2019年11月22日
「ベビラボ(Babylabo)」は、バンダイが日立製作所(以下「日立」)の協力の下展開する、対象年齢0歳からの知育玩具ブランドだ。脳科学で用いられる脳機能行動、生理指標計測を用いて、0歳児からでも子どもの反応を確認しながら、好奇心を引き出す研究を行い、そこで得た知見を仕様に反映している。今年で10年目を迎えた。>>後編はこちら
話を聞くのは、トイ事業カンパニー、カテゴリーデザイン部の奥村優。もともと玩具が好きで、“自分が”興味のある商品に携わりたい、という動機で玩具会社に入社したが、5年前に自身が子どもを授かったことにより、“我が子が”喜んでくれるような商品を作りたい、と思いは変化した。
「赤ちゃん満足度No.1」のための共同プロジェクト
赤ちゃんは、言葉を話せない。親は、赤ちゃんの感情や反応の全てまで汲み取れない。
泣いていても何が原因かわからないし、笑ったり喜んでいるように見えても何が・どうして楽しいのか、経験則からしか得ることができない。たとえ、親としての先輩である友人や知人からアドバイスをもらっても、それが我が子に当てはまるのか―――
特に乳児の育児は親も初めてのことばかりで、悦びや感動と同じように、悩みや不安も付きまとう。
翻って、乳幼児向けの玩具。非常にバラエティ豊かだ。ここでも親はこう思うかもしれない「何を購入すればいい?」「我が子が喜んでくれるものは?」
そんな親の悩みを解消する商品ブランドがずばり「ベビラボ」だ。
「ベビラボ」は「赤ちゃん満足度No.1」を目指している。
疑問を感じる人も多いのではないだろうか。言葉を発せられず、五感や思考も未発達の赤ちゃんが“満足する”ということをどう証明するのか?
「ベビラボ」の場合、脳科学にもとづく検証を行う。日立と脳科学の産業応用を行う株式会社NeU、そして大学の研究機関が研究協力で得た知見を、商品に活しているのである。
「赤ちゃんの笑顔が、親の笑顔に。親の笑顔が、赤ちゃんの笑顔に。」というのが、「ベビラボ」の目指すところだ。
脳科学×乳児玩具 その融合
脳科学は実際、どのように商品に落とし込まれているのかピンとこない方もいらっしゃると思う。実際の商品を例に、奥村に詳しく解説してもらった。
実は、脳科学の知見は「起用IP※」から既に取り入れられている。「ベビラボ」のデザインが「アンパンマン」であることは、脳科学研究の知見によるものなのだという。
※IP=キャラクターなどの知的財産
大きな円の中に、鼻と頬、3つの丸いパーツが並んだアンパンマンの顔のデザインは、脳科学研究により、乳児に認識されやすい(0ヶ月から認識できる)という知見を得たのだそう。
<ラトル>
閑話休題。赤ちゃんが握り、ガラガラと音が出るおもちゃ「ラトル」を例に紹介する。
「らくらくにぎれる♪はじめてラトル」上下に球体を施した、一風変わった形状だ。この2つの球体こそ、脳科学の知見が詰まっているのだ。
片方の球にはアンパンマンの大きな顔。これは、子どもがアンパンマンの顔はほかのモチーフ以上にじっと見つめるという結果に基づき、赤ちゃんの注目を集めるためなのだという。
もう1つの球には、縞模様や三角の網目模様など、一見サイケデリックな模様が施されている。これは赤ちゃんが最初期に認識できるパターンなのだそう。
これに加えて、重量は赤ちゃんの握力で持てるように30gに抑えたり、握り手を母親の小指の太さに設定したり、布製の柔らかい素材を使用したり、リボンのほかにもタグのようななめたりつまんだりして遊べる要素を付けたりなどといった部分は、これまでのノウハウが活かされたものだ。
「らくらくにぎれる♪はじめてラトル」開発時に得られた知見は、他の商品へも活かされている。
<メロディトイ>
この商品が生まれたのは「赤ちゃんが泣き止まない、寝ない」という多くの親を悩ませる課題に挑戦するためだ。赤ちゃんを楽しくさせる、快適な眠りに誘うメロディが作れないか?というバンダイの要望に研究実験が行なわれ、得た知見となる。
例えば赤ちゃんがごきげんになる「G(ごきげん)メロディ」の「アンパンマンのマーチ」。最初に音調が変わるスライドホイッスルの音が入り、ばいきんまんのセリフや、赤ちゃんの笑い声などさまざまな効果音が挿入される。曲も途中でテンポが変わったりと、大人が聞いていても楽しくなるようなアレンジを加えている。これらは脳科学の裏付けがあってのことだそうだ。
赤ちゃんをリラックスさせる「Y(ゆったり)メロディ」では、例えば「ゾウさん」。元々がスローテンポな曲だが、さらにゆっくりと落ち着いた曲調で、変調が入っている。 これは要素のひとつとして、母親のある特徴を取り入れており、赤ちゃんの反応から「赤ちゃんが気持ちよくなる音楽」を作り出しているのだそうだ。
(もちろん、脳科学の裏付けあってのアレンジである)
この脳科学メロディシリーズは奥村の自信作だという。試作品を知人の赤ちゃんに体験してもらったところ、赤ちゃんのぐずりが止まったり、すぐ寝てくれたという喜びの感想をもらったそうだ。
そんな「脳科学メロディ」3商品のうち、中でも奥村の渾身の商品が赤ちゃんがねんねの時から使用するプレイマット「脳科学メロディ あそんではぐくむプレイマットDX」。
コアとなるのが中央の「メロディユニット」。赤ちゃんの泣き声の周波数に反応する「おたすけセンサー」が組み込まれており、赤ちゃんの泣き声に反応し、脳科学メロディを奏でる。「Gメロディ」が2曲、「Yメロディ」を10曲収録。さらに童謡や、アンパンマンたちののかたりかけボイス」を多数収録し、赤ちゃんをあやし、楽しませてくれる。
メロディユニットを吊り下げるバーやマットには、前述の脳科学の研究結果に基づいたカラフルな模様とキャラクターの顔が随所に描かれている。デザインに見える部分にも赤ちゃんに楽しんでもらおうという要素を多く盛り込んでいる。
触るとパリパリと音がする「パリパリシート」は手や足で触ったり、足の下に敷いたりして音と感触で赤ちゃんに楽しさを与えてくれる。
「ねがえり応援ミラー」は赤ちゃんの好きな鏡を支柱に配置することで、赤ちゃんが鏡を見たくて横を向くので、寝返りのサポートにもなる。鏡は柔らかい素材になっており安心だ。
起き上がり始めた赤ちゃんが、吊り下げたメロディユニットやマスコットに触ると、アンパンマンたちのかたりかけボイスや効果音が鳴るモードもあり、大きくなっても楽しむことができる。
さらに、吊り下げられたメロディユニットは「アンパンマンごう」の飛行モードで、ドキンちゃんやばいきんまんもUFOや星に乗って空を飛んでいるなど、アンパンマンの“世界観”も表現しており、その世界で遊ぶ我が子の姿に、親まで楽しさを感じることだろう。
通常、玩具開発にかかる期間は10カ月~1年ほどだが、「ベビラボ」シリーズは、商品のコンセプトの提示から実験、それを受けての商品仕様の決定でおよそ1年半を費やす。通常よりも開発に手間と時間を要するが、結果として「赤ちゃんが飽きない玩具作り」に繋がっていると奥村は語った。赤ちゃんが長く手に持ち、見せると喜ぶ。親にとっても強く印象に残るおもちゃになっているということが、アンケートから得られており、商品の満足度はとても高いという。
一方、「ベビラボ」というブランドの認知度はまだ低いと奥村は考えている。より多くの親御さんに「ベビラボ」を知ってもらい、手に取っていただくことが、今の奥村の課題だ。
<後半へ続く>
ベビラボシリーズ
https://anpanman.bandai.co.jp/products/specials/babylabo/
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