勢いが違う。岩村は充実感を得るとともに、改めて教師という職業の難しさも実感した。
「家にいる時の子どもたちと、学校にいる時の子どもたちって全然違います。さらに学校によっても雰囲気は違う。そういうことを知ることができると、今後の仕事に大きく役立つと思います。バンダイのおもちゃのメインユーザーは未就学児から小学校低学年ですが多くの社員に講師を体験してもらうことで、メインユーザー以外へのアプローチ方法も考えられるかもしれない。そんな取り組みも始めて行きます」と岩村は語った。

カプセルやスポンジを使って作るカプセルはんこ

今後やりたいことに関して岩村は「この出前授業をこの先10年20年と継続できる仕組みにして、規模も世界へと広げていきたい」と答えた。「やっぱり最終的には『この授業を受けたのがバンダイ入社のきっかけです』という人に会いたいですね」と笑顔で語った。

最後に読者へのメッセージとして岩村はこう述べた。「バンダイは総合エンターテインメント企業として商品企画だけでなく未来ある子どもたちへの教育も支援したいと考えています。バンダイの出前授業は教材提供型であれば全国どこでも少人数でも無償で提供させていただいています。
小中学校の教員や教育関係者、PTA役員の皆様、子どもたちに楽しく学べるバンダイの出前授業のお申込をお待ちしております。」

©BANDAI,WiZ

「おもちゃの会社バンダイのCSR」URL:https://www.bandai.co.jp/csrkids/

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