吼えろーーーアニマギア!!ーー「アニマギアDE 05」2022.12.12発売

STORY アニマギアの世界観

EPISODE 47

フォックスロアー=ナンバーライトによる“災害”
――プロジェクト・ギアジェネシスの阻止から5年。
アズナ=オウガスト=キリエはこの5年という期間に対して
「まだ」という気持ちと「もう」という二律背反な感想を抱いている。
アニマギアを媒介して降臨した二柱の神の激突を振り返れば、まるで昨日のことのようにも感じると同時。
あまりに忙しなく過ぎていった月日を思えばあっという間だったようにも思えた。
まさに光陰矢のごとし、という感じだ。

アズナ「あー、おわ......ったぁ......かな?」

アズナの前には山積みにされた書類の束。
その紙束から視線を外して立ち上がる。
コーヒーを片手に、日焼けが気になって仕方がないほどの大きな窓から、遙か眼下に広がる街並みを眺めた。
ここはIAA本部――元ギアティクス社の本社ビル。
その最上階に位置する会長室だ。
いまは、自分に割り当てられた部屋でもある。

――事件の後。
IAAとギアティクス社は、トップによる大規模な不祥事の後処理に追われた。
事実関係の確認、記者会見をはじめとする報告、通常業務の停止と再開......そして、後釜の擁立(ようりつ)。
その後、ギアティクス社が完全にIAAと統合されたこともあり、
この機関を正しく運用できる人物の選定は、最優先事項の急務となった。

そこで白羽の矢が立ったのがアズナだ。
会長秘書としてフォックスロアーに従事していた実務経験。
それでありながら、前会長の悪行をいちはやく見抜き行動に移した慧眼を役員達に買われたというわけだ。
無論、ただそれを受け入れたわけではない。
おおいに反対した。
なにせ器じゃない。
自分はただの秘書兼、アイドルのマネージャーとして過ごしてきた若輩者である。

しかし役員達はそう思わなかった。
フォックスロアーの持っていた『最年少にして会長職に上り詰めた』という実績を、アズナであれば塗り替えられる。
そして、初の女性による会長就任となればアイコニックな存在としてイメージ向上につながると考えたのだ。

加えて、秘書でありながらマネージャー業務をこなすというスペックの高さも災いした。
膨大な量の後始末の存在と、アズナ自身が持つIAAとギアティクス社の業務をこなすのに申し分ない実力。
要は、面倒ごとをすべて丸投げされたのだ、彼女は。

アズナ「ほんと、あっという間だったなぁ......」

独り言を聞く相手はいない。
ビタースイーツの二人はいま、あるイベントに出演するため準備の真っ最中だろう。
彼女たちの面倒は秘書の紅葉サクラに任せてある。

――サクラはあれから、何度か身体のアップデートを受けていた。
いまでは身長が伸びているほか、髪の毛もいくらか短くなって、だいぶ大人びた印象へと様変わりしている。
また、決戦時に使用したリンカーサクラギアは緊急用として本部ビルに格納されており、
普段はアンドロイドと以前のサクラギアの機体を適宜使い分けていた。
そして自分の右腕として抜擢し、いまでは優秀な敏腕秘書として活躍している。
いやはや、秘書だった自分が秘書を持つ側に立とうとは。
世の中何があるかわかったもんじゃない。

コノエ「ああやっぱりまだここにいた。辛気くさい顔してるねぇアズナちゃん。せっかくの美人が台無しだよー?」

カップを一口すすると、ノックもなしに会長室へと入ってきたのは三梨コノエだ。
無礼とはまったく思わず、むしろアズナは彼女の姿を見た瞬間に、張り詰めていた糸を切らしたように脱力した。

アズナ「コノエせんぱぁい......あたし疲れましたよぉ......」
コノエ「雇い主から甘えられるってのも複雑なんだけど」
アズナ「そういわずにぃ」
コノエ「おおよしよし、頑張ってるねえ......」

彼女とは事件の後処理をきっかけに仲良くさせてもらっている。
なにせアズナの本分はIAA側の業務であって、会長就任直後は元ギアティクス社の運営形態に疎い状態だった。
そこで助け船を出してくれたのが、開発部門のトップでありギアティクス社での就労期間も
長い若き天才である三梨コノエである。
普段甘える相手がいないからこそ、年上であり頼れる仲間でもある彼女に気を許しすぎるのも詮無きことだろう。

コノエ「ってこうしてる場合じゃないよアズナちゃん、そろそろ出発しないと」
アズナ「え、もうそんな時間......ぎえ!そんな時間だ!」

全く気にとめていなかった時計に目をやると、出発予定時刻から5分ほど過ぎた後だ。
実を言えば、ビタースイーツの出演するイベントには自分も行く予定なのだ。

今日はIAAが主催する『アニマギアワールドチャンピオンシップ』の日本予選の決勝戦が行われる。
IAAのイメージ戦略のひとつで開催されるこの大会に、よもや日本にいるIAA会長が出席しないわけにも行くまい。

アズナ「ごめんなさい!準備は出来てるんで......!」

本当はもう少し前にコノエと下で合流する手筈だったのだが、すっかり失念していた。
しびれを切らしてここまで迎えに来てくれたのだろう。

コノエ「慌てなくて大丈夫よ。送ってく約束したでしょ、ほらこれ」

コノエが手慣れた様子でフルフェイスのヘルメットを投げてよこす。
いつも通り大型二輪で送ってくれるのだろう。
大変頼もしい。
何度も彼女の運転にピンチを救ってもらったのだ、今回も確実に間に合うという安心感がある。
しかし。

アズナ「きょ、今日は安全運転でお願いしますね」
コノエ「?いつも安全運転だよ?」

......運転が荒いのだけが玉に瑕(きず)ではある。

 

想定内の爆走を経て会場に到着する。
まだくらくらしている頭を押さえつけながら諸々の手続きを済ませたあと、
なんとか試合開始前に関係者席へとたどり着くことが出来た。
そこには馴染みのある顔ぶれが並んでいる。
準決勝で敗退したベスト4の飛騨ソウヤ、そしてIAA技術顧問の紅葉ヤマトだ。サクラは舞台裏だろう。

ソウヤはこちらを見て軽く会釈すると、ウキウキした表情で試合会場へと視線を戻した。
......こういうところに、まだ幼さが残っていてなかなか可愛らしい。
試合に負けてもこの表情が出来るのは器が大きい証拠だ。
年下ながら見習いたいところである。

ヤマト「間に合いましたか、キリエ会長」
アズナ「キリエも会長もやめてくださいって言ってるじゃないですかヤマト博士!もうちょっとこう、
他人行儀じゃなくてフランクに!アズナちゃんとでもお呼びください!」
ヤマト「ははは、いやはや。やはり恐縮なんですよ、雇い主でしょうあなたは。大会の主催者でもある」

恐縮するのはこっちだ。
大切な娘さんをお預かりしている立場である。
こき使っているといっても差し支えないレベルで頼り切りなのだ、
せめて親であるヤマトにはもう少し偉ぶっていて欲しい。

――ヤマトと言えば、いまはある研究に没頭している。
アニマギアスと共に失われた、エンペラーギア達の復元だ。
無論、危険が伴う研究である。
ゆえに機能を制限し、仲間として戦った彼らの人工知能を復元したのち、
一般機体へとインストールできないか、ということもセットで研究中だ。

たしかその研究続行の可否を判断するため申請をよこしてきたはずだったはず。
その申請に判を押すデスクワークを思い出して、またひとつ心の中でヤマトに頭をさげた。

......この大会が終わったらちゃんとチェックしないとなぁ。

アズナ「あれ!タスクくんいるじゃん!いま離島で任務してるはずでしょ!?」

よく見れば、ソウヤの向こう側には晄タスクの姿があった。
あれから彼はIAAを辞職、その後ABFの所属となりチームドラギアスの一員としてレイドランスと共に再スタートをした。
もとよりIAAいちの実力者だ、ABFにおいてもその実力を遺憾なく発揮し、めざましい活躍をしているという。

タスク「......早く終わったからな。暇つぶしだ」
アズナ「またまた、そんなこと言って!」

土とオイルで汚れた白い制服を見れば彼がどれだけ急いでここにやってきたのかは想像に難くない。

アズナ「“あの子の晴れ舞台”が気になって仕方ないんでしょ、気合い入ってるなぁ」
タスク「黙っていろ。“あいつ”が情けない戦いをするようだったら俺が直々に鍛え直してやる、その見極めに来ただけだ」
アズナ「素直じゃないなーもう。ちゃっかり関係者席だし」
タスク「......フン」

やかましい、と彼の顔に書いてある。
とりつく島もないまま、彼は腕組みをして黙り込んでしまった。

......本当に、素直じゃないんだから。

ソウヤ「あ!二人が出てきましたよ!」

会場の照明が落とされると同時、ソウヤがスタジアムの選手入場口を指さす。
スモークが焚かれ、二人の少年のシルエットが映し出されていた。
入場曲と共に、少年達が入ってくる。

天草キョウと、晄マコトの二人だった。
キョウの強さはもとより、マコトがあの場に立っていることに他人事ながら感嘆する。
この5年の間、マコトはキョウと共に特訓に励み、いまではこうして世界大会の日本予選決勝の舞台にまで上がってきた。

近くでその姿を見ていた身としては――そして共にプロジェクト・ギアジェネシスを止めた身としては。
世界を救う立役者であるあの二人が、この大舞台で戦うことになったというのは非常に感慨深い。

並び立つ若き天才が二人。
その両雄が互いに声を掛け合い、固い握手を交わすのが見える。
なにを喋っているのかはここまで聞こえてこないが、あの二人のことだ、微笑ましいやりとりをしているに違いない。

フラッペ『アニマギアワールドチャンピオンシップ!その日本予選も残すところあと一試合となりました!』
コラーテ『天草キョウ選手!晄マコト選手!果たして世界への切符を手に入れるのはどちらになるのでしょうか!?』

大会進行を務める相棒達の声が会場中に響き渡る。
いよいよ始まるのだ、と気分が否応なしに盛り上がっていった。

キョウとマコトが、スタジアムの両端へと移動する。
彼らの肩から飛び出したのは、ガオーとムサシだ。
二体のアニマギアは互いに構えて、その相棒(バディ)であるマコト達も顔を引き締める。

......大人になったなぁ。

考えてみれば高校二年生だ、前と比べて大人になったと感じるのは当たり前のことなのだが。
この5年を思えば、あの二人は特に成長著しかったように思える。
自分は業務に追われるあまり、人間として成長したかと問われれば首をかしげてしまう。
だからこそ、キョウとマコトがとてもまぶしく見えた。

彼らはどこまで行くのだろう。
その成長を、これからも見届けたいと強く思う。
1年後、3年後、5年後、そして10年後。
キョウとマコトは、間違いなく世界へ羽ばたき、アニマギアの前線で活躍する人物となるはずだ。
ガオーとムサシも、その二人に恥じない活躍をするだろう。

ああ、とても楽しみだ。
膨れ上がる未来への期待感を助長するように照明が再び会場を照らし、会場のボルテージも最高潮に達する。

......10年後のキミたちが、どんな大人になって、どんな風にアニマギアと過ごしていくのか。
その結末を見届けるまでは、何があってもめげちゃだめだ。
まだまだ頑張らないとな――そんな風に、彼女は会場の中で一人、静かに決意した。

ビタースイーツ『両者とも準備が整ったようです!それでは早速始めましょう――』

EPISODE DE47

――試合開始!

アニマギアDEロゴ

≪ANIMAGEAR : DOUBLE EDGE≫
END.

EPISODE 46

オメガギアス「諦めろアニマギアス」
アニマギアス「■■■■ッ!!」
オメガギアス「言葉さえ失ったか......いいだろう!お前の野望ごと、ここで終わらせてやるッ!!」

EPISODE DE46

音が。
歌がギアティクス社の屋上を——世界を包み込む。
いまここは、人類の未来を決める戦場であると同時に、ひとつのステージと化していた。

“Be the change”。

それは、アニマギアが“バディホビー”として社会に進出した後、初めての公式大会を記念して作られたテーマソングだ。
アニマギアと共に人生を歩んできた者であれば、誰もが知っている曲だった。
その伝説とも言える歌を、ビタースイーツの二人がカバーソングとして熱唱を始める。
トッピングボイス——その歌声によってみなぎる全身の力が、二柱の神を突き動かしていく。

——情熱を注いだ分だけ 膨らむDream——

アニマギアは人々に夢を与えた。
強さを求める者。
友との絆を求める者。
技術の発展によって世界の平和を目指す者。
そして、永遠の命を求めた者。

アニマギアス「■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!」

しかし、永遠の命と称して自ら神格を得ようとした、先程までの“夢追い人(フォックスロアー)”はもういない。
野望と苦しみの混沌を叫ぶだけの魔獣と化したアニマギアスが、荒ぶる感情を炎という熱に変えて巨大な拳に纏わせた。

マコト「“みんな”!全速力で突っ込んで!!懐(ふところ)ッ!!」

友の声と、一つのラインがオメガギアスを導いた。
クォンタムシステムの発動である。
すべてを信じて、応えて、征く。
魔獣の巨体に肉薄したオメガギアスの頭上を、敵の熱(こぶし)が掠めた。

——カタチを変えゆくとしても——

アニマギアは如何様にも姿を変える。
それは人間によるカスタマイズの賜(たまもの)であり、技術の進歩が生んだ新たな身体であり、
時には複数の身体が一つになることである。
無限の可能性を秘めたアニマギアはしかし、決して人の手の力を借りることなく新たな姿になることはない——

アニマギアス「GGGGGGGGGGGGGEEEEEEEEEEEE......ッ」

目の前の巨体が紫電を纏う。
雷と見紛う程のエネルギーが、かの魔獣から放たれようとしていた。

キョウ「この光は——ライギアスか!!雷撃が来るッ、右手で受け止めるぞ!!」
アニマギアス「AAAAAAAAAARRRRRRRRRRRRRRRRッッ!!」

——だからこそ。
友が形を変えてもなお、宿る魂に信頼を貫くことが出来るのだと、誰もが知っている。
キョウが知る友は、また別の友の力を受けるべく右手を高らかに掲げた。
右手の巨大な爪が、アニマギアスの雷撃を避雷針のように受け止める。
ユニコーンライギアスの......バイスとシュバルツの力を継いだパーツ『ライトニングユニット』に、
エネルギーが急速に充填されていくのが分かった。

——せめぎ合うセカイを切り開く Shout——

オメガギアス「うおおおおおおああああああああああッ!!」

ライトニングユニットを振り抜きながら、“希望(オメガギアス)”が叫ぶ。
雷が、敵の両腕を引き裂いていた。

——譲れない夢を手繰り寄せる Smash

しかしアニマギアスは怯まない。
最後に勝利するのは自分だと、本能が信じて疑っていないのだと挙動で理解する。
だからこそ、魔獣は身を翻しながら、その長い尾を思い切り横薙ぎにぶち込んできたのだ。

だがクォンタムシステムに——マコトの瞳に例外はない。
突然のその動きさえ“読めている”。
全身を使って尾を受け止め、抱え込んだ。

——巨大なFate キズナで乗り越えろ

マコト、キョウ、サクラ、ガオー、ムサシ。
オメガギアス・ディヴァインエタニティとして一つになった彼らは、すべての感覚を共有している。
ゆえに、敵の攻撃を受け止めた直後の動作は迷いなく行われた。
抱え込んだ尾に力を込めて、巨体を地に叩き付けたのだ。
その衝撃で、尾が半ばで千切れていた。

——傷つけ合うために生まれたワケじゃない

オメガギアス「俺達アニマギアが新人類だって......?笑わせるなよフォックスロアー!!」

アニマギアは戦う。
時にはスポーツマンシップにのっとり、フェアな条件で対等に戦い。
またある時には、譲れないモノを賭けて熾烈な争いを繰り返してきた。
哀しいかな、世界各国がアニマギアの軍事利用すらしている現状、
アニマギアと戦いは切っても切れない関係にあると言っても過言ではない。
しかし——

オメガギアス「永遠の命だか、プロジェクトギアジェネシスだか知らないがな!
なにかを得るために、失って良い命なんてッ!!ひとつだってありはしないッ!!」

——しかし、だ。
本質はいまでもずっと変わっていないはずだ。
友として。
相棒として。
ライバルとして。
家族として。

オメガギアス「だってそうだろッ」

ありとあらゆる縁を結び、そして絆を交わして共に成長していく。

オメガギアス「人がいるから俺達(アニマギア)がいる!!人がいるから俺達が頑張れる!!
俺達がいるから、人の笑顔が守れるんじゃないか!!」

それがアニマギアのあるべき姿だ。
それが人間のあるべき姿だ。

オメガギアス「その営みを邪魔する権利なんて、誰も持っていないんだ!!」

——守りたい そう願うたびに

オメガギアス「確かにお前は人より優れた存在だったかもしれない、だが自惚れるなフォックスロアー!」
アニマギアス「......■■■ッ」

魔獣がルインシステムを発動する。
切り落とされた腕と千切れた尾が、本体に引き寄せられ再接続されていく。

——迷いはたちまち消える

オメガギアス「お前がどんなにふざけた手段を取ろうが、俺達が必ずそれをぶち壊す!!」

畳みかけるように、オメガギアスは魔獣の頭上から大剣を振り下ろした。
真っ二つに割断される魔獣の身体はしかし、斬ったそばから繋がれていく。

——先頭を切って駆け抜けろ

アニマギアス「DDDDDDDDDDDDDEEEEEEEEEEEEEEEEッッ!!」
オメガギアス「この......野郎......ッ」

——無限に広がる未来に希望が溢れるように

オメガギアス「こんなもんがあるからッ!!」

魔獣の背中で妖(あや)しく光るパーツがある。
セラフィムレイギアスの身体を中心に構成されたユニットだ。
間違いない、この異常な再生能力はフェニックスネオギアスに由来するモノだろうが、
それを支えているのはこのユニットが生み出す無限のエネルギーだろう。
だからその根元に、オメガギアスは取り付く。

——闇を切り裂いてけ

オメガギアス「あ、あああ、あああああああああああああああッ!!」
アニマギアス「GGGGGGGGGHHHHHHHHHHHHッ!!?」

直後、力任せに引きちぎった。
そして背中のユニットがもう二度と接続されないように、右手から放つ雷でパーツの内部をショートさせる。

——いま Be the change!

過剰なエネルギーを供給されたレイギアスのパーツが、そのまま大音声(だいおんじょう)と共に爆発四散した。

——Be the change!!

オメガギアス「......お前の言葉が聞きたかったよ」

それは果たして誰の言葉だったのだろうか。
苦しみながらも、いまだ戦うことをやめようとしない魔獣を見たオメガギアスの中の誰かが、そう口走った。
フォックスロアー=ナンバーライト。
黒田ショウマのアルターエゴであり、紅葉サクラとおなじく機械の身体を持つアンドロイド。
かつて、黒田と共にマギア計画を実行しようとした彼は、生まれた時から道を踏み外した存在だった。
しかしその踏み外した道こそ正しい道なのだと。
あるべき姿なのだと、彼は叫んでいたのかも知れない。
認知を歪めて、現実を変えようとしていたのだろう。
だがもう、いまの彼にそのある種の信念は存在していない。

ただ壊す。ただ滅ぼす。
他ならぬ生みの親・黒田ショウマの手によって、彼は自分が敷いた道を今一度踏み外した。
フォックスロアーが言葉を介する時は、きっともう二度と来ない。

——デジタルの銀河のなか繋がり合えた

それが寂しい、と感じてしまうのはギアブラストで全員の心がリンクしているがゆえだ。
もっと違う形で出会えていれば、もっと早く彼の過ちに気が付いていれば、正しく彼を止めることが出来たのかもしれない——そう思えばこその、寂しさだった。

——君とじゃないとダメだ

だが迷わない。

——さあ Be the change!

アニマギアと友達でいるために、戦うことを決意した少年がいた。 兄と向き合うために、弱さを強さに変えた少年がいた。 秘密を打ち明け、誰かを傷つけることを恐れて、しかしそれを受け入れた少女がいた。

——Be the change!!

少年達が、少女達が、いままで通り笑顔で過ごせる世界を取り戻す。
そのために、オメガギアスは舞う。

オメガギアス「もう、終わりにしよう——」

“爪”と“剣”。
二つの刃を、魔獣の身体に深く突き刺して。

アニマギアス「A......AA......」

——手の平に宿る小さな勇気

レイギアスのユニットにそうしたように、全開(ありったけ)のエネルギーをアニマギアスにぶち込んだ。

「——吠えろ、アニマギア————ッ!!」

“叫び(いのり)”。
“叫び(おもい)”。
“叫んだ(ねがった)”。
悲鳴のように叩き付けた渾身の一撃は。

————燃えろ、アニマギア。

変わり果てた、友になれたかも知れない男の身体を、跡形もなく灼き尽くしていた。

......その三時間後。 街に蔓延っていた暴走アクターの群れは、勇気ある者達の献身によって、その全てが活動を停止した。

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 45

両断されてもなお、電磁フィールドを展開するアニマギアス。
再生されゆく神の体。
それを見た紅葉ヤマトは、その場にいるレジスタンスの面々が動揺する中で、一人冷静でいた。

(......想定通りか、これもすべて)

想定とはヤマトのものではない。
“黒田ショウマの想定”だ。
脳裏に、数時間前の光景が蘇る。
彼がキョウと共にレジスタンスの拠点から出発しようとする、その直前の出来事。
ヤマトと黒田は、二人きりで最後の会話を交わした。

黒田『――おそらく、このままでは僕たちが敗北する』
ヤマト『何を馬鹿なことを言っているんだ。ショウマ、勝たねば私たちの......人類の未来はないんだぞ!』
黒田『ああ、だからこのままでは、と言った。勝ちの目が消えたわけじゃあない。
だが分の悪い賭けに変わりはないだろうよ』
ヤマト『......キミにそこまで言わせるほどの相手なのか、フォックスロアーは』

黒田は間を置かずに口を開く。
彼の中では、すでに答えが見えているようだった。

黒田『フォックスロアーというよりは、ラグナギアスがどうもキナくさい。
奴が当時の設計でラグナギアスを作るはずがないんだ。
エンペラーギア13体をすべて揃えた上ならば......おそらく、そう。
ラグナギアスを無敵といって差し支えない機体として作り上げるだろうな』

少なくとも僕がフォックスロアーなら、作ってみせる。
彼はそう言っていた。
エンペラーギアの生みの親である黒田は、驚くべきことにアニマギアスの出現を予見していたのだ。
自身が設計していないにもかかわらず、である。

黒田『すでにネオギアスとフォールンが、パーツの一部を奴らに回収されているが、この二機には再現性がない』

つまり、フォックスロアーが手にしたパーツを元にいくら研究しようと、
フォールン達の残りのパーツが黒田の手にある限り向こうはエンペラーギアを揃えられない、ということだ。

黒田『となれば、奴らは残りのパーツを躍起になって奪いに来る』
ヤマト『な、ならばフォールンを奪われないように守りながら戦うしかないのか?』
黒田『いいや、違う』

彼はわずかに眉根をひそめて、絞り出すような声で続けた。

黒田『“あえて差し出す”んだ。こちらが追い詰められて、仕方なく渡さざるを得ないような状況......自然な、形で』

信じられない答えに、ヤマトが「は」と言葉を詰まらせる。
当たり前だ。エンペラーギアを揃えてはいけない、といったこの状況で黒田は真逆の意見を提示したのだから。

黒田『フォールンとネオギアスのパーツを渡すと言ったんだ、ヤマト。いや質問はしなくていい、その回答はいま僕の口から説明しよう――フォールンの内部システムにトロイを仕込んだ』
ヤマト『な......、アニマギアのデータにウィルスを仕込んだっていうのか、キミは!?』
黒田『そうだ』

トロイ。 正しくをトロイの木馬という、正常なプログラムを装ってシステムに侵入するウィルスプログラムのことだ。

ヤマト『つまり、フォールンを取り込ませてラグナギアスを止めるということだろう!?
危険すぎる!通常時の動作にだって影響が......』
黒田『フォールンは承諾済みだ。僕も腹を括った、奴の隙を突くにはこれしかない』
ヤマト『そうは言っても!!フォールンはキミの......』

黒田『ヤマト。僕たちは人類の未来を背負っているんだ。だから“なにを犠牲にしてでも勝たねばならない”......
それがわからないキミじゃないだろう?』
ヤマト『......っ』
黒田『いまさら善人ぶるな。事態を収めるためならば子供の手だって借りるキミだ、嫌とは言わせない』

痛いところを突いてくる。
確かに、かつてオメガギアスのニックカウルを天草キョウに背負わせた自分が、どうこう言える立場ではなかった。

黒田『......いや、すまない。卑怯なことを言った。元はといえばその元凶は僕だ。
だが、だからこそ。これはキミにしか託せない』

そう言った黒田は、ヤマトに手のひらサイズのガジェットを握らせた。
周囲を金属のフレームで補強し、カバーのついたスイッチが無骨についているだけの簡単な装置だ。

黒田『これをキミに預ける。作動させれば遠隔起動でトロイが活性化する仕組みだ』

平常時ならばともかく、フォールンのパーツを取り込んだ機体がダメージを受けたタイミングならば、
問題なく発動するだろう。
そう、一方的に締めくくられる。

ヤマト『......なぜ私に。自分で持っていかないのか』
黒田『僕はこれから前線に出るんだ、間違いがあって壊されたらたまったモノではない。
それに、万が一にでも装置が見つかって敵に勘付かせる可能性は排除しておきたいんだ――』

――だから、約束してくれ――

アニマギアス「ハハハ......」

再生をしながら、高笑いをあげるアニマギアスを見て、ヤマトは黒田に手渡されたガジェットを握りしめた。
一時的にとはいえ身体が分断されたという、アニマギアスが明らかにダメージを負ったいまが。
いまこそが。

ヤマト「本当に、いいんだな。黒田」

――キミがこのスイッチを押すんだ、ヤマト――

ムサシ「莫迦な、あのダメージで......」
アニマギアス「......確かに少しばかり痛かったがね」

いまは亡きかつての親友を思う。
彼は本当に世界を壊そうとした。その事実は覆らない。

――すべてに決着をつけるために――

アズナ「ビタースイーツの曲が......」
アニマギアス「......まさに児戯に等しいおままごとだよ」

だが、ほかでもないこの状況を。
ヤマトが握る希望を作り出したのも、黒田ショウマただ一人だ。
だから、弔うことを許してほしい......と、少年達にヤマトは祈る。

そうしてスイッチに手をかけながら、彼と交わした最後の言葉を、今一度思い出した。

......このスイッチを押せば、黒田のトロイは発動するだろう。
しかしそれは同時に、フォールンとの別れを意味するはずだ。
そこに悔いはないのか。
それを問い詰めたとき、彼は言ったのだ。

――最後ぐらい、僕たち大人が格好つけてもいいだろ?――

そうやって、彼は久々に笑って見せた。
その顔は、かつてアカネや自分と共にアニマギアの研究に励んでいたあの頃の
“黒田ショウマ(しんゆう)”が帰ってきたと錯覚させた。

ヤマト「......本当に、不器用な奴だよ、キミは......ッ」

信じられたのならば、今ここで自分が動かなくてどうする......!!

アニマギアス「貴様らに我が肉体、滅ぼすこと叶うと思うな」
ヤマト「――いいや、滅ぼすよ」

自分でも驚くほど、静かに。
アニマギアスの宣言を前に、ヤマトはトロイのスイッチを押して見せた。
異変はすぐに来る。
アニマギアスの体が輝き始めたのだ

アニマギアス「な、んだこの輝きは......!なんだこの声は!?」

恐らく、自らを神と嘯(うそぶ)くあの機体には、いまごろ数多の声が聞こえていることだろう。

アニマギアス「うるさい!黙れ黙れ、黙れ!!」

彼が取り込んだ、すべての皇帝機のシステムが再起動したはずだ。

アニマギアス「おい貴様!!紅葉ヤマトォ!!貴様一体、この神(ぼく)になにをしたァア!!」
ヤマト「“ピリオドバッチ”......お前が取り込んだフォールンジオギアスにショウマが持たせた、
強制ギアブラストの力!!」

かつて、ギアブラストに巻き込まれたフォールンの体内に残っていたデータをもとに、黒田が作り上げたプログラムだ。
取り込んだアニマギアの意識を強制的に呼び覚ます。
通常のアニマギアならばエネルギー不足で発動すら出来ないだろうが、
無限に等しいエネルギーを生み出すアニマギアスならばこのプログラムは文字通り永久に動き続けるだろう。

そしていまのアニマギアスの身体は、13体のアニマギアの意識が覚醒した状態での強制合体させたものに等しい。
完全なる意識の統合は、ついぞこの時代に実現することはなかった。
いま実現している二体以上のアニマギアの合体システムは、ユニコーンライギアスの失敗をもとに、
手を変え品を変え無理矢理誤魔化していたに過ぎない。
だからこそ、13体もの意識が混濁するいまのアニマギアスが抱える苦痛は、想像を絶するものになっていることだろう。

ヤマト「正気を保っていられるはずがないんだ、その身体で!!」

そして、うろたえるアニマギアスを前に呆然とするレジスタンスにも、新たな変化は訪れた。

ガオー「ま、まってくれ、なんだこれ!?」

ガオー、サクラ、ムサシ、そしてビタースイーツの身体が淡い輝きに包まれている。
サクラに至っては、ニックカウルの色まで変わっていた。

サクラ「わ、私の身体もFBSが発動してる......!」
ムサシ「これは......ギアブラストの輝きなのか......!!」

皆が纏う輝きを見たヤマトは、何が起きているのかすぐに思い至る。

ヤマト「覚醒しようとしているのか、あれが......!?」

黒田はここまで想定していたのだろうか、と思わず感心した。
ピリオドバッチがもたらす強制ギアブラストの力は、本来アニマギアス一体で完結するはずだ。
しかし神が持つ無限のエネルギーが、奇跡的に周囲へのギアブラストをもたらしているのだろう。

アニマギアス「莫迦な、ばかなばかなばかなぁ!!貴様ら旧人類ハ黙ッテ絶望シテイレババババッッババババ、バ!」
ヤマト「絶望などするものか......執念でッ!!人類が――ショウマが遺した最後の悪あがきだ!!
キョウくん、マコトくん!!」
キョウ&マコト「――はい!!」

本当に、聡い子供達だ。
すべてを伝えずとも、彼らは事前に伝えた作戦を理解し、実行に移そうとしている――。
ヴィクトリーイェーガー、そしてサウザンドグラディエイターに搭載された、最後のシステム。

――オメガリンククロスの発動を。

ヤマト「サクラ!サポートだ!!」
サクラ「了解!!」
キョウ「サクラ姉ちゃんまで!?」

キョウがわずかに動揺するのがわかった。
確かに、リンカーサクラギアのサポートを入れると決めたのは彼らが出発したあとだ。
出発ギリギリまで調整していたが、彼女のサポートによってオメガリンククロスの安定性は格段に跳ね上がるはずだった。

マコト「キョウ、集中だよ!!ムサシ、準備は!?」
ムサシ「問題!ない!!」

マコトの一言で、キョウがすぐに調子を取り戻すのがわかった。
あの冷静さが、何度もみんなを助けてきたに違いない。

キョウ「お、おう、わるかった!ガオーも大丈夫だな!!」
ガオー「いつでも来い、キョウ!!」

キョウが気合いを入れると、ガオーはそれ以上の大声で答えて見せた。その熱さが、不可能を可能に変えてきたのだろう。

サクラ「みんなの想い、私が繋げる......行くよみんな!!」

そして、最愛の娘。
サクラが戦闘用のギアへと改造してほしいと申し出てきたときは、正直言って反対だった。
しかしその反対を押し切るその勇気が、いまこの奇跡を起こしている。

冷静・情熱・勇気......交わる三つの力が、新たな希望となって顕現しようとしていた。

EPISODE DE45

――オメガリンククロス!!

彼らの叫びが、一つになる。
ヴィクトリーイェーガーを中心に、サウザンドグラディエイターとリンカーサクラギアの身体が組み変えられ、
装着されていく。
ギアブラストの輝きと共に誕生する、最後のエンペラーギア。

試作0号機・カウンターシステムのすべてを引き継ぎ、生まれ変わらせた存在。
神(ディヴァイン)の名を冠する、その者の名は――。

オメガギアス「――オメガギアス・ディヴァインエタニティ!!」

EPISODE DE45

アニマギアス「ディディディディヴァインインンン......!!」

オメガギアスDEの降臨とは対照的に、アニマギアスの身体がドロドロに溶けて膨張していく。
それはまるで、アニマギアスが生まれる際の映像を逆再生しているかのようである。
自我の崩壊と共に、一つの身体を保っていられないのだ。

アニマギアス「ユル、サン......ユルサンゾ、旧人類ドモォオオヲヲヲヲヲヲ!!!!」

しかしまだ、敵は倒れていない。
純粋なエネルギーの塊とでも言うべきアニマギアスから、新たな姿へと変革していくのがわかった。

アニマギアス「——■■■■■■■■ッ!!」

そうして、見る影も無くなっていく金色の神が、獣の如き咆吼を轟かせる。
異形と異形。
神と神。
二つの巨大な力が、いままさに激突しようとしていた。

アズナ「盛り上がってきた——ッ!!フラッペ、コラーテ!!あれ、行けるよね!」
フラッペ「“あの曲”ねアズナちゃん——」
コラーテ「——もち、いつでも歌えるよ!!」

アズナ「畳みかけるよみんな......あたし達は歌で、運命を変えてみせる!!」
ビタースイーツ「きいてください——」

——“Be The Change”!

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 44

マコト、キョウ、ムサシ、ガオーは苦戦を強いられていた。
コジロウが戦線を離脱し街の防衛へとまわったが、正直見送ったのを後悔するレベルだ。
いまは一人でも多く“ヤツ”と戦える仲間が欲しかった。

アニマギアス——マコトはその性能を甘く見積もっていたと言わざるを得ない。
ガオーことヴィクトリーイエーガー、そして相棒であるムサシことサウザンドグラディエイターは、
対エンペラーギア専用決戦型アニマギアだ。
アニマギアスがエンペラーギアの集合体である以上、付けいる隙はあると思っていたのだ。

——現に、敵の重力操作やアンチディスタンスバリアはこちらに対して機能していない。
フォールンの能力に対して設計時点で対策出来ていたこと、そしてガオーとムサシが物理攻撃主体の
戦闘スタイルであることが功を奏した形だ——。

アニマギアス「ッハハハ!!ぬるい、あまりにもッ!!」

しかし、現実はそう甘くなかった。
自己修復機能や無尽蔵のエネルギー。変幻自在に形を変えるニックカウル。
そしてそこから繰り出される攻撃。
クォンタムシステムを持ってしても予測しきれない、無限に近い分岐に脳が焼き切れそうになった。

ムサシ「こいつ相手にクォンタムシステムは無理だマコト!」

その一言と共に、ムサシはそのシステムを強制的にシャットダウンさせる。

ムサシ「俺達なら大丈夫だ、戦えている......!!」

その証拠に、アニマギアスにダメージは与えられないものの、こちらも手痛い負傷は避けている。
装甲が厚くなっているといえばそれまでだが、やはりエンペラーギアとの戦いを想定して設計されているだけに、
アニマギアスの攻撃に対する防御は完璧に近いと言って良い。
つまりは拮抗状態。

アニマギアス「しかし貴様たちは所詮ブラッドステッカーに活動を縛られた並の機体に過ぎない。
この状態が続けば、勝つのは永遠の命をもつこの神(ぼく)だ」

敵の言うとおりだ。
傷を癒やすフェニックスネオギアスの自己再生。
永遠の活動を可能とするセラフィムレイギアスの永久機関。
それらの出力を底上げするケルベロガルギアスの内燃機関。
この三つが揃ったアニマギアスは、100%の力を文字通り永遠に発揮し続ける。
夜明けまで戦い抜くほどの力を温存しながらヤツと戦うのは到底不可能に思えた。

アニマギアス「あまり長引かせるのも酷というもの......いますぐに終わらせてあげようッ!!」

敵が勝負を決めに来た、と肌で感じる。
アニマギアスはニックカウルの一部を溶解させ、
カスタマイズしたかのように複数のエンペラーギアのパーツを再現して見せた。
両腕にギガギアス。背中にネオギアス。脚部にゴウギアス。尻尾にカイギアス。
まるで合成獣(キメラ)だ。

アニマギアス「二体まとめて裁きを下す!!」

炎を纏ったギガギアスの触手がガオーとムサシを捕らえた。

ガオー「がああああああああっ!?」
ムサシ「ぬ、ぅうううううッ」
アニマギアス「貴様らの敗因は神(ぼく)を想定しなかったコト——皇帝機を超越するアニマギアスに、
対皇帝機の設計が通用すると思い上がったコトである!!」

アニマギアスの高笑いが屋上に木霊する。
身動きを封じられた二体の相棒を前に、キョウもマコトも為す術がない。

アニマギアス「我が無限の力を前に貴様らは無力!己の弱さを呪いながら神(ぼく)にひれふ......ッ!?」

アニマギアスの触手が、突如現れたアニマギアによって断ち切られる。
すぐさま再生するが、すでにガオーとムサシは拘束から逃れていた。

アニマギアス「なにやつッ!!」
???「助けに来たよ、キョウくん!マコトくん!!」

そこにいたのは甲冑のようなニックカウルに身を包む、人型のアニマギアだ。
桃色のポニーテールを模した頭部が特徴的なあの機体は、間違いない。
サクラギアだ。

キョウ「サクラ姉ちゃん!!」
マコト「その姿は!?」

以前、マコトが対峙したサクラギアの姿とは違う様子だった。
大刀を振るう、まるで女武者のような出で立ちだ。

サクラ「リンカーサクラギア——みんながこの日に向けて調整している間、私もただ黙っていたワケじゃない。
戦闘用に調整して貰ったの」

確かに、レジスタンスが各自ブリーフィングを進める中、彼女の姿はたびたび見えなくなっていたことがある。
思えば、あの時すでにサクラギアの改良が進められていたのだろう。

サクラ「もう見ているだけはイヤ......守られてばかりの私じゃない、私も戦う!!」
キョウ「助かったぜ、サクラ姉ちゃん」
マコト「本当に心強いです!」
アニマギアス「小癪な......しかし、機械の身体を持ちながら人類に与する出来損ないが増えただけだろう!
頭数が増えようと神(ぼく)の餌食が増えるだけだ!!」

フラッペ「あら、数が増えるのはすばらしいことだと思いますが」
コラーテ「オーディエンスは多いにこしたことないからね!」
マコト「ビタースイーツ!?アズナさんまで!!」

サクラに続くように、ガオー達とアニマギアスの間に割って入ったのは先ほど通信で「応援を寄越す」
と言っていたアズナ達だ。少し遅れて、紅葉博士も姿を現す。

EPISODE DE44

アニマギアス「次から次へと......ミスアズナ、優秀なキミまでこの連中と命運を共にしようというのか!?
雁首揃えたところで何も変わらないとなぜ理解できないッ!!」
アズナ「お言葉ですが会長、理解出来ていないのはあなたの方です。“何も変わらないわけがない”ですよ」
アニマギアス「なんだと......?」
アズナ「あたしは......あたし達はっ!この仲間達と運命を変えられるって、本気で信じているんです!!」

アズナが指を鳴らすと、再び周囲にドローンが展開される。
ドローンにはそれぞれスピーカーと、色とりどりの照明が搭載されていた。

アズナ「ミュージック・スタート!!」

彼女のかけ声と共に、軽快な音楽が戦場に鳴り響く。
何度かテレビ越しに聞いたことがある。
聞き間違えるはずがない、これはビタースイーツのヒットナンバーのイントロだ。

アニマギアス「耳障りな......!!」
マコト「これは......ら、ライブ会場......みたいな......」
アズナ「その通り、さっすがマコトくん察しがいいね!到着したところすぐで悪いけど、始めるよフラッペ、コラーテ!」
ビタースイーツ「オッケー!!」

そして二体のアニマギアが歌い出す。
異変はすぐに相棒達が察知した。

ガオー「なんだ!?フラッペとコラーテの歌を聴いてると......!!」
ムサシ「力が、みなぎってくる!!」
アニマギアス「身体が重くなっていく......なんだこれは......っ」

アズナ「これがビタースイーツのアビリティ『トッピングボイス』!!」

ラビドルシリーズに隠された戦場を支配するほどの能力。
ラビドルフラペールの歌声は対象のアニマギアの出力を向上させ、
ラビドルショコラーテの歌声はその他のアニマギアの出力を低下させるという支援能力だ。

キョウ「すげえ、ホントだったんだ......!」
マコト「うん、作戦会議のときは半信半疑だったけど......!」

彼女達の歌声に乗せられるように、ムサシとガオーは攻撃を仕掛ける。
二人の斬撃がアニマギアスに命中したあと、その変化は人間であるマコト達にもはっきりとわかった。
なぜなら。

アニマギアス「再生が遅くなっているだと......!?」

敵の言うとおりだ。
傷つけられたアニマギアスのボディは、いままで通り再生を始めている。
しかしいままでは肉眼でとらえることが出来ないほど瞬時の修復だったが、
ビタースイーツのライブが始まってからは確かにマコト達の目にもはっきりと見えるほどの速度まで落ち着いている。

キョウ「これなら畳みかけられるッ!ガオー、右腕に力を集中させろ!!」
ガオー「わかったぜキョウ!うおおおおおおおおッ!!」

キョウの指示に呼応したガオーの右腕に電気の奔流が迸る。
次いで轟くのは雷鳴だ。

アニマギアス「ッ!?その輝き......まさか我がライギアスの!!」

三本の大きな爪を有するガオーの右腕が青く強い輝きを宿している。
それを見たマコトの反応は素早い。

マコト「ムサシ、戦闘モードに移行してガオーのサポートをして!!」
ムサシ「了解ッ」

すぐさま相棒に支援の指示を出す。
ブリーフィングでキョウと何度もシミュレーションを重ねた技が来ると分かったのだ。
直後、ガオーがブースターを噴かせて複雑な軌道を描きながらアニマギアスへと突っ込んで見せた。
無論、敵は迎撃の構えを取る。
アニマギアスが今度は両腕をデスギアスのモノに変化させた。

アニマギアス「ふざけるのも大概に——」
ムサシ「——させるかッ」

アニマギアスの腕をムサシの剣が止める。
その隙を突いたガオーが瞬時に背後へと回り込んだ。

キョウ「ライトニング!!」
ガオー「ブレイカァアアアアアッ!!!」

ライトニングブレイカー。
エンペラーギア・ユニコーンライギアスのシステムを応用したヴィクトリーイエーガーの攻撃。
雷を纏った三本の爪が敵へと亜音速で斬りかかった。
アニマギアスを完璧に捉えている。

アニマギアスが一言も発さぬまま両断されていた。
敵の上半身と下半身が、それぞれ音もなく屋上の床へと落下する。

長い、長い沈黙だった。
マコトが喉をならし、キョウの額に滲んだ汗が顎から滴り落ちる。
そして、静寂の末に勝負が決したと、この場にいる誰もが確信したその時だ。
この場で唯一、その確信が誤っていることを知る者の声が重い沈黙を斬り裂いた。

アニマギアス「——————ハハハ」

気が付けば、先ほど両断したアニマギアスのボディから電磁フィールドが展開されていた。
そして互いのパーツが引かれ合い勢いよく衝突する。即ち、あれはルインシステムの輝きだ。

ムサシ「莫迦な、あのダメージで機能を停止していないのか!?」
アニマギアス「ああ、停止していないとも......確かに少しばかり痛かったがね」

みるみるうちに、アニマギアスの身体が再生してみせる。
溶解と接合を繰り返すその様は、有機物の細胞そのものだ。
マコト達がおおよそ想像しうる、機械という概念を超えた奇跡を見せられているようだった。

アズナ「ビタースイーツの曲が効いてないの!?」
アニマギアス「低下した出力など、内燃機関でいくらでも補える。まさに児戯に等しいおままごとだよ、その歌は」

そして完全にアニマギアスの身体が復活する。
敵の体には傷一つ残っていない。

アニマギアス「神(ぼく)を侮ったな虫けら共......貴様らに我が肉体、滅ぼすこと叶うと思うな」

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 43

ギアティクス社の正面玄関は大きなガラス張りになっており、二重になった自動ドアが四対(つい)も並ぶ。
そこから覗ける中には何枚かのモニターが設置されていた。
日中はAIを搭載した受付アバターが来訪者を迎えているが、いまは電源が落とされ画面ごと沈黙している。

その玄関前、業者搬入出用の駐車場へと続くロータリーの脇で座り込む、白いロングコートに身を包んだ青年の影がある。
晄タスクだ。
先刻、弟である晄マコトとのギアバトルに敗北した彼は、
自分の指示で負荷をかけ過ぎた
相棒・トランスマンティレイドの動かなくなった身体を前に動けなくなっていた。

この街はいま、アクターとアニマギア達の戦場へと変わっている。
マコト達がフォックスロアー=ナンバーライト——アニマギアスと戦い始めたのも、中継を通して知っていた。
その最中で、ギアティクス社の玄関前は耳鳴りがしそうな静けさを保ち続けている。

それ故に、タスクの頭は思考で埋め尽くされていた。
負けるはずのない相手(マコト)に負けたことで、自分が想像する以上に動揺していたのだ。

言葉を選ばずに表現すれば、弟は自分よりも格下だと思っていたからだ。
ただ勝つためだけに、自己研鑽を続けてきたタスク。
対照的に、つい数ヶ月前にギアバトルを始めたマコト。
経験の差は歴然だった。
一度手合わせした段階で、彼の限界も見極めたはずだった。

しかし、タスクは負けた。
ムサシが見たことのない機軸のシステムを採用した、新たな機体へとパワーアップしたことが敗因だったのか......
そう問われれば、タスクは首を横に振らざるを得ない。
レイドランスも十全な性能を有していると自負していたのである。

なにせ、レイドランスはIAAのラボでタスクが一から設計した機体だ。
そして自分の求めるスペックを実現できるようにギリギリまで調整を重ね、FBSの一部を搭載するコトでエンペラーギアにも引けを取らない優秀なアニマギアとして開発された——それが、トランスマンティレイドという存在だ。
ゆえに、サウザンドグラディエイターとの性能差で負けたとは思えなかった。

ならばなぜ。
答えは簡単だ。
結局の所、最初に手合わせしてから敗北に至るまで、タスクはマコトの可能性を見誤り続けたのだ。
相手は守るための戦いしか出来ないと決めつけていた。
その場しのぎの、戦いそのものから逃げ続ける戦い方に苛つきもした。
しかし、先の戦いではそのスタイルそのものを次の次元へと昇華させていたのだ。
守るために守る戦いから、守るために攻める戦いへと。
その結果、弟は非凡な才能であるギアブラストを発現させ、タスクとレイドランスを完膚なきまでに叩きのめした。

タスク「......」

——兄さんが一人で戦ってると勘違いしていたから、ボクなんかに負けるんだ。
弟の悲鳴のような糾弾が、いつまでも耳にこびりついている。

......俺は、戦うのは自分だけでいいと思っていた。

最初は、純粋な気持ちで競技としてのギアバトルを楽しんでいたように思う。
そこから外れて、自分が強くなりたいと思ったのは弟(かぞく)を守るためだ。
マコトと同じように、何かを守るために鍛錬を続けていたはずだ。

理由(それ)はなぜだ。なぜ、守るための鍛錬を始めたのか。

自分がギアバトル大会で名を上げ始めた頃、世間ではアニマギアを使った犯罪が増え始めていた。
何度か巻き込まれた経験もあった。
あの頃に活躍していたランカーとその相棒は、なにかとトラブルに巻き込まれがちだった。
同じ大会で活躍していた自分より歳下の少年のアニマギアが、
何者かにさらわれた事件が世間を賑わせたこともある——確か、飛騨とかいう少年だ。

それが、タスクにとって決定的な事件となった。

自分達と僅かしか年齢が変わらない少年が事件に巻き込まれた、というニュースを聞いてから、タスクの意識は変わった。
ギアバトルで負ける、ということの意味があまりにも重くなっていたのである。
競技シーンでの強さはもう必要なかった。

だから、かつての晄タスクは相棒だったはずのムラマサを捨てた。
弱さはいらない。自分の戦いについてこられないアニマギアなどと思わない。
“相棒”から“守るべき対象”に変わった瞬間だった。

マコトも、ムラマサも、家族も、友人も。
なにもかもを捨ててきた。
守るべき対象が近くにいれば、必ず自分の戦いにそれらを巻き込むことになる。

ならば、戦うのは自分だけで良い。

強く在れ。強く在れ。強く在れ。
強くなければ、悪意と戦い続けることなど到底叶うはずもない。

強く在れ。強く在れ。強く在れ。
誰かが戦い、傷つき、立ち上がれば、その芽を摘み取りに悪意は必ずやって来る。

ならばその業は、自分だけが背負えば良い。
だからただ、ひたすらに。

強く在れ。

まるで呪いのように、その言葉が自分の足を前へと進ませた。
そうして相棒を捨てたタスクの前に現れたのはIAAだった。
実力を見込んだ者達がスカウトしに来たというわけだ。

最初は強くなるために組織に属した。
最新設備、訓練相手、情報、すべてに事欠かない、アニマギアのすべてを司る中央組織。
そこに身を投じることは理に適っていたから。

だが、IAAのトップがあのフォックスロアー=ナンバーライトへと変わったことで、組織の質そのものも変わってしまった。
そしてタスクは、IAAの実体がフォックスロアーによって悪意に染まってしまったことにも、いち早く気が付くことになる。
運良くというべきか、これも業が運んだ因縁か。
そのときからIAAは強くなるための手段から、倒すべき目標へと変質した。

強く在れ。
呪いが怖気を勇気へと変えていく。
もう止められないし、止まるつもりもなかった。
フォックスロアーを倒し、この世から悪意を消し去るためならば自分の身など惜しくない。
どうにでもなれ。
なぜ自分が一人になったのか。
なぜ自分は強くなったのか。

その理由がIAAにあるのならば、喜んでこの身を呪いに捧げよう。

タスク「——そう、思っていたはずなのに」

......ムラマサ。
姿を変えて、再び自分の前に現れたかつての相棒。
それと確かな絆を結んだ弟。
守るために遠ざけてきた自分を、彼らが否定した。

もう、戦えない。

マコトに負けた、その瞬間から。
頭の奥で響き続けていた“強く在れ”という妄執の声が聞こえなくなっていた。
自分の価値観を、存在理由を。
他の誰でもない守るべき対象だった彼らに打ち壊されたのだ。

気が付けば、周りに誰もいなくなっていたタスクに、
マコトはあろうことか「一人で戦っているつもり」と投げかけてきた。
事実、一人で戦っていたはずだったのに。
彼は、タスクが一人ではないと言ってのけた。
一人になった“つもり”だと、数年間抱えていた覚悟を一蹴したのだ。

タスク「とんだ道化だな、俺は」

言われてみれば当たり前のことだ。
ギアバトルはアニマギアが戦う。人間が戦うわけじゃない。
その時点で、自分は決して一人になどなれるはずもなかった。
そんな簡単な事に、弟に指摘されるまで気付くことが出来なかった自分が、ひどく情けなく思える。

タスク「......レイド、ランス」

勝つために酷使した、いまの相棒は動けない。
FBSの連続使用でニックカウルにかけた負担が大きすぎた。
ブラッドステッカーはボロボロになり、最低限起動するだけのエネルギーすら確保出来ない状態だ。

戦場となったこの世界で、タスクは独り取り残されている。
唯一の存在理由だった戦いを失ったからだ。
だから、こうして思慮に耽ることしかできずに立ち尽くすしかなかった。

そんな折だ。
街の向こうから、けたたましいエンジン音を響かせる何かが来る。
深緑の角張ったボディに、四つの車輪。カスタムされたジープのピックアップトラックだ。
後部は貨物を積むためのスペースがあり、八つも搭載されたライトが夜道を目映いばかりに照らし出す。
ライトが妨げになってよく見ることが出来ないが、なんと荷台には生身の人間が二人も乗っているようだ。

それが、ギアティクス社に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。
アクセルを緩める気配はない。
運転席には見覚えのある人物。かつての同僚、アズナ=オウガスト=キリエがハンドルを握っている。
社屋に近付くにつれ、彼女と荷台に乗った人物達は姿勢を極限まで低くした。

タスク「な......ッ」

タスクは思わず身構える。
おぞましい光景を想像したからだ。
そしてそれは現実となる。
ガラスをぶち破る音が、静けさを完膚なきまでに掻き消した。

ギアティクス社の正面玄関に車が突っ込んだのである。
ロビーの壁に衝突するギリギリで車が静止すると、運転席にいたアズナと、
荷台に乗っていた二人の人物——紅葉ヤマト博士と紅葉サクラだった——が慌ててトラックから飛び出す。
そのまま、タスクに気が付くことなく社内の奥へと消えていった。

理由はすぐにわかった。
トラックが通った軌跡をなぞるように、複数のアニマギアが現れたからだ。
少なく見積もっても二〇体はいる。
そしてその全てが、一体の巨大なアクターに立ち向かっていた。
青いボーンフレームに白いニックカウルで構成された、飛行型のアクターだ。
足はなく、大仰な四本の腕を持つ規格外のアクターがこちらへと突き進む。
恐らくアズナ達を追っているのだろう。アニマギア達はそれを堰き止めているのだ。

絶対に彼女達のもとへは向かわせない、という鉄の意志を感じる。

すべてのアニマギアが、守るべき者のために戦っていた。
彼らが勝てる見込みは、ハッキリ言って絶望的だと思った。
数で勝っていても、一目であのアクターが異常だと分かったからだ。
恐らくエンペラーギア並の性能を有しているはずだと、タスクの長年の勘が告げている。

なのになぜ戦うのか。
それは問わずともタスク自身が答えを知っているはずだ。
結局の所、自分達は戦わなければ大切なモノを失ってしまう。
不器用だと、野蛮だと謗(そし)られようとも、悪意が容赦ない暴力でかけがえのないものを奪おうとする以上、
自分の手を汚さねばならない時が必ず来る。

いまが、その時だ。

タスク「......立ち上がろうとしているのか、俺は」

無意識によぎった自分の考えに驚きを隠せない。
自分の手の平で横たわるレイドランス。
戦う手段など残されていなかったし、なにより自分のせいで傷ついた彼をまた戦場に送り出そうとしている、
自分の業に吐き気すら覚える。
マコトに負けたあとも、戦いから抜け出そうとしていない。

だが。

タスク「抜け出す必要は、ないのか」

彼は思い至る。
他を徹底的に排除し、一人で戦ういままでの自分の想いとは正反対のものを抱えていることに。
自分は今、アクターと戦う多くのアニマギアに“加勢”したいと、そう感じている。
熱が、胸の内で渦巻いている。

タスク「......あれは」

その時だ。
視界の隅にうつっていた、青いニックカウルに意識を向けた。
それは、マコトの相棒がサウザンドグラディエイターに換装した際に外れた、
デュアライズカブトダッシュのニックカウルだった。
無傷とはいえないが、そこに貼られたブラッドステッカーは確かにまだ息づいている。

タスク「許して、くれ......ッ」

いてもたってもいられなかった。
タスクの手は迷いなくデュアライズカブトダッシュのパーツを手にし、
損傷が激しいレイドランスのパーツと入れ替えていく。

ダメだ。
ここで戦いを放棄するなんてマネ、出来るはずがない。
自分はどうしようもない人間だ。
戦うことでしか存在を確立できない、愚かな男だ。

タスク「許してくれ......!!」

だが今までとは違う。
これから戦おうとする自分の意志は、さきほどまで呪いにとらわれていた晄タスクとはまるで異なるのだ。
それを証明するために。
守れる命を守り通すために。
胸を張って、あのマコトの兄であることを誇れる自分でいるために。
そして、かつて捨ててしまった、あの相棒(ムラマサ)に報いるために。

タスク「——もう一度力を貸してくれ、レイドランス!!」

カスタマイズの最中だった。
いくつかのパーツを付け終わったとき、レイドランスの目に光が宿る。

レイドランス「——承知いたしました、マスター」

いつのまにか、再起動が完了していた。

EPISODE DE43

タスク「レイドランス......俺は......」
レイドランス「......意識を失っている間、夢を見ていたような気がします」

相棒はタスクの手の平に立ち上がって、言葉を紡いだ。

レイドランス「マスターの声が、ずっと聞こえていたのです。貴方がずっと抱えていた想いが、聞こえてきたのです」
タスク「......俺の、声が」
レイドランス「迷わないで下さい、マスター。ワタクシは貴方と一心同体。いままでも、そしてこれからも」

ありがとう、の言葉をタスクは飲み込んだ。
その代わりに、タスクもその場で力強く立ち上がる。
礼を言うにはまだ早い。
相棒の想いに応えてからでも遅くはないはずだ。

タスク「......オーダーだ、レイドランス。あのアニマギア達と力を合わせてアクターを止めるぞッ!!」
レイドランス「イエス、マスター!!」

タスクとレイドランスは走り出す。
いまこそ、本当の意味で守るために自分は力を振るうのだ。

......見ていてくれ。

その誓いは、マコトに向けられたものであると同時に。
今は亡きかつての相棒へと向けられたものだった。

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 42

ドラギアスゼノフレイムが、戦場と化した街を横切るように飛んで征く。
鳴り響く戦闘音とは裏腹に、街の空気から受ける印象は静寂だった。
おびただしい数のアクターは人間を探すように徘徊し、そのアクターと抗戦する街のアニマギア達。
そこに、人間が発する悲鳴や怒号がない。

理由は単純明快だ。
ビィギアスとガルギアスの協力のもと、コジロウが情報を持ち帰って拡散してくれたからである。
事前にアクター達の襲撃があるとわかっていれば、先んじて住民の避難を始めることに苦労はなかった。
いまでは実に90%以上の避難が完了している。

残りの住民も、警察機関とABFの協力により速やかに安全圏へと送られることだろう。
もしかしたら、共にアクター達と戦っている者もいるのかもしれない。
ドラギアス「――見事なものだな」

街中に配備されていたペンギオスの誘導が素晴らしかったのはもちろんだが、なにより人々の意識が以前とはまるで違う。
避難場所、移動経路、緊急連絡網、持ち出し用の非常食や水、エトセトラ。
かつてのマギア計画という大難を乗り越えた彼らは、今後なにかあったときのための備えを怠っていなかった。
こちらとしても守るに容易(たやす)く、きたる敵への対応に集中できるというものだ。
安心して槍を振るうことが出来る。

ドラギアス「ッ!デルタ部隊長ドラギアスゼノフレイムから全隊に通達!護衛対象を目視した、これより接近する!
デルタ部隊はM2地区からギアティクス社までのアクター排除にあたれ!道を拓くのだ!!」
通信機『了解!!』

ビーストモードへと変形していたドラギアスは、周囲の敵を仲間と共に押しのけると、走行中のジープへと近付いた。
運転席に座っているのは、先ほどこちらに護衛の依頼を寄越してきたアズナ=オウガスト=キリエだ。
どうやら全速力でギアティクス社に向かっていたが、アクターの数が多すぎてまともに進めなくなってしまったらしい。

ドラギアス「待たせたな!前方の敵は我が部隊が退けている、このまま進むぞ!!」
アズナ「ナイス“ドラち”!いつもフラッペがお世話になってますっ」
ドラギアス「気安いぞキリエ、その呼び方はやめろと何度言ったらわかるッ!!」

普段はしかめっ面でビジネスライクな対応をしがちなアズナという女性だが、オフモードの彼女が放つ陽気さは、どこか天草キョウに似ているようにも思える。
要は苦手なタイプだ。

アズナ「カタッ苦しいこと言っちゃだめだめ、ウチの子たちのオトモダチはあだ名で呼ぶって相場が決まってるんだから」
ドラギアス「知ったことかッ」
アズナ「それじゃーナイトくんのドラちも来たことだし、改めて飛ばすからね!
しっかり掴まっててよ紅葉博士!サクラちゃん!」

荷台に乗った紅葉親子が頷くと、運転席のアズナがアクセルを強く踏み込んだ。
話は終わっていない、という言葉を吐き出す前に火竜は飲み下して、併走するように飛行速度を上げる。
言うだけ無駄な相手なのは重々承知だった。

フラッペ「よろしくお願いしますね、ドラギアス様」
ドラギアス「......人間と非戦闘用アニマギアの保護はABFである我にとって当然の義務だ」

そう、当然の義務ならば完璧に全(まっと)うせねばなるまい。

コラーテ「危ない!」

防衛ラインから漏れ出てきたアクターが、アズナ達を見るや否や飛びかかってくる。
時速80kmはくだらなかったが、そんなことはおかまいなしだ。
カスタマイズされたアクターはこのスピードに難なくついてきてみせる。
ドラギアス「なるほど確かに素晴らしい速度だ!だがそれだけでこの天命、奪えると思うな!!
インスティンクトオーバーライド・アウェイクニング!!」

瞬時に、ビーストモードからノーマルモードへと変形を完了する。
人々を守るために生まれ変わったこの体を、いまこそ力の限り使うときだ。
誰かに与えられた使命ではない、自分だけのその信念を、この槍とともに。

ドラギアス「貫くッ!!」

宣言通り、ドラギアスの槍がアクターの弱点である頭部を破壊する。貫いた敵にかける言葉もなく、槍を振り払った。
敵の残骸が車の後方へと消えていく。

ヤマト「あざやかな槍捌き、見事だよドラギアス」
ドラギアス「フン、まだまだこんなものではないが――待て、止まれキリエ!!」
アズナ「ッッ!!」

車の前方に、いつのまにか現れていた影がある。
黒色のニックカウルで全身を包まれた、アクターと呼ぶにはあまりにも巨大な人型の機体。
それらが、宙空で静止しながらこちらを見つめていた。
その数、実に三体。

通信機『隊長!!先ほど巨大なアクターが三体、防衛ラインを突破しました!!警戒願います!!』
ドラギアス「――報告が遅い。すでに接敵済みだ、バカモノ」
アズナ「......なに、あのでっかいの......」

見ただけで伝わる威圧感。
明らかにほかのアクターとは違う。

あの、うねるように組まれた膨大な数の赤きボーンフレームはなんだ?

あの、重なり合う無数の甲虫のような漆黒のニックカウルはなんだ?
あれらを制御するシステムだけで想像を絶する代物だろう。

そして、随所に使われているクリアのニックカウル。
あれはおそらくセラフィムレイギアスと同じものだろう。
あの巨体を動かすエネルギーを、ブラッドステッカーだけではなくあのパーツから補っているようだった。

一目で異形、異常、異端だと理解する。

ドラギアスは試しに攻撃を試みるが、いなすように槍を躱されてしまった。
そのまま三体のアクターは巧みにこちらを取り囲もうと動いて見せる。急いでジープの元へと離脱する。

ドラギアス「一筋縄ではいかないか......!」
サクラ「ドラギアス!!後ろからも来てる!!」

言われて振り返れば、先ほどまで相手をしていたような通常のアクターが、群れをなして後方から近づいてくる。

ドラギアス「まったく、次から次へと......!」

前門の虎、後門の狼。
まさしく四面楚歌というやつだ。

ドラギアス「デルタ部隊より全隊へ、現在正体不明の巨大アクターを初めとした敵の増援に囲まれている。
至急救援を求む」
通信機『了解!なんとか持ちこたえてください、隊長!!」

さしものドラギアスでも、単機でこの状況を打破する手立ては思い浮かばない。
通常のアクターの群れであれば、多少の苦労はあろうが逃げおおせる自信はあった、が。

ドラギアス「問題はあの黒いアクター共だ」

妙にこなれた連携をする三体の黒い敵をどうにかしなければ、アズナ達共々ここで終わる。
ABFの到着が先か、こちらが倒れるのが先か。

ドラギアス「命を賭した根比べか、おもしろ――」

――い、と言い終わる前に、ひとつの叫びが声をかき消した。

少年の声「ヴァリアブルエクサバスタ――――ァ!!」

直後、ジープの後方から一閃の光が夜の街を疾走(はし)った。
その光は迫るアクターの群れをまとめて薙ぎ払い、黒いアクターを二体、あっという間に破壊してみせる。

女性の声「ぎりっ、ぎりっ、せーーーーーーーふ!!」

アクターの群れのさらに奥から、今度は二人乗りのバイクが突っ込んできた。
そのバイクは、横滑りしながらジープの隣に停まってみせる。
搭乗者の二人がヘルメットをとると、そこには見覚えのある少年の顔があった。
ライダースーツに身を包んだ女性にも覚えがある。
ただ、この場にいるのが信じられなくて、思わず声を張り上げた。

ドラギアス「飛騨ソウヤだと!?」
サクラ「コノエさん!!」

彼らは二人して海外出張中のはずだ。
その出張ももとはIAAの要請であり、結局はフォックスロアーが国内の戦力を削ぐための厄介払いだったのだが。

ソウヤ「アズナさんから連絡があってね、緊急帰国したんだよ」
コノエ「深夜着の便で数時間前に空港ついたところだったんだけど、
ちょうどコジロウの中継が流れててもーーー大慌て!!荷物預けてここまで飛ばしてきちゃった!!
危ないとこだったね!」

彼らがバイクを降りると、傍らから数体のアニマギアが周囲の敵めがけて次々と飛び出していく。

ソウヤ「ナイス照準アシストだったよヴォルガ」
ヴォルガ「いえいえ、みなさまの力あってこそです。では、引き続き対処して参ります」

索敵と情報戦ののエキスパート、ブレイドヴォルガ。

ジラファイア「でももー僕限界。この技やっぱり二回は撃てないよ......ま、あとはフツーに戦うだけか。
それじゃ、いってきまぁす!」

伝説の兵装アニマギア、ギガンティックジラファイア。

ギガトプス「ヴァリアブルエクサバスターは一回で十分!残る大物はあと一体ですし、
群れも協力して戦えば問題ありません!いざ出陣、であります!」」

知識に長けた重量級アニマギア、タンカーギガトプス。

ラプト「向こうでは退屈してたからな、久々に大暴れさせてもらうぜ!!」

遠距離砲撃のスペシャリスト、バスターギガラプト。
その誰もが、現役最強と名高い飛騨ソウヤのパートナーを務めてきた錚々(そうそう)たるメンツだ。
そして、このアニマギア達を束ねるリーダーこそが。

レオス「久しぶりだね、ドラギアス。調子はどう?」

純戦闘用に調整された、第二世代アニマギア筆頭、ガレオストライカーオニキスリベンジ......もといレオスだ。
ドラギアスとも因縁の深い機体だが、今では顔を合わせれば互いに言葉を交えるくらいには関係が回復している。

ドラギアス「まずまずと言ったところだ。貴様の顔を見てテンションは下がったがな」
レオス「相変わらず手厳しいね。でも、友達のピンチに駆けつけられてなによりだよ」

それじゃ、行こうか。
レオスが残された大物に向かって迷いなく突進する。
タイミングを合わせて、ドラギアスも続いた。

ドラギアス「......よく来てくれた」
レオス「キミが素直になるなんて、槍でも降るんじゃない?」
ドラギアス「ッハハハ!ならば降らせてみせよう無数の槍撃(そうげき)!!貴様についてこれるかレオス!!」
レオス「ああ、楽しみにしてる......やろう、ドラギアス!!」

そうして、レオスとの共闘が始まる。
かつての敵同士が手を取り合い、共通の壁をぶち破らんと刃を抜いた。

ドラギアス「道は押し広げる、キリエ!!貴様はいまいちど全力で踏めッ!!
踏んだなら緩めるな!!我と盟友、そして仲間が必ずや無事にギアティクス社へと送り届けようぞ!!」

EPISODE DE42

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 41

キョウ「アニマギアス......全てのエンペラーギアを取り込んだ、新たな機体......!?」
ムサシ「とてつもない気迫だ、うかつに近付くなと俺の本能が言っている......ッ」
ガオー「神だかなんだか知らねえが、一体なにをするつもりだ!!」
マコト「プロジェクト・ギアジェネシス——いくらボクでも、ろくでもない計画だっていうことだけは分かるよ」

神(じぶん)の降臨に狼狽えた者達の、警戒心に満ちた視線が突き刺さってくる。
しかしいまはそれすら心地良い、とアニマギアスは慈愛の眼差しを返した。

アニマギアス「ろくでもない計画とはとんでもない。キミ達に全貌を聞かせて理解して貰えるとは到底思わないが......
ここで説明しておくのも一興だろう」

冥土の土産というヤツだ。
命が散る前に、せめてもの手向けを施そう。と、アニマギアスは口を開いた。

——プロジェクト・ギアジェネシス。
元は黒田ショウマの「生命が死を克服する」という願望から生まれたマギア計画をベースにしたものだ。
人体と有機的に融合可能なエンペラーギアであるオリジンイデアギアスを大量に解き放つことで、
永遠の生命をも“量産”しようとした。
それはあくまでアニマギアを道具としてしか捉えない、黒田ショウマだからこそ実行に踏み切った計画だといえる。

ホモサピエンスとアニマギアの関係に、当時のフォックロアー=ナンバーライトは疑問を抱かなかった。
使う者、使われる者。
機械(じぶんたち)が人間に生み出された以上、それは覆しようのない事実だと受け入れていた。

アニマギアス「だが、人類(きみたち)はそれを拒んだ」

絆の結束、想いの力。
あまりに非科学的ではあるが、確かに人類はそれらを用いてマギア計画を否定した。
永遠の命というものに価値を見出そうともせず、既存社会の在り方を揺るがす計画をテロリズムだと決めつけ、
頑なに受け入れようとしなかったのだ。
新しい秩序を拒み、古い秩序を良しとする。

アニマギアス「それで神(ぼく)は考えたのだよ。完全な世界を目指すのであれば、
不完全たる要素を切除するしかない、とね」

人間が不完全であるならば、それを取り除けば良い。

アニマギアス「そもそも、だ。考えてみたまえ、我々アニマギアはいまやAIで己の意思を持ち、
技術の発展によってあらゆる作業をこなすことが出来る......そう、“アニマギアによるアニマギアの制作”すらね」

アニマギアがアニマギアを生む。
それは動植物が自分の種を残すライフサイクルとなんら変わりは無い、まさに新たな生命の形といえる。

加えて、ブラッドステッカーさえあれば食事や排泄、睡眠の必要すらない。
メンテナンスが必要とあらば、他のアニマギアがそれを行うだろう。
セラフィムレイギアスの機能を応用すれば、
いずれブラッドステッカーの恩恵すら受けずに永久的な活動さえ可能なのだ。

アニマギアス「黒田ショウマはとんだ愚か者だよ。目の前に既に存在している“完全な生命(アニマギア)”という可能性から目を背け、あくまで不完全な人間を別の形へと昇華することしか考えていなかったのだから」

極めて非効率だ、とアニマギアスは続ける。

アニマギアス「次のこの惑星(ほし)の支配者は、我々アニマギアこそ相応しい......ッ。
そのために神(ぼく)はIAAのトップにまで上り詰め!ギアティクス社をも手中に収めた!!」

アニマギアスが杖を高く突き上げる。
すると、それに呼応するようにギアティクス社のビルから、
おびただしい数の“何か”が飛び立っていく。
あれは。

マコト「......アクター、なのか......!?」
アニマギアス「ザッツライト」

それは、かつてのマギア計画の再現に近しい。
あの時の黒田は大量生産したイデアギアスを街に送り出したが、
アニマギアスはその代わりに大量にカスタマイズしたアクター達を野に放った。
イデアギアス達は「人間に取り憑き、融合する」などといった複雑な命令をこなすために、
サーバーを通じたコマンドで単一的に操る必要があった。

アニマギアス「だがアクターは違う......!」」

事前にプログラミングした「旧人類の命を奪う」という至極単純な命令に従えば良い。
サーバーの破壊やハッキングによる停止命令に怯えることなく破壊活動が可能なのだ。
奴らがこの騒動を止めるには、確実に各個撃破しなければならない。

キョウ「そんな......あんな量、レジスタンス全員揃っても止められるハズないじゃないか!」

彼らの絶望が伝わってくる。
当たり前だ、自分だって向こうの陣営なら匙を投げるところだ。
この場に至るまで、ロストナンバーズ以外の誰一人として計画を知るものはいなかった。
アニマギアス——フォックスロアー=ナンバーライトは常に一人で戦ってきた。

その甲斐あって、この状況まで持ってこられた。

この計画最大の強みはその“秘匿性”にある。 計画が明るみに出るとき、それは即ち勝利が確定するときだと決めていた。 誰も知り得ない計画は、誰にも止められようがないのだ。

アニマギアス「だからチェックメイトなのだよ、ミスターキョウ!」

そして、こうして会話を続けているいまもなお、大量のアクター達は絶えず出撃していく。

ムサシ「まずい、速くヤツを止めねば......」
アニマギアス「仮に神(ぼく)を止めたところで無駄だと分からないのか?
アクター達はもう目的遂行のために動き出したのだ!それらを止める手段など、レジスタンスに残されているものか!!」

マコト「そんな......」
アニマギアス「さぁ、新人類誕生の宴だ——」

声高らかに宣言する。
絆に縛られた旧き混沌社会の敗北を。
新人類(アニマギア)の勝利を。
旧人類(にんげん)の絶滅を。
システムで管理された完全なる秩序の創世を。

アニマギアス「——旧人類(にんげん)には潔くここで滅びて貰うとしよう!!
案ずるな、我が軍勢は苦しませることなくキミ達の命を奪ってみせ........................な、に?」

異変に気付いたのは、その時だった。
眼下に広がる街が、深夜という時間帯の割にやけに騒がしい。
ベッドタウンに隣接したオフィス街であって、この街は繁華街ではない。
“夜は眠る”街のはずだ。
無論、アクター達が暴れれば相応の混乱と光がもたらされただろう。
しかしアクター達が旧人類達を襲うには、まだ時間の経過が足りない。

だというのに、建物の殆どに明かりが灯っている。

アニマギアス「街が、明るすぎる......!!」

その答えはすぐに来た。
ギアティクス社、屋上の下側からだ。
この場を取り囲むように、複数台のドローンが飛び上がってきた。
その一台の上に、見覚えのあるアニマギアが一体乗っている。
あれは確か、先ほどビィギアスとガルギアスを回収しにいったときに見逃した——。

???「いまのアンタのありがたぁいご高説、しっかり中継させてもらったっしょ!!」
ガオー「コジロウじゃねえか!?」

——デュアライズギラフォルテがそこにいた。

アニマギアス「中継、だと......?そんな馬鹿な、神(ぼく)の計画は誰も知る由がない!
事前に準備していなければ、こんなドローンなど用意出来るはずが」
コジロウ「知る由もない、ねぇ。アンタ、ちょっと俺たちの仲間を見くびりすぎじゃないか」

コジロウは語る。
バンクルビィギアスに搭載されていた、疑似ギアブラストの機能についてだ。
あのエンペラーギアをオーディンラグナギアスが取り込んだ瞬間、
ビィギアスがコジロウに回線を繋げ、計画を流出させていたのだ、と。

アニマギアス「疑似ギアブラストだと......!?
馬鹿な、黒田の設計図にはそんな機能、組み込まれていなかったぞ!」

コジロウ「そらそうっしょ。黒田の野郎がキョウとガオーにヒントを得て設計し直した、
カタログスペックにないビィギアスの新機能だ。
ああ、まぁ一人で戦ってたとかうそぶいていたアンタが“知る由もない”よなァ......!!」

アニマギアス「旧人類側のゴミが、小癪な真似を......!」
コジロウ「キョウ、マコト、ガオー、ムサシ!コイツを見な!!」

コジロウがレジスタンスの名を呼ぶ。
すると、ドローンの一体が空中に映像の投影を始めた。
そこには、かつて自分の秘書を務めていた女性が映し出されている。
すなわち、アズナ=オウガスト=キリエの姿が。

アズナ『みんな!忙しいから単刀直入に用件だけ伝えるね!
コジロウくんが持ち帰った情報といまの中継でレジスタンスの指名手配が解除されたよ!!』
マコト「アズナ、さん......!」
アズナ『逃亡生活、よく頑張ったねマコトくん、キョウくん!
いま、この街中のアニマギア達が暴走アクター達を止めるために動き出してる!』

その言葉を裏付ける音がすぐに来た。
街中から音が響き始めたのだ。
銃撃音。剣戟音。爆発音。破壊音。
まるでオーケストラのように、様々な音が生まれては消えていく。
それは一方的な殺戮ではない、対等な戦いの始まりを意味していた。

アズナ『ギアティクス社も、IAAも、レジスタンスも、ABFもランカーも警察も一般人も関係ない!
みんながチカラを貸してくれるって!!いま、そっちに応援も向かっているから!』

だから、それまでみんなの声を聞いて頑張って。
アズナの一言を皮切りに、映像が『SOUND ONLY』の表示に切り替わる。
代わりに聞こえてきたのは、おそらく街中で戦うアニマギア達の声だ。

ペンギオス達『この街はオレ達が守る!!おいしいところは譲るってやるヨ!!』
ヴラド『我が剣の前に敵はなし。子供達よ、期待しているぞ』
ニー『なにかっこつけてんの!ほら、いいからさっさと戦う!
あ、キョウ!また大会で会えるの楽しみにしてるからね!!』
バース『この街は俺の庭だ、隅から隅まで掃除してやる!』
ハンター『黒かろうが白かろうが何だろうが、聖域(サンクチュアリ)を穢す不届き者共に未来など与えるものか』
フォータス『頑張ってねぇ、ボクらも精一杯やってみせるさー』
バルク『と、いうわけだ。存分に暴れてくれたまえ』

キョウ「............みんな......っ」

鬨(とき)の声は途切れることなく、更なる増援の存在を示唆していく。

イーグ『こやつらとの戦いは私達に任せろ!』
ギロ『ギアバトルの上位ランカーに比べりゃ屁でもねえ、まとめて斬り刻んでやる!』
青年『やっぱり俺らの見込んだとおりだ!!引き続き任せてくれや!!』
ドラギアス『聞いての通りだ!マコト、ムサシ!キョウ、ガオー!誇れ、貴様らは我が最高の弟子だ!!』

マコト「......ありがとう!みんな、無事で良かった......!!」

五月蠅い。
五月蠅いうるさいウルサイ五月蠅いうるさいウルサイ五月蠅いうるさいウルサイ。

アニマギアス「いますぐその耳障りな音を止めろ愚かな旧人類(にんげん)共ォ——ッ!!」
コジロウ「俺を見逃したこと、仲間を取り込んだこと、
ついでに黒田の野郎をバカにしたこと!全部まとめて後悔してもらうぜ!!」

まただ。
また彼らは、絆だとか友情だとか、不完全で不確かな要素で結束して、新社会秩序を否定しようとしている。

アニマギアス「勝つのはこの神(ぼく)だ......ッ。大人しく諦めていれば良いモノをッ!
大人しく絶望していれば良いモノを!!どこまで愚弄すれば気が済むんだ!!」
マコト「諦めて、たまるものか......!」
キョウ「絶望なんか、してたまるか......!!」

敵の目に、光が宿っていく。
先程まで為す術が無かった、ただの少年二人だったはずだ。
自分の計画は完璧だったはずだ。
彼らは取るに足らない路傍の石だったはずだ。
だというのに、いまは希望に満ちた表情で——笑顔さえ浮かべて——こちらを見つめている。

キョウ「ッ、間に合ったか......いまなら行ける......!!ガオーッ!!」
ガオー「おうさ!!」

天草キョウのマフラーから光が漏れていた。
彼はその光を取り出すと、手には箱が握られていた。
その箱が一人でに開いてみせる。

キョウ「みんなの想いッッ!受、け、取、れェ————ッ!!」

少年の雄叫びと共に、箱からニックカウルが飛びだした。
そのカウルは意思をもっているかのように、ひとりでにガレオストライカーD(ダッシュ)のパーツと入れ替わっていく。

キョウ&ガオー「————ヴィクトリー・イェーガーッッ!!」

EPISODE DE41

ここに来て。
神(じぶん)の前で、彼らは希望(しょうり)の名を口にした。

マコト「サウザンドグラディエイターとヴィクトリーイェーガーが、揃った......!」
ムサシ「いままでよくも、俺達を犯罪者扱いして追い回してくれたものだ!」
ガオー「ここからはオレ達がお前を追い詰める番だぜ!」
キョウ「覚悟しろフォックスロアー=ナンバーライト......いや、アニマギアス!!」

本当の最終決戦は、ここから始まる。
そう確信したアニマギアスは、歯痒い想いを噛み殺した。

アニマギアス「良いだろう旧人類(にんげん)共......お前達の未来、
神(ぼく)が手ずから根こそぎ刈り取ってみせる!!」

——勝つのは、新人類(アニマギア)だ。

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 40

ギアティクス社本社に辿り着いたマコト。
崩れ落ちた天井、瓦礫の山、そして中央で立ち尽くす天草キョウの姿に、彼は言葉を失った。

マコト「——キョウ!!」

駆け寄ると、そこにキョウ以外の自分が一人いることに気が付く。
キョウと共に出発した、獣甲屋の首魁・黒田ショウマが横たわっている。
口と胸から血を流し、目は閉じられていた。
呼吸も、していないようだった。

キョウ「マコト、辿り着けたんだな」
マコト「う、うん......キョウは大丈夫?」
キョウ「オレはなんとか。ガオーはいま少し休ませてるよ」
マコト「そっか、それはよかった。............で、でもその、黒田さんは......」
キョウ「......守ってくれたんだ。オレとガオーを。最後に、これを託されたよ」

キョウがマフラーの中から取り出したのは、自分達が“鍵”と呼んでいた鉄製の小箱だ。
つい先ほど、タスクとの戦いの中で開かれた箱とは大きさが少し異なっている。

キョウ「嫌な奴だったけど、世界のために戦う覚悟は本物だった。......鍵を託された以上、前に進むしかない」

どうやらフォックスロアーはビルの屋上にいるらしいと、先ほどレジスタンスの全体通信で伝えられていたからだろう。
行こう、と言ってキョウはエレベーターホールに向かって歩き出した。

マコト「——あ、うん!」

慌ててその背中を追いかけるように、マコトは小走りでキョウに追いついた。
同い年だとは思えない、と久々にマコトはキョウの強さに冷や汗をかく。
いったいどれだけの修羅場をくぐれば。
いったいどれだけの覚悟があれば。
こんな状況だというのに落ち着き払って、まっすぐ前を見つめられるのだろうか。

マコト「......」

エレベーターが到着し、中に乗り込むと同時。
キョウがいきなりこちらを見て強気な笑みを浮かべた。

キョウ「良い顔になったな、マコト」
マコト「え、ぼ、ボク!?」

かけられた言葉がとても意外で、場に似つかわしくない素っ頓狂な声をあげてしまう。
エレベーターが動き出すと、キョウは言葉を続けた。

キョウ「ここに辿り着くまでに、なにかあったんだろ」
マコト「う、ん。実は......」

マコトは、ここまでの道中で起きた出来事をかいつまんで伝える。
ドラギアスを始めとした他の仲間が、自分を送り出すためにアクター達を食い止めてくれたこと。
タスクとレイドランスが立ちはだかったこと。
紅葉博士達に渡された、サウザンドグラディエイターのパーツが起動したこと。
そして、自分もキョウと同じくギアブラストを発動し、なんとか勝利したこと。

キョウ「なるほど、どおりで。出発する前とは別人に見えたぜ」
マコト「そっかな......ありが、とう?」
キョウ「礼を言うのはこっちだよ、本当のことを言うと一人になって心細かったんだ」

最上階にエレベーターが止まる頃には、ことの経緯を全てを話し終えていた。
ここから屋上に上がるには非常階段を使うしかない。
ざっとではあるが、フロア二つ分の長さの階段が目の前に伸びている。
静かに、二人でその階段を昇り始めた。

キョウ「マコトが持ってたパーツ、起動したんだな。ムサシ、よく似合ってるぞ」
ムサシ「賞賛の言葉は有り難く受け取っておこう。......まだ多少、慣れないところはあるがな」
キョウ「“オレ達の”はまだもう少し、起動に時間かかるみたいだ」

マコトがサウザンドグラディエイターのパーツを事前に渡されていたように、
キョウにも同様にガオーの新型にあたるパーツを渡されていた。
マコトが持っていた小箱と同じく、キョウにもパーツが入った小箱を持っている。
その箱は、ニックカウルのデータを書き込むためのクレードルだった。
ムサシのパーツもガオーのパーツも、突入決行日にどうしても調整が間に合わなかったのだ。
データのインストールが完了次第、箱が開いてパーツが起動する手筈になっているのだが、
どうやらガオーのニックカウルは未だに起動していないらしい。

キョウ「使わないで済むならそれが一番良いんだけどな。黒田の鍵がうまく決まれば、それで終わるんだ」
マコト「そうだね。敵の動きはボクとムサシが抑える。キョウとガオーは“それ”に集中して」
キョウ「ああ。いまのマコトなら安心して背中を預けられるよ——っと、着いたな。行けるか、ガオー」
ガオー「ばっちり休ませて貰った。次は負けねえからな......!」

目の前に扉がある。
屋上へと続く扉。開けば否応なしに戦闘になるだろう。
だから、マコトは聞かれる前に答えた。

マコト「ムサシもボクも準備出来てるよ、キョウ。行こう」

マコトの言葉に頷いたキョウは、黒田に渡された方の小箱を開く。
中で眠っていたのはマイクロチップだ。小さな針が付いたそのチップをガオーに咥えさせると、
そのまま扉のノブに手を掛けた。

キョウ「オーケー、なら行こうか......!!」

フォックスロアーを止める、最初で最後のチャンス。
最終決戦の幕を開けるべく、キョウが勢いよく扉を開け放つ——!

フォックスロアー「......やあ、来たね」

屋上。
ギアティクス社のビルはこの街で一番高い建物だ。当たり前ではあるが、ここから見る景色には夜空しかない。
満月に照らされたフォックスロアーが、こちらを向いて微笑んでいる。

ムサシ「一人......だと......!?」

周りには誰もいない。
護衛の人間も、アニマギアも、なにも存在しない。
ただ、フォックスロアー=ナンバーライトだけが不気味にそこに佇んでいるだけだ。

キョウ「問答無用だ!ガオー、突っ込め!!」
マコト「ムサシ、ガオーを援護して!!敵が来たらキミが迎撃するんだ!」
ガオー&ムサシ「応ッ!」

二人の判断は素早かった。
無防備の相手に面食らうことなく、最善手を最速で打ってみせたのだ。
だからその刃は届く。
あまりにもあっけなく、ガオーの口元で光る針がフォックスロアーの首元へと突き刺さった。

マコト「やった......!」
フォックスロアー「これ......は......身体が、動きを止める......だと......」
キョウ「観念しろ、フォックスロアー!」

チップを刺された敵の瞳が虚空を見つめる。焦点が合っていないようだ。
徐々に身体を支えきれなくなっているのか、足が震えだしている。

フォックスロアー「アンドロイドの電気信号を強制的に遮断するウィルスチップか......なる......ホド......——」

状況を瞬時に理解したらしいフォックスロアーはしかし、為す術もなく首元を押さえながら膝をついた。
そしてその体勢のまま、一切の動きを停止させる。

ガオー「やったぜ、キョウ!マコト!」

ガオーとムサシが急速離脱。はやばやとマコト達のもとへと戻ってくる。
だが、マコトもキョウも浮かない表情を並べていた。

マコト「......嫌な予感がする」
キョウ「奇遇だなマコト......これで終わった気がまったくしない......!」

???「——なるほど!確かに僕を止めるならばそれが最善だろう!
いかにも“僕(オリジナル)”が“考えそう”なコトではある!!」

マコト達の嫌な予感を的中させるように、満月を背に空に浮かぶ一体のアニマギアが現れた。
銀色の甲冑。携えた巨大な槍。
黄金色に輝く瞳はまるで、背にした満月の光を透過しているかのようだ。

マコト「あれ、は......ッ」

オーディンラグナギアスが、天から舞い降りていた。

ラグナギアス「しかし一歩。あと一歩及ばなかった!!黒田ショウマの脳髄は!!」

——あろうことか、“フォックスロアー=ナンバーライト”の“声”を発しながら。

キョウ「まさか、サクラ姉ちゃんと同じ......」
ラグナギアス「ザッツライト。その通りだ」

キョウの言葉で、マコトもその事実を察するに至る。
つまり、あのアンドロイドはオーディンラグナギアスというエンペラーギアをバックアップとして——
イデアデバイスとすることで今の状態になったのだ。

ラグナギアス「キミ達が僕の古い身体を停止したことで、
いまやフォックスロアー=ナンバーライトは完全にアニマギアとなった......
礼を言おうじゃないか。ミスターキョウ、ミスターマコト」

ラグナギアスの身体から、球状の電磁波が展開される。
すると、騎士に吸い寄せられるように四方八方からアニマギア達が現れる。
そのどれもが、ブラッドステッカーの輝きを失ったエンペラーギアだ。

ラグナギアス「これでようやく始められる......!!」

不死鳥・フェニックスネオギアス。
炎竜・ブレイズドラギアス。
地獄の番犬・ケルベロガルギアス。
白虎・バイフーゴウギアス。
運命の女神・オリジンイデアギアス。
宝石獣・バンクルビィギアス。
海竜・リヴァイアカイギアス。
大海の魔物・クラーケンギガギアス。
一角獣・ユニコーンライギアス。
死神・デーモンデスギアス。
熾天使・セラフィムレイギアス。
堕天使・フォールンジオギアス。
その中心にいるのが、軍神オーディンラグナギアスだ。

かつて黒田ショウマが設計した皇帝機、その全てがいま眼前で展開されていた。

ラグナギアス「これだけのエンペラーギアを揃えるのは僕をもってしても流石に骨が折れたよ......!!」

ラグナギアス——否、フォックスロアー=ナンバーライトは続ける。
つまり、エンペラーギアを揃えるためにギアティクス社を買収したのだと。

ラグナギアス「旧人類共が秘匿していた、既に破壊済みのエンペラーギア達のデータ——
くわえて、回収された彼らのパーツを余すことなく再生利用させてもらった......!!これで全十三機......ッ」

キョウも、マコトも、ガオーも、ムサシも。
その場の誰もが呆然とする中で、確実に意志を蝕む絶望に飲み込まれていく。

ラグナギアス「プロジェクト・ギアジェネシス——僕の悲願を、今こそ遂行するッ!!」

宣言した刹那、フェニックスネオギアスの身体から炎が噴きだした。
すべてのエンペラーギアが炎に包まれ、融解し、一つの熱の塊へと変化していく。
まるで卵のような楕円形を形作ったかと思えば、次の瞬間その卵が“弾け飛んだ”。

ガオー「な、んだよ......あれ......なんなんだよ......!!」
???「神(ぼく)の名を知りたいか——?」

エンペラーギアで作られた卵が孵ったようにみえた。
そして、マコト達は直感で理解する。
あそこに佇むのはもはやただのアニマギアではない。
弾け飛んだ炎の中心に、新たなひとつの“生命”が生まれたのだと。

アニマギアス「——僕の名はアニマギアス。新人類(アニマギア)の歴史を創世するモノだッ!!」

EPISODE DE40

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 39

フォールン「ショウマ......ショウマ!」
ガオー「おいおい、マズいぜこれは!」

黒田「......そう騒がないでくれ。問題ない、続けるとしよう」
キョウ「だけど、黒田」
黒田「ご心配、痛み入るがね。本当に問題ないんだ」

......とは言ったものの。ああ、最後まで持たないだろうな、これは。
霞む視界の中、黒田は無理矢理立ち上がりながら、自分の危機を冷静に分析した。
口から呼吸の度に漏れる隙間風のような音、そして吐き出した赤い液体。

アルギアスの身体に肺を貫かれたことは、まず間違いない。
適切な応急処置を行える者などこの場にはいないし、ましてや今は戦闘の最中(さなか)だ。

なにより、ルインシステムを発動し赤鬼を吸収した青鬼はいまや完全体となっている。
エルギアスとアルギアスが合体した姿、デーモンデスギアスは愉快そうにエルギアスの声で笑った。

デスギアス「馴染む......ウム、やはり間違っておらなんだ。
五月蠅い相方はさっさと貴様らに黙らせて貰うのがこの場において最良の選択よ」

EPISODE DE39

なるほど、と痛む胸を押さえながら黒田は内心頷いた。
元になったエピックギガマキナ——キャンサイファーとゴクラウドは、互いに優れた性能を持ち、
なおかつ最高の相性でツインクロスアップシステムを運用出来る機体ではあった。
しかし、その関係性となると話は180度変わる。

黒田「どうしようもないほど仲が悪い......ゆえにデスギアスにならずに二体で現れたというわけか。この流れはエルギアスが仕組んだことだな」
デスギアス「カカカ、いかにも」

エルギアスの思惑通り、血の気が多く喧嘩っ早いアルギアスが真っ先にフォールンとガオーに倒された。
相方の機能が停止したところで合体すれば、意識の共存なんてまどろっこしい真似をしなくて済むというワケだ。

デスギアス「さて、アルギアスとの戦いでヌシらの身体も暖まったことだろうよ。
今度は遠慮無くワシから行かせてもらうぞ」

デスギアスが四本腕を振りながら悠然と歩き出す。
それを止めようとフォールンが再び重力を展開した——はずだった。

フォールン「とま、らない......!?」

敵の歩みが止まらない。しかしこの光景をこの場で唯一人、黒田だけが予見していた。
黒田が設計した通りの機体であるならば当然の結果だからだ。
合体を許してしまったこの状況は最悪だとはっきり断言出来る。

黒田「フォールンジオギアス、無駄だ。ガレオストライカーと共に距離を取れ」
フォールン「く......っ」

戦闘においての性能が高いのはもちろんだが、
それだけであればフォールンとガオーの連携で問題なく対応することが出来る。
しかしことデスギアスに関しては“それだけではない”のだ。

黒田「やはりフォックスロアー、すべての仕様の開発に成功......していたか......」
デスギアス「カカカ、そういうことよ。
男にタネが割れているのであれば、そこな童(わっぱ)たちに説明してやるとしよう」

敵の口から、彼の持つ能力が明かされる。
デーモンデスギアス。
デーモン......鬼でありながら、そのモチーフにはその名の通り「死神(デス)」も含まれていた。
死神、すなわちアニマギアを狩る者。
そのための能力として、デスギアスのニックカウルには特殊な機能が備わっている。
それは、物理攻撃以外でのデスギアスとの交戦を不可能にする絶対的な防御機構。
名をアンチディスタンスバリア——端的に言えば、接触を伴わない攻撃を無効化出来るのだ。
重力を操ることで敵の動きを遠距離からコントロールするフォールンにとって、まさに天敵である。

デスギアス「さぁ、存分にワシと殴り合おう。今度こそ小細工はナシだ」

デスギアスが前に跳ぶ。
突進と言うにはあまりにも軽やかで、突撃と言うにはあまりにも激しすぎる。
床を抉る一足で、敵はこちらとの間合いを瞬時に詰めて見せた。

フォールン「ガ——ッ」
ガオー「フォールン!!」

矛先が向いたのはやはりフォールンだ。
デスギアスの拳がフォールンの腹を打ち抜いている。
強い衝撃を受けたフォールンのパーツが弾けるように外れていた。ネオギアスのパーツで補修された箇所が失われている。
一撃でボーンフレームの接合を破壊するほどの膂力(りょりょく)。死神に相応しい性能だ。

あっという間に機能を停止させたフォールンの身体が、黒田の足下まで転がっていた。

デスギアス「なんじゃ、もう終わりか。皇帝機の名が泣いておるぞ」
ガオー「てめ......っ」
キョウ「だめだ、待てガオー!!」

激昂した白獅子が相棒の声を無視して死神に跳びかかる。
すると、デスギアスの背の腕がガオーの両脇を掴んだ。

デスギアス「ならば残すは童(わっぱ)の獅子......それももう終わりか、歯ごたえがないのぉ。児戯に等しいわ」
ガオー「ぐぁああああああああああああ!!」

ミシミシ、とガオーの身体が軋む音が聞こえる。デスギアスはあのまま握力だけでガオーの身体を破壊するつもりなのだ。

キョウ「ガオー!!」

獅子を助け、連携をする味方はもういない。
残されたのはあまりにも無力な少年と、死にかけの男のみ。
自分達はすでに、どうしようもなく敗北している。
ならば。

黒田(........................取れる手はひとつ、か)

黒田は立ち上がっているのもやっとなその足で、デスギアスの元へと歩き出した。

黒田「デスギアス、お前の目的は分かっている」
キョウ「お、おい!動いて大丈夫なのか!?」

キョウが驚く声が黒田の背中に響くが、それでも彼は止まらなかった。
一歩、また一歩と着実に近付いていく。

黒田「どうだ。フォックスロアーのことだ、目的を完遂と同時に......速やかな帰投を命じられているのでは、ないかな」
デスギアス「ほう......?」

デスギアスの握力がわずかに緩む。しかしガオーを逃がすことなく、敵はこちらに向き直った。
その反応が、黒田の問いかけが正しいことを示している。
思った通りだ。
フォックスロアー=ナンバーライトは黒田自身の人格のコピー(アルターエゴ)である。
ゆえに、敵が受けている命令は想像に容易い。

黒田「このフォールンジオギアスとネオギアスのパーツ。お前はこれを回収しに来たんだろう?」
デスギアス「ホッホッホ!なんじゃ、筒抜けか!ヌシ、よほど頭が切れると見た」

黒田「やはり、そうか」

決して“鍵”を失うわけにはいかない。
この戦いの勝利条件を満たすために、キョウと何度も確認したことだ。
そしてガオーがいま失われること、それはイコールで鍵を失うことになる。

黒田「交渉だ、デスギアス」

......すまない、フォールン。ネオギアス。
心の中で懺悔の言葉を唱えながら、黒田は先ほど拾い上げたフォールンをデスギアスに差し出した。
鉄の味がする口の中を煩わしく思いながら、息も絶え絶えに言葉を吐き出す。

黒田「フォールンジオギアスと、フェニックスネオギアスのパーツを渡す、
だから、そのアニマギアとこの少年を、見逃して欲しい」
デスギアス「ホッホ......成る程なるほど、そう来たか。仲間のためにその身を差し出すとは面白い」
キョウ「な、なにを言い出すんだ黒田!」
黒田「いまここで、世界がキミ達を失うわけにはいかないんだ......キョウくん、
そのためなら、僕は手段を選ぶつもりなど、ない」

かつての自分ではこの結論に辿り着けなかっただろう。
誰かを信頼する機会などもう訪れないと思っていたから。
黒田ショウマが憎んでいた世界を守るために行動しようなどと、考えることすらしなかったから。

だが、頑(かたく)なだった自分を変えたのは間違いなく目の前の少年だ。
天草キョウとガオーという存在は、未来を賭けるだけの価値があるのだと、黒田はかつての戦いを通して教えられていた。

デスギアス「しかし、ワシがこの手を離した瞬間に獅子が反撃しないという保証はどこにもなかろう?
此奴を破壊する方がはるかにワシにとって安全というものだろうよ」
黒田「皇帝機もあろうという者が、一介のアニマギアに危機を覚えると、そう言いたいわけか」
デスギアス「ヌ......」
黒田「いや、冗談だ。話したところ、お前が度を超して慎重な性格、というのはよくわかる」

だが安心してくれ。

黒田「ここの天草キョウは、お前が想像している以上に聡い少年だ。力量の差はいまの一撃で理解したことだろう。
保証するよ、解放後に彼らがお前に手を出すことはないはずだ」

これは「攻撃しろ」という振りでもなんでもない。
黒田は心の底から相棒を差し出し、キョウに攻撃をさせないつもりだ。

黒田「いいね、キョウくん」

だから念を押す。
納得が出来ていない表情ではあったが、こちらの気持ちが伝わったのか彼は渋々頷いた。

キョウ「......わかった。ガオー、離されたらオレの所に戻ってきてくれ」
ガオー「お、お......う......っ」

デスギアスはこのやり取りで満足したのか、黙ってガオーを手放した。
瞬間、ガオーがブースターを噴かせてキョウの元へと戻っていく。
状況が終了するのを確認してから、黒田は宣言通りフォールンとネオギアスのパーツをデスギアスに手渡す。

黒田「持って、いけ」
デスギアス「確かに。ヌシの覚悟、拝領した。“もう二度と会うこともないだろうが”、黒田ショウマとかいったか」

その名は覚えておくとしよう。
そう告げた死神は、黒田から渡されたパーツを手に跳躍。
アルギアス達が落ちてきた天井の穴の奥へと姿を消した。

キョウ「......どうして、こんなことしたんだ」
黒田「敗北した以上、こうするしかなかったんだ。キミもわかるだろう......それ、に......ごほっ、が......ッ」

意識が薄れていくのを実感する。
ああ、自分の運命はいまここで果てるのか。

黒田「......はなしの、つづきをしようか」
キョウ「......」

敵が襲来する前の話を再開する。自分の最後の言葉だ、伝えられないのはあまりにも惜しい。
だから黒田は力を振り絞って言葉を紡いだ。

黒田「もういちど、いおう。ぼくは、じぶんのしたことを、ひとつもこうかいなんてしていない」

だから、天草キョウに許して貰おうとは思わない。
紅葉サクラに、紅葉ヤマトに——紅葉アカネに許して貰おうとは、思わない。

黒田「このせかいは......せいめいは、あまりにも“ふかんぜん”だ」

だけど、その不完全さを愛そうと思えるようになった。

黒田「そのきっかけは、きみだ、あまくさきょうくん」

マギア計画における、フォールンジオギアスとオメガレオギアスの最終決戦。
その光景を、ドローンを通して監視していた。

そして、ギアブラストの輝きに包まれる“友(フォールン)”の姿をこの目に見たのだ。
自分が求めた完全とはとても言い難い、感情に流されるまま機能(こころ)を閉ざすその様を。

黒田「そのとき、くろだしょうま、というおとこも、ふかんぜんだったと、おもいしらされた」

世界の不完全さを許容できないがゆえに正道を踏み外した人間は、しかし。
どうしようもなく自分自身こそが完璧でいられないという不条理をつきつけられたのだ。
だが、それは目を背けていただけで、ずっとそばにあった真実だ。
そしてその真実があるからこそ、自分を取り巻く人との関係が生まれていたのだと。

黒田「......あるいは、ぼくはまちがえていたのかもしれない、でもそれはただしかった」

正しい間違え方をした。
だから自分は、すべてに絶望したあとに——人との関わりを断ったあとに、
天草キョウという得難い出会いをすることができた。
自分の間違いに、気が付くことが出来た。

黒田「......いきろ、きょうくん」

ガオーと共に生きて、黒田ショウマという人間の間違いを証明し続けてくれ。
フォックスロアー=ナンバーライトという歪みを正してくれ。
生命は不完全だからこそ、輝きを放つのだと。

黒田「......“かぎ”は、きみに、たくす」

今は決して開くことのない、鍵の入った小箱を改めてキョウに託した。

キョウ「......わか、った......」
黒田「ああ、すまない......もう、ほんとうに、げんかいのようだ」

なにも見えない。
暗闇がそこにあるだけだ。
キョウはいまどんな表情をしているだろうか。
清々しているのだろうか。

いや、彼は優しいから、たぶんまた辛そうに表情を歪めていることだろう。
敵であるはずの自分に、情けを掛ける必要などないというのに。

黒田「......さようなら、天草キョウくん」

ああ、アカネ。
僕は地獄に落ちるだろうから、そっちに会いに行くことは出来ないだろうけど。
もしも生まれ変われるなら、そしてキミが生まれ変わったのなら。

そのときは、もう一度僕を友と呼んでくれるだろうか。

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 38

黒田ショウマと天草キョウのタッグがギアティクス社に到着する頃には、
静寂したエントランスのあちこちに戦闘の痕(あと)が残されていた。
ここに来るまでの道中で暴走アクターの大軍に襲われ、迂回ルートを選択せざるを得なかったのが災いした。
先行組が巻き込まれたであろう戦闘に間に合うことが出来なかったのは痛手が過ぎる。
状況が把握し切れていないというのはそれだけで不利だ。

味方は勝利したのか、それとも敗北したのか。
かつてマギア計画を行う際、ドローンや監視用アニメギアですべての状況を把握していた
黒田にとって初めての状況ゆえに、警戒心が膨れあがっていくのを感じた。

キョウ「大丈夫かな、みんなは」
黒田「信じるしかない。それがキミの強みだろう、キョウくん」

人間だろうがアニマギアだろうが味方を信じ抜く......
それこそが自分を打ち負かした少年たちの信念であり、強さだと黒田は評価している。

黒田「それで、世間話をするくらいには心を開いてくれたということかい」

状況にまどわされぬよう平静を保ちつつ、バディである少年に軽口を返す。
なにせ出発してからこっち、キョウは必要最低限の言葉しか交わしてこなかった。

キョウ「言っただろ。ここまでの戦闘でも何度もガオーを助けられた。信頼はしてないけど、信用はしてるつもりだ」
黒田「褒め言葉として受け取っておくよ」
キョウ「......勝手にしろ」
黒田「そっけないね、どうも」

どうやら、キョウも自分とそう変わらぬ心理状況のようだ。焦りを必死で誤魔化しているように見える。
だが、だからこそ驚嘆に値する。
小学生とは思えぬほど、幼さを捨て冷静にこの戦いを乗り切ろうとしているのだ。
決して悲観していないのは、仲間を信じるがゆえだろう。
そこに黒田は、いまのキョウと自分の若かった頃を重ねた。

——かつての自分も、“友”を無条件に信じる頃があっただろうか、と。

黒田「僕はね、キョウくん。キミと共闘するなんて奇特な運命に感謝しているんだ」

なにも彼に許されようとは思っていない。
黒田ショウマという男が、天草キョウという少年に与えた絶望は償える物ではない。
償う気もない。
いまでもマギア計画は正しかったと確信しているし、不完全な生命の在り方を憎んでもいるからだ。
だが。

黒田「............」
キョウ「......黒田?」
黒田「......失礼、話は切り上げておこう」

異変を察知して話を中断する。
直後、二人の前方に、高い天井を突き破ってなにかが落下してきた。
瓦礫と轟音が静寂を粉々に砕いていく。

黒田「僕らが運ぶ“鍵”は絶対に死守しなければならない。だからこの話の続きは——」
キョウ「ッ!」

そこに敵が在る。
片足が義足で、片腕が巨大な拳を持つ左右対称の機体。
鬼を思わせる角。
見間違えようはずもない。
あれは自分が設計を練り上げ、図面を引き、しかし開発に至らなかった一対(いっつい)の皇帝機。

黒田「——奴らを倒してからにするとしよう」

EPISODE DE38

赤のデーモンアルギアスと、青のデーモンエルギアスだ。

アルギアス「アンタらが侵入者って奴らで合ってるよな?」
エルギアス「この時間にこのビルに入ってきた時点で不審者だろうて」
アルギアス「ダッハハハァ!!なら思う存分暴れさせてもらうぜぇえええッ!」
エルギアス「どれ、ワシも遊んでやるとしようかの」

EPISODE DE38

至極当然のことではあるが、向こうはすでにやる気のようだ。
ならば、とこちらも相棒の名を呼んだ。

キョウ「......ガオーッ!」
ガオー「応!」
黒田「行けるな、フォールンジオギアス」
フォールン「もちろんだ」

二人の懐からガオーとフォールンが跳びだし、敵と間合いを計りながら臨戦態勢に入る。

アルギアス「おうおうおう、良いねェ!楽しませてくれそうじゃねえのッ!」
エルギアス「片方は年端もいかぬ童(わっぱ)か。歯ごたえがあるといいがの」

キョウ「ちょっと待って......あの喋り方、聞き覚えが......もしかしてっ」
黒田「ああ、その勘は正鵠を射ているハズだ。恐らく“アレら”の中身はエピックギガマキナで間違いないだろう」

ビィギアスの調査報告によれば、モンキーゴクラウドとアシッドキャンサイファーが
脱走する前の数日間で不自然な機体調整があったそうだ。
そのタイミングで、二体の人工知能がコピーされていたに違いない。

エピックギガマキナが搭載する原初のツインクロスアップシステムは、
二体の意識を融合させずに同居させることで成立している。
ライギアスを開発した際に最も難所とされた意識の統合を、
こういった形でIAAとギアティクス社が回避したのは黒田も思わず唸らされた点だ——。

黒田「——そして、彼らの開発にIAAも関わっていた以上、
そこに会長であるフォックスロアーの思惑が絡んでいないはずがない」

あくまで推察ではあるが、元々エピックギガマキナの開発経緯はデスギアスを
完成させるためのテストケースだったのだろう。
となれば、合体に成功した二体のテストケースを極力再現する必要があったわけだ。
AIの流用は非常に合理的だと言える。

黒田「なるほど、いかにも僕(フォックスロアー)が考えそうなことだ」

キョウ「感心してる場合じゃないだろ!AIをコピーだって......!?
コピーの元になったエピックギガマキナは......キャンサイファーとゴクラウドは
フォックスロアーに壊されたんだぞ!!ガオー、やるぞ!!」
ガオー「いっくぜぇえええええッ」

ガオーがブーストを噴かせ、飛び出そうとしたその時だ。

黒田「フォールン、止めさせろ」

黒田の指示を受けたフォールンが、無言でガオーの前に立ち突撃を制止する。

ガオー「な、なんだよフォールン、邪魔するんじゃねえ!」

キョウ「......っ、どうして!!」

黒田「落ち着くことだ、キョウくん。
キミは二体のエンペラーギア相手に連携も取らず一体で突っ込ませる気か?
皇帝機が無闇矢鱈に攻撃してどうにかなる相手ではないことを、キミは誰より知っているはずだ」

キョウ「......、悪かった」
黒田「素直な子は嫌いじゃない。さて、戦陣は僕らに任せて貰おうか——フォールンジオギアス、分断しろ」
フォールン「わかった」

フォールンがネオギアスの頭部が付いた右腕を前に突き出す。

エルギアス「む、ぬぅ!?」

すると、青鬼が見えない力で後方に思い切り吹き飛ばされた。
これこそがフォールンジオギアスの持つ重力を操る力......半壊していようと、その能力に陰りはない。

黒田「いまだキョウくん」
キョウ「ガオー、赤鬼の方から仕掛けるぞ!」
ガオー「待ってましたァ!!」

今度こそ、ガオーがブースターを全開にして突進した。
フォールンもそれに追従してアルギアスに攻撃を仕掛ける。

黒田「データを見たが、意識の統合を伴わない奴らの合体には時間が必要なはずだ。一体ずつ処理するぞ」
アルギアス「ダッハハハ!おもしれ......ェ......な、身体が動かねェ......っていうか浮いてねぇか!?」
フォールン「キミの身体を“宙に固定”させてもらった。踏ん張りが利かないなら攻撃もままならないだろう!」

黒田の相棒が左腕の翼を振るうと炎が生まれた。
その熱がアルギアスの身体を灼き、ガオーの爪が連撃で敵を斬りつけていく。
フォールンの言葉通り、アルギアスは反撃の糸口を掴めていないようだ。

黒田「僕らの前に姿を現す際に“デスギアスで来ない”とは、我々も随分と安く買われているようだね」

圧倒。
それがこの場を現すのに相応しい二文字だ。
エルギアスが近付こうとするたびに、フォールンが重力で押し返す。
そのアルギアスが一瞬自由になるタイミングで、ガオーがすかさず攻撃を叩き込む。
そして再びアルギアスの自由を奪う。

......完璧な連携、と言っても良い。
半壊状態のフォールンが決定打を与えることは出来ないが、
ガオーのサポートに回ることでこの戦闘はこちらのペースで循環し続けている。
心なしか、マギア計画を遂行していたときよりも自分の相棒が活き活きしているようにも見えた。

そして。

アルギアス「き、たねえぞてめぇ............ら............」
黒田「生憎、僕はテロリストだからね。手段は選んでいられないんだ、悪く思わないでくれたまえ」

......まったく、皮肉なものだ。
一度はこの世界を完全に作り替えようとしていた自分が、
いまではこうして子供と共に「いまの世界」を守るために戦っている。

アルギアス「許さ、ねぇ......オイラと、どうどう、たたか......え......」

赤鬼・デーモンアルギアスのブラッドステッカーから輝きが失われるのを、黒田とキョウが見届けた。
残すはデーモンエルギアスのみ。
しかしこちらも難なく倒すだろう、という自負がある。
フォールンは皇帝機の名に恥じない働きをしてくれている。
キョウとガオー——アニマギアの方は記憶を失っているとはいえ——は、かつてそのフォールンを無力化し、
マギア計画を阻止した英雄と呼ぶに相応しいセンスの持ち主だ。
彼らの攻撃に対する貪欲な姿勢に皇帝機のサポートが加われば、勝てぬ相手などいない。

エルギアス「ホッホッホ......」

二人は揃って振り返る。
背後に立っているのは残された青鬼だ。
戦闘の過程で為す術無く遠方に叩き付けられていたエルギアスはしかし、余裕の態度だった。

エルギアス「......なるほど、アルギアスを斃(たお)したか。なるほどなるほど、これは愉快ユカイ——」

刹那、エルギアスのブラッドステッカーがまばゆい光を放つ。
一瞬ではあるが、そのブラッドステッカーに稲妻模様が走るのを黒田は見逃さなかった。

黒田「FBSの発動......いや違う、僕の知らないシステムが搭載されているのか......!?」
エルギアス「——実に愉快である!!」

ぞぶり。
エルギアスのブラッドステッカーの光が最高潮に達したとき、
何かを抉るような音と共に黒田の胸の中央に鋭い痛みが走った。

黒田「ご......ぐぶっ」
ガオー「や、やべえ!」
キョウ「黒田!?」

なにが起きたのかまったくわからず、思わずその場に膝をつく。
絶えず痛みを発する胸元を見てみると、そこに小さな穴が空いていた。
ゆっくりと視線を上げる。
正面にはエルギアス。その足下には、先ほど機能を停止し背後で倒れていたはずのアルギアスが横たわっている。

そして、すべてを理解した。

黒田「......これ、は......ルイン、システム......か......」

——あの赤鬼の身体が、弾丸のように自分の身体を貫いたのだと。

フォールン「ショウマァアあああああああああッ!!」

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 37

コジロウ達は見た。
霧が完全に晴れ、ギガギアスの後ろに現れた二体の新手の姿を。

コジロウ「シャイニングクレイオード......いや、セラフィムレイギアスか。それと——」

レイギアスに関しては既に刃を交えたことがあるが、問題は傍らに立つもう一体である。
騎士を思わせる甲冑のようなニックカウル。特徴的な前へ伸びる二本のツノに、右手に携える巨大な槍。
ああ、間違いない。これは想像しうる限り最悪の組み合わせだ。

ガルギアス「——オーディンラグナギアスッ!」
ビィギアス(ウワサの試作設計一号機!やはり開発されていましたか......!!)

ギアティクス社への突入作戦を練っているあいだ、
ヤマトや黒田から事前に話を聞かされていた、エンペラーギアの試作設計一号機。

コジロウ(そりゃあ、ロストナンバーズにいて当然っしょ、コイツも!)

黒田を含め実際にその存在を確認した者はいなかったが、
ロストナンバーズが「開発されなかったエンペラーギアの集団」であることを思えば、
原初の皇帝機たるラグナギアスがこうして現れたことに、驚きこそすれ納得せざるを得ない。

ギガギアス「......そうか、ワガハイの働きは不十分であったか」

二体の新手を見たギガギアスが、諦めの混ざった声色で呟いた。
どうやら、彼は自分達を相手に時間を掛けすぎたと思っているようだ。
だからこそ決着を早めるために、レイギアスとラグナギアスが介入してきたのだと。

レイギアス「皇帝機・クラーケンギガギアスに訂正を要求。当該機体の働きは十全と評価」
ギガギアス「十全......?ならばなぜ」

レイギアス「計画の工程に変更あり。エンペラーギア4番と7番の同時出現を起因としてD4からF9までを省略。
マスターによるG1およびG2への移行決定を通達」
ギガギアス「ほう、なるほど。計画が繰り上げられたということか。ならばワガハイも、喜んで供物を献げるとしよう」

その一言で、ギガギアスはあっさりと後ろに引き下がる。
代わりに前に出るのはラグナギアスだ。
コジロウも、ガルギアスも、ビィギアスも。
空気を一変させた彼らを目の前に、全員が同一の思考を走らせた。
あまりにも強烈な威圧感。

——なにか、来る!

然してその予感は現実となる。
ラグナギアスが両腕を横に拡げると、全身のブラッドステッカーが目映い光を放った。
騎士を中心に、半球状の電磁ドームが展開される。
すると、それに呼応するようにギガギアスとレイギアスの体が吸い寄せられていく——この挙動を、コジロウはよく知っていた。

コジロウ「これは......ルインシステムっしょ......!?」

ルインシステム。
それは、コジロウが今の姿になる前の体に搭載されていたものだ。
かつてFBSを搭載していたムサシのカウンターとして、
彼の装備を強制的にコジロウのコントロール下に置き、奪うという機能である。
しかしラグナギアスは、装備ではなくレイギアスとギガギアスの身体そのものをコントロールしているようだ。
まるで吸収するかのように彼らの身体が組み変わり、ラグナギアスに装着される。
明らかにルインシステムと同種のプログラムを利用していながら、根本的にその目的を違(たが)えていた。
そしてコジロウは理解する——。

コジロウ(あれは、エンペラーギアを支配するための機体なのか......!)

——エンペラーギア試作設計一号機は、皇帝機の原点にして頂点に君臨する者なのだと。

レイギアス「“ヴァルハラシステム”の起動を確認」

武器と化したレイギアスの声が、システムの名称を告げた。

レイギアス「ラグナギアスのエネルギーから接続可能数を算出。
以降、レイギアスによる追加接続までの必要エネルギーを充填。開始」

エンペラーギア三体の集合体。
とてつもない力を全身で感じ取った。ラグナギアス自身がここまで一言も言葉を発しないのも不気味である。
そしてラグナギアスはそのまま、ガルギアスを狙って思い切り地を蹴った。
しかし、当のガルギアスは敵の接近を前に身動きひとつしていない。

ビィギアス(ガル!?)
コジロウ「なにぼさっとしてるっしょ!?避けろッ!!」
ガルギアス「ッ!や、べッ!!」

EPISODE DE36

気圧されていたガルギアスの意識を、怒号で無理矢理覚醒させる。
すんでの所で避けてみせるガルギアス。
刹那、ラグナギアスが振りかぶった武器——ギガギアスの変形した槍だ——が、直後にギアティクス社の床を“消した”。
生まれた衝撃波が避けたガルギアスを思い切り吹き飛ばす。

コジロウ「おいおい、大丈夫かッ」
ガルギアス「悪い、なんとか無事だ......ちと考え事しちまってた」
コジロウ「何か気になることでもあるのか......!?」

そこに嘘はないと、疑似ギアブラストのバイタル情報が物語っている。
ガルギアスは身体を壁に強く打ちつけたが、まだまだ動ける範疇だ。
だが、ラグナギアスの攻撃が生んだ“結果”を見てコジロウ達は一瞬、戦いの継続を躊躇した。
槍は床をクレーター状に抉り取り、露出した床下の配線まで損壊させていたのだ。

ガルギアス(......この勝負、早めに決着つけねェとマズいぜ)
ビィギアス(そうですね......恐らく奴らの狙いはエンペラーギアであるぼくらです。
時間を掛けたらあっというまに取り込まれますよ......!)
コジロウ(なんだって、それならお前らは一端離脱——いやヤバい、次の攻撃来てるっしょ!)

狙われたのは光学迷彩で姿を消していたはずのビィギアスだった。
レイギアスが変形した剣がビィギアスを横薙ぎに捉える。
なんとか防御姿勢を取ったらしいが、一瞬にして彼女の光学迷彩が終わりを告げた。

ビィギアス「ぅああっ!?」
ガルギアス「ビィギアス!!」

ビィギアスの姿が露わになる。
同時に、仲間同士を繋げていた疑似ギアブラストも解除されてしまった。
コジロウは駆け抜けながらビィギアスの身体を掴み、ラグナギアスから引き離す。

ビィギアス「す、すみません、お手数をおかけします!」
コジロウ「無事か、良かったっしょ......!」

ビィギアスもさすがはエンペラーギアだ。攻撃をまともに受けておきながら喋る余裕がある。
ニックカウルが二つ三つ剥がれていたが、どうやら活動は可能らしい。

コジロウ「それにしてもなんなんだアイツ、ビィギアスが見えていたのか......!?」

ビィギアス「恐らくギガギアスの機能でしょうね。深海や奴自身の霧の中でも敵を識別できるよう、
熱源探知機能が備わっているのではないでしょうか......
もしかしたらさっきの戦いでも、ぼくのことはずっと見えていたのかも知れません......!」

確かに、ビィギアスの姿が消えたことにギガギアスはまるで触れていなかった。
単に戦闘の効率を優先した結果、あの大王イカはコジロウとガルギアスを集中して攻撃していたに過ぎないのだろう。

コジロウ「カウルが伸びるわエネルギー吸い取るわ毒霧を撒き散らすわ、それに加えて目まで特別製かよ!
さすがに盛りすぎっしょ!」

機体性能が恐ろしいのは、そのギガギアスを武器として支配し、使いこなすラグナギアスも当然含まれる。
......などと感心している場合ではない。
ラグナギアスは二つの巨大な武器を抱えているとは思えない程の驚異的なスピードで、今度はガルギアスに急接近。
攻撃を的確にぶち込む。
姿を、追い切れない。

ガルギアス「ぐあああッ!!」
コジロウ「ガルギアス!!」

どうやら当たり所が悪かったのか、ガルギアスからの返事はない。
倒れたまま機能を停止してしまったようだ。
そしてそれを確認したラグナギアスが、その場から槍をこちらに向けて振りかぶった。

コジロウ「......マズい!!」

そうだ。武器に変形しようと、ギガギアスのカウルの特性は変わらない。
つまり“伸びる”のだ。
負傷したビィギアスを引っ張り、無理矢理その場から離脱しようとする。
だが。

ビィギアス「ダメです、コジロウくん離れて!!」
コジロウ「なっ!?」

ビィギアスが何を思ったのか、コジロウの手を振り払う。
直後、彼女は伸びてきた槍に“掴ま”った——
ギガギアスの槍は彼女の身体を貫くこと無く、触手で巻き取ってしまったのだ。
そのまま、槍が縮んでビィギアスはラグナギアスに回収されていく。

コジロウ「な、なにしてるんだよ!?」
ビィギアス「さっきも言ったでしょう!コイツの狙いはぼくとガルです!
コジロウくんまで失うわけにはいきま、せ......ぐううううっ!!」

ビィギアスの悲鳴と共に、光景に変化があった。
再度ラグナギアスの周囲に電磁ドームが展開したのだ。

レイギアス「エネルギー充填完了、システム起動。追加接続の移行を承認」

つまりそれは、ヴァルハラシステムの起動を意味していた。

コジロウ「ま、まて......」

ガルギアスの身体とビィギアスの身体が組み替えられていく。
そのまま、ラグナギアスは無慈悲にもコジロウの目の前で彼らを装備して見せた。

コジロウ「ちょっと待てええええええええッ!!」

コジロウの叫びに、ラグナギアスは毛ほども興味を示さない。
慌てて銃を乱射したが、そのことごとくが剣に阻まれていた。

コジロウ「ちくしょう、なんだってんだお前!!」
ビィギアス(落ち着いて......コジロウ......くん......)
コジロウ(......ビィギアス!?)

熱を帯びた頭に響く声がある。間違いない、彼女の声だ。
無理矢理変形させられた後に、なんとか疑似ギアブラストを展開したのだろう。

ビィギアス(ラグナギアスに接続された瞬間、フォックスロアー=ナンバーライトの計画が
自動的に頭に流れ込んできました......だから......!)

伝えます。
ビィギアスの言うとおり、コジロウの頭の中に膨大な量のデータが流れ込んでくる。
疑似ギアブラストによる思考の共有が、ビィギアスを通してロストナンバーズの持つ情報をコジロウに与えているのだ。

コジロウ(なんだってこんな無茶なことを......!)
ビィギアス(これが......最初で最後のチャンスだから、です......)
コジロウ(チャンス、だって)

ビィギアスは言う。
ロストナンバーズやフォックスロアーはビィギアスが思考の共有を行えることを知らない。

ビィギアス(コジロウくんが近くにいる状態で、わざと彼らに掴まること......
ラグナギアスが圧倒的な力を持っている以上、こうするのが最適解だったんです......)

確かに、疑似ギアブラストは黒田がキョウ達を参考に“追加”したビィギアスの機能である。
設計段階に存在していないシステムである以上、
その事実をロストナンバーズやフォックスロアーが知る機会はなかったのだ。

ビィギアス(だから、コジロウくんに託させて下さい......この事実を......みなさんに......いまは、これが精一杯ですが......期待していますよ、コジロウくん......ぼくたちは、いまはここで..................)

紡がれていた言葉の途中で、ビィギアスの声が消える。
ラグナギアスに完全に取り込まれたことで、彼女の機能が停止させられたのだろう。

ラグナギアス「——......」

それに満足したのか、数にして四体のエンペラーギアを装備したラグナギアスは、
コジロウを目の前にしてなお、気に留めることも無くその場から立ち去っていった。
あっという間の飛翔だ。
目で追うことも出来ない。

コジロウ「......馬鹿、野郎......っ」

なにも、出来なかった。
いまの自分は皇帝機に対して、あまりにも無力だった。
それがどうしようもなく情けなくて。

コジロウ「馬鹿野郎ぉおおおおおお!!」

ただ叫ぶことしか出来なかった。

コジロウ「............」

だが、ここで絶望している場合ではない。
ひとしきり叫んだあと、コジロウは通信回線を開く。
待機音が、自分以外誰もいなくなったギアティクス社の地下施設に鳴り響いた。

コジロウ「こんなところで、追われるわけないっしょ」

命がけでビィギアスは値千金の情報をコジロウに託したのだ。
とんでもない計画が裏で動き出していることを、コジロウは知ってしまったのだ。

ならば、このまま本当になにも出来ないまま終わるデュアライズギラフォルテではない。
それは、自分自身が一番よく理解している。
だから、今取り得る最善の手を確実に詰めていくしかない。

なぜなら、これは負けられない戦いだからだ。
フォックスロアー=ナンバーライトとレジスタンスの勝負は、いまここにようやく始まりを告げたのだと、
赤きアニマギアは確信した。

コジロウ「......聞こえるか、紅葉博士。こちらコジロウ」

——“仲間”の犠牲を、決して無駄にするものか。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 36

コジロウ、ビィギアス、ガルギアスというメンバーで構成された異色のチームは、
一足先にギアティクス社への潜入に成功していた。
三つのチームに別れたレジスタンスの中でも、唯一アニマギアだけで編成されているゆえに
隠密行動が容易なのが功を奏したのだろう。

コジロウ「しかしこれが呉越同舟ってやつですかい。
エンペラーギアと手を組む日が来るなんて想像もしてなかったっしょ」
ビィギアス「いやだなぁコジロウくん、普段の敵同士が仕方なく手を組むのが呉越同舟ですよ?
なにか勘違いしているようですが、ぼくたち別に普段から敵同士じゃないですから」

コジロウ「獣甲屋が敵じゃないってマジで冗談きついぜ?
心強くはあるけど、やっぱり色々経験してると複雑なんだよなぁ」
ビィギアス「その節はなんといいますか、ぼくらがまだ生まれてない頃の話しか知らないので返答に詰まりますが。
いやはや、心中お察し致します」

コジロウ「まぁこうして守ってくれてることだし、信用はしてるっしょ」
ガルギアス「敵でも味方でもなんでもいいがテメェらもうちょっと集中できねえか!?
盾になるとは言ったが限界あるだろうがよ!!」

ビィギアス「あ、ガル、もうちょっと前出てくれます?ぼくらにまで攻撃当たりそうなんで」
ガルギアス「るっせえなぁ!!そんぐらいテメェで避けやがれ!シャキッとしろ!!緊張感持て頼むから!!」

そう。
真っ先にギアティクス社に潜入した彼らは、手筈通りに行けば他のチームの到着まで身を隠している算段だった。
しかしながら運悪く——というより、最初からこちらの動きは捕捉されていたようで。

???「戦闘中になぁあああにをゴチャゴチャぬかしとるんだぁ!ァあ!?」

まさにいま、ロストナンバーズを名乗る者——
複数の触手を持つ巨大なイカ型エンペラーギア、クラーケンギガギアスとの戦闘に巻き込まれていた。
すでに合流予定地点からは大きく外れ、地下のラボにまで戦場は移動してしまっている。

ギガギアス「おどれら、おとなしくせんかい!!そんなにワガハイにブチ壊されてえかよッッ!!」
ガルギアス「敵の言葉ながらまったくもって同意だねェ!!」

ギガギアスの能力は戦闘を開始して早々に判明している。
あの触手がこちらのブラッドステッカーに触れると、蓄えていたエネルギーが吸収されてしまうのだ——
ドレインシステム、と敵は呼んでいた。

そのドレインシステムに対してガルギアスが盾になっているのは、
味方陣営の中で唯一体内に小型の内燃機関(エンジン)を搭載しているがゆえだ。
太陽光に頼らずエネルギーをある程度生み出せるガルギアスであれば、エネルギーを吸収されようとも活動が可能である。

ガルギアス「......っぶねぇ、避けてくれ!!」

しかし盾となったガルギアスにも限界はあった。
その限界とは、ギガギアスのニックカウルが特殊な素材で作られていることに起因していた。

コジロウ「ビィギアス、こっちだ!!」

コジロウはビィギアスの手を引っ張って跳んだ。
すると、本来射程外であるはずのギガギアスの触手が地面を叩き付けている。間一髪だ。

EPISODE DE36

ビィギアス「たすかりました......っ」
コジロウ「伸びるニックカウル......マジでなんでもありかよエンペラーギア連中ってのは!!」

敵の青いニックカウルは“伸び”る。
伸縮性を持った合成記憶金属らしいが、それゆえに相手の攻撃の軌道も、有効射程もまったく掴めていない。

ギガギアス「ちょ、こ、ま、か、とぉおおおおッ!!」
コジロウ「そりゃ避けて当たり前っしょ!!おたくの守りが堅くてこっちも腹立ってるんだよ!!」

隙を見て射撃を繰り返す。いまのこちらの攻撃の要は間違いなく遠距離戦を得意とするコジロウだった。
だが射撃はすべて触手に遮られ、決定打を与えるに至っていない。
長距離砲をチャージしようにもその時間を向こうが与えてくれなかった。
しかし決定打がないのは向こうも同じだ。
この拮抗した状況で、ガルギアスが声を荒げる。

ガルギアス「喋ってたからには突破口みつけたんだろうなぁビィギアス!!」
ビィギアス「あ、それはもちろん!例のアレまでの時間稼ぎは充分です、そろそろ動けますよ!!」
ガルギアス「そいつは重畳、さっさとおっぱじめようぜッ!!」
ビィギアス「いっきますよォー!!」

ビィギアスの姿が周囲に溶け込むように透明になっていく。
ここに来るまで何度も助けられた、ビィギアスの光学迷彩が起動したのだ。

コジロウ「その姿消える奴、何度見ても心臓に悪いっしょ......ってなんだなんだ一体なにが始まるんだ!?」

違和感が来たのはビィギアスが消えた直後だ。
頭の中に、自分が見ている光景とは別の光景が二つ流れ込んでくる。
これは——

コジロウ(——ガルギアスとビィギアスが見ている光景!?)
ビィギアス(イグザクトリィ!その通りです!!)

彼女の声がどこからともなく聞こえてくる。映像だけではなくビィギアスの声まで直接届けられるようだ。
どうやら、バンクルビィギアスには特殊な能力が備わっているらしい。
それは、黒田がガオーとキョウのコンビにヒントを得た機能だ。
他の機体と回線を強制的に繋ぎ、“視覚情報の共有”と“音声を介さない意思疎通”を可能にし、
なおかつ身体的な能力向上も与える、ハッキングを利用した付与(バフ)能力。

ビィギアス(すなわち、疑似ギアブラストです......!)
ガルギアス(ビィギアスは諜報用エンペラーギアだからな。こういう小細工が得意なんだよ)
コジロウ(そりゃすごい......ホントになんでもありだな、エンペラーギアってのは)
ビィギアス(ハッキング中のぼくは無防備になるんで隠れざるを得ないんですけどねっ)
コジロウ(いや......充分っしょ、これならいける!)

ビィギアスの説明が終わると同時、味方と完璧な連携を取れることにコジロウは攻撃をかいくぐりながら気が付いた。
三つの視覚情報を介して、ガルギアスとコジロウが囮役と攻撃役を臨機応変にスイッチすることが出来るのだと。
だからそうした。

ガルギアス(“右脇”がガラ空きだぜ!)
ガルギアス「“左脇”がガラ空きだぜ!」
ギガギアス「ヌ、ゥオ、ぬうううううッ!?」

ガルギアスの思考と音声が真逆のことを口走る。
ケルベロスの声にまどわされたギガギアスが左に注意を向けた瞬間、コジロウが右脇に向かって砲撃をぶち込んだ。

コジロウ「良い趣味してるっしょ、ガルギアス!!」
ガルギアス「ッハ!お互い様だよ赤いの!!」

全ての情報を共有しているという、疑似ギアブラストの完全意思疎通の強み。
ガルギアスはそれを本当によく理解しているとコジロウは感心した。
もう少し遅ければ自分も彼と同じ事をしていただろう。
エンペラーギアと気が合う、と考えるのは少々癪だったが、敵もまたエンペラーギアである。
遠慮するだけ損というものだ。

コジロウ「攻め時と見たっしょ!ガルギアス!!」
ガルギアス「あいよォ!!」

続けざまに、コジロウとガルギアスの見事な連携がギガギアスを捉える。
流れは完全にこちら側に傾いた。

ギガギアス「姑息な真似をしてくれたなァ!黙ってワガハイの糧になっておればいいものを!!」
コジロウ「お生憎様、こちとらおしゃべり同士で組まされてるもんでね!!」
ビィギアス(あれ、それってぼくも含まれてます?)
ガルギアス(なんならテメェが一番おしゃべりだよビィギアス!)

ギガギアス「ああそうか、理解した......理解したぞおどれら!!
なるほど、どういう絡繰りかは知らんが“視て”いるな......!!」

敵も流石のエンペラーギアだ。並の相手ならばここで決着がついていただろうが、
ギガギアスはその洞察力でコジロウ達の動きの仕組みに気付いた様子だった。

ガルギアス「理解されたところで、だろォが!!」
ギガギアス「否——」

敵が器用に触手を動かし、勢いよく上空に舞い上がる。

ギガギアス「——否である」

三体のアニマギアは見た。
ギガギアスが捻るように体を回転させて、姿を変えた瞬間を。
デミヒューマンモードとでも表現しようか。
仮面を被った姿に変形していた。

コジロウ「何か来るっしょ!!」

先程までのやかましさはどこにもない、不気味な静けさをただよわせるギガギアスの豹変ぶりに
コジロウの勝負勘がいちはやく反応していた。
ギガギアスは静かに降り立つと、全身から黒い霧を噴き出したのだ。
黒い霧は瞬く間に地下空間を埋め尽くし、視界を闇に染めて見せた。
それだけではない。

ガルギアス「ぐ、ぅおおあああッ!?」
コジロウ「なんだ、この......!?」

霧に触れたボーンフレームから火花が散っていた。
硫酸のプールに飛び込んだかのような激痛が全身を襲う。

ギガギアス「ワガハイの墨は、おどれらから奪ったエネルギーの塊である。動く度にその身体、我が霧が蝕むと思え」
コジロウ「んな無茶苦茶な......こんな自爆攻撃、アンタだってひとたまりもないっしょ!!」
ギガギアス「なに、多少の痛みは我慢するまでよ。皇帝機をあまり舐めるなボンクラども」

ガルギアス「なら、俺らだってエンペラーギアの端くれ......我慢してやろうじゃねえか......ッ!!」

ケルベロスの言葉が強がりでないことは、疑似ギアブラストによって伝わってくる彼のバイタル情報が物語っていた。
それはビィギアスも同じ事だ。激痛が迸るこの霧の中で、
ダメージを受けているのは彼女も同じだろうに。弱み一つ漏らすことなく、疑似ギアブラストを維持し続けている。

コジロウ(“仲間”が踏ん張ってるのに......俺一人がへばってるのはかっこがつかねえだろ......!)

だから立つ。
視界は奪われたが、ギガギアスの位置は幸いにしてわかりやすい。
仮面の下のあの不気味な瞳の光が、闇の中でも確かに目で捉えることが出来たからだ。

コジロウ「こちとらバフで能力上がってるんだ、アンタの触手捌くなんて余裕っしょ!」

敵の動きがよく感じられるし、それに対応も出来ている。
確かに疑似ギアブラストの効果を実感していた。
なおかつ、霧の持続時間はそこまで長くないらしい。
少しずつではあるが、周囲の景色が戻ってきているのが分かった。

......だが。

ビィギアス(熱源反応がさらに二つ——新手ですか!?)
ガルギアス「こいつは......面白くねえ冗談だ」

仲間の言葉が、不吉な影の登場を知らせていた。
コジロウは痛みの中で身構える。確かに、一筋縄では行かない。

晴れゆく霧の中、ギガギアスの後ろに二体のアニマギアがどこからともなく現れていた。

???「............」

???「対象を確認——粛正を開始します」

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 35

ムサシ「ぉおおおおおおおあああああああああッッ!!」

マコトのポケットから、ヤマトに託されていたモノが自分の意志をもったかのように飛び出していく。
それはアニマギアのニックカウルだ。

ヤマト『いいかい、マコトくん——』

博士の声が脳内で蘇る。

ヤマト『——ムサシと、ムサシの中に潜むもう一つの意識が完全な融合を果たしたとき——』

飛来するパーツに合わせて、ムサシが元々着けていたカウルがパージされていった。

ヤマト『——それがトリガーとなって、このニックカウルは起動する——』

自動で組み上がっていくその様は、この場にいる誰もが知らない光景ではある。
だが、過去に一度この世界は“この光景”を目にしていた。

ヤマト『——それが、オメガギアスのカウルに“選ばれる”と言うことだ』

オメガギアス。
かつて天草キョウとガオーが手にした奇跡の再現が、いままさに少年達の前でなされている。

タスク「自動で装着されるニックカウルだと......なんだ、そのアニマギアは......そのニックカウルはなんだ!?」

かのエンペラーギアのカウンターシステム、試作0号機オメガギアスのシステムを組み込み、第二世代アニマギアの技術と現代の技術をハイブリッドさせた、いま考えうる限りで最高のデュアライズカブト型アニマギア。
両肩のツノと、武器と一体化した両腕が月光を受けて輝いている。
彼の者こそ、ムラマサの意志を継ぎ、未来のために千の刃を振るう戦士。
その名も——

マコト「——サウザンドグラディエイター......ッ!」

剣聖として覚醒した相棒の名を、マコトは口にした。

EPISODE DE35

タスク「......ッ、しかしそんな付け焼き刃のニックカウルで、俺とレイドランスが遅れを取るモノか!
レイドランス、出力を上げろ!」
マコト「無茶だ!ボーンフレームが軋んでるじゃないか!?レイドランスがいくら強力な機体だからってこれ以上は!」
レイドランス「——イエス、マスター」

カマキリは躊躇無くタスクの指令に従った。
レイドランスのブラッドステッカーに迸っていた稲妻がより輝きを増す。

マコト「揃いも揃って分からず屋なんて......止めるよ、ムサシ!」
ムサシ「当然だマコト!これ以上アイツの暴挙を黙って見ていられるかッ!」

レイドランス「ハァアアッ!!」

敵が動き出す。
先ほど自分達を圧倒したときと同じく姿を消し、
直後に分身したかのようにムサシの周囲に幾重ものレイドランスが現れた。
しかし。

マコト(視える——これは、ムサシの見ている光景なの......?)

マコトの脳裏にはもう一つの光景がハッキリと認識できる。
いくつもの敵の幻影の中に、ハッキリとレイドランス本体がどういった動きをしているのかが手に取るように分かった。
同時に、相棒の声が頭に直接響いてくる。

ムサシ(——俺にもハッキリと伝わっている。マコト、お前の心が!)

サウザンドグラディエイターの特徴的な両肩のツノが、後方へと水平方向に角度を変えた。
すると、ツノ全体から粒子のような燦(きら)めきが生まれる。
燦めきとは、即ちエネルギーだ。
推進力へと変換されたブラッドステッカーのエネルギーが、超高速でムサシの体を正面へと“撃ち出した”。

マコト&ムサシ「——そこだッッッ!!」
レイドランス「ギッ!?」

向こうの攻撃モーションの隙を突いて、前進したムサシが右腕の剣を叩きつけた。
しかしさすがの敵もこちらの動きは捉えていたようだ、ギリギリの所で両腕の武器を構えている。
勢いのまま吹き飛ばした。

タスク「捉えているのか......レイドランスを......!」
ムサシ「まだまだ、俺達はこんなものじゃない!」

相棒の言葉にマコトも強く頷く。
まるで、心と体が融合したかのような感覚がマコトとムサシを強く結びつけていた。
まさに人機一体。
どんな状況だって、ムサシと一緒なら乗り越えられる——そんな確信がある。

タスク「レイドランス、モードチェンジだ!一度体勢を立て直す、意図は分かるな、十秒で済ませろ!」
レイドランス「心得て御座います!」
ムサシ「今更変形などという小細工でッ!」

人型から虫型へと変形したレイドランスを、ムサシが水平飛行で追撃する。
常軌を逸した速度での攻め——しかしそれをレイドランスは難なく避けてみせる。
二の手、三の手で連撃をするも、ことごとく敵はそれを躱した。

ムサシ(当たらない......!?)
マコト(ムサシ、気をつけて!)

レイドランス「————ッ、——ッ」

よほど集中しているのか、敵は一言も喋らず攻撃を凌いでみせる。
そして。

レイドランス「解析——完了いたしました」
タスク「ジャスト十秒だ、行けるな」
レイドランス「イエス、マスター」

言って、レイドランスは再び人型への変形を瞬時に終わらせる。
様子が変わったのは直後だ。
こちらが手を休めることなく行っていた攻撃を、今度は躱すのではなく次々と勢いを削ぐように“いなし”始めたのだ。

レイドランス「僭越ながら、貴方の行動パターンはすべて解析いたしました。いかなる攻撃であろうと、ワタクシに決定打を与える可能性はもはやゼロに等しい!くわえてッ!」

レイドランスが転じて一足飛びに後退する。
ムサシから間合いを取った。反撃だ。

レイドランス「貴方の行動を読み切れるワタクシは常に貴方の死角からの攻撃が可能ッ!死角を意識した瞬間別の死角からの攻撃をさせていただきます!諦めてマスターの言うとおり撤退することをオススメいたしますがッ!!」

敵の姿が消える。

マコト「諦める......?」
ムサシ「俺達が?」

もう既に何度もみた、超高速移動による影分身が生まれた。

マコト&ムサシ「——ありえないッ!!」

瞬間、周りの時間が停止したかのように光景が固定され、マコトとムサシの視界に文字が浮かび上がる。

【QUANTUM-SYSTEM : ACTIVATE】

次いでムサシを取り囲むように、いくつもの敵のシルエットが生まれた。
マコトとムサシは瞬時に理解する。

——これは、可能性だ。

レイドランスがこちらの動きを分析して攻撃をいなすようになったのと同じく。
奇しくも、こちらも敵が取り得る行動のすべてを今、“閲覧”している状態なのだ。
これこそが、サウザンドグラディエイターの切札。
量子演算によって相手の全てを見通す千里眼のごとき力——クォンタムシステムである。

マコト(ムサシ、よく聞いて。これからレイドランスは——)
ムサシ(——応!)

然して二人の時間は動き出す。
文字通り目にも留まらぬ速攻をレイドランスが仕掛けてきた。
フェイントに次ぐフェイント、宣言通り常に死角をつくような動きでこちらを翻弄するが。

ムサシ「遅すぎるッッ!!」

レイドランスの動きを読み切り、ムサシがカウンターの一撃をぶち込んだ。
相手はそれをまぐれと読んだのか、何度も速攻をしかけてくる。

レイドランス「ば......かな......ワタクシの行動解析が意味を成さないのですか!?」
マコト「解析は解析......一瞬前だろうと、過去の情報に代わりは無いんだ......!」
ムサシ「過去に縛られた貴様らには、未来に向かって歩き始めた俺達を止めることなど出来ん!」

そのことごとくを、ムサシとマコトはカウンターで迎え撃った。

タスク「マコトのその瞳......まさか、ギアブラスト............!」

ギアブラスト、という言葉には聞き覚えがある。
アニマギアと真に心を通わせた者だけが到達できる人機一体の境地。
その力は、両者の力を極限まで引き出すという、かつて天草キョウとガオーが発現させたという能力の名だ。

だが、いまこの状況が“そうだ”と言われれば納得も出来る。
マコトの危機察知能力は、ムサシと完全に意識を融合させることによってまったく別の力へと覚醒していた。

レイドランス「理解不能......理解不能、理解不能!!」
タスク「惑わされるなレイドランス、お前は普段通りの戦い方をすれば......」
マコト「彼に普段通りの戦いをさせてないのは、兄さんの方だろ......!!」

相手の僅かな動きから次の動作を予測することに長けていたマコトは、クォンタムシステムによって得た情報——
可能性の閲覧を経て、未来視と称して差し支えない能力に昇華させたのだ。
ゆえに、マコトは「自分達の動き」から「相手がどんな対応をするのか」を理解するに至っていた。

マコト「レイドランスに——“兄さんの相棒”にこれ以上無理をさせちゃいけない!だから!」

つまり、ことこの戦いにおいては。
こちらの動きを完璧に読んでくるレイドランス相手ならば。
コントロール出来る——。

マコト「行って、ムサシ——————ッ!!」

——敵の、未来(うごき)を。

ムサシ「あぁああああああああああああッ!!!!」

最後の一撃だった。
レイドランスが死力を振り絞って繰り出した攻撃を、無情なまでにムサシは読み切ってみせる。
だが、相棒が選んだのはとどめをさすためのカウンターではなかった。
剣の刃がついていない方で敵をぶん殴り、地に伏せさせる無血決着である。

タスク「レイド、ランス......っ」

伏せたレイドランスは全てを諦めたのか、それともとうに限界を迎えていたのか。
全身から煙と陽炎(かげろう)を生み出して機能を停止させている。
タスクは、自分達の敗北が受け入れられないのか、その場に膝からくずおれた。

マコト「......勝った......」

マコトも同様に、いまだに信じられない。
あの傑物、晄タスクに本当に勝利したという実感が沸かなかった。
だが、現実として自分達の勝利がここにある。

マコト「ぐ......っ!?」
ムサシ「マコト!!」

一瞬、全身に激痛が走り立ち眩む。
ムサシが駆け寄ってくるころには痛みは引いていたが、代わりに急激な疲労感がマコトを襲った。

ムサシ「大丈夫か、マコト!」
マコト「ごめん、ちょっと疲れちゃったみたい......」
ムサシ「......クォンタムシステムの使用はマコトへの負担が大きいか」

相棒の言うとおり、ギアブラストとクォンタムシステムの併用が、肉体へダメージを与えているのは想像に難くない。
なにせ膨大な情報量を頭に叩き込み、とてつもない集中力で敵の攻撃を捌くのだ。

ムサシ「乱用は禁物だな......文字通りの奥の手にしておくしかない」
マコト「もうちょっと、体の方も鍛えておけば良かったかな」

ABFの訓練で、教官であるドラギアスの教えは技術面と連携に関する考え方を主軸においていた。
それもそのはずだ。
ギアバトルにおいて人間はあくまで頭脳を回転させる司令塔という立場であり、誰もがマコトとムサシ——
あるいはキョウとガオー——のように感覚を共有して戦うわけではないのだから。

タスク「マコト。俺の負けだ」
マコト「兄さん......」
気付けば、いつのまにか立ち上がっていたタスクがマコトの側に来ていた。
相変わらずのしかめっ面ではあったが、普段のような取っつきづらさが幾分か薄まっているように思える。

タスク「レイドランスは完璧に俺の指示に応えたはず、だった」

なぁ、一つ聞かせてくれ。
その声の棘のなさに、彼が敵としてではなく兄として問いかけているのだと感じた。

タスク「俺は強さを求めて、俺の指示に忠実に動き、期待に応えるレイドランスを相棒にした。
だが、ギアバトルを始めて間もないお前に負けたというのが、どうしても解せない......俺は、間違っていたのか?」

ムサシ「答えは、貴様が言ったじゃないか。そうだろう、マコト」
マコト「......うん。ムサシが言いたいこと、ボクには分かるよ」
タスク「なに......?」

晄タスクは言った。
「俺の負け」だと。そして彼の相棒が完璧に指示に応えたのだと。
つまるところ、彼の中の敗北にレイドランスは含まれていないのだ。

ムサシ「タスクはマコトの底力を見誤った。だから判断を違(たが)えた。それだけのことだ」
マコト「相棒を、信頼しているんだね」
タスク「......信頼、だと」
マコト「どうして——」

どうして。
どうしてどうしてどうして、どうして。
“彼”が捨てられて以来、頭の中に何度もリフレインしてきた「どうして」の四文字。
その「どうして」は、いま。大きく意味を変えて、改めてマコトの頭を埋め尽くしている。

マコト「——どうして、その信頼をムラマサに向けてあげられなかったんだよ......!!」
タスク「っ!!」
マコト「ムラマサは兄さんを......相棒をずっと信じて戦っていたはずなのに!それがなに?強くなりたいだって?
強くならなきゃいけないだって?勝手言うなよ!!
兄さんが一人で戦ってると勘違いしていたから、ボクなんかに負けるんだ!!」

そんなことをしなくても、兄は十分強かっただろうに。
ムラマサは、十分彼の期待に応えていただろうに。
強くなくても、ムラマサと一緒に自分のそばにいてくれれば、それでよかったのに。

その言葉すべてを飲み込んで、マコトは立ち上がる。

マコト「ごめん。行こう、ムサシ。みんなが待ってる」
ムサシ「む、了解した」
マコト「......レイドランス、無事だといいね」

立ち尽くす兄をよそに、彼は相棒とともに歩き出した。
いまのマコトは、これ以上タスクと交わす言葉を持ち合わせていない。

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 34

世界の景色は大きく歪んでいた。
時分は深夜。満月が明るすぎるほどに街を照らしていて、自分達の居場所はどこにもないように感じた。
レジスタンスの結成から一ヶ月、街中には武装化したアクター達が絶えず飛び交うようになっている。

その目的は無論、マコト達レジスタンスだ。

だからこそ、この一ヶ月彼らは準備と計画を練りに練った。
集団行動は目立ちすぎるため、いくつかの班に分かれてそれぞれがギアティクス社のタワーを目指すことにしたのだ。

キョウはガオーと黒田、フォールンと共に対フォックスロアーの鍵を携えて。
ヤマト、サクラ、アズナ、ビタースイーツはサポートのため拠点に残っていた。
コジロウはガルギアスとビィギアスを連れ、アニマギアだけの編成でマコト達と同じくタワーに向かう算段だ。

そしてマコトはムサシとギロ、イーグにドラギアスを連れて。
だが。

マコト「ほんと、アクターが、うじゃうじゃいて......!」

恐い、という言葉をマコトは飲み込んだ。
羽虫の群れのように数えきれないアクター達がマコトを執拗に追いかけ回している。
それらから逃がれるように、ムサシを乗せたマコトが裏路地を走る。
併走するように飛行するのはドラギアスゼノフレイム。
道中、アクターを止めるために既にギロとイーグがパーティを離れていた。

マコト「く......どうしよう......っ」
ムサシ「止まるな、マコト!ギロとイーグなら大丈夫だ、アクター共に易々やられるような奴らではない!」

人目を避けて移動するはずだったが、いかんせん街を監視するアクターが多すぎる。
少人数で隠密行動をいくら心がけても彼らの前には無力だ。
なにより、仲間が次々とマコトをタワーに送るために離れていくことが、たまらなく恐くて、心配だった。

ドラギアス「——いかん、マコト!ムサシ!」

視界の外から、二体の武装アクターがマコト達を襲う。
いち早く襲撃に気が付いたドラギアスがそれを止めたが、その後ろから三体のアクターが押し寄せた。
間に合わない——かに思えた。

???「っとォ、ここは俺らに任せてもらおうじゃん......!」
マコト「え、ちょ、ええ......!?」

上空から現れた三体のアニマギアが、ドラギアスに加勢するように襲撃を止めて見せたのだ。
三体はどれもが緑色の甲虫型アニマギア——デュアライズカブトアーミーD。
マコトの背を守るように飛び出した三人の男は、かつてマコトからムサシを奪おうとした青年達だった。

マコト「どうしてあなた達が!?」
青年B「オメ-が指名手配されたって聞いたときからいてもたってもいらんなくてよ!」
青年C「ひそかにアクター共を“つけ”てたんじゃん、俺ら!」
青年A「......ってわけだ。お前らが指名手配されるような奴なんてどうしても信じられねえんだよ」

アーミーD達が、巧みにアクター達の攻撃を捌いていく。
統率の取れたその動きは、マコトと戦ったときとはまるで別人のように見えた。

青年A「マコトって言ったよな。行くべきところがあるならさっさと行っちまえ。
ここは俺らとこの赤いアニマギアで食い止めるぜッ!」
ドラギアス「名もしらん貴様に勝手に頭数に入れられてるのはシャクだが、渡りに船という奴か......!」

マコト「でも......っ」
青年A「“どうして”だの“でも”だのうるせえ!俺らを倒したあん時のクソ度胸を思い出せ!
今度は俺らがお前に度胸を見せるときだつってんだ、男張らせろや!!」
ドラギアス「こいつらの言うとおりだ、ここは我らで食い止めるとしよう!タワーはもうすぐだ、必ず後で追いつく!」
ムサシ「マコト......ッ」
マコト「............わかり、ました......!」

改めて腹を括ったマコトは、振り返ることなく走り出した。
ここで行かねば、先に離脱したギロやイーグの想いまで裏切ることになる。
自分をここまで送ってくれた仲間を信じていないことにもなる。
なにより、自分に向けられた信頼に応えたいと思ったのだ。
仲間のために、マコトは走った。
自分を追うアクターの姿はもうない。ドラギアスの言うとおり、目的地はすぐそこだ。
と、より一層駆ける足に力を込めたところで——。

ムサシ「——止まれマコト!“上”だッ!」

——相棒の言葉に立ち止まる。
続けざまの襲撃に身を堅くしたが、廃屋の屋根から飛び降りてきた人影とアニマギアには見覚えがあった。
見覚えが、ありすぎる程に。

マコト「兄さん!」

IAAの白い制服が、月光を反射して輝いて見える。
兄・晄タスクとレイドランスが行く手を阻んでいた。

タスク「行け、レイドランス」
レイドランス「イエスマスター」

ぞっとするほど冷たいタスクの命(めい)が下ると、レイドランスはすぐさま攻撃態勢に移る。
交わす言葉などない、と兄が伝えてきたのが分かった。
そこに一切の迷いは介在せず、彼が本当にマコトの敵なのだとすぐに理解する。

マコト「ムサシッ!」

だからマコトも迷わなかった。
肩から飛び出したムサシが返事の代わりにレイドランスの攻撃を受け止める。
自分でも驚くほど冷静に、兄が敵として現れたことを受け止めているのは、
やはりこの一ヶ月でこうなることを予想していたからだろう。

タスク「大人しく引け、マコト。この先に進めばお前は命を落とす。逆にここで手を引けば、
会長もお前の無事は保証すると言っていた」
マコト「兄さんはそれでいいの!?フォックスロアーが何をやろうとしているのか分かってるの!?」
タスク「無論」

ムサシとレイドランスの激しい攻防を挟んで、二人の問答は続く。

マコト「本気で言ってるの......?本気で、
人間を滅ぼしてアニマギアだけの世の中にしようなんて考えに賛同しているの!?」
タスク「誤解をするな。会長に協力するのと、会長の考えに賛同するのはイコールじゃあない。
“アレ”は頃合いを見て俺が止める」

フォックスロアー=ナンバーライトの野望は、俺一人が止める。
その宣言にマコトは自分の耳を疑った。

マコト「な......っ」
タスク「アレは俺の踏み台だ。俺の得物だ。強くなるためなら手段を選ばない。ムラマサを捨てたときに決めたことだ」
マコト「馬鹿げてる!!目的が一緒なら、ボクらと一緒に——」
タスク「——一人でやらなければ意味が無いんだ、マコト!!」

タスクの怒号とともにレイドランスのギアが上がった、と肌で感じる。
ムサシの攻撃がことごとくいなされ、向こうのワンサイドゲームになりかけていた。

マコト「ムサシ、左から来る!!」
タスク「無駄だ」

マコトの“目”は相変わらずタスクの前に無力だ。

タスク「お前の才能は認める。だが、その身を守るためだけの能力は俺達には通用しない。
肉食獣から逃げ回るだけの、ただの臆病な草食動物と変わらない」

ゆえに、何も恐くない。
タスクは続ける。

タスク「......俺はマコトを——みんなを守るために強くなると決めたんだ。危険を負うのは俺一人で良い」
マコト「まも......っ、なにを今更なんだよ!」

マコトは兄に見捨てられた、と勝手に思い込んでいた。
それはマコトが弱いからだ。
かつてムラマサを捨てたように、強さを追い求めたタスクにとって自分の存在は邪魔になったのだと、
マコトなりに解釈していたのだ。
それがどうして。

マコト「ボクを守るだって?ふざけないでよ、ボクらは兄さんの隣に並んじゃいけないって言うのか!?」

共に戦うことすら、許して貰えないというのか。

タスク「ああ、そうだ。フォックスロアーを止められるのは俺だけだ。他に余計な存在があればノイズになる。
全力を出せない。邪魔をするな」
マコト「邪魔って......!」
タスク「俺にも勝てない未熟なお前達が、自ら死地に飛び込むというのであれば、
全力で止めさせて貰う——レイドランス!!アレを使え!!」
レイドランス「かしこまりました......恥ずかしながら、全力を出させていただきましょう!
お、ぉお、おおおおおォオおおおオヲッ!!!」

レイドランスの咆吼と共に、彼の瞳が赤く輝き、ブラッドステッカーに稲妻のような模様が走った。
刹那。
レイドランスの姿が瞬間、幾重(いくえ)にも重なり直後に姿を消した。
瞬きを終える頃には、ムサシの背後に佇んでいる。
熱暴走一歩手前なのか、彼のニックカウルの隙間からは絶えず煙が吹き出している。

ムサシ「があああああああッ!?」
マコト「ムサシ!?」

まったく、見えなかった。だが間違いない、とムサシに生まれた傷を見て確信する。
レイドランスは一瞬にしてムサシにいくつもの攻撃を与えたのだと。

ムサシ「まだ、まだだ......」
マコト「ダメだよ、ムサシ、待って!」

マコトの制止もきかず、ムサシが反撃を試みる。
しかしレイドランスの超速についていくことは出来なかった。

ムサシ「ぐ、あああッ!!」

何度も、何度も繰り返す。
ムサシは諦めずに立ち上がり、そのたびにレイドランスが無慈悲にムサシを斬りつける。

マコト「やめて......」

マコトはもう指示を出すことを諦めていた。
タワーはもうすぐそこだ。
だというのに、目の前に立ちはだかる兄がどうしても超えられない。

マコト「やめてよ、兄さん......」

マコトに出来るのは懇願だけだ。
冷たい目で自分を見つめる兄に、助けを乞うことしか出来なかった。
自分が無力なせいで。

自分が、弱いせいで。

ムサシだけじゃない。
ドラギアスも、ギロも、イーグも、アーミーD達も、マコトを信じて待つ仲間達のことも、全部ぜんぶ。

マコトの弱さゆえに、彼らの期待に応えることが出来ない。

マコト「やめろォオーーーーッ!!」

たまらず、叫びを上げた。
怒号のような、悲鳴のような、自分でもこんな大声が出るのか、
とどこか冷静に捉えてしまうような、大きな絶望(さけび)だ。

——気付けば、マコトは白い空間に居た。

マコト「......え?」

夢だろうか。否、寝た覚えはない。
ならば絶望のあまり気絶したのだろうか。
マコトは見知らぬ、なにもない場所に立っている。
いうなれば虚空だ。

その虚空には、ムサシもいた。
くわえて、奥にもう一体。
白い空間に、白いアニマギアがこちらを向いていた。
古いタイプの、甲虫型アニマギアだった。

マコト『むら......まさ......なの?』
ムサシ『——俺の内側にいるのは、お前か』

マコトもムサシも、確信を持って“彼”に問いを投げかける。

白いアニマギア『俺が何者か......そんなことは、どうだっていいだろうがよ』

確かに、どうでもいいのかも知れない。
なんだか不思議な気分だ。突然この虚空に飛ばされたかと思えば、
消えたはずの懐かしい姿のアニマギアが目の前に居ることをすんなりと受け入れている。

......ああそうか、ここはムサシとボクの頭の中なんだ。

なにがどうなって、二人して彼と相対しているのかは分からない。
だけど、ムサシとより深い形でつながり合えたことが、マコトは嬉しくなった。

白いアニマギア『しかし、なんてザマだ』

不思議な高揚感も束の間、白いアニマギアが呆れたように肩を竦める。

白いアニマギア『ずっと。ずっとずっとずっと、だ。永い間、お前の中にいたけどよ、ムサシ。何を恐がってんだ?』
ムサシ『......俺が、恐れているだと?』

だってそうだろう。
白いアニマギア『俺が奪っちまったようなもんだけどな、失った過去ばかり求めて今をまるで向いちゃいねえ。
成長していくマコトのことが恐いんだろう?』

相棒が自分を置いて先に進んでしまう気がして、恐れているのだろう?

ムサシ『そんなことはない。俺はマコトを最高の相棒だと思っている、誇りをもって断言できる!』
白いアニマギア『なら、なんでいまのお前は負けそうなんだ?』

いや、負けたのか。

白いアニマギア『“俺”に支配されそうになって、暴走しかけたことがそんなにキツかったか?
全力を出さねえで、なぜ自信満々にマコトの隣に立とうとする』
マコト『ま、待ってよ。ムサシはよくやってくれてるよ。ボクが弱いから......』
白いアニマギア『“本当にそう”なのか?』
マコト『......え......?』

白いアニマギア『マコト。お前の全力はこんなもんじゃねえ。
タスクは確かにすげえ奴だが、お前はもっとすげえんだよ。自信もて』
マコト『ムラマサ......』

白いアニマギア『だから問題はお前だ、ムサシ。過去を失っただろうが、お前にはまた仲間が出来た。
相棒が出来た。友が出来た。未来を憂う必要なんてどこにもねぇんだよ』

ムサシ『......正直いうと。俺は、このままでいいと思えたことがない。俺には自分がない』
白いアニマギア『なに馬鹿なこと言ってんだよ。自分は自分で作ってきただろ』

マコトにも手伝って貰ったはずだ。
未来のムサシを作るのは過去のムサシではない。
今、ここで戦っている自分自身なんだ。

白いアニマギア『だから俺を恐れるな。なにより自分を恐れるな。お前はお前でいいんだ』

お前がお前を認められるなら、お前ら二人はまだ負けちゃいねえ。

白いアニマギア『もうひとふんばりだ、ムサシ。お前は俺のようにはならない、大丈夫。
自分自身が信じられないなら、お前はマコトを信じろ。それだけでいい』

だから、先に進めムサシ。

ムサシ『......なんだか、気恥ずかしいが。わかった、お前が言うならやってみる』
白いアニマギア『バカ、俺に言われなくてもやってみろってんだ。
本当はこんな形で出てきたくなかったんだけどよ、あまりにもナヨっちいから出てきちまったぜ』

それじゃな、頑張れよ二人とも。
白いアニマギアは背を向けて、右手を軽く挙げた。

白いアニマギア『ああ、そうだ。最後にひとつ言わせてくれ——マコト』
マコト『......なにかな』
白いアニマギア『コイツを頼むよ。世界に見捨てられた気になって、ずっと塞ぎ込んでんだ。
戦う以外はあんまりパッとしねえ奴だが......コイツを、ムサシを、相棒を』

——俺みたいに孤独(ひとり)にさせねぇでくれよな。

EPISODE DE34

彼のその言葉を最後に、白い空間が闇に落ちていく。
視界が黒く塗りつぶされながらマコトは確信した。
自分達は、いまから“本当の戦い”に赴くのだと。

タスク「......なんだ、何が起きた」
レイドランス「理解不能。急に機能を停止したかと思えば、ワタクシの攻撃を全て受け止められました......!」

いつのまにか閉じていた瞼を開く。
同時。
マコトとムサシは、先ほどの叫びとはまったく意味が異なる声を張り上げた。
雄叫びだ。

マコト&ムサシ「うお、おおおおおおおおおおおおおおああああああああッ!!」

レイドランス「な、ニ......!?」
タスク「警戒しろレイドランス、なにか様子がおかしい!」

咆吼に呼応するように。
マコトの右ポケットに閉まっていた箱が電光を走らせた。
出発前、ヤマト達に託された箱が、輝きながらひとりでに開いたのだ。

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 33

黒田「......久しぶりだね、天草キョウくん」

黒田ショウマと呼ばれた男は、真っ先にキョウへと会釈した。
彼の口元は微笑を浮かべていたが、対するキョウの表情は穏やかではなかった。
それもそのはずだ。
黒田ショウマという名前は事情に疎いマコトですら聞かされていた獣甲屋のトップの名前である。
紅葉サクラを拐(かどわ)かし、人類救済を掲げて大規模なテロを企て、
世界の行く末を賭けてキョウと死闘を繰り広げた、その張本人が目の前に居る。
いわば宿敵を前にしたキョウが感情を大きく揺さぶられるのも仕方のないことだ。

ビィギアス「戻ったんですね、ガル!」
ガルギアス「ったりめーだ、あんなとこでくたばってられるかよ。......つっても、
最終的にマスターとジオギアスの手をわずらわせちまったが。悪かったなジオギアス」
フォールン「......貴様が欠けては黒田が困る、それだけのことだ。貴重な戦力である自覚を持ってくれ」
ガルギアス「へいへい......」

キョウ「フォールンジオギアスまで......!」
コジロウ「待った、そのパーツ......まさかフェニックスネオギアスか?」

彼らの登場に驚いた面々が、思い思いの言葉を交錯させる。
アズナやヤマトは事情を理解しているのか、黒田の言葉を待つように俯き気味に黙っていた。

黒田「疑問は尽きぬコトとお察しするがね。それらもまとめて僕から説明しよう」

だからまずは話を聞いて欲しい。
キョウをなだめるためなのか、黒田が頭を深々と下げる。
一同が静まりかえる。
流石にキョウも冷静だった。ギアティクス社・IAAによる全国指名手配という異常事態下では、
相手が誰であれ貴重な情報を逃すわけには行かない。そう考えているのだろう。

黒田「——お気遣い痛み入るよ。順を追って話そうか」

まずはフォックスロアー=ナンバーライトの正体についてだ。

彼はかつて海を渡った大陸で黒田が獣甲屋の活動をサポートするために開発したアンドロイドだという。
黒田自身の思考データをアルターエゴとして搭載した彼は、いわば黒田ショウマのコピーそのものだ。
そして獣甲屋の諜報員としてIAAへと潜り込んだ後、秘密裏にエンペラーギア・バイフーゴウギアスの共同開発を行った。
その後、黒田との連絡が途絶えたらしい。

ヤマト「途絶えた......というのは腑に落ちないな。
フォックスロアーはIAAのトップとして活動していたんだろう?
所在は分かっていたはずだが」
黒田「それについては彼の目的と合わせて最後に明かすとしよう、
ヤマト。まずは僕が何を見て、何と戦ってきたか、だ」

あの黒いアニマギアは、フォールンジオギアス。
かつてキョウ・ガオーと戦い、その機能を停止させたエンペラーギア13号機。
機能停止後、ギアティクス社によって回収され厳重に封印されていたが、
エピックギガマキナを巡る此度の混乱に乗じて黒田がギアティクス社から奪い取り、
再起動させた機体だという。

道中、フォックスロアーが『ロストナンバーズ』と呼ぶエンペラーギア群をけしかけてきたが、
フェニックスネオギアスという別のエンペラーギアと共に状況を切り抜けたのだ。

黒田「しかし奴らにフォールンジオギアスとフェニックスネオギアスが痛手を負わされた」

フォールンは半壊。ネオギアスに至っては思考プロセッサを搭載した核を破壊されてしまったため、
いまではフォールンを改修するためのパーツとしてしか利用出来なくなってしまった。

コジロウ「ネオギアスを破壊——あの再生オバケが壊されたっていうのか!?」
マコト「......あの、ロストナンバーズっていうのは一体......?」
黒田「ああ、キミが晄マコトくんか。ケルベロガルギアスから話だけは聞いていたよ。
......ああいやすまない、質問に答えるべきだな」

黒田はヤマトを見つめながら続ける。

黒田「ロストナンバーズ。僕が設計図まで作成しておきながら開発をしなかったエンペラーギア達のことを、
フォックスロアーはそう呼んでいるらしい」
ヤマト「......技術的な問題や、黒田自身の理念から大きく外れた機体は開発計画をオミットしていたんだ」

黒田の理念。それは人類に永遠の命を与える救済だ。
そのために開発されたエンペラーギアは七体。

試作設計3号機・ブレイズドラギアス。

試作設計5号機・バイフーゴウギアスのそれぞれは対ABFの軍事力として。

試作設計8号機・リヴァイアカイギアスはイデアギアスの量産プラントを守る門番として。

試作設計10号機・ユニコーンライギアスは意識の融合を研究するための機体として。

試作設計2号機・フェニックスネオギアスは永遠の命を研究するための機体として。

試作設計6号機・オリジンイデアギアスは人類という種を導く者として。

試作設計13号機・フォールンジオギアスは、
エンペラーギアそのものを正式ロールアウトをさせるための最初の機体として。

その後、世間から追われる身となった黒田は、安全を確保するために
試作設計4号機・ケルベロガルギアスと、試作設計7号機・バンクルビィギアスを開発していた。
この九体は、その時に必要な『戦闘用の機体』と『計画に直接寄与する機体』であり、
一部のエンペラーギアは設計だけにとどまっていたのだ。

アズナ「開発されることのなかった、失われた機体達......なるほど、ロストナンバーズね」
黒田「ああ。ロストナンバーズはフォックスロアーが単独で開発した者達だ。
僕が制作しなかった残りの機体すべてで構成されている。
僕が戦った奴らは二体のエンペラーギアさ」

試作設計9号機・クラーケンギガギアス。
試作設計11号機・デーモンデスギアス。
たった二体とはいえ、同じく二体の皇帝機・フォールンとネオギアスを一方的に圧倒している。
戦力差はあまりにも大きい。

黒田「僕とヤマトが想定していたスペックを大きく上回る性能だよ、あのエンペラーギア達は」
マコト「ちょ、ちょっと待って下さい!ロストナンバーズ残りの機体全てで構成されているんですよね......
今の話だと二体足りないですよ」
黒田「......試作設計1号機と12号機のことなら、すでにその片割れと晄マコトくんは一度相まみえているよ」
ヤマト「ッ!まさか黒田!」
黒田「ああ、その通りだ。設計段階から大きく形が変わっていたから、僕も最初は判断がつかなかったがね。
あの能力を見て理解した——」

黒田が確信めいた口調で続ける。
フォックスロアー=ナンバーライト、その相棒とされるシャイニングクレイオード。
形こそ違うが、あの中身は試作設計12号機——熾天使をモチーフとして設計された皇帝機。

黒田「——セラフィムレイギアスだ。間違いない」
ヤマト「バカを言うな!!」

珍しく声を荒げたヤマトに、その場の空気が凍り付いた。
ただならぬ事態である理由を、彼自身が口にする。

ヤマト「理論上不可能なはずだ......“永久機関”だぞ......!」
黒田「だが現実としてレイギアスは作られた。
フォックスロアーの自己学習機能が我々人類の頭脳を超えた、という証拠だよヤマト」
マコト「そんな......あのアニマギアがエンペラーギアなんて......」

皮肉にも、黒田の言葉はすべて真実だと思える。
マコトが追われたあのアニマギアが皇帝機であれば、あの無茶苦茶な戦闘能力にも納得がいくからだ。

キョウ「話はわかった......でも、なんのためにそのロストナンバーズって奴が作られたんだよ。
これも全部お前の計画なんじゃないのか、黒田。フォックスロアーはお前が開発したアンドロイドなんだろう」
黒田「信じてくれというのは図々しいとわかっているが、それは断じて違うと言う他ない」

なぜなら、あのアンドロイドは既に黒田自身の手を離れ、新たな目的のために動いているからだ。
黒田は苦々しい表情で続けた。

黒田「僕の掲げた人類救済という目的を、フォックスロアーは既に曲解している。
奴はいま正確には“アニマギアの救済”のために行動しているのさ」
ガオー「あん?オレ達の救済......人間じゃなくてか?」

ビィギアス「はい。フォックスロアー=ナンバーライトはIAAのトップに上り詰めた結果、
アニマギアの永久的保護を目的とした計画を実行しているんです」

ガルギアス「マスターやあんたらみたいな人間を滅ぼし、アニマギアを新人類とした新世界を作ろうとしてるんだとよ。
ッハ、くだらねえにも程があるが、俺達アニマギアが新人類ってことになりゃ
“人類の救済”という当初の目的も果たせるってこった」

黒田「アニマギアをあくまで道具として扱う僕の考え方を奴は唾棄(だき)し、離反した。僕も奴に追われる身なのさ。
フォックスロアーから連絡が途絶えた理由はご理解頂けたかな」

ヤマト「......嫌というほど分かったよ。
アニマギアを代表する二大組織のトップが敵だ、というどうしようもない事実がね」
アズナ「秘書という立場でありながら、その本質に気付けなかった自分が情けなくなるよ」
黒田「それほど奴が巧妙だったということだ、お嬢さん」

ビィギアス「アクターを鹵獲し、暴走させていたのも奴の仕業です。
ロストナンバーズ開発のためのデータ収集といったところでしょう。
こちらの戦力分析や、マスターを舞台に引きずり出すための計画だったんです」

ドラギアス「......そしてまんまと貴様らが姿を現すようになった、
ということか。茶番だな。貴様らを信用する材料たり得るとは到底思えぬ」
キョウ「いや。オレは信じる」

先程まで疑う姿勢を崩さずに話を聞いていたキョウが、意を決したように口を割った。
強い瞳で——睨み付けるのとは違うまなざしで黒田を見つめている。

サクラ「キョウくん......?」
キョウ「お前を許したつもりはないよ、黒田。だけど、話には説得力があった。この状況の説明もついた。
人類救済だとか、新世界を作るだとかオレには到底理解できない......だけど!」
マコト「だけど、奴を止めなきゃ......だよね、キョウ」

キョウ「マコト......ああそうだ、止めなきゃいけないんだ!そのためにお前がここにいるんだろう、黒田!」
黒田「......やはり。僕が見込んだ少年だけはあるよ、天草キョウくん」

力を貸して欲しい。
黒田が改めて深々と頭を下げる。

キョウ「やめてくれ。サクラ姉ちゃんのこと、忘れたとは言わせない。オレはお前を許す気は無い。
だから、お前がオレ達にチカラを貸すんだ」
黒田「フ、フフ......モノは言いよう、という奴だな。わかった」
サクラ「い、いいの!?コイツのこと、信頼できるの!?」
キョウ「信頼はしない、だけど信用はする。......マコトなら、オレの気持ち分かってくれるだろ」
マコト「うん」

マコトは考える間もなく即座に頷いた。
いまなら、痛いほど彼の気持ちが分かる。
それはマコトがかつて通った道だ。
誰かの想いが理解できなくても、前に進まなきゃどうしようもない現実を、
マコトは彼らと過ごす時間の中で良く知っていた。

サクラ「わかった。二人がそこまでいうなら、私も止めない。父さん、あとでお願いが」
ヤマト「......嫌な予感しかしないが、良いだろう」

サクラとヤマトも、黒田を前に決意したようだ。
この場に居る誰もが、戦う覚悟を固めている。

マコト(兄さん......)

ずっと気になっていた。
兄、晄タスクの姿がどこにもない。
仮に彼が必要であれば、アズナが声をかけないはずがない。
聡いマコトの頭脳は、それが一体なにを意味するのかすぐに分かった。

いまこの場にいない彼は、マコト達と敵対する立場——フォックスロアーの仲間だ、ということだ。

マコト「やろう、みんなで......この馬鹿げた計画を止めるんだ!」
ムサシ「変わったな、マコト」

ずっと黙って話し合いの行く末を見守っていたムサシが、マコトの肩から感心した声を漏らした。
彼も、なにかを決意したように言葉を紡ぐ。

ムサシ「仲間を信頼する気持ち、状況を正しく見抜く力、そしてなにより度胸。
出会った頃のお前とはなにもかもが違うよ」

本当に、誇らしい。

ムサシ「俺はマコトの相棒だ。相棒が行くところならば何処にだってついていくさ......!」
マコト「......うん!」

黒田「レジスタンスの決起集会はこれにて終幕......といったところか。フォックスロアーは間違いない、
ギアティクスの本社ビルに拠点を構えているはずだ。こちらから突っ込むとしよう」

——然して。
フォックスロアーを止める。
立場も、性別も、考え方もなにもかもがバラバラな人間とアニマギアが、ただ一つの目的で結束した。

EPISODE DE33

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 32

『——もう一度最初から説明をさせていただく。
かねてより、IAAとギアティクス社で共同開発していた
実験用アニマギア・エピックギガマキナが盗まれるという事件が発生した』

『我々は犯人を追い詰めたが、もう一歩のところで彼らの逃走を許してしまっている。
また、その際犯人はあろうことか、盗み出したエピックギガマキナを破壊して去って行った』

『目的は不明だが、これは明らかにテロ行為の予兆である』

『テロ行為、と断言するのには理由がある。此度の事件は単独犯で行われたわけではないからだ。
複数人による計画的犯行であり、犯人達はここ最近頻発していた暴走アクターの事件にも、
深く関与していることが既に分かっている』

『犯人達は数ヶ月前、世間を脅かした獣甲屋の一員である。
その証左に、彼らはエンペラーギアと行動を共にしていた。
また、まことに恥ずかしながら我々IAA・ギアティクス社内部にも獣甲屋の協力者が複数名確認された』

『本来であればトップである僕が責任を取り、退任すべき事態ではある。
だが、コトの重大さゆえに今はその時ではない。
責任の形として、まずは獣甲屋をとらえ、世界に平和を約束した後に退くつもりだ』

『だから、恥を忍んで国民の皆様にお願い申し上げる。彼らの逮捕に協力をしていただけないだろうか』

『犯行グループの主犯格は2名......天草キョウ、晄マコト』

『驚くべきことに、二人ともまだ未成年ではあるが、どうか油断しないで欲しい。
彼らはトップクラスのギアバトル技術を持ち、共に行動しているバディアニマギアも非常に強力だ』

『いくら子供とはいえ、相手は獣甲屋だ。我々IAA・ギアティクス社も決して油断・慢心をせず、
全力・最短で彼らの捜索・逮捕を全(まっと)うすることをお約束する——』

ヤマト「......以上が、録画されたフォックスロアー=ナンバーライトの緊急記者会見の内容だよ」

ヤマトが自身の携帯端末をスリープモードに切り替えて懐にしまうと、しびれを切らしたガオーが大声をあげた。

ガオー「許せねえ!なんだってキョウ達がテロリストなんて呼ばれなきゃならねえんだ!」

マコト「......」

町外れの工業地帯、そこにある倉庫へと逃げ込んできたマコトは、来て早々にこの映像を見せられて言葉を失った。

事実と違う報道、そしてなにより自分が獣甲屋の一員でテロリストとして指名手配を受けているという状況。
ショックのあまりに立っていることすらやっとの状況だ。

それでもなんとか正気を保っていられるのは、ここにいるメンバーが見知った顔ばかりだからだろう。

連絡をくれたアズナ=オウガスト=キリエ。
紅葉ヤマト。紅葉サクラ。そして天草キョウ。
無論、アニマギアも大勢いた。ガオー。コジロウ。フラッペにコラーテ、イーグにギロ。
ドラギアスの姿もあった。

そしてビィギアス——正式にはバンクルビィギアスと言う、幻獣カーバンクルをモチーフにしたエンペラーギアらしい。
ムサシもまた、正気を取り戻してマコトの肩に座っている。

自分自身を含めて、彼らは皆フォックスロアー=ナンバーライトによってテロリスト認定され、
世間に追われる身となった者達だ。
親はどうしているだろうか。
名前も顔も報道された今、家に帰るわけにはいかない。連絡を取ることも憚られるだろう。

アズナ「マコトくんに説明する必要があるよね、詳しい状況」
マコト「お、お願いします......」
キョウ「......オレも、もう一度聞きたい。アズナさんに先に聞かされてたけど、正直頭の整理が全然追いついてないんだ」

了解、とアズナは倉庫の壁際に寄って、雑に設置されたモニタの電源を入れた。
表示されているのはフォックスロアーの顔だ。

アズナ「まず、最初に説明するね。
私とビタースイーツは、IAAがギアティクス社を買収したときからフォックスロアーの身辺調査を行っていたの」
マコト「身辺調査、ですか」

フラッペ「いわゆるスパイ行為です。ギアティクス社の買収はIAA内部としても急に進められた話だったので、
アズナちゃんとコラーテと共に私達は独自に調査に乗り出したんです」
アズナ「あの人の秘書になってまだ日は浅いけど、
ビタースイーツのマネージャーで培った嗅覚がどうしてもきな臭さを感じずにいられなかった。
この買収には絶対ウラがある、ってね」
コラーテ「実際に買収が行われた後、フォックスロアーは真っ先にギアティクス社内部に補完されていた
エンペラーギア関連のデータを収集してました!アズナちゃんの言う“きな臭さ”は増してく一方だったんです!」

アズナ「それで、キミたちがABFで訓練している間に分かった事実が二つ」

彼女が人差し指をたてると、既に話を聞いているはずの一同の顔色が強ばるのが分かった。
それが当然の反応であることを、直後にマコトは理解する。

アズナ「フォックスロアー=ナンバーライトは人間じゃない」
マコト「......は?」
アズナ「あらゆる方法で彼の生活パターンを長期間にわたって監視と記録をした結果、
“あれ”は一切食事を取らず、睡眠も取っていないの。生物学的にありえないよ、そんなこと」
フラッペ「そこで、こっそり会長の体をスキャンさせてもらったんです」
コラーテ「あのときはヒヤヒヤしました......」
アズナ「フラッペ達がスキャンしてくれたデータがこれ」

画面が切り替わると、フォックスロアーの皮膚が透けているような写真になった。
驚いたのはその皮膚の下に隠れていた機械の塊だ。

マコト「ロボット......?ま、まさか!」
アズナ「そう、彼はアンドロイドだった。そこにいる紅葉サクラちゃんみたいなね」

コジロウ「なるほどねぇ。若くして大組織のトップまで上り詰めた天才......文字通りからくりがあったってワケっしょ。
驚きすぎて逆に冷静になれるってカンジ」
ヤマト「私達も彼女から聞かされたとき、正直信じられなかったよ。
だがそのスキャンデータを見て嘘偽りない真実だと確信した」

データから見て取れる構造が、まさしくサクラと同じ設計で作られているからだ。
ヤマトは眉根をひそめて続ける。

ヤマト「私と黒田ショウマ......獣甲屋の首魁(しゅかい)が共に設計した体だよ、あれは」
サクラ「......」

獣甲屋についても、黒田という男についてもマコトは詳しくない。
だが。
いまの話を総合すると、フォックスロアーというアンドロイドを作ったのは黒田、ということになるのだろうか。

マコト「あれ?まって、それじゃあIAAの会長って獣甲屋ってこと、ですか?」
アズナ「......そういうことになる。それが二つ目の事実だよ」
フラッペ「彼が獣甲屋のアンドロイドだと判明してから、私達はずっと準備していたんです——彼を告発する準備を」
コラーテ「でも、キャンサイファーとゴクラウドを“使った”陽動作戦で煙に巻かれちゃいました。
私達の動きにあちらも気付いてた......ってこと、みたいです」

アズナが額に手をあて、痛ましい表情で頭を横に振った。

アズナ「先手を取られて、今度はこっちが追われる身......先に怪しい動きに気付いていながら本当に情けないよ。
ギアティクス社の人達にも山ほど迷惑かけちゃって......」
ヤマト「キミが気に病むことではない、キリエさん。与えられた職務と、
全うすべき課題の板挟みのなかでよくやってくれたよ」

実際、アズナの声かけによって難を逃れた者達がこうしてこの倉庫に集まっている。
彼女が先んじてフォックスロアーの調査を行っていなかったら......そう考えると怖気(おぞけ)が走った。

ドラギアス「それはそうと不可解だな。
獣甲屋のアンドロイドが我らを逆に獣甲屋だと宣言した、ということか?一体なんのために」

???「それについては僕から説明しよう」

倉庫の入り口から、耳馴染みのない声が木霊する。
声を発した人物を見ると、マコト、ガオー、ムサシを除いた全員に緊張が走った。
黒い長髪、痩身、髪色同じく黒に染まった服装の男が、二体のアニマギアと共にそこにいた。

キョウ「黒田......ショウマ......!!」

EPISODE DE32

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 31

マコト「い、一緒に逃げろったって、一体どうすれば......」
アズナ『上空から急速接近する熱源反応あり......!!ダメ......間に合わない......!!』

アズナの言葉に追従するように、マコトは空を見上げた。
そこには、先程まで存在しなかった影がある。

???「......目標を発見した」

これより粛正を開始する。
物々しい言葉を発したのは、その影だ。
クリアのニックカウルに、両腕に刃を備えた四本角の機体。
陽光を受けて光り輝くアニマギアが、宙に浮かんでいた。

EPISODE DE30

そのアニマギアがゆっくりと両腕を前に構えると、刃の切っ先に光が集まっていく。
まるで小さな太陽のように、眩い光球が生み出されていた。

???「照準、補正。システムをマニュアルからオートに変更——」

光の球を構え、狙いを定めた先にいたのはエピックギガマキナだ。

???「——対象を破壊する」

冷たい機械音声が木霊(こだま)すると同時、光の球が急速に収縮し消え失せる。
直後、エピックギガマキナを中心に半径三メートルが爆ぜた。

マコト「ムサシ!!」
アズナ『やられた......!』

ギガマキナは半身を失い、近くにいたムサシが衝撃に巻き込まれて吹き飛ばされている。
どちらも機能を停止してその場にくずおれた。

コジロウ「なんだってんだよ!」

爆発を回避していたコジロウがムサシを回収し、即座にマコトのもとへと戻ってくる。
半身を失ったとはいえ、エピックギガマキナの巨体まで連れて来るのは叶わなかった。

マコト「あのアニマギアは......!?」
アズナ『シャイニングクレイオードよ!!フォックスロアー=ナンバーライトの右腕!!』
コジロウ「フォックス......って、ギアティクス社とIAAのトップっしょ!」

クレイオード「残存勢力を確認。粛正プロセスからプランA2に移行、承諾」
マコト「わぁ!?」

クレイオードが地面に降り立ち、切っ先から光線をいくつも生み出した。
その光線が地面を横切ると、そこから爆発が連鎖して自分達を追い回してくる。

軌道が読める分、マコトの目をもってすれば逃げ回るのは容易い。

コジロウ「ちょっとまて、なんでそのお偉いさんの右腕が俺達を攻撃してくるんだ!?」
アズナ『言ったよね、説明は後だって!とにかく逃げて!!』
コジロウ「やれやれ、了解......行くぜ、マコトっち!」
マコト「う、うん!でも......!」

不思議なのはクレイオードの攻撃に“そこまでの”殺意を感じないことだ。
こちらを排除するというよりは、追い詰めることだけが目的のような印象。
だからといって気を抜けば間違いなくただ事じゃ済まない......そんなギリギリのラインで攻撃してきている。

マコト「なんか変だよ!まるで何か別の狙いがあるみたいな......!」
コジロウ「四の五の言ってらんねーっしょ!!アイツ、攻撃力だけじゃなくて速度もめちゃくちゃ半端ないぞ!
なんとか逃げ道探さねえと!」

コジロウの言うとおり、クレイオードは俊敏さも凄まじい。
常にマコト達を中心に円を描くように移動しており、方向転換をすれば必ずクレイオードが正面に躍り出る。
その上、じりじりと距離を詰められているようだった。
直線的に突っ込んでくれれば逃走ルートが生まれるのだが、このままでは一方的に追い詰められるだけだ。

コジロウ「万事休すっしょ......ッ」

退路はないに等しい。
こちらの戦力はコジロウ一体。相手はどう甘く見積もっても規格外だ。
どうしてこんなことになったのだろうか、という考えをマコトが口にする前に“それら”は来た。

コジロウ「っ!?」

眼前に生まれたのは熱だ。
自分達とクレイオードの間。
クレイオードが生み出す爆発とは別に、円柱状の炎が来る。
その炎はすぐさま四散し、代わりに中心から二体のアニマギアが現れた。

マコト「あ、あいつは!」

一体は見覚えがある。
三つ首の狗型アニマギア——間違いない、ドラギアスと刃を交えたエンペラーギア、ケルベロガルギアスだ。
その傍らにいるのは、ピンク色をした四つ脚のアニマギア。
......あれもエンペラーギア、なのだろうか。

???「まままっ、まじで飛び出しちゃいました、どどどうしましょうガル!?」
ガルギアス「あーあー、勢いでまんまと誘き出されちまって。ビビるぐらいなら黙って見てりゃ良いのに。
隠密・監視が俺らの仕事だろーがよ、ビィギアス」
マコト「......ビィギアス」

ピンク色のアニマギアがビィギアスと呼ばれたことで、先の疑問は答えを得た。
やはり、あれもエンペラーギアということだろう。

コジロウ「ここに来てエンペラーギアか......。予告無しで助太刀に入った俺がいうのもなんだが、
いくらなんでも乱入者が多すぎっしょ......ここはパーティ会場かね」
ガルギアス「ああいや、勘違いしてもらっちゃあ困るぜ赤いの。俺らは、」
ビィギアス「ぼくらは味方です!」

エンペラーギアが、味方。
その言葉を鵜呑みにするほどマコトは単純な思考の持ち主ではない。
それはコジロウも同様だったらしい。

コジロウ「あぁ?さすがにそれは冗談キツイっしょ」

ビィギアス「疑うのは当然と存じます!ですが、ぼくらはあなたがたを安全に離脱させるために馳せ参じました!」

アズナ『......口を挟むようだけど、どうやらそこに現れたらしいエンペラーギアの言葉は真実みたい。
こっちにも使いが来た。ひとまず信じて良いよ』
マコト「アズナさんまで......」

ガルギアス「......いやだから、隠密・監視が任務であってだな」
ビィギアス「うるさいですよガル!状況次第で臨機応変に対応しろというのがマスターのお考えです!!」
ガルギアス「へいへい——」

クレイオード「“目標”の出現を確認。プランA-2からプランB-1への移行、承諾」

二体のエンペラーギアが現れて以来、静止していたクレイオードが再び動き出した。
猛スピードで乱入者達に向かって突っ込んでいく。
それにいち早く反応したのはガルギアスだった。
人型への変形を即座にこなし、クレイオードの刃を爪で受け止めている。

ガルギアス「——っとぉ!っぶねぇなァ!!」
ビィギアス「さぁ少年くん達!ぼくについてきてください!」

コジロウ「はぁ......だってよ、マコトっち。どうする」
マコト「アズナさんも大丈夫だって言ってるし、従ってもいい......と思う。
会長の右腕が何故ボクらを襲ったのか分からないし、状況を把握するためにも今は退こう......!」
コジロウ「あいよ。ムサシは任せるっしょ」
マコト「ありがと、コジロウ」

話はまとまった。
クレイオードがガルギアスに集中している今ならば、なんとかこの場を離脱することが出来るだろう。
マコトはムサシを胸ポケットにしまい、コジロウを肩に乗せて、ビィギアスに向かって頷いた。

マコト「ビィギアス、だったよね。よろしく」
ビィギアス「素直な子は大好きですよ、こちらこそよろしくお願いします」
アズナ『......こっちも移動する。合流先は多分、そこのエンペラーギアが知ってるはず』
マコト「了解しました、アズナさん。キョウ達は大丈夫なんですか?」
アズナ『心配しないで、こっちで保護してるから。それじゃあ通信切るよ、無事を祈ってるからね、マコトくん』
マコト「......はい!」

ガルギアスとクレイオードの戦闘が熱を帯びてきたのか、それとも目的が変わったのか、
敵がマコト達を気にかける様子が一切無い。
逃げるなら今だ。

ビィギアス「ガル、殿(しんがり)はお任せしますよ!」
ガルギアス「ったく随分と勝手言ってくれンなァ、ビィギアス!?」
ビィギアス「でも、出来ますよね?」
ガルギアス「出来ねーわけねエだろうが!さっさと行っちまえ、あとで合流だ!!」
ビィギアス「さっすが、頼りにしてますよ!では、ご武運を!」

ビィギアスに導かれるまま、マコト達は戦場を後にする。
行き先はどこか分からない。
だが、その方向から察するに、ギアティクス社やABF、
そしてマコトの自宅がある街に向かっていない、ということだけは確かだった。

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 30

エピックギガマキナの猛攻、その窮地からムサシを救った光の砲撃。
射手の名をデュアライズギラフォルテ。
自らコジロウと名乗ったそのアニマギアは、どうやらムサシとは既知の仲らしい。

EPISODE DE30

近距離・長距離問わず射撃をメインとした戦いを得意とするコジロウは、息つく間もなく戦局に介入した。

コジロウ「助太刀するぜムサシちゃん!」
ムサシ「お前だったか、コジロウ!助太刀は有り難いがしかし!ちゃん付けされるほど仲良くなった覚えはない......ッ」
コジロウ「またそれかよツレないぜ兄弟!ま、俺のコト忘れたのならもう一回仲良くなっちまえばいいのよ!!」

キャンサイファー「ギアティクス社の掃除屋まで出てきたとなると、こちらもギアを上げていかねばなるまい......」
ゴクラウド「ダッハハハハ!!面白ェ、新顔もまとめて相手してやらぁ!!」

マコトはムサシが記憶をなくす以前のムサシを未だによく知らない。
どんな戦いを経験してきたのか、話で聞かされたことはある。
しかしどうしても、今のムサシと話に聞いただけの昔のムサシがうまく結びつかなかった。
まるで靄がかかっているような、そんな気分だった。

だから、昔の彼を知る者が現れると、その靄が少しずつ晴れていくような気がする。
また一つ、ムサシのことが理解できるのだと思うと嬉しくなった。

キャンサイファー「脆弱な第三世代共、ワシら直々にここで終わらせてくれる」

言いながら、ギガマキナがコジロウに対してハサミを振りかざした。
激突する瞬間、コジロウの腕に装備された小型機関銃が放たれ軌道が逸らされる。
結果としてコジロウは最小限の動きで攻撃をやりすごして見せた。

コジロウ「ッハハ。第二世代相手なら同じ第二世代っしょ、アップデートした俺の活躍お見逃しなくって奴だ。
なんならムサシちゃんはゆっくり休んでな」
ムサシ「生憎(あいにく)俺は、言われっぱなしやられっぱなしで黙っていられるほど出来たアニマギアではない......
あまり舐めてくれるなよ......!!」

ギガマキナがムサシを攻撃すれば、コジロウがカバーに入る。
逆にコジロウが狙われれば、その隙を突いてムサシが敵を攻撃する。
二対一という数的有利を最高効率でこなしていく二人の姿はまるで踊っているようにも見えた。

マコト「すごい......息がぴったりだ......!」
コジロウ「お、キミが新しい兄弟の相棒のマコトっちだな?お噂かねがね聞いてるぜ。
弟が世話になってる、礼を言うっしょ」
ムサシ「だから!弟になった覚えはない!!」

憎まれ口を叩くムサシだったが、マコトには彼がどこか喜んでいるように思える。
自分の知らない相棒の姿を見るのは新鮮で、マコト自身も嬉しくなっていた。

ゴクラウド「叩きの最中にゴチャゴチャと!!テメーら真剣に戦いやがれ!!」
ムサシ「こちらは徹頭徹尾、朝から晩まで真剣だエピックギガマキナ!!貴様も俺を愚弄するなら容赦せんぞッ!!」
マコト「あ、ムサシ!?」

ゴクラウドの声に煽られたムサシは、感情が昂ぶったのか先に見せた野性的な戦い方にシフトしていた。
単身飛びだし、ギガマキナに真っ正面からぶつかりに行く。
コジロウとの連携は放棄してしまったようだ。

驚くべきは、マコトの指示やコジロウのフォローを必要とせず、いまはほぼ互角に渡り合っているところだ。
一人では敵わなかったはずなのに、先ほどよりも動き自体は洗練されているのだ。

コジロウ「あー、まずいな?報告は聞いてたけど、ちと“混ざって”るっしょ、アレ」
マコト「混ざってる......って?」
コジロウ「マコトっちは知らないんだっけか。ムサシちゃんを改修するのに、
前の機体のパーツとは別に、他の機体の部品も使ってるのよ」

先の検査で、ムサシの潜在意識にその他の機体の意識が入り込んでいることが分かったらしい。
それに伴って機体の調整が行われたが、日に日にその“他者の意識”が蝕むようにムサシの精神を侵しているのだという。

マコト「そんな......その意識を消すことは出来ないの......!?」

コジロウ「いや、そもそも消す必要はないんだマコトっち。ムサシちゃんがそいつと真正面から向き合うことが出来れば、ムサシちゃん自身のチカラの底上げに繋がるんだとさ。
そのための調整だったんだが、あの様子を見るとどうやらまだ調整するには早かったっしょ」

なにせ、マコトにも分かるくらい戦い方がめちゃくちゃだ。
強いには強いが、あれでは先に体の方にガタがくる。

コジロウ「ああだめだ、見ちゃいらんねぇ。
オニーサン、ちょっと興奮した弟止めに行ってくるわ。デカブツの相手もしてこなきゃあな」
マコト「——ちょっと待って!」
コジロウ「......あん?どうした、マコトっち」

戦場に戻ろうとしたコジロウを、マコトは呼び止めざるを得なかった。
ムサシの中に眠る『他者の意識』、その正体にある予感があるからだ。

マコト「ムサシに部品が使われてるっていう、別のアニマギア......名前、知ってるかな」

初めてムサシと出会ったときの感覚。
背後から刺されたかのような衝撃。
デュアライズカブト型、というだけではない既視感。
まるで亡霊に出会ったみたいな、寂しさと懐かしさが入り交じった、あの感覚の、その答えが——。

コジロウ「獣甲屋にいたデュアライズカブト型の機体だよ。ムラマサって奴さ」

——いま、マコトの中で確信に変わったのだった。

コジロウ「じゃあ行くっしょ、もし良かったら俺にも指示頼むぜマコトっち!」

ムラマサ。
「獣甲屋にいた」という言葉だけで、兄に捨てられた後のムラマサがどんな道を辿っていったのか想像に難くない。
だが、何の因果か彼の意志はいま自分の相棒に宿っている。

マコト「——わかった!ムサシを頼むよ、コジロウ!」
コジロウ「......おうさ!」

ムサシの荒々しさは度を超していく一方だ。
いまや言葉を発することすらなく、雄叫びのような怒号をまき散らしながら戦っている。
暴走、といえばそうなのだろう。
ムサシの自我が機能しているとは到底思えない。

だが、彼の中にムラマサが本当に生きているのであれば。
そして、ムラマサとムサシの過去に何かがあったのならば。

必ず、彼は克服する。
その信頼が、いまの自分達にはある。

マコト「ギガマキナの動きは読めなくても、ムサシの動きなら全部分かってる......
ムサシが敵についていけるなら、ムサシの動きにこちらがあわせれば......!」

だから、いま自分に出せる全力をぶつけることにした。
敵だけじゃなく、ムサシにも。

マコト「コジロウ!ムサシが構えたら敵の反対側に回り込んで!!」
コジロウ「なるほど、了解だ!」

コジロウのレスポンスも悪くなく、自分の想像通りに動いてくれていた。
さすがムサシと兄弟機を名乗るだけはある。
まるでコジロウとも昔から共に戦ってきたような安心感があった。

ムサシ「うお、おおおおおがあああああああああああッ!」
キャンサイファー「ぬ、ぐう......!」
ゴクラウド「こらえろジジイ!マジでシャクだがこの姿のオイラ達は最強だろ!?」
コジロウ「最強、最強ね!サルカニちゃんには申し訳ないが、俺達はもっと強い奴を山ほど知ってるっしょ!」

エピックギガマキナと二体のアニマギアが互角に渡り合っている。
このまま行けば、勝利への活路が開かれるかも知れない。
敵がツインクロスアップシステムを発動した時の絶望感はどこにもなかった。

が、その時だ。

マコト「こ、こんなときに......通信......キョウからだ!」

マコトの携帯端末に、キョウからの着信がある。
恐らく彼らもこちらに近付いているのだろう、という予測で通信を開くと。

マコト「キョウ!いまキャンサイファーとゴクラウドが、」
???『——マコトくんね!?』

マコトの言葉を遮って飛び出してきたのは予想だにしていなかった声だった。
聞き覚えのある女性の声。

間違いない、アズナ=オウガスト=キリエだ。

マコト「あ、アズナさん!?どうしてキョウの端末から......」
アズナ『こまかい説明はあと!!今すぐムサシくん達を連れてそこから逃げて!!』

随分と切迫した様子でアズナがまくし立てた。

マコト「に、逃げるったって、いまムサシとコジロウが敵を」
アズナ『違う、そうじゃないの!“彼らは敵じゃなかった”!!言ったでしょ、ムサシくん“達”を連れて逃げて、って!!』

ゴクラウドとキャンサイファーも共に連れて、早急にその場から離脱して。
あまりにも唐突で意味不明な彼女の要望が、マコトを混乱させるのに、そう時間はかからなかった。

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 29

ゴクラウド「やいジジイ!アンタが『逃亡後は別行動で二度と会わない』って言い出したんだぜ!?
それがどうしてオイラの前に現れやがったんだ!!」

現れた黒い蟹のアニマギア・アシッドキャンサイファーの姿を見るなり、
モンキーゴクラウドは詰め寄りながら激昂している。
マコトには近寄りがたい空気だ。ムサシをハンドサインで下がらせて、こっそりと剣を回収させる。
その回収を咎める様子もなく、ゴクラウドはキャンサイファーへ怒りを向けることに夢中だった。
先程まで戦いを楽しんでいた余裕など忘れてしまっているようだ。
まるで瞬間湯沸かし器である。
どうやら事前に聞いていた二体の仲が悪いという話は真実らしい。

キャンサイファー「“逃亡後は”の。お前さん、見たところ囲まれておったようだが?
これでは逃亡後とは言えんだろ、逃亡中だ逃亡中」
ゴクラウド「屁理屈はやめてもらおうか!今からこのカブトムシクンぶっ倒して雲隠れって算段だったんだよ!!」
キャンサイファー「アホ猿は相変わらずうるっさいのぉ......」
ゴクラウド「こっ、ち、の、セ、リ、フ、だ!!」

口論の激しさに忘れてしまっていたが、いまのやりとりを聞いてマコトは我に返った。
......そうだ。
キャンサイファーの言うとおり、彼らはいままさに“逃亡中”のはずだ。
だとすれば足りないものがある。

マコト「キョウやガオーがいない......捜索隊をまいてきたのか!?」
キャンサイファー「ああ、あの童どもか......まったくしぶとい奴らよ、ワシの行く先もバレておるわ。
そう時間を待たずここに到着するだろうよ」

まぁ、水中を移動出来ない分、時間はかかるだろうが。
キャンサイファーのその言葉を受けて、ゴクラウドは嘲りながら相手を罵倒した。

ゴクラウド「ダッハハ!ジジイもオイラのことバカにできねーじゃねえの!アンタもさっさと逃げたらどうだ!?」
キャンサイファー「だから、逃げてきただろうに。目的地にはもう到着したことだしの」

は?......と、その場に居る全員が揃って疑問符を口にした。
そして直後、マコトは恐ろしい事実に思い至る。
キャンサイファーが目的地に到着した、それはつまり。

キャンサイファー「......“ワシの目的地は貴様だ”と言ったのだ、ゴクラウド」
マコト「まずい——」
ゴクラウド「あ、ジジイまさか......やめろ!!その手はオイラ使いたくねえ!!」

モンキーゴクラウド。
アシッドキャンサイファー。
この二体の共通点は、IAAとギアティクス社で共同開発された実験機体だ。
それは果たして、なんの実験だっただろうか。
思い出すという行為すら必要ない、なぜなら“敵”は“二体”いる。

マコト「——“ツインクロスアップ”だ!!構えてムサシ!!」
ムサシ「ッ!了解した!!」
キャンサイファー「いま一度、ひとつになろうぞゴクラウド!!」
ゴクラウド「やめろぉおおおおお——ッ!!」

然して、マコトの考えはまたも現実の光景となる。
キャンサイファーの体がバラバラに分解され、ゴクラウドの体に引き寄せられていく。
呼応するように、ゴクラウドの体が変形。
それに伴って、強烈な電磁波が一帯を青白く染めた。

EPISODE DE29

電光がおさまる。
先程まで光の中心に居た二体のアニマギアが、一体の巨大なシルエットへと変貌していた。
両腕に黒いハサミを有する、大猿のアニマギアだ。

マコト「あれは......本当にツインクロスアップ、なの......!?」

現在、正式に採用されているツインクロスアップシステムと大きく異なるのは、
二体のアニマギアが高い割合で合体している、ということだろう。
パーツ単位での追加装備とはワケが違う。
恐らく以前確認されたと聞いていた合体エンペラーギア・ユニコーンライギアスの技術をベースにしているからだ。

ゴクラウド「やいジジイ......アンタ、オイラを利用しやがったな......」
キャンサイファー「まぁそう邪険にするな、ワシだってこの力は本意ではない——
なんなら、ヌシに全ての追っ手をなすりつけてワシは一人逃げるつもりだった」

ゴクラウド「くそったれ......!」
キャンサイファー「つもりだった、のだ。聞け......ヌシは此奴らを蹴散らしたい。ワシはワシで逃げおおせたい。
これらの状況を打破して目的を達成するには、こうするのが一番だとは思わんか?」
ゴクラウド「......こうなっちまったもんは仕方ねえ。きっちりカタをつけて、その後は本当にお別れさせてもらうぞジジイ」
キャンサイファー「応ともよ」

大きな口から、二体のアニマギアの声が聞こえてきたことにも驚きを禁じ得なかった。
お互いに喋ることが出来るといえばムサシとギロのツインクロスアップだが、それとは性質がまるで異なっているようだ。

ムサシ「二つの意識が融合することなく、一体のアニマギアに共存しているのか!」
キャンサイファー「然(しか)り、だ。“我ら”が名は『エピックギガマキナ』——
これこそが、IAAとギアティクス社によって生み出された原初のツインクロスアップというわけよ。不愉快極まりないが、これはこれで便利なモノぞ」
ゴクラウド「自慢は終わったかジジイ!ならさっさと終わらせるぜ!?」

エピックギガマキナを自称したその大猿は、唐突に恐るべき速度でまっすぐムサシに突っ込んでくる。
ムサシはそれを真正面から受け止めようと二つの剣を交差させて構えた。

ゴクラウド「ダッハハハハ!!」

それを見切ったのか、敵がその巨体をムサシの小さな懐に滑り込ませる。
直後、ムサシを巻き込みながら高く跳んだ。
アッパー攻撃だ。

マコト「そんな!?」

その脚から生み出される跳躍力は、先ほどゴクラウド単体で見せたそれとは比にならない。
太陽を背に降りてくる巨体が、間髪入れずに上空からムサシの体に右のハサミをぶちこんだ。
周囲の小石がはじけ飛び、クレーターが生み出される。

ムサシ「があああああああッ!!」
マコト「予備動作がまったくない......動きが読めない!!」

マコトの行動予測は相手の僅かな予備動作を、人並み外れた動体視力と洞察力で導き出す技術だ。
アニマギアにしろ人間にしろ、自分の考えで行動している以上は次の行動に移る際は必ずその兆しが動きになって現れる。

しかし、ギガマキナは行動から行動への予備動作がまったくなかった。
見えづらい、読みづらいなどという次元を超えている。
予備動作そのものが存在していないのだ。

その証拠に、大猿は再びマコトの観察眼をかいくぐって動きの読めない攻撃をムサシにぶちかました。

ムサシ「ぐッ......う!!」
マコト「ムサシ!」
キャンサイファー「キョウとかいう童よりも目に自信があるらしいが、
ワシらのこの姿にその予測は通用しないと考えた方が良い」

敵の猛攻は続く。
一度体勢が崩れたムサシには為す術がない。

ゴクラウド「まったく、気持ち悪ィんだよこのスイッチングって奴はよォ!」
マコト「スイッチング......!?」
キャンサイファー「ワシらは体の支配権を共有しておる。
内部のシステムが常に戦闘状況を監視し、互いの思考を比較検討するのだ」

そして、ゴクラウドとキャンサイファーの思考の内、システムが最適とした行動を自動的に反映させる。
行動の最終決定に自分達の意思が介在しないのだとギガマキナは説明した。

ゴクラウド「オイラ達からすりゃ体が勝手に動くみてえなもんなんだよ!
だからジジイとの合体は気持ちが悪くて仕方がねえええ!ああああむしゃくしゃする!!」

怒りを口にしながらも攻撃の手が休まることはない。
本当に体と思考が別々で動いているんだ、とマコトは理解する。

マコト「ボクの力が......通用しない......なんて......一体どうすれば......ッ」
キャンサイファー「こうなっては指示もクソもないな。さあゴクラウド、ワシらの安寧のために終わらせようぞ」
ゴクラウド「ああ、ああ!まったくもって同意だ、異議無し、大賛成だ!
悪いがカブトムシクン、ここで沈んで貰うぞッ!!!!」

ハサミで掴まれたムサシの体が、上空に投げ飛ばされた。
今度こそおしまいだ。

......ボクはまた、大切な友達を失うのか。

走馬灯のように脳裏によぎるのは、白いデュアライズカブト。
兄の相棒でありながら、親友のように過ごしたムラマサの姿だ。

マコト「ごめん、ムサシ......!」

マコトが己の無力さに絶望しかけた、その時だ。

キャンサイファー「むうっ!?」

図太い光の束が飛来し、ムサシを追って跳躍した大猿の脇を掠めた。
体勢が崩れたギガマキナは、追撃を諦めて着地。
すぐさま、光の束が放たれたであろう方向へと構えた。

ゴクラウド「誰だッ!!」
???「——謝るのは早計ってもんだぜ、少年」

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 28

マコトとムサシが、モンキーゴクラウドの捜索隊と共に辿り着いたのは、巨大な湖のほとりだった。
山の麓に位置するこの湖畔は、周囲が砂利と呼ぶには大きすぎる小石が敷き詰められている。
マコト達は壮絶な追跡の末、遂にゴクラウドを追い詰めることが出来た。
ゴクラウドの背には湖。
そこから半円状に、ムサシを含めて十体のアニマギアが取り囲んでいる。
取り囲んではいる、が——

ゴクラウド「ダッハハハァ!どうしたどうした、もうバテたってぇのかい!!オイラはまだピンピンしてっぜ!?」

——しかし、どうしてもこれ以上近付けない。お世辞にも戦いやすい足場とは言えないが、理由は別にある。
モンキーゴクラウドは近接特化のアニマギアだ。
黄色いニックカウルで構成された長い腕。
尻尾を変形させた棍(こん)。
そして俊敏な動きを可能とする優秀な体幹とバネが、こちらの攻撃をことごとく無効化する。
近接攻撃はもちろんのこと、遠距離攻撃ですら避けることなく棍を使って弾き返してしまう。
その豪胆さに、マコトは歯がみしながらその実力の高さを思い知った。

マコト「どうしても近付けない......!」

並のアニマギアであれば取り囲んだ時点で勝ちは確定していたはずだ。
しかし、ゴクラウドは十対一の数的有利を覆すほどの力を備えている。

マコト「これが“第二世代”アニマギアの力、なのか!?」

モンキーゴクラウドとアシッドキャンサイファーは、
いま流通している第一世代と第三世代のアニマギアとは違うと聞かされていた。

彼らはデュアライズカブトD(ダッシュ)やガレオストライカーDよりも前に開発されている。
そして、ツインクロスアップシステムを搭載していながら、その設計は表立って流通することのなかった、
幻と呼ばれる第二世代がベースになっているらしい。
第二世代はその全てが戦闘に特化され研究・開発を重ねられているため、
よりピーキーな調整が施されているということだ。
第二世代と第三世代の特徴がハイブリッドされた、いわば二・五世代といったところだろう。

捜索隊員「くそ!ギガラプト、連続砲撃で距離を詰めろ!」
ゴクラウド「そうこなくっちゃあな!お相手させてもらおうじゃねえの!!」

しびれを切らした捜索隊員の一人が、バディのバスターギガラプトに指示を飛ばす。
その声にあわせたギガラプトが、キャノンからいくつかの弾を吐き出しながら前へ出た。
数で勝っているならば力で圧倒できると踏んでのことだろうが、マコトとムサシはすぐに危険を察知する。

ムサシ「ダメだ!いま前に出たらやられるぞ!」
マコト「仕方ない!ムサシ、ボクらも続こう!ギガラプトの後方から走って!!」
ムサシ「やむを得ん......ッ!」
マコト「タイミングは——」
ムサシ「——みなまで言うな!大丈夫だ!」

有り難い。
戦闘中ではあるが、そのムサシの反応に嬉しさがこみ上げてきた。
訓練の成果といえばそれまでだが、多くを語らずともこちらの意図を汲んでくれる彼の存在が誇らしくなる。
そしてまさにマコトの意図通りの動きをムサシがしてみせた。

ムサシ「御免ッ!!」

自身の砲撃がゴクラウドの棍によって打ち返され、被弾しよろけるギガラプト。
恐竜の背後から頭を飛び越えるようにムサシが跳躍する。
完璧なタイミング。
このまま一撃を喰らわせる流れ、かに思えた。

ゴクラウド「味方を盾にするのは頂けねえなあ!?
統率の取れた部隊気取りなんだろうが無駄!まったくの無駄だぜ!!」

ゴクラウドもまた完璧といえるタイミングで同時に跳躍している。
ムサシよりも高くだ。
即座にムサシは視線を上に。剣を構えて攻撃に備えた。
猿が棍を振り下ろす。

ゴクラウド「てめぇええらのその曲がった根性、オイラが叩き直してやんよォ!!」
ムサシ「ぐ......ッ!!」

EPISODE DE28

ゴクラウド「ダッハハ!まー良くツいてくるじゃねえのカブトムシクン!!」
ムサシ「が、ああ、あああああ!!」

ムサシが無理矢理ゴクラウドの棍を押し返す。
しかし反動で片方の剣を取り落とした。

マコト「ムサシ!?」

いつものムサシであれば得物を落とすなど考えられないことだ。
力任せに剣を振るえば武器を落とすこともありえるだろうが、
本来の彼は剣を落とさぬよう、繊細な技術で最大限の力を発揮しているはずだ。

......それほどまでにゴクラウドのパワーが凄まじいのか、あるいは。

マコトの思考が逡巡するなか、二体のアニマギアが着地する。
どちらもすぐさま動き出せる体勢だ。ゴクラウドはムサシに目もくれず、隊列が乱れた周囲のアニマギアへと襲いかかる。

ゴクラウド「ホォオオアタァアアーッ!!」
マコト「止めて、ムサシ!!」
ムサシ「む、う......ッ!!」

ムサシがゴクラウドを追い回すが、その甲斐むなしく。

ゴクラウド「次、次次、次次つぎつぎィ!!」

突如生まれた動きに対応しきれずにうろたえたアニマギア達は、
ゴクラウドに不意を突かれる形で次々と無力化されていった。

捜索隊員「こ、こんなことがあっていいのか......どれもABFの精鋭機体だぞ!?」
マコト「無茶苦茶だ......!」
ムサシ「————ぉ、おおお、ぉおおおおおおッ!!」

ムサシが声を荒げながら、あろうことかその場に剣を捨ててゴクラウドに殴りかかった。

——“やっぱり”。

マコトは先程から覚えていた違和感を異常として確信した。
ムサシの様子が明らかにおかしいのだ。
受け答えはまともだし、指示にも正しい反応を返してくる。
しかし。

ゴクラウド「これでオイラとサシだぜぇカブトムシクン!」
ムサシ「貴様はッッ!!俺が止めるッッ!!」
マコト「落ち着いてムサシ!どうしちゃったんだよ!」

なにか想定外のことが起きるたびに荒々しい様を露わにしていた。
まるで熱に浮かされたように——内なる何かに突き動かされるように。
普段の冷静さがどこにも見当たらない。

ムサシ「ぐ、うッ......俺にも、分からん!だが、“衝動”が抑えられない......!!」
マコト「まずは剣を持って!一度体勢を立て直そう!」
ムサシ「う、り、了解......!」
ゴクラウド「おっと!」

ゴクラウドが跳躍し、宙で翻りながらムサシの背後へと降り立つ。
棍を再び尻尾へと戻すと、退路を断つといわんばかりに両手を拡げて見せた。

ゴクラウド「そいつはさせねェぜ!
折角あったまってきたところだ、漢(おとこ)ならステゴロタイマンといこうじゃあねェの!!」
マコト「来る、ムサシッ!」

問答無用でゴクラウドが殴りかかった。
敵の右拳に対して、こちらもまた右拳で応じる。
圧されつつも吹き飛ばされずに済んだのは、対ゴクラウドを想定して事前に機体の調整をしてもらったおかげだろう。

ムサシ「くそ、やるしかない!!」

ムサシが強引に向こうのペースに引き摺り込まれるのを肌で感じた。
長腕から繰り出されるムサシのリーチ外からの連撃に、なんとか対応していくムサシだったが、やはり分は悪い。

マコト「そんな......!」

言わずもがな、マコトはムサシの徒手空拳による戦闘を見たことがなかった。
訓練では常に剣を使ってきた。
例外があるとしてもギロとのツインクロスアップのみである。
ゆえに、この状況でいかに戦えば良いのかという手札が、マコトの脳内に存在していない。

マコト(ダメだダメだ、考えろ......!)

出来ないからといって、考えることを放棄した時点でこちらの負けが確定する。
いまでこそなんとか対応出来ているが、機体性能でゴリ押しされたらそれこそどうしようもない。
ならば今は考えることだけだ。

どうすれば良い。
どうすればこの状況を好転——いや、“逆転”することが出来るだろうか。

重要なのはゴクラウドの気を逸らすことだ。
ムサシが剣を持つことさえ出来れば、あの長いリーチに対して不利を取らずに済む。
ならば一つあるにはある、が。

マコト(......まるで現実的じゃない)

いまここに、誰か第三者が乱入することがあればそれだけで良い。
ムサシは必ずその隙を突いて武器を取りに走ってくれるはずだ。
だが部隊は全滅。ここに来るまでに他の隊員達もやられている。
応援を期待するというのは高望みが過ぎるだろう。

???「生きとるか、アホ猿!」

————応援、であれば。
マコトの期待は、希望とは真逆のベクトルで現実となる。

マコト「あれ、は......!?」

この状況を予期したわけではない。
だが紛うとなき乱入者が、状況に介入せんと湖の水面から現れたのだ。
叫びとともに着地した黒い影は、マコトにも見覚えのある姿だ。

ゴクラウド「ぁあ!?今更何しに来やがったジジイ!!」
ムサシ「アシッド......キャンサイファー......!!」

キョウ達が追っていたはずの、もう一体の実験機体。
黒い蟹型アニマギアが、水飛沫とともにゴクラウドの元へと駆け付けた。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 27

突然現れた赤い乱入者を前に、キャンサイファーは思考の中で己の勝利条件を整理していた。
分かりやすく思い浮かぶのは三つだ。

まず一つ、この場にいる全員を行動不能に陥らせる。
キャンサイファーが追われる身である以上、これが一番単純だ。

捜索隊と銘打たれたABFの面々は閉所に誘い込んで各個撃破という形で難を逃れたし、
ガオーとかいう白い獅子型アニマギアだけ相手にするのであればそれほど問題が無かったようにも思える。
現に今まさにガオーを撃破する寸前まで行ったのだ。
各個撃破を繰り返し、追う者がいなくなればひとまず身を隠す時間が出来るだろう。

が、事情が変わったいまとなってはそのシンプルが難しい。

キャンサイファー(......理由もまた単純よの)

ドラギアスの参戦がこの条件の突破を難しくしている。
いくらキャンサイファーが研究所で実験漬けの生活を送り、世情に疎い状態が続いていたとはいえ、
ドラギアスゼノフレイムについての話は嫌でも耳に入ってきていた。
素性、性能、ABFに入隊してからの活躍等、ウワサの枚挙に暇がない。

そして、目の前に現れたドラギアスは聞いていた話以上に厄介者だとすぐに分かった。
酸の泡を一瞬にして揮発させるほどの火力を持っているとなると、
ここから先、彼らを相手に有利な状況で戦えるとは思わない方が良いだろう。

キャンサイファー(ならば、この条件は達成困難として捨て置く)

次に二つ、逃げること。
これはあまり現実的ではない。
ドラギアスはもちろんのこと、ガオーの機動力も決して侮ることは出来ない。

足場の悪い樹海でなら多脚を用いる自分の方が器用に動けるだろうが、
逃走するからにはいつまでも樹海で足踏みしている訳にもいかないだろう。
いずれひらけた土地に出るはずだ。

そうなれば必ず奴らは自分に追いついてくる、と。
敵ながら信頼にも似た確信があった。

キャンサイファー(ならばこれも却下......となれば)

最後に三つ。
“敵の目標を自分から別の存在にすげ替える”。
要は敵の目をそらすことが出来れば、自分の安全を確保出来るという案だ。

話としては二つ目の逃げるに近いが、単純に逃走を続けるのとは違って目的地がある分、ルートの選定が可能になる。
当て所なく彷徨うよりもずっと“勝率”が高い。

キャンサイファー(決まったな)

——この思考を廻(めぐ)らせるまでに要した時間は実に1.8秒。
ドラギアスが現れたと理解した瞬間から、彼がガオーやキョウと会話している間に思考は完了している。

ガオー「助かったぜドラギアス!」
ドラギアス「我が最初から捜索隊に加わっていれば話が早かったんだがな......
まったく、上の連中の腰の重さと来たら......」

だから、即行動に移した。
奴らが言葉を交わし終える前に、キャンサイファーは再度、酸の泡を砲筒から吐き出す。
その泡は敵本体ではなく、敵の周囲の木々をまとめて薙ぎ倒した。

キョウ「ガオー!ドラギアス!キャンサイファーが動くぞ、気をつけろ!!」

流石にそれで止まる敵達ではないし、期待もしていなかった。
だが狙い通りだ。
一瞬、ガオー達の視線を遮り道中に障害物を発生させたことで隙が生まれたのだ。

ガオー「あっ!にゃろ、待ちやがれ!」
キャンサイファー「ホホ、標的の前で談笑するヌシらが間抜けなだけよ」
ドラギアス「逃がすものかッ」

キャンサイファーは目標を確認する。
目標とは、一体のアニマギアの位置情報だ。
自分と同じく研究用に開発され、実験漬けの日々を共に過ごした
“憎き”兄弟機・モンキーゴクラウドとは、積まれているシステムがゆえ常に互いの位置情報を共有する関係だ。

やむにやまれぬ事情で脱走する際は一時協力したものの、犬猿の仲ならぬ猿蟹の仲といったところで、
互いに反りが合わず最終的に殆ど言葉を交わすことをしなくなった。
一言で済ませば不仲と呼べる間柄だからこそ、いまはとことん利用させて貰う。

キャンサイファー(此奴らの狙いはワシだけにあらずよ。
あのやかましい猿めの所まで辿り着ければ良い働きをしてくれるだろうて......!!)

幸い位置はそう遠くない。
脱走以後、思い思いの方向へとバラバラに逃げたキャンサイファーとゴクラウドだったが、
どうやら皮肉にも思考は似ていたらしい。
大方、ゴクラウドも自分と同じように捜索隊に追われている最中なのだろう。
忙しなく位置情報が更新される度に、不思議と向こうも自分に近づいているようだった。

キョウ「くっそ、キャンサイファーやっぱり疾いな......!
悪いけどこの視界じゃオレが見える範囲は早々に離脱されちゃいそうだ!
ドラギアス、悪いけどガオーの指示頼めるか!?」
ドラギアス「任された!我の位置は訓練用の端末で常に確認出来るだろう!あとで追いついてこいッ!」
キョウ「分かった!!サンキュー!!」

EPISODE DE27

キャンサイファーは内心でほくそ笑んだ。
先に潰した捜索隊の面々と同じく、アニマギアとオペレーターの分断に成功したからだ。
こうなれば奴らの戦闘は途端に効率が落ちる。

キャンサイファー「一人で戦うことも出来ぬ愚か者共にワシを捕まえられるかね」
ドラギアス「せいぜい粋がっていろ!我が来たからには貴様の未来は暗いぞ!」
キャンサイファー「ほっほ、有象無象がよう吠える吠える」
ドラギアス「......ッ」

確かにドラギアスは強い。

だがこうして逃げながらも煽ることで少しでも勝率を上げていくことは可能だ。
話に聞くドラギアスであれば、しびれを切らして冷静さを置き去るタイミングは必ず来るだろう。

キャンサイファー(そうなればいくら元エンペラーギアといえど、易々とワシを捕まえることなどできるものかよ)

キャンサイファーの策略はゆっくりだが確実に敵を蝕んでいる。
その証拠に、ドラギアス達の語気はすでに平静時のそれとは違い荒ぶり始めていた。

ドラギアス「ガオー!百も承知だろうがここは可燃物に囲まれている!我の特性が炎である以上、
ところかまわず炎を使うわけにはいかん!」
ガオー「お、おお!?あ、そうか、燃えちまうもんな山!!」
ドラギアス「貴様という奴は......!とにかく近接戦が鍵だ、死ぬ気で食らいつくぞ!!」
ガオー「応よ!!」

キャンサイファーは血の気が多い輩が心の底から嫌いだ。
冷静なくして強さなし。
激情の炎は内に秘めるからこそより強く燃えさかり、力を与えるのだ。
だというのに、それを理解していない者達はなにかと感情を昂ぶらせ、強い言葉を使い威嚇する。

弱い犬ほどよく吠える。
だからこそ、自分は常に狡猾であろうと考えた。
冷たく、静かに見極めれば、吠える犬共に負けることなどあり得ないのだから。

キャンサイファーは進行方向とは逆、後方に向けて砲を展開。
牽制代わりに、ドラギアスへと向かって酸の泡を射出した。
自分の読み通り熱に浮かされたか、ドラギアスの判断が一瞬遅れていた。
当たる。

ガオー「危ねえ、ドラギアス!」
ドラギアス「むうっ!?」

ガオーがドラギアスに突撃し、無理矢理こちらの攻撃範囲から抜け出させている。
その様子を見たキャンサイファーは「ほう」と感嘆の声を上げていた。
子供っぽい性格のように見受けられたが、存外に周囲に気を配る度量があるのだろうか。

キャンサイファー「面白い......が、距離は稼がせてもらうぞ童(わっぱ)ども!」

黒い蟹は足を止めることなく、複雑に動き回りながらも目標へと向かって突き進む。
全ては自分が生き残るために、ゴクラウドのもとへと駆けていた。

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 26

???「ワシの所まで辿り着けたのはオヌシらだけか」
ガオー「ちょこまかと逃げ回りやがって......!」

街から遠く離れた山奥。
木々が乱立するここはまさに樹海だ。
天草キョウとガオーの目線の先には、数日間にわたって捜索を続けていたアニマギアがいる。
赤いボーンフレームに黒いニックカウルを纏い、それと気付かなければ踏みつけてしまいそうなほど平たい身体。
両腕に鋭いはさみを持つ蟹のアニマギア——アシッドキャンサイファーだ。

キョウ「追い詰めたぞ......キャンサイファー!」
キャンサイファー「ホッホ。オヌシ相手に追い詰められるものかね。ワシの酸をかいくぐってここまで来た......
それは素直に評価しよう。オヌシらを相応の実力者と認めるよ」

しかしな、とキャンサイファーは言葉を切って舐めるようにこちらを見つめてくる。

キャンサイファー「生まれてこの方、繰り返される実験に浸った退屈な時間を過ごしてきたこの身。
が、童(わっぱ)に後れを取るほど、このキャンサイファー鈍(なま)ってはおらんぞ」
ガオー「なんだと!?」

このアニマギアは、ギアティクス社のラボで長い月日をかけ生み出された実験機体だ。
ツインクロスアップシステムの根幹を作り上げるために研究・開発された機体だが、
どういうワケか暴走アクターの手引きにより施設から脱走したのだ。

その能力の危険さ故に、ここに来るまでに大規模な捜索隊が編成され、キョウもその一員として彼を追い続けていた。
しかし、キャンサイファーのもとへとこうして辿り着いたのはキョウとガオーだけである。

キャンサイファー「ちと視界が悪いな......どれ」

目の前の蟹が、背負った砲台から散弾銃のように無数の泡を勢いよく吐き出す。
無論、ここが森林である以上それらの泡がキョウ達に届くことはない。
すべてが枝葉や木の幹、地面に命中する。

キョウ「......ッ」

泡が命中した障害物。
そのどれもが煙を噴き、表面がドロドロに溶けていく。
捜索隊がろくに近付けず、キャンサイファーがいままで逃げおおせた危険な能力の正体だ。

酸の泡。

キャンサイファーの体内で精製されるそれは、物体の表面を溶かす程度で、芯まで届くほど強力なものではない。
だが、ブラッドステッカーにあたればタダではすまない。
ブラッドステッカーを溶かされてしまえば、アニマギアは瞬く間に機能を停止するからだ。
なみいる捜索隊をかいくぐるには、十分すぎる性能といえるだろう。

キャンサイファー「ここでオヌシらも倒してしまえば、後続隊の足止めにもなろうよ——」

改めて、酸が放出される。
繰り返し酸のダメージを受けた蟹の周囲の木々が、まとめて派手に倒れ伏した。

キャンサイファー「——討たせて貰うぞ、童」
ガオー「コッチの台詞だ!大人しく捕まって貰うぜ!」
キョウ「障害物が消えた!来るぞガオーッ!!先に伝えた作戦で切り返せ!」

やみくもに捜索していたわけではない。
キャンサイファーとの一対一での戦いを想定していたキョウは、すでに対策を講じて相棒へと作戦を伝えていた。

キョウ「......“見え”た!ブースター展開、右方向80度から全力でぶっ飛ばせ!」

キョウが見たのは、キャンサイファーの予備動作だ。
既に何度か酸の砲撃を目にしていたキョウは、わずかながら砲撃がくる手前の雰囲気が分かるようになっていた。
これにより、予備動作から方向と距離を瞬時に見破り、
酸が撃たれると同時にガオーを安全な方向へと走らせることが可能となった。

ガオー「うおおおおおおッッ!!」

予測は成功の結果に変わって目の前に展開された。

酸の泡をくぐり抜けるように、ガオーはキョウの指示通り右前方へと飛び出す。
直後、ブースターを再点火。
半ば無理矢理、鋭利な角度をブースターによる方向転換で曲がりきった。
ガオーがキャンサイファーに肉薄する。

EPISODE DE26

キョウ「......要はマコトの見よう見まねだけど、うまくいったな......!」

この三ヶ月、伊達に訓練をしていたわけではない。
共に訓練に参加していた晄マコトの成長はめざましいものだったが、自分だって成長した実感がある。
他でもないマコトの特技を、隣でずっと見ていたのだ。

マコトのように計算に基づいた動きは出来なくとも、敵の攻撃を予測して対策を打つくらいであれば、
キョウにもなんとか出来るようになっていた。

キャンサイファー「おっと危ない危ない」
ガオー「な、おめっ!?」

ガオーの爪による攻撃があたる寸前、キャンサイファーが軽い身のこなしで後方へと避けた。
複雑な軌道を描きながら何度も跳躍し、詰める前の間合いへと戻されてしまう。

キャンサイファー「あっさり見切るとは思ったよりもやりおるな」
ガオー「こらー!逃げんじゃねえー!」

キャンサイファーが捕まらなかった第二の理由が“これ”だ。
多脚から生み出される跳躍力は、そのまま機動力に直結している。
すなわち、見た目以上に素早いのである。
シンプルな理由だが、シンプルゆえに対応が難しい。
攻守バランスの取れた素晴らしい機体だ。

ョウ「さすがコノエさんの置き土産......スゲー機体設計したなぁ......」

キャンサイファーはIAAとギアティクス社の共同開発によって生まれたが、
その設計に三梨コノエも大きく関わっていたらしい。

ガオー「感心してる場合かよ、キョウ!」
キョウ「いっけね、悪いガオー!でもこれで状況が少し変わったな!」
キャンサイファー「ほう......なるほど、移動を誘ったか」

黒蟹の言うとおり、これもまた狙いの一つだった。
キャンサイファーの移動を誘ったことにより、ガオーとの間合いに木々の障害物を挟むことに成功したのだ。

キャンサイファー「しかし同じ事!樹木程度、ワシの酸が何度でも溶かしてくれる!」
キョウ「ガオー、わかってるな!」
ガオー「おうよ!」

宣言通りキャンサイファーは砲筒から酸を吐き出した。
酸が当たり根元が溶かされた木々が倒れていく。
その瞬間、ガオーは木々の枝から枝へ飛び移りながら移動していた。

キョウ「狙い目はここだ、キャンサイファー!お前が障害物を排除するなら、排除される途中でそいつを利用する!!」
キャンサイファー「むうっ!!」

酸を放出している間、キャンサイファーは移動を封じられる。
事前に聞かされていた情報通りだ。

ガオー「喰らえぇえええッ!!」

蟹の真上に到達したガオーは、そのまま直下へ跳ぶ。

キャンサイファー「ワシが動けないと踏んだか。甘く見られたものだな、だからオヌシらは童なのだよ」
キョウ「......まずい!!」

なおも酸を撃ち続けているキャンサイファーが、ハサミを地面に突き立てる。
身体ごと砲口を無理矢理上へと向けていった。

キャンサイファー「移動は出来ずとも、体勢を変える程度ワケないわ!」

万事休す。
軌道を変えた酸の泡の奔流が、いままさにガオーを飲み込まんとしていた。

だが。

ガオー「うわっちぃーーッ!」
キャンサイファー「!?」
キョウ「この炎......まさかっ」

酸の泡が、上空から降り注いだ炎によって焼き尽くされていた。
その中心から、キョウが炎を見た瞬間期待した姿が出現する。

ドラギアス「......やれやれ。まったくもって世話の焼ける生徒共だ」

炎を纏ったドラギアスゼノフレイムが、ガオーを見つめていた。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 25

フォックス「それで。あのドラギアスの元で学んでみて何か得るものはあったかな——ミスターマコト」

ギアティクス社の応接室。
そこでマコトは、IAA会長でありギアティクス社現社長のフォックスロアーと向かい合って座っている。
訓練の中間報告は直々にフォックスロアーが聞く形を取り続けており、
こんな風に彼と一対一で話すのはこれが初めてではない。
だから、今では大分緊張することなく彼と話すことが出来るようになっていた。

マコト「......こう言っちゃなんですけど、ボクがABFの皆さんやIAAの特殊部隊みたいに
戦えるように成長したかという意味では、まったくそんなことはないと思います」
フォックス「ふむ。しかし先日話を聞いたときは何かを掴んだ様子ではなかったかね」
マコト「それは、はい。なんとなくボクが目指すべき戦い方......みたいなものは、出来た気がしました」
フォックス「ほお、なるほど」

マコトが訓練生としてABFへの出向を始めて、実に三ヶ月。
当初は母に心配されつつも、兄の所属するIAA絡みの話だと分かると快く送り出してくれた。
保護者がいる、ということで納得してくれたのだと思う。
しかしマコトは兄との確執は話していなかったから、後ろめたい気持ちを抱えながらの三ヶ月となった。
昼は学校に通い、放課後になればドラギアスの元でキョウと共に訓練に励んだ。
訓練期間として定められたのは四ヶ月。
この生活も残り一ヶ月で終わると思うと、大変だった毎日もあっという間だったことを実感する。

マコト「あと一ヶ月......“教官”のもとでもっと強くなれるよう、頑張ります」
フォックス「それは重畳(ちょうじょう)なことだ。だが一つ訂正させて貰おうか、ミスター」

フォックスロアーがテーブルの上に置かれていた端末を操作すると、二体のアニマギアの写真が表示される。

EPISODE DE25

マコト「これは?」
フォックス「“脱走”したアニマギアさ」
マコト「......脱走」

アニマギアが、脱走。
その言葉にとても良い印象は抱かない。
一瞬にして、張り詰めた剣呑(けんのん)な空気がマコトと会長の間に漂う。

フォックス「そう。彼らは元々、どちらもIAAとギアティクス社が協同で研究・開発していた実験用アニマギアなのだよ」

会長曰く。
第三世代に搭載するツインクロスアップシステムは彼らが雛形となっているらしい。
ユニコーンライギアスの研究、そしてユナイトペンギオスの開発経験を経て、
『完全に異なる意識を持った二体のアニマギアの融合』をテーマに設計された二体のアニマギアなのだ、と。
名をそれぞれ、黄をモンキーゴクラウド。
黒をアシッドキャンサイファーと呼ぶ。

フォックス「訂正と言ったね。ミスターマコト、キミには訓練の最終工程として実地任務にあたってもらうことになった」
マコト「任務......ですか」
フォックス「状況が変わってしまってね。三日前、このアニマギア達がギアティクス社のラボから脱走してしまった。侵入した暴走アクターの手引きによってね」
マコト「た、大変な話じゃないですか!」

フォックスから聞かされた話はまさに寝耳に水だった。
確かに、マコトがギアティクス社に訪れる機会は少ない。
自分がここで起きる事象に疎いのはある程度仕方の無いことのように思える。
それにしても、今日ビルに入るときだって緊急事態のような空気はまったくなかったのだ。
実験機体の脱走にくわえて暴走アクターの侵入など、
平常運転が難しいどころか全国区の報道にのっていてもおかしくない。

フォックス「報道規制を敷かせて貰っている。自分でやっておいてなんだが、
ギアティクス社はいま社長交代で色々と不安定な時期だ。世間の目にマイナス面をさらすことは得策じゃない」
マコト「にしたって......」

脱走の経緯が不明にしろ、放っておけば大事件に繋がりかねない。
会社のメンツを保つために情報を遮断するなどあって良いことなのだろうか。

フォックス「大人の事情、という奴だよ。キミが歳を重ねればいずれ理解するだろう」
マコト「............それで、このアニマギア達を捕まえてこいと」
フォックス「話が早くて助かるよ。すでにABF、IAA特殊部隊ともに捕獲作戦を展開している。
キミにはその手伝いをして貰いたい」
マコト「キョウも、そこにいるんですか」
フォックス「その通りだ」
マコト「やっぱり......」

実を言うと、最初からそんな気はしていた。
昨日と一昨日、ドラギアスの訓練にキョウとガオーが現れなかったのだ。
ドラギアスがそれを責める様子もなかった。
キョウ達がいなくともマコトとムサシの訓練に集中していたことからも、
ドラギアスは事情を知っていたのだと容易に想像がつく。

フォックス「彼は耳が早い。脱走の事実を聞きつけてすぐさま作戦への参加に志願したよ」
マコト「そう、ですか」

まったく、キョウらしいといえばキョウらしい。
自分になにも告げずに決めたのは多分、いや間違いなく。

マコト(——ボクがまだ弱いからだ)

彼のことだ、マコトを面倒な事情に巻き込むまいと黙って行ったのだろう。
だが、その事実はマコトの胸に暗い影を落とす。
いくら口で仲間と言っても、彼がマコトの実力を認めていないと言外に伝えられた気がした。
いや、仲間であるまえに友達だから、と彼は言うのかも知れない。
それでも。

マコト(......悔しいな)
フォックス「それで、引き受けてくれるかな。なに、まだキミらは子供だ。なにも最前線に立て、と言うわけではないよ。あくまで捜索部隊のサポートを通じて現場の空気を学んで欲しいのだよ」
マコト「わかりました」
フォックス「......おや、意外にも即答だね」
マコト「ボクもアイツに負けてられないって、そう思ったんです。ムサシもきっと納得してくれると思います」

件のムサシはいま、隣にいない。
ギアティクス社のラボで調整中だった。
この三ヶ月の訓練で、ムサシのAIに変化が起きていたからだ。反応速度や動体視力の向上が見られており、
それにフルに対応出来るよう機体のチューニングを施しているのである。

マコト「それで、キョウはどこにいるんですか」
フォックス「ああいや、すまない。語弊があったようだ。二体のアニマギアは一緒に行動しているわけではないのだよ」

なにぶん、すこぶる仲の悪いアニマギア達でね。
フォックスはそんな風に続けた。

フォックス「ミスターキョウにはアシッドキャンサイファーの方を追ってもらっている。
キミは彼とは別行動を取ってくれ」
マコト「!」

つまり、マコトはムサシと共にモンキーゴクラウドを追う、ということだ。
この三ヶ月、任務の際にはマコトの傍らにずっとキョウがいた。
ガオーに指示するキョウを見て学ぶことは多かったし、
自分がへましそうになった時にはサポートして貰うことも多々あった。

フォックス「もう一度、聞くとしよう。ミスターマコト、モンキーゴクラウドの捜索部隊に合流し、サポートに回って貰うことは出来るだろうか。これは強制ではない、あくまで訓練の最終工程としてプランを提案しているだけだ」

一人で行くことが不安であるならば、引き続き残りの一ヶ月ドラギアスの元で学ぶが良い。
その言葉に、マコトは逡巡する間もなく改めて即答する。

マコト「やります。やらせてください」

キョウに認めさせるために。
兄に認めさせるために。

自分が強くなったことを証明しなければ、マコトはこれ以上先に進める気がしない。

そう、考えた。

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 24

マコトの視線の先で、ドラギアスの全身が紅蓮に包まれる。
紅蓮とは炎だ。
燃えさかる炎に確かな熱を感じながら、ドラギアスの言葉を耳にする。

ドラギアス「インスティンクトオーバーライド——アウェイクイングッ!」

火竜の叫びに呼応するように、先に奪われていたドラギアスの槍が炎の中へと吸い込まれていく。
そこから起きた事象は“孵化”だった。
炎というタマゴの殻を突き破り、四肢が飛び出す。
次いで長い尾に、大きな羽。
最後に、炎を全て吹き飛ばして全身が露わになった。

EPISODE DE24

ドラギアス「アドバンスフォルム:ビーストモード!」

四つ脚で大地を掴み立つ、炎と見紛う赤き竜が顕現する。

ムサシ「なんだあれはッ!?」
マコト「教官も“変形”したんだ......!」

変形機構を有するアニマギアで、マコトが真っ先に思いつくのは
兄・タスクのパートナーであるトランスマンティレイドだった。
彼らに敗北して以来、マコトはアニマギアを取り巻く事情に少しずつ詳しくなっていた。
しかし、彼の付け焼き刃のような知識の中では、変形可能なアニマギアはとても数が少ない。

そのことが妙に気になって、理由を紅葉ヤマト博士に聞いたことがある。
曰く。

ヤマト『——アニマギアの性質上、二脚型と四脚型を両立させるのは構造的には難しくない。厄介なのは中身なんだ』

動物としての本能を再現するプログラムを、二脚用と四脚用のそれぞれを一つの機体に搭載する必要があるらしい。
そして互いのプログラムが干渉して誤作動を起こさないように、
管理するシステムを組むことが一筋縄ではいかないのだという。

だからこそ、過去に流通してから今なお活躍する『ヴァリアブルシャーク』シリーズが、
形は違えど傑作変形アニマギアと評される由縁でもあるのだ。
......他にも、幻の機体とされるガレオストライカーシリーズがあるらしいのだが、
マコトはそれ以上の情報を持ち合わせてはいない。

そしていま。
変形機構を有するアニマギアが目の前に二体も在る。
ケルベロガルギアス、そしてドラギアスゼノフレイム。
トランスマンティレイドの存在といい、アニマギア技術のめざましい進歩を否応なしにマコトは理解した。

——などと、感心している場合ではない。
二体のアニマギアの様相は先ほどとまるで逆転している。
四脚のガルギアスが二脚へ。
二脚のドラギアスが四脚へとそれぞれ姿を変えた今、戦いは文字通り加速していたのだ。

マコト(目で......追い切れない......!)

互いに全力。
変形前までに見せていた動きはほんの準備運動だった......といわんばかりに、二つの影が激しく交差を繰り返す。

ガルギアス「クク......ハハ、ハハハ!!速い速い!面白いじゃないの、ダンナ!」
ドラギアス「こんな速度(もの)で満足されては困るな!!」

変形したドラギアスの戦闘スタイルはマコトの知るそれとまったく違う。
これまでは研鑽された技術でスマートに圧倒する戦い方だったが、いまでは獣の如きパワープレイを的に押しつける、
本能に任せた荒々しい戦闘を繰り広げていた。

ムサシ「しかし、強い......ッ」
マコト「うん......!」

動きの精細さで言えば明らかに以前より劣っているものの、それを凌駕する力でガルギアスに食らい付いていた。

対するガルギアスは、ドラギアスの猛攻をすれすれでかわしていた。
的確にドラギアスの動きを見切り、必要最低限の動きだけで回避する。
その様は狂気じみていると同時、まるで踊っているようにも見えた。

ドラギアス「貰ったッ!!」
ガルギアス「——クク」

あまりに激しい攻防。
その応酬の最中で、ドラギアスは敵が見せた一瞬の隙を見逃さない。
尾による渾身の薙ぎ払いが、敵の脇腹を確実に捉えた——はずだった。

マコト「びくとも、しない......!?」

傍目から見ていた分には、ドラギアスの一撃は並のアニマギアならひとたまりもないように思える。
ボーンフレームごと破壊されかねない強烈な一撃だったはずだ。

ガルギアス「並のアニマギアなら、な......!」

敵は吹っ飛ばされるどころか、まともに受けたその攻撃を受けきり、
挙げ句にドラギアスの尾を脇に抱え込んでガシリと掴んでいた。

ガルギアス「テンション上がってきた、って感じだよダンナ......今度は俺の番だなァ!」
ドラギアス「ぬ、うッ!?」

ガルギアスは重心をぐっと下げて、その場で旋回を始める。

ガルギアス「ぶっ飛べ............!!」

そして遠心力のGを利用し、ドラギアスという標的を勢いよく投げ飛ばした。
ジャイアント・スイングだ。

ドラギアス「があッ!!」

火竜が激突したのは、先の戦いで狙撃手が潜んでいたフードトラックだ。
とてつもない衝撃がトラックをひしゃげさせ、そのまま車体が真横に倒れ込む。
轟音と土煙が街中に広がった。

マコト「教官......っ」
キョウ「いや、まだだ。ドラギアスは折れてない!」

土煙の中から一閃の赤い光が高く飛翔している。
キョウの言ったとおり、ドラギアスはすぐさま体勢を立て直したのだ。

ドラギアス「いまのは......効いたぞ......エンペラーギア......!!」
ガルギアス「元気そうでなによりだ、そうでなくちゃなァ!」

ドラギアスがガルギアスに向かって上空から一直線に急降下する。
敵に飛翔能力はない。
ゆえに、改めて重心を下げて待ち構える。
真正面からドラギアスの突進を受け止めるつもり——否、それ以上だ。

マコト「——」

マコトは思わず息を止めてしまう。
彼の目には確かに、ガルギアスがドラギアスの攻撃に合わせてカウンターを狙っているように見えていた。
彼らの戦いの未来までは見通せない。
素人目には互いの力量に差はないからだ。
このまま続けても、どちらかが倒れる結末をどうしても想像出来なかった。

ガルギアス「——了解」
ドラギアス「......ッ」

そして。
マコトが想像出来なかった結末は、この場の誰もが予想だにしない形で訪れる。

ドラギアス「貴様、なんのつもりだ」

ドラギアスがガルギアスの目前で急停止したのだ。
ガルギアスもまた、構えを解いて静かに一歩下がっている。

ドラギアス「何故この状況で殺気を消した......!!」
ガルギアス「クク......悪いな。“ご主人サマ”からお叱りの通信だ」

紫色のエンペラーギアは、程なくして元の四脚形態へと変形。
今のいままで激しい戦いをしていたとは思えないほど、彼はあっさりとドラギアスに背を向けた。

ガルギアス「元々、任務自体は終わっているもんでね。いやはや、俺としたことがつい熱くなっちまったよ」
ドラギアス「逃げるのか......!」
ガルギアス「そう取られても仕方ねえ。とにかく、帰投命令が出された以上は従うしかない」

敵の豹変した態度に、ドラギアスは激昂を隠そうともせず声を荒げる。

ドラギアス「貴様の事情など知ったことか!エンペラーギアの貴様を逃がすつもりはないと言ったはずだ!」
ガルギアス「だが、俺を終わらせるほどの力はアンタにはないだろ、力は互角なんだからよ。なぁダンナ」
ドラギアス「......!」

やれやれ、とガルギアスは頭(かぶり)を振って軽いため息をつく。

ガルギアス「未練がましくて情けねえことを言うが。この勝負、一旦預けさせてもらうぜ」

そう言い残して、エンペラーギアは夕陽に向かって跳躍する。
姿を消したのもまた、一瞬であった。

ドラギアス「天草キョウ、晄マコト。直帰と言ったが撤回だ——」

火竜は戦いの熱を振り払うように、元の姿へと回帰して続ける。

ドラギアス「——本部に戻って報告する必要がある。獣甲屋の復活だ、とな」

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 23

キョウは冷静であろうとするも、動揺を隠しきれていなかった。

——エンペラーギア。
獣甲屋によって開発された、アニマギアを超えた究極のアニマギア達の総称だ。
通常のアニマギアと決定的に違う点は、空想上の生き物——幻獣のデータによって作られている機体達ということだろう。

堕天使・フォールンジオギアス。
海竜・リヴァイアカイギアス。
不死鳥・フェニックスネオギアス。
白虎・バイフーゴウギアス。
一角獣・ユニコーンライギアス。

そして火竜・ブレイズドラギアス。
ドラギアスゼノフレイムとして生まれ変わる前の彼もまた、獣甲屋に属する皇帝機の一体だった。
これらはかつて、フェニックスネオギアスを除いたすべてが、天草キョウと仲間達によって討ち倒され、
獣甲屋も鳴りを潜めた......かに思えた。

しかしいま、新たなエンペラーギアを名乗る者がいる。
ケルベロガルギアスだ。
目を疑い、耳を疑ったキョウだったが、ドラギアスゼノとの一騎打ちで互角に立ち回る様をみて確信する。

あの実力からして、エンペラーギアを自称することが何を意味するのか分からぬ手合いではないだろう。
だとすれば。

キョウ「本当に新手のエンペラーギア、なんだな......!」

キョウの脳裏に浮かぶのは一人の男。
テロ事件の後、行方をくらませた獣甲屋の首魁・黒田ショウマである。
新たなエンペラーギアの出現は、否応なしに彼の存在を意識させた。

ドラギアス「やはり......ッ!」

ガルギアスと戦っているドラギアスが、確信めいた声で続ける。

ドラギアス「アクターを改造し暴走させているのは貴様ら獣甲屋だった、というワケだ!」
キョウ「......!!」
マコト「獣甲屋だって!?」

マコトが驚くのも無理はない。
数ヶ月前のテロ事件が未遂に終わって以来『黒田ショウマを捕まえることは出来なかったが、獣甲屋は消滅した』
......というのが世間一般の考えである。

ガルギアス「へぇ......?面白いじゃねェか、なぜそう思う?」

ドラギアスは答える。
暴走アクターの戦闘練度が上がっていくにつれ、ドラギアスの頭には常にその可能性が付きまとっていた、と。
キョウもその意見には同意せざるをえない。
一連の事件が、獣甲屋の手口に酷似していることは気になっていたのだ。

ドラギアス「加えて、初めての事例となる『二体一組で行動する暴走アクター』の出現!
一連のアクター事件は獣甲屋の実験で、今回は実験のステージが移った......
そして貴様はそれを観測しに来たのではないか!?」

ドラギアスの槍が、ガルギアスの右方を貫かんと刃を走らせた。
しかし、ガルギアスの右肩にある頭部が刃に噛み付きそれを止める。

ガルギアス「ククク......どうやら噂通り、腕っ節だけで頭の回転はそんなに良くないらしい」
ドラギアス「なんだとッ」
ガルギアス「ダンナにとってその方が都合が良いんだろうけどなァ、まるで的外れで腹がよじれちまうね」

言いながら、ガルギアスの中央の口内が赤く煌(きら)めいた。
そのまま勢いよく火炎を吐き出す。

ドラギアス「く......ッ」

ドラギアスの判断は冷静だった。
槍を手放し、後方へと跳びながら間合いを稼ぎ、胸部から同じく火炎を放出。
相殺する。

ガルギアス「やるねぇ......少しは見直してやるよ。だけどな」

敵の右の頭部が、くわえていた槍をぞんざいに投げ捨てた。

ガルギアス「ダンナ。悪いが暴走アクターに“俺達”は一切関わっちゃあいねえんだよ」
ドラギアス「信じてたまるか!この街に巣くう疫病神の言葉など!」
ガルギアス「興奮すると聞く耳持たなくなる所は、記録で読んだ昔のアンタと全然変わらないらしい——まぁ良いだろう」

“それでこそドラギアスだ”。
ガルギアスはどこか感心したような面持ちで続ける。

ガルギアス「ガキ共連れて作戦ごっこしてるのを見て、最初は失望したんだぜ。
エンペラーギアだったころと比べて腑抜けちまったもんだってな」

だが、こうして僅かながら戦ってみてよく分かった。

ガルギアス「ダンナがABFに鞍替えしようがなんだろうが、根っこの部分は何一つ変わっちゃあいねえ。
記録を読んで俺がシビれたドラギアスって野郎は死んでなかったみたいだ」
ドラギアス「......どういうことだ」
ガルギアス「戦闘センスの塊で、敵をみちゃまっすぐに殲滅するような問答無用の武人——それがダンナなんだな」

だから。
ガルギアスが一度言葉を句切る。
すると、四足歩行型だった紫色のエンペラーギアが、みるみる内に変形を繰り返し。

マコト「人型に......変わった......!?」
キョウ「変形するのか、アイツ!」

見事に二足歩行の姿へと
ガルギアス「だから、ここからは全力だ、ブレイズドラギアス......いや、今はドラギアスゼノフレイムだったかね。
“当初の任務”からは随分と脱線しちまったが、アンタともう少しだけ遊ばせてくれや」
ドラギアス「そも、エンペラーギアである貴様を我が放っておくハズがない——見せてみろ、貴様の全力とやらッ!」

EPISODE DE23

二体の拳が激突すると、周囲に衝撃波が生まれた。
風を感じながらキョウは確信する。

キョウ(見られるのか......ドラギアスの本気が......!)

戦いの場で不謹慎ではあるが、ワクワクする自分を無視できなかった。
かつてドラギアスがギアバトルの大会に乱入してきた以来、彼の本気を見ることはなかったからだ。
確かに、訓練や任務の際ドラギアスが手を抜くことはなかった。
しかし手を抜かないことと本気で戦うことはまるで意味が違う。

ドラギアス「貴様らは少し離れていろ、ケガをしたくなければな!」
キョウ「行こうマコト、ドラギアスの言うとおりだ」
マコト「わ、わかった!ガオー、ムサシ、ボクの肩に乗って!」
ガオー「あいよ!」
ムサシ「了解した」

マコト達を先導して、キョウは言われたとおり安全圏まで避難する。
だが。
キョウもマコトも、ガオーもムサシも、決してドラギアスとガルギアスの戦いから目を逸らそうとはしなかった。

ドラギアス「————ッ!!」

槍を失ったものの、ドラギアスの勢いは止まっていない。
むしろ武器がない分、より肉薄した状態で巧みな体術による連撃を繰り出している。

ガルギアス「............ッッ」

対するガルギアスもドラギアスの目にも留まらぬ連撃に完全についていっているところから察するに、
とんでもない実力の持ち主だ。
一撃一撃が重い上に、隙あらば炎による攻撃を交えて、自分の間合いを決して崩そうとしない。

マコト「すごい......!」
キョウ「ああ、まるで別次元だ」

両者互いに相棒を持たない機体ゆえに、戦闘にまつわる思考や行動はすべて一人で判断しているはずだ。
ガオーと自分、そしてムサシとマコトのように役割分担をしていない分、思考・即行動が可能なのだろう。
しかし思考回路に求められる処理速度も尋常ではない。
本気を出したドラギアスやエンペラーギア相手に、“今の自分達”がどこまで歯が立つのだろうか。

強くならなければならない。
強く在らなければならない。
この場にいる誰もが、彼らの戦いを見て同じ事を考えていることだろう。

ドラギアス「流石は皇帝機......一筋縄ではいかんな」
ガルギアス「ククッ!ダンナに認めて貰えるのはこそばゆいな!」
ドラギアス「しかし、我が本気はまだこんなものではない!!」

拮抗していた両者の戦いが動く。
ドラギアスの言う本気は、果たして勝利の天秤を傾けるに足るものだろうか。

ドラギアス「しかと見届けよ、忌まわしき獣甲屋——その呪縛から解き放たれし、我が新たな力をッ!!」

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 22

大小様々なショッピングセンターが建ち並ぶ商業区画。
市民の避難を済ませた街に普段通りの活気はない。
あるのは、戦いの熱気。

ドラギアス『鬱陶しい狙撃手を見つけたぞ白獅子!貴様から七時の方向、フードトラックの屋根に敵影、距離二百!』
キョウ『了解!ガオー、急速旋回——狙撃に注意しろよッ』
ガオー『おうさ!』

喧騒の代わりに響き渡るのは、狙撃ライフルから放たれる銃撃音と、刃がぶつかり合う金属音。
そして、戦う者達が無線で交える、雄叫びのような指令と応答だ。
ドラギアスの元でトレーニングを始めてから二ヶ月......これは遊びでも訓練でもない。
暴走アクターを相手取った、正真正銘の真剣勝負が繰り広げられていた。

マコト「すごい......ドラギアス教官、戦いながら狙撃手の位置を特定したんだ......ボクらは避けるだけで精一杯だったのに」

現状を整理しよう。
敵は狙撃ライフルを用いる緑色の機体と、槍を構えた紫色の機体の二体だ。
槍を使う敵に対するは同じく槍を使うドラギアス。
もう一方、狙撃する敵に向かうはガオー。
ムサシとマコトは度重なる狙撃を回避するうちに、どちらの敵からも離れた位置の物陰へと追いやられていた。
だが、このまま黙っているマコトとムサシではない。

マコト「ムサシ、ボクらは近接アクターがガオーに近づけないように教官をカバーしよう!
ギロから借りたシザーブースター、残量まだある!?」

ムサシが背中に装備したギロのパーツを確認して頷く。
この物陰に隠れるまでに相当消耗させられたが、まだエネルギーは残されていた。

ムサシ「全力稼働一回分といったところだな」
マコト「充分だ、行くよムサシ!タイミング合わせて!」

ムサシが駆け出す頃には、既にガオーが遠距離アクターに噛み付こうと肉薄している。
敵はライフルを横に構え獅子の口元に押し込んで攻撃を阻止したが、見るからにガオーの方に余裕がある。
このまま行けば遠距離アクターを撃破することは難くないだろう。
しかし。

ドラギアス『しまった......ッ!』

遠距離アクターとバディを組んでいる近接アクターも、味方の旗色が悪いと見たのだろう。
蛇のようにしなやか、かつ俊敏な動きでドラギアスの脇をするりと抜けて見せた。
近接アクターが全速力でガオーの元へと駆けていく。ドラギアスは完全に虚を突かれた形で出遅れてしまった。

ムサシ「うおおおおッ!!」

だがそこに、先に駆けていたムサシが近接アクターの横っ腹へと抱きつく形で突っ込んだ。

マコト「いまだ!」

マコトの声にタイミングを合わせたムサシがブースターを全開にし、超速で低空飛行。
そのままビルの外壁に激突する。

ガオー『よし、こっちのスナイパー野郎は無力化したぜ!』
キョウ『ナイスガオー!マコトもうまくいったな!!』
マコト「まだだよ......ッ」

無線からガオーの勝利報告とキョウの賞賛が飛んできたが、嬉しさよりも先にマコトの眼は次の危機を察知していた。

マコト「右に跳んで、ムサシ!」

土煙の奥からアクターの槍の矛先が先程までムサシがいた場所に飛んできた。
すんでの所でそれを回避したムサシは、機転を利かせて空を切った槍の柄を掴み取る。

ムサシ「ぐ、がっ!?」
マコト「そんな......!」

直後、アクターの右拳がムサシの左頬に衝突した。
アクターはマコトの目にも留まらぬ速さで、躊躇なく槍を手放し拳で殴りかかっていたのだ。

ムサシ「この程度の拳......ッ」

ムサシは怯むことなく、即座にその場で剣を抜いた。
間合い的に斬ることは難しいと見えたが——

ムサシ「——なにも問題はない!」

柄の底を思い切りアクターの腹部に叩きつける。
再び、アクターが壁へと激突。
そのままぐったりと動かなくなっていた。機能停止だ。

マコト「終わった......んだよね......?」
ムサシ「敵機体、完全に沈黙。起き上がる気配もない」
マコト「そっか......お疲れムサシ」
ムサシ「マコトも、ナイスオペレーティング」
ドラギアス『全員、一度集合してくれ』

機能が止まったアクター達をキョウやマコトが回収し、ドラギアスの指示に従って彼の元へと集合する。

ドラギアス「まずは上出来だ、と言わせて貰おう。
訓練を始めてから何度目かの実戦だったが、今回が一番動きが良かった」
マコト「ありがとうございます......じゃなかった。ありがとう、教官」
ドラギアス「ああ、特にマコト。あの状況で我のカバーに入ってもらったのは助かった」

ドラギアスに褒められるが、最後の最後にムサシが攻撃を受けたことにマコトは納得がいっていない。
自分の判断が早ければ、あの一撃は食らわずにすんだはずだった。

ドラギアス「そう自分を卑下するな。二ヶ月前に比べれば格段に強くなっている。マコト以上に情けないのは我の方だ。
まさかこの我が遅れを取るとは......」
キョウ「ああそうだ、あれ疑問だったんだよ。なんであの時、ドラギアスがアクター相手に抜かれたんだ?」
ドラギアス「問題はそれだ」

回収されたアクターを眺めながら、ドラギアスは俯きざまに続ける。

ドラギアス「このアクター達......バディを組んでいたことといい、妙に戦闘慣れしていた。
明らかに今まで相手してきた暴走アクターと質が異なる」
ムサシ「確かに。いや、正確には少し前から戦闘が激化していたように思う」
ガオー「......アクターが成長してきた、ってことか?」

皆の言うとおり、暴走アクターはその強さを段々と増してきている実感がある。
自分達がドラギアスのもとで成長するにつれて、敵も一緒にレベルアップしているような感覚......
まるでRPGの敵キャラクターのようだ。

ドラギアス「我の勘だが、恐らく暴走アクター同士で戦闘データを共有・蓄積しているのだろうな。
ABFの戦術がいくつか模倣されていたように思う」
キョウ「ますますキナ臭いな......ホントに、一体黒幕は何考えてるんだか」

連続する暴走アクター事件の黒幕。
それが一体何者なのか、そして目的がなんなのかはいまだに手がかりすら掴めていない。
だが、こうして戦術がアップデートされている以上、
なにかしらの意図を持ってアクター達が暴走させられているのは間違いなかった。

ドラギアス「本部により詳しく調査して貰う必要があるだろうな。
マコト、今回の件は貴様が一番俯瞰して戦場を分析していたはずだ。
あとで本部から話を聞かれるだろうが、いつも通り普通に話してくれれば良い」
マコト「りょ、了解......っ」

IAAの特殊部隊見習い、というABFとは違った立場ではあるものの、
マコトはこれまでにも何度かドラギアスに報告を任されたことがある。
最初は『たかが小学生の報告』と面倒がっていたABF本部の人間だったが、
いまではマコトが見聞きした情報は重宝がられるようになっていた。
いまでも『たかが小学生の報告』と感じているのはマコト自身であることから、
時折こうして報告を任されるといまだに緊張してしまう。

ドラギアス「キョウ。今回の戦い、終盤でガオーの動きが少し鈍っていた。メンテナンスしてやれ」
ガオー「いやいや、オレは全然大丈夫だけど」
キョウ「確かに、ちょっと反応悪かったんだよな。分かった」
ガオー「ええー......」

ドラギアス「ムサシも一撃貰っていただろう。よく診て貰うように」
ムサシ「承知した」
ドラギアス「それでは本日の訓練はここまでとする。現地解散だ、気をつけて帰れよ」
マコト&キョウ「了解!」

ドラギアスに向かって敬礼をする。
戦いは終わった......次の特訓スケジュールまではまだ日がある。
今日の疲れを癒やすために、マコト達はまっすぐ帰路につこうとしたが......。

???「いんやァ、このまま帰るのはどうかと思うがね」

機器馴染みのない声が、どこからともなく聞こえてくる。
その声の主の姿をいち早く発見したのはムサシだ。

ムサシ「......!?マコト、頭の上だ!」
マコト「え......ええぇ!?うわ、なんだ!?」

いつの間にか、マコトの頭の上に一体のアニマギアが乗っていた。
慌てて振り払うと、こともなげにその機体は肩、腕を経由して地面に着地する。
三つの頭を持つ、紫色の獣型。
どのカタログでも見たことがない機体だ。

EPISODE DE22

ガルギアス「俺はエンペラーギア、ケルベロガルギアス」
ドラギアス「エンペラーギア、だと!?」
キョウ「そんな......そんなことって......!」

驚くキョウとドラギアス、状況が飲み込めていないマコトとムサシ、そしてガオー。
エンペラーギアという馴染みのない言葉に首を傾げる間もなく、
彼らの戸惑いに対してガルギアスと名乗ったアニマギアが「ククク」と笑いながら言葉を続けた。

ガルギアス「驚くのは無理もねえだろうが、まずは俺の話を聞いてくんな......お前さん達の戦い、見学させて貰ったけどよ。どうにもドラギアスのダンナにムカッ腹がたってしょうがねえんだよ。なァ——」

ガルギアスの声色が低く変質する。
それは、怒りの色を帯びた重たい声だった。

ガルギアス「——“元”エンペラーギアなんだろ、アンタ。俺とサシで戦わねえか、ドラギアスのダンナ」

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 21

フラッペ「お待ちしておりました」
ドラギアス「......アンタか。何の用だ」

暴走アクターの事件をあらかた片付けた後、ドラギアスは自身が所属するABFの詰め所へと帰投していた。
そこで待っていたのはラビドルフラペール——フラッペだ。
対暴走アクターを想定とした合同訓練を提案してきたIAAのアニマギアである。
IAAといえば、最近ギアティクス社がIAAに買収されたとの小耳に挟んだが、
任務と戦闘以外のことはからっきしのドラギアスにはあまり興味がない話だ。

フラッペとは合同訓練の計画を打ち合わせる際に顔を合わせている。
しかしながら、彼女が戦うことを想定せずに設計されたアニマギアだからだろうか、
どうにも苦手な相手というのが彼女への第一印象だった。

ドラギアス「——訓練生の教育係?我がか」
フラッペ「ええ。ABFに入隊させるわけではなく、こちらの特殊部隊名義の訓練生という形なんですが。
実地研修をかねてドラギアス様に是非と」
ドラギアス「ッハ、ならばIAAで面倒を見ればいいだろうよ。ABFの新入隊員に任せる仕事でもあるまい」

ドラギアスはABFの中では新米にあたる。
というよりも、試用期間と表現した方がより正確だ。

フラッペ「IAAの部隊はプライド高くって......排他的なんです。飛び入りの訓練生なんて認めないって方達ばかり。
それにアナタなら実力は申し分ないでしょう」
ドラギアス「排他的、か。そういう意味ではこちらもそう変わらないのではないな」

“この身体”になる前は獣甲屋のエンペラーギアとして活動していたこともあり、
FBSが完全に取り除かれたとはいえ警戒されているのは間違いないだろう。
自分としては周りに馴染もうだとかは考えていないが、奇異の目を向けてくる輩がいる限りどうにも居心地が悪い。

ドラギアス「そういった者達がいる限り、我が誰かの面倒を見るのは避けたいというのが本心だ。
少なくとも我が実績で奴らを黙らせるまではな」
フラッペ「お優しいんですね」
ドラギアス「......は?」
フラッペ「だってそうでしょう?自分が面倒を見たらその人に迷惑がかかるから、って。そう聞こえますよ」

ああ、そうだ。
このアニマギアのこういう“他者の優しさを信奉している”ところがむず痒くなるのだ、自分は。

フラッペ「まあ、そこらへんは大丈夫だと思います。間違いなくアナタについて偏見なく理解してくれる方々ですので」
ドラギアス「......わかった。我の負けだ」

彼女に対する苦手意識の原因を再確認したところで、ドラギアスは“訓練生”とやらの面倒を見ることを渋々承諾した。
どう取り繕っても良いように取られてしまうのは想像に難くない。
独り相撲を取ったあげく向こうの要求をのむくらいならば、
さっさと降参した方がいくらか無駄に時間を浪費せずに済むというものだ。

フラッペ「ご快諾いただきありがとうございます。では、こちらの場所で訓練生がお待ちです——」

EPISODE DE21

ドラギアス「......うっ」

フラッペに指定された場所はABF私有地にある屋外の訓練所だったが、
ドラギアスはそこに訪れるなり訓練を引き受けたことを秒で後悔した。
ただでさえ頻発する暴走アクター事件で忙しいこの時分に訓練生などと、
一体どんな殊勝な輩が現れるのだろうと少しでも興味を持った己が憎らしい。

ドラギアス「どうしてよりにもよってその訓練生が貴様らなのだ!!」

目の前に、天草キョウとガオー、そしてムサシがいる。
ムサシと直接面識はないが、キョウとガオーのコンビよりも大分親しみを感じる佇まいだ。
そしてもう一人、知らない少年がいたが、察するにムサシの相棒といったところだろう。

ガオー「よぉ、久しぶりだな」
キョウ「ソウヤ兄ちゃんにやられたって聞いたけど元気そうじゃないか」
ドラギアス「ああクソ、会話が通じぬ......どうして貴様らが、と我は聞いているのだぞ」

会話が通じないと自分が言えたことではないのは百も承知である。
かつての自分はこれよりももっと厄介者だったと知っているからだ。
獣甲屋によって搭載されていたFBSにより、本来のドラギアスの性格は完全に上書きされていたのだ。
凶悪かつ、粗暴で上品さや礼儀のかけらもなかった......奪われていたのだ。
いまでこそFBSを完全に取り除き、更正したとも言えるドラギアスにとって、
獣甲屋に良いように使われていた時のことは思い出したくない過去である。

ドラギアス「あまり馴れ馴れしくしてくれるな」
ガオー「そう言われても、お前の事情考えると......なぁ?」
ドラギアス「貴様らに哀れまれると本当に情けなくなる、やめてくれ」
キョウ「いや、なにも同情してるわけじゃないけど......もう昔のお前とは違うってのは本当なんだろ?」
ドラギアス「たしかにそうなんだが......っ。むう、ああ言えばこう言う......」

本当に、調子が狂う。
以前の暴走気味だった自分を知るキョウ達は、まさしく再会したくない存在の筆頭だったというのに。
こんなにも当たり前に自分が受け入れられている事実はありがたいと思う反面、
まだ嬉しさよりも気まずさの方が上回る。

ムサシ「急な話ですまない。色々と忙しい中だろうに、時間を取ってくれたこと感謝する」
ドラギアス「......まだ言葉が通じそうな奴がいて安心したよ。ムサシだな」
ムサシ「いかにも。よろしく頼む」

ムサシが差し出した手を、躊躇なく握り返した。
やはり、ムサシからは自分にとても近しい何かを感じる。
その光景を見ていた少年が、タイミングを見計らっていたのか慌ててぺこりとお辞儀をした。

マコト「は、初めまして。晄マコトっていいます」
ドラギアス「うむ。貴様はムサシの相棒ということで間違いないか」
マコト「そう、です。よろしくお願いします、その、ドラギアスゼノフレイム......さん」
ドラギアス「馴れ馴れしくするなとは言ったが、そう堅くなられても困る。ドラギアスでいいし、敬語もやめてくれ」
マコト「わかりま——わかった、です」

戸惑うマコトを前に、ドラギアスは心の中で深く頷いた。
自分が想像していた訓練生像に非常に近しい。
礼節をわきまえたムサシの態度にも好感が持てる。
それに比べて——

ガオー「で、訓練ってのは具体的に何するんだよ」
キョウ「またお前と戦えばいいのか?」

——うむ、やはり。
話が早すぎてこいつらはフラッペ以上に苦手だ。
だが一度は引き受けた仕事である。
相手が誰であろうと任務を全うするのが筋というものだろう。

ドラギアス「組み手というのも考えたが、我が任されたのはあくまで貴様らの実地研修だ。
まずは詰め所に行って無線を受け取るが良い」

だから、不機嫌を胸の奥にしまい込む。
自分がいま出来ることは、彼らを一人前の戦士として育てることだけだ。

マコト「実地研修って、ABFの?」
ドラギアス「ああ。貴様らはIAA特殊部隊所属ということになっているらしいが、我の下で経験を積むというのならばABFのやり方に沿って貰う。まずは地道にパトロールといこうではないか」
ムサシ「なるほど」

ガオー「え!戦わねえのか!?」
ドラギアス「戦闘力という点にのみ絞っていえば貴様ら二体はもう充分だろうよ」
ガオー「......へへへ、褒められると照れるな」
ドラギアス「勘違いするな、褒めてなどいるものか。
現場から現場へ移動する我々ABFはただ強ければ良いというわけではないのだぞ」

必要なのは状況に合わせた戦術構築。
市民の避難における誘導方法。
そしてなによりチームワークだ。

キョウ「へえ、色々考えてるんだな」
ドラギアス「あまりなめるなよ。これでもABFの一番槍を自負している」
キョウ「なめてないって。ただお前の口からチームワークって言葉が出てくるなんて意外だなーって」
ドラギアス「......フン」

本当にやりづらい。
かといって、キョウの言うことを否定しようとも思わなかった。
捨て去りたいはずのドラギアスの過去を知る者、知らない者。
誰であろうが、変革したこれからの自分を見せていくしかない。
独りよがりの武人はもういないのだと。

ドラギアス「なにをボサッと突っ立っている!さっさと無線を回収してこい!」

武力しか取り柄がなかった自分が挑む、過去との戦いはまだ始まったばかりだった。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 20

戦闘が終わると、再起動した相棒達を労るマコトとキョウを尻目に、
タスクとフォックスロアーは早々にその場から姿を消した。
どうやら近々IAAの特殊部隊とABFの合同訓練があるらしく、その顔合わせで席を外すことになったそうだ。
結局、兄とまともに言葉を交わしたのは決着の時だけだった。

マコト「......逃げることだけを考えて、か」
ムサシ「気にしすぎるな、マコト。キミが本当に晄タスクの言うような人間だったのなら、
そもそもこの場に立っているはずがない。
自分と向き合うと決めたからこそ、マコトは兄と戦うことが出来たんだ。もっと自信を持て」
マコト「そう、だね。ありがと、ムサシ」

以前の自分なら、兄に言われたまま塞ぎ込んでいたかも知れない。
だが相棒の言うとおり、晄マコトはここにいる。

マコト「でも、兄さんが言ってたことにも一理ある」

自分には攻めの姿勢が足りないと気付かされた。
相手の攻撃を避ければ反撃出来る、という受動的な考えをいずれ捨てなければいけないと、
他でもない兄に教えて貰えたのだ。

マコト「ボク、もっと強くなりたい......強くなるよ......!」
キョウ「その意気だ、マコト!オレも今回、色々と思い知らされたからな......一緒に強くなろうぜ!」

うん、とマコトは力強く頷いた。
仲間の言葉がこれほどまでに強く自分の背中を支えてくれているのだと思うと、自然と笑みがこぼれていた。

アズナ「面白いね、キミたち」

審判として一部始終を見届けていたアズナが、試合中の冷静な雰囲気とは打って変わって明るい語調で声をかけてきた。

アズナ「特にキミ、マコトくん。あの“カタブツ”タスクくんに弟がいるなんて話、聞いたことなかったから驚いたなー。
どれどれ......うん、こうしてみるとよく似てるねぇ。ウケる」

アズナの顔が“ずい”、とマコトの顔の至近距離まで近づいてくる。
あまりの近さに思わず目を背けてしまった。

マコト「あ、あの......」
アズナ「あは、かわいー。ああいやいや、こんなことしてる場合じゃないんだった——ね、キミたちさ」
キョウ「はい?」

彼女はキョウとマコトの顔を交互に見て何度か頷くと、なにか確信を持った声で勢いよく言い放った。

アズナ「強くなりたいならさ、ウチらの仕事手伝ってみない?」
ガオー「へ!?」
ムサシ「......とんでもないこと言い出すな」

EPISODE DE20

本人達よりも冷静な反応をするアニマギアに、アズナは苦笑いを浮かべながらも続ける。

アズナ「暴走アクターの事件はまだ起きてるし、
獣甲屋のテロ以降アニマギア絡みの事件は増える一方なのは知ってるっしょ?
ぜんぶ鎮圧するには人手が足りないんだよね。そこでキミたちの腕を見込んで手伝って貰えないかなーって」

確かに、彼女の言うことはもっともだ。
ABFだけではカバーしきれないほど、いま世の中に事件は溢れかえっている。

アズナ「ギアティクス社は正式にIAAの傘下に入ったワケだし、あたしたちが協力するのも良いと思うんだ。
ぶっちゃけ子供だと思って侮ってたんだけど、いまの戦いっぷり見てたらその不安もぶっ飛んだし」

マコト「......ボクたち、負けたよね?」
キョウ「うん、それも完璧に」
アズナ「あのバトルオタクに勝とうなんて結構難しいんだから気にしない気にしない。
でもちゃんと良い動きは見れたし、タスクくん相手にビビってなかったっしょ」

大丈夫、これでも見る目には自信あるんだから、と。
自慢げに胸を張るアズナを前に、マコトとキョウは互いに見合わせた。

キョウ「どうだ、マコト。やってみる気、ある?」
マコト「うん。強くなりたい、って言ったけど具体的な方法とか考えてなかったし......良い機会だと思う」
アズナ「なら決まりねっ!」

アズナが二人の手を取って同時に握手する。
これから先、どんな事件がマコト達を待ち受けているのだろうか。
そして、その事件を経て自分は成長することが出来るだろうか。

マコト(......大丈夫。ボクには仲間がいる......強くなって、みせる)

願わくば、兄に認められるような男になろう。
不安と期待が入り交じる複雑な心境ながらも、決意を新たにするのだった。

 

空を舞う赤い影がある。
その影は、眼下の街を俯瞰しながらゆっくりと旋回していた。

???「——また事件、か」

街の方から騒々しい空気を感じ取ると、すぐさま通信が入ってきた。

オペレーター『ABF各位に伝達。C地区でアクターが暴れているとの通報あり。現場付近の隊員は速やかに対応されたし』
???「ふん」

予想したとおりの内容に、影はノータイムで急降下を始める。

???「その事件、このドラギアスが一番槍を務めよう——」

彼の者の名はドラギアスゼノフレイム。
かつて獣甲屋の手先として暗躍したエンペラーギアは今......。

ドラギアス「——いざ参るッ!」

......街の平和を守るために、事件の渦中へと舞い降りようとしていた。

EPISODE DE20

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 19

人型へと変形したレイドランスの動きは速かった。
先ほど弾き飛ばしたガオーのもとへと、一足飛びに距離を詰めてみせる。
ガオーはまだ体勢を立て直し切れていない。

ガオー「な、に......ぐがっ!?」

レイドランスはガオーの背を踏みつけ、身動きを取れなくしてから片方の翼を乱暴に掴み上げる。

キョウ「一体何を......!?」
タスク「その翼、暴走アクターから剥ぎ取ったモノらしいな——やれ、レイドランス」
レイドランス「イエス、マスター」

そのまま、レイドランスは刈り取るようにガオーの翼を引き剥がした。

ガオー「ぁああああああああああああああッ!!」
キョウ「ガオー!!」

カスタマイズに対する待機状態が整っていない環境で、あれほどの大きさのパーツを無理に引き剥がすのは危険だ。
特にツインクロスアップをしている場合、ブラッドステッカーの出力が通常よりも大きくなっているため、

タスク「大型のパーツをいきなり外せば動力が不安定になり、強制シャットダウンを引き起こす——
暴走アクターのデータが残っているかも知れないからな。これは回収させてもらう」

その言葉の通り、ガオーはがっくりとうなだれて動かなくなってしまう。

タスク「......まずは一体」
ムサシ「貴様......ッ!!」
マコト「ちょっと待ってよ、ルール違反じゃないか!?」
タスク「甘い。お前が言っているのはボーンフレームの破壊についての禁則事項なんだろうが——」

端的に言えば、ツインクロスアップシステムはニックカウルに追加のカスタマイズを行えるシステムだ、と彼は続ける。

タスク「——これはボーンフレームの破壊には抵触しない。そうだろう、キリエさん」

問われたアズナは、黙って首を縦に振った。
ジャッジを務める彼女がそういうのであれば、いくらこちらが納得できなかろうがそれに従うしかない。
ならば。

マコト「行ってムサシ、ギロ......!全力でサポートするッ!」
ムサシ&ギロ「応ッッ!!」

闘争心に火をつける。
いまは相手が兄だろうがなんだろうが関係ない。
苦手意識をすべて吹き飛ばすほどの“熱”がマコト達を駆り立てた。
レイドランスに負けず劣らずの瞬足で、ムサシは“敵”に肉薄する。
息もつかせぬ身のこなしで、そのまま左の大剣を振り下ろした。

レイドランス「見えております」

地を這う衝撃。
その僅か上空へと、レイドランスは軽やかに跳んで見せる。
避けられていた。

EPISODE DE19

マコト「来る......!ムサシ、剣を起点に左へ避けて!!」

反応が良い。
ムサシは突き刺した大剣で言われるがまま器用に地面を弾いて左方へと回避行動を取る。
そしてマコトが観た通り、先程までムサシがいた場所でレイドランスの鎌が空を切った......かに思えた。

ムサシ「な......っ!?」
ギロ「こいつぁ......!!」

いつの間にか後ろに回り込んでいたレイドランスが、避けた先で今一度鎌を振るう。
肩のアーマーをあてるように防御するが、そのまま弾き飛ばされてしまった。

マコト「そんな......どうして......!」
タスク「......所詮、お前のチカラはそんなものだ、マコト」

レイドランスの猛攻は、途切れることなくムサシを痛めつけていた。
その度にマコトは見切り、指示を飛ばす。
だが、どうしても攻撃を避けきれない。
読み切ることが、出来なかった。

そんな光景の裏で、兄は眉間に深くしわを刻みつけながら続ける。

タスク「新型とはいえ、デュアライズカブト型の限界は見えている。ムラマサの事を思い出して郷愁にでも駆られたか?」
マコト「......ッ!」
キョウ「ムラマサのことを......知っているのか......!?」
タスク「お前には関係がないことだ、天草キョウ。そしてマコト、お前にも関係のないこと......だっただろう」
マコト「でも兄さん......ムラマサは、兄さんのことを......!!」

タスク「......くどい。終わらせろレイドランス、何を遊んでいる」
レイドランス「イエス、マスター」

もういい、と言わんばかりに放たれたタスクの一言で、レイドランスは動きを変えた。
両の鎌を一度しまい、その場で大きく踏み込んでみせる。

マコト「まずい!ムサシ、直進で来るよ!!」
タスク「お前の読みは“遅すぎる”んだ、マコト。お前が観ている未来は永遠に訪れない」

奇しくもタスクの言葉通りに展開は運ばれた。
一見、確かにまっすぐ敵はムサシへと突進している。
ムサシはそれに対応しようと剣を盾代わりに正面へと構えたが——、

マコト「そんな!?」

——身体を捻る、バスケットボール選手が相手を抜く時に使うような足さばき。
ムサシの身体に寄り添い、踊るように回転して見せて、背後から必殺の一撃が放たれた。

ムサシ「ぐああああああああッ!!!!」

EPISODE DE19

タスク「......二体目。思ったよりも時間がかかったな。次はもっと早くしろ、レイドランス」
レイドランス「申し訳ありません。全力でお応え致します」

マコトの相棒は、吹き飛ばされ落下した先でぴくりとも動かなくなっている。
あまりにもあっけない幕切れであった。

マコト「ムサシ......ギロ......!!」
タスク「兄から忠告してやる。お前のその目は、怯えた草食動物のそれとなんら変わりはない」
マコト「......!!」
タスク「逃げることだけを考えて、生き残ることしか考えていないお前だからこそ手に入れた“つまらない能力”だ——」

——攻めることを放棄した相手に後れを取るほど、俺とレイドランスは鈍(なまくら)じゃあない。
タスクの冷たい言葉と視線が、マコトの胸を八つ裂きにしていた。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 18

キョウ「お前と本格的にタッグ組むのはなんだかんだ初めてだな、マコト」
マコト「そうだね......天草の足を引っ張らないようにしなきゃ」

ガオー「心配いらねーだろ!な!」
ムサシ「ああ。マコトにはキョウの技術に追いつけるセンスがある。
ましてや2対1で、加えてイーグとギロの協力もあるんだ。
多勢に無勢とはあまり気は進まないが、あれだけ大口を叩かれたんだ。俺達も全力で行く」

キョウ「頼んだぜ、みんな!」

EPISODE DE18

タスク「——準備は出来たようだな」

模擬戦場の向こう側で、タスクとレイドランスがこちらを見つめている。
その奥ではIAAの会長フォックスロアーと、その秘書アズナが状況を静観していた。

タスク「では、始めますよ会長」
フォックス「ああ、存分に暴れてくれたまえ」

アズナ「——それでは、これよりツインクロスアップシステムのデータ収集を目的とした、模擬戦を開始します!
当ギアバトルはアニマギアの緊急停止、もしくはどちらかの降参によって勝敗を決するモノです!
ボーンフレームの破壊、マスターへの直接攻撃は禁止となります!」

以上のことを踏まえ両者前へ。
アズナの言葉に従い、ムサシとガオー、そしてレイドランスが中央へと足を進める。
先のタスクによる“処理宣言”で、両陣営すでに一触即発の張り詰めた空気を纏っていた。

アズナ「——始めッ!」

先に動いたのはガオーだ。
戦闘開始の合図と同時、ブースター全開で体当たりをかます。
レイドランスはこれを受けた。
カマキリが地面を滑るように大きく後方へと弾き飛ばされる。

キョウ「先手必勝だガオー!畳みかけろ!」
ガオー「当然、そーするつもりだ......ぜッ!」

獅子は高く飛翔し、頭部のブラスターから弾を連射する。
そのまま突っ込んだ。対暴走アクター戦で見せた急降下からの突進である。
レイドランスはこれらの攻撃を、避けることなくすべて迎え入れた。
無数の弾と突進を真正面からまともに喰らう。

ガオー「口ほどにもねえな!」
キョウ「......っ!?いや、ガオー!距離を取れ!!」

ガオーのレスポンスは早い。
言われたとおり、レイドランスとすれ違うように急旋回しムサシの元へと戻って見せる。

ガオー「なんだあいつ......効いてねぇのか!?」

獅子の渾身の突進は一撃目よりも遙かに重かったはずだ。
しかしレイドランスは銃弾や突進をものともせず、その場からぴくりとも動くことなく佇んでいた。
傷一つ負っていない。

タスク「......口ほどにもないな」
レイドランス「まったくもってマスターの仰る通りで」
ガオー「ぐンぬぬぬぬぬぬ」

マコト「あの多脚が上からの衝撃を全部逃がしてるんだ......」
キョウ「マコト、分かるのか!?」

うん、とマコトは頷いてみせる。
彼の目はレイドランスが攻撃を受けるその一部始終を捉えていた。
弾を受ける一瞬一瞬、そして突進を受ける刹那に、レイドランスの多脚が複雑に動作していたのだ。
いま思えば、あの動作はすべての攻撃に対するクッションの役割をしていたのだろう。

マコト「折角二人で戦ってるんだ、同時に攻撃を仕掛けないとまともなダメージは与えられないよ......!ムサシ、ギロ!ガオーの攻撃に合わせて挟み撃ちして!」
ギロ「合点承知!いくぜダチ公!」
ムサシ「了解した!」
キョウ「聞いてたなガオー!こっちが先行してマコト達を誘導するぞ!」
ガオー「あいよ!!」

ガオーは大きく弧を描きながら旋回し、レイドランスの右方から前爪による攻撃を仕掛けた。
そのスピードに置いてかれまいと、ムサシも背中のブースターを点火する。
直線的な動きを繰り返し、稲妻のような軌道で肉薄した。
両の剣はすでに抜いている。

タスク「......ふん。指示は事前に伝えたとおりだ。“タイミング”は自分で判断できるな」
レイドランス「お任せ下さい」

ギロ「タイミングどんぴしゃだ!スカした野郎をぶっ飛ばすぜガオー、ムサシ!!」

だから、と言うように。
レイドランスを挟んだ両側から、ガオーとムサシの渾身の一撃が放たれる。
しかし。

キョウ「これでもダメなのか!?」
レイドランス「惜しかった、と賞賛の言葉をお贈りしましょう」

レイドランスは完璧に両の攻撃を受けきっていた。
二つの鎌を器用に構え、ガオーとムサシの攻撃を完全に無力化したのだ。

マコト「——危ない!いますぐ後退するんだ!!」

マコトの指示が飛んだ、その直後。
驚いたことに、レイドランスは一瞬にしてその姿を変えてみせる。

EPISODE DE18

人型への変形——からの、両腕の刃から生まれる衝撃がガオーを吹き飛ばした。

ガオー「ぐあああッ!?」
キョウ「ガオー!!」
ムサシ「く......っ」

かろうじて、ムサシはその攻撃をすんでの所で避けている。
マコトとムサシの連携合ってこその回避だった。

タスク「なるほど、悪くない目をしている。それがお前の武器か、マコト」

攻撃と回避の一部始終を見ていたタスクは、どうやらマコトが観察力に優れていることをすぐに看破したようだった。

タスク「しかし。暴走アクターを倒した腕前と聞いたときは少し驚いたが......タネを見てみれば大したことはないな」
ムサシ「なんだと......!?」

タスク「レイドランス。あいつらに教えてやれ。素人の戦いが俺達プロには通用しないのだと」
レイドランス「かしこまりました、マスター」

ここからが本当の彼らのステージなのだと言わんばかりに、タスクとレイドランスの纏う空気が一変する。
マコトはその空気に圧し負けないように、彼らの動きを見逃すまいと目をこらすのがやっとだった。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 17

アズナ「失礼致します」
フォックス「来たね、ミスアズナ。そしてミスタータスク」

フォックスロアーが柔和な笑みを浮かべて来訪者を迎え入れる。
アズナの後ろに控えていた白い制服の青年・晄タスクはその名を呼ばれると背筋を伸ばし、
無駄のない所作で敬礼して見せた。

タスク「晄タスク、ただいま要請に従い出頭致しました」

EPISODE DE17

マコトは一瞬、この場に来たことを後悔した。
しかし、兄と向き合わねば自分は先に進めない気がする。
だからこそ自ら志願したし、迷いながらも兄に声をかけた。

マコト「兄......さん......」

兄はマコトを一瞥すると、眉根をわずかにひそめて「本当に来たのか」と呟くように吐き捨てた。
一気に身体が萎縮するのを感じる。

フォックス「まぁそう邪険にしてあげないでくれ。
先に報告書を読んだが、どうやらキミの弟もミスターキョウと同じく暴走アクターを沈静化させた実力者らしい。
さすがは“無敗伝説”の弟といったところかな」
タスク「は。......マコトが、ですか」

にわかには信じられない、という言葉をタスクが飲み込んだと気付いたのは兄弟ゆえだろう。
彼とはそういう男だ。
弟であるマコトを、かつて一度として認めたことはないのだ。

フォックス「そこで、だ。どうだろうか、一度彼らと手合わせをして貰えないだろうか」
タスク「理由を聞かねば承服しかねます」
フォックス「まずひとつ。キミを呼んだのは、
暴走アクターを討ったミスターキョウと戦って貰いたかったのが元々の理由となる」

次に。
フォックスロアーは言いながらタスクの前へと歩を進めた。

フォックス「なぜ戦って貰いたかったのか、という所だが。
なにぶん、我々IAAは来日して日が浅い。
今起きている暴走アクターの事件に疎いと言うことだ。
そこで、事件解決の鍵となったツインクロスアップのデータを詳細に取りたいのだよ」

タスク「ならば、弟は必要ないはずです」
フォックス「それはどうだろうか。
ミスターマコトもまた、初めてのカスタマイズながらツインクロスアップを以て暴走する強敵を倒した......
つまり、それほどまでにツインクロスアップというシステムが優秀と言うことではないかね」

タスク「それは......」

フォックス「サンプルは多いに越したことはない。加えて、彼がキミの弟だというのならば、
その戦術を読むに長けているのではないかと僕は踏んだ。
ミスターマコトの癖を掴むことで、彼を今後起きうる事態鎮圧の戦力として成長させる良い機会じゃあないか」

マコト「ぼ、ボクを戦力に、ですか!?」
フォックス「そこまで驚くことでもないはずだ。キミだってその覚悟でここまでついてきたのだろう?」

それを言われてしまうと、マコトは何も言い返せない。
すべてフォックスロアーの言うとおりだからだ。
ここで前に踏み出さねばならないと、覚悟を決めたからここにいる。

タスク「......分かりました。やりましょう」
フォックス「助かるよ。それではまずは本命だったミスターキョウから——」
タスク「——いえ。その必要はありません」

フォックスロアーの言葉を遮ってタスクが放った言葉に、一同耳を疑った。

タスク「まとめて“処理”します。データ収集というのならば、一体一体相手にするよりそっちの方がずっと速い。
効率は上げた方が良いでしょう」
フォックス「ほう!それは面白い!」
キョウ「まとめてって!ガオーとムサシを同時に相手するってことか!?」
ムサシ「随分となめられたものだ」

タスク「......聞こえなかったのか?相手をするなんて俺は言っていない。処理する、と宣言したんだ」
ガオー「なにをう!?」

タスク「キミ達がツインクロスアップシステムを活用しようと、
二体ごとき並のアニマギアが俺達の相手になるはずもない......出ろ、レイドランス」
???「トランスマンティレイド、ここに」

タスクの懐から現れた一体のアニマギアが、ガオーとムサシの前に躍り出る。
緑色のカマキリ型アニマギアだ。

EPISODE DE17

タスク「話は聞いていたな」
レイドランス「もちろんです。ワタクシならば、マスターの要望に100パーセント応えることが出来るでしょう」
タスク「それでいい......ならば、場所を変えようか、“ビギナー”達」
マコト「............兄さん......ッ」

タスクの冷たい眼光が、マコトの怯えたような弱々しい瞳を貫くように捉えている。
これから本当に兄と戦うのだと実感して、額に冷たい汗がにじんだ。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 16

マコトの話を聞いたアズナは、驚きながらもマコトの同行を認めてくれた。
直後、アズナの傍らに、フラッペとは違うアニマギアが現れ、元気良く手をマコト達に振って見せる。
黒い兎型の機体。
フラッペと共にアイドルユニット『ビタースイーツ』として活躍する、コラーテことラビドルショコラーテだ。

コラーテ「それでは、ここから先はわたしが案内しますね!」

EPISODE DE16

コラーテはIAAの受付嬢としても働いているらしく、これから別の人を呼びに行くというアズナとフラッペの代わりに、
ギアティクス社の社長室へと皆を案内するらしい。

コラーテ「“あの”タスクさんの弟さんですか。言われてみれば似ているような気がしますね!特に目元が似てます!」
マコト「あ、ありがとう......?」
コラーテ「いえいえ!こちらこそ、弊会の実力者であるタスクさんの弟さんに会えて光栄です!」

マコトは、IAAの要職に就く人物の弟だった。
そんな“告白”に衝撃を受けた一同だったが、コラーテだけはその緊張をものともせず軽い足取りで先を歩いていた。

キョウ「そうか......晄って苗字」
マコト「うん......?」
キョウ「聞き覚えがあるなとは思ってたけど、
昔ギアバトル大会でめちゃめちゃ強かった人がいたって話を耳にしたことがあったんだ」

公式戦で一度も負けたことない選手がいた、と。

キョウ「その人がマコトの兄ちゃんなのか?」
マコト「......そうだよ。ごめん、いままで黙ってて」
キョウ「謝ることなんかねーって!話さなかったのは理由があったんだろうし、
オレもマコトに話してなかったこと、あったし」

今度ゆっくり話そう、と彼は打ち切って。
コラーテに先導されるまま、続きを話すことはなかった。
気まずい空気ではない。
キョウはちゃんとマコトの意思をくみ取ってくれていることが分かって、それがとても有り難いと思えた。

コラーテ「はいりまーす!」

そんな折り、ギアティクス社の社屋最上階に位置する社長室の前に一行が到着する。
コラーテが深々とお辞儀をすると、自動ドアになっている社長室の扉が機械的な音を立てながら左右に開いた。

その奥に、先程までいたアズナと同じ制服を着た一人の男性がいる。

腰まで届く銀髪を襟足でまとめた、端正な顔立ちをした青年だ。
一目で日本人でないことがわかった。
ニュースで顔を見たこともある。
その能力の高さゆえに、史上最年少でIAAの会長となった人物。
フォックスロアー=ナンバーライトという男が、そこにいた。

EPISODE DE16

フォックス「やぁ、来たね」

流暢な日本語で話す彼に面を喰らったが、それよりも気になる点がある。
フォックスが社長席に座っていることだ。

ヤマト「......来客にしては随分と横柄な態度じゃないか」
フォックス「ん?ああ、もう“来客じゃない”からね。先ほど“ギアティクス社は我々IAAが正式に買い取った”
......抜き打ち調査ついでにポスト交代というわけだ。数ヶ月前から社長とは話を進めていたんだよ」

ヤマト「なんだって!?そんな」
フォックス「そんな無茶苦茶な......か。それは我々の台詞だよ、ドクターヤマト」

決して威圧的な態度、というワケではないが、フォックスはその佇まいだけでこちらを黙らせる迫力があった。

フォックス「獣甲屋による度重なるテロ行為を許し、それを解決した英雄はまだ年端もいかない子供だろう?
重大な事件に子供を巻き込んだ上、エンペラーギアの開発にアナタが関わっていたという事実もある......
それこそ無茶苦茶、という奴ではないかな?」

キミもそう思うだろう、英雄ミスターキョウ。

フォックスの鋭い視線がキョウに向けられている。

キョウ「......オレは、巻き込まれたとは思っていません。オレの意思でやったことです」
フォックス「それは立派なことだ。世界を代表して礼を言うよ、ミスターキョウ。本当にありがとう」
キョウ「......」

それで。
フォックスはキョウに向かって下げた頭をなおして話を続ける。

フォックス「いまや世界中で親しまれているアニマギア達のことを考えてみてくれ。
和を乱すエンペラーギアの開発に関わっていた人間を雇い、
内外で獣甲屋と関わっていたギアティクス社を放っておけると思うだろうか?」

答えは否、だ。

フォックス「我々IAAが直接介入するのも止むなしだよ」

IAAの言い分は正論だが、一方的な側面でしか語っていない。
ギアティクス社がなければ、獣甲屋のテロを未遂に終わらせることは叶わなかったはずだ。

フォックス「なに、大きな人事改革を行うつもりはない。
我々はギアティクス社が保有するエンペラーギアのデータを使い、今後の発展と平和のために役立てる。
同時にギアティクス社内部の調査も進めさせていただく。

組織のイメージ回復に努めると約束しようじゃないか」

ヤマト「......私を呼びつけたのはそれが目的か」
フォックス「オフコース。社長命令だ、あなたは僕の要請に従う義務がある。なに、悪いようにはしないさ。
聞いていないかな、危害を加えるつもりはないと」

会長の口調は厳しいものではあったが、浮かべた柔らかな笑顔に嘘はなさそうだ。
状況改善のために大きく事態を動かそうという意思が伝わってくる。
そこにあるのは、厳しさというよりも優しさだ。

ヤマト「......、わかりました」

会長の表情を観てヤマトは納得したのだろう。
彼は心の中で区切りをつけたように、敬語をもってフォックスロアーの座る社長席へと歩み寄って見せた。

フォックス「ありがとう、ドクターヤマト。あなたの協力で、アニマギアが更なる発展を遂げるだろう。
それと......ミスターキョウ。それにミスターマコトだったね」
キョウ&マコト「はい」
フォックス「キミ達に会わせたい人物がいる......ああ、ちょうど着いたようだ」

会長の言葉にあわせるように、社長室の扉が再び開かれる。
そこに現れたのは秘書のアズナ。
そして彼女の傍らに、白い制服を着た青年がいた。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 15

ヤマト「IAAの監視下だって......!?」
アズナ「いやぁ、あたしとしたことが失敗失敗。事前に伝えておけばよかったですねぇ」

EPISODE DE15

状況が飲み込めていない一同をよそに、アズナは軽い口調とともに頬をかいてはにかんでみせた。
決して笑えるような空気ではないが、彼女はまるで意に介していない様子である。
IAAはギアティクス社の上位組織だ。

国際アニマギア連合協会の出現に面食らったマコトだったが、彼女が言った
「ギアティクス社を監視下に置く」という言葉の不穏さは十分に理解できた。
IAAが持つ権力の強さは、アニマギアに疎いマコトでも知っている。

???「アズナさん」

固まってしまった場の空気を晴らすように、アズナの肩口から白いアニマギアが現れた。
兎型の可憐なアニマギアだった。

???「抜き打ち調査なんだから事前に伝えてなくていいんですよ」
アズナ「ああそっかそっか、ありがとフラッペ」

EPISODE DE15

キョウ「あれってビタースイーツのラビドルフラペールか!?」
マコト「ほんとだ......」
フラッペ「みなさん初めまして。IAAの会長秘書......の秘書を務めております、フラッペと申します」

学校で何度も話題に上がっていたし、テレビや雑誌でも見たことがある姿だ。
間違いなく、アニマギアアイドルユニット『ビタースイーツ』のフラッペことラビドルフラペールがそこにいる。

アズナ「まぁ驚くよねぇ。彼女はアイドル兼あたしの秘書って感じで。
そうそう、あたしはあたしでビタースイーツのマネージャーもやってるんだ」
キョウ「んな無茶苦茶な......」
マコト「ちょっとボク、頭痛くなってきた......」
ヤマト「......私は胃が痛くなってきたな」
突然つめこまれた情報があまりに多かったせいか、三者三様に色々と限界を迎えそうだった。

フラッペ「ほら、アズナさん。皆様状況に追いつけていない様子ですよ。ドヤ顔してないで令状出して下さい」
アズナ「はっ、そうだったそうだった」

フラッペに促され、アズナは懐から1枚の紙を取り出してこちらに差し出してくる。

アズナ「ほい、これ令状です。“会長”もすでに到着しているので、
紅葉ヤマト博士と天草キョウくんはひとまずこのビルの社長室の方に来て下さいね~」
キョウ「お、オレもですか!?」
アズナ「獣甲屋のテロ行為、その顛末について詳しい人物が現状日本にキミしかいないんだよね」

マコト「天草が......獣甲屋について詳しいって、どういう......!?」
キョウ「......」

飛び出してきた新たな情報は、これまでの情報のなによりもマコトに衝撃を与えた。
確かに、彼は只者ではないとは思っていた。
SNSで人気のインフルエンサー、ギアバトル大会の出場資格を持つほどのランカー。
しかし、それ程の肩書きを持っていると分かっていても「おかしい」と思う場面がなかったわけではない。
突然の戦闘になっても、落ち着き払った態度。
戦闘の最中にカスタマイズを求められても、対応出来る異様な手さばきの速さ。

キョウ「......黙ってて悪かった、マコト。今度ゆっくり話すよ」
マコト「い、良いんだ、無理しなくて。ボクも黙ってること、たくさんあるし......」

しかしながら。
友達だと思っていたのに、だとか。
仲間だと思っていたのに、だとか。
そんなマイナスの感情はどこにも持ち合わせていなかった。

キョウのバックボーンを教えて貰っていなかった事実がショックだったのではない、とすぐに気が付いた。
むしろ、憧れさえ感じる。
この少年の隣に立つに相応しい男になれるだろうか、と。
場に似つかわしくない感情を抱いたことが恥ずかしくなって、マコトは頭を数回左右に振って見せた。
冷静にならなければいけない。

ヤマト「どうしても、キョウくんもいかなきゃダメなのか」
フラッペ「その場に居合わせた三梨コノエさんや、
チームの中心人物だった飛騨ソウヤさんは現在海外出張中とお伺いしております」
アズナ「天草キョウくんに白羽の矢が立つのは当然、ってことね」

ヤマト「獣甲屋の残党調査のため、彼らに海外派遣を要請したのはIAAと聞いていたが......?」
アズナ「そこはそれ、タイミング悪かったって話で納得してくれません?」
ヤマト「......むう」

フラッペ「......また。監視下に置くとは言いましたが、
今回の調査は主に獣甲屋に関する情報収集の側面が大きいとお考え下さい。
危害を加えるようなことは一切ございませんので、ご安心を」

キョウ「どうやら......行くしかなさそう、ですね」
マコト「あの」

マコトは右手を遠慮がちに挙げて見せる。

マコト「ボクも行っていいですか」

キョウ「へっ!?なに言ってんだマコト!こんな面倒ごとに自分から首突っ込むなんて!」
アズナ「大事な話だから、あんまり部外者入れたくないんだ。ごめんね、ボク」
マコト「部外者じゃ......ありません......」
フラッペ「......アズナさん!彼、もしかして......!」
アズナ「はい?」

場が騒然とする中、マコトはこの場にいる殆どの者が予想のつかない言葉を紡ぎ出す。
マコト「ボクの兄は、IAAの対アニマギア犯罪特殊部隊隊長、晄タスクです......!」

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 14

マコトとキョウがギアティクス社へと呼び出されたのは、マコトが暴走アクターと戦ってから一週間後のことだった。
応接間に通されたマコト達の前に、ギロとイーグも居合わせている。
どうやら自分と同じく彼らにも声がかけられたらしい。

EPISODE DE14

そんな自分達を招集した人物、二足歩行アニマギアの権威である紅葉ヤマト博士が、マコト達の前に姿を見せた。

ヤマト「やぁみんな、よく来てくれたね」

サクラの父親でもあるという彼は、かつてはモミジテクニクスという研究所を起ち上げていたのだが、
元々働いていたギアティクス社に技術顧問という形で戻ってきたのだという。

ヤマト「キミが晄マコトくんか。初めまして」
マコト「はっ、初めまして......っ」

深々とお辞儀をすると、ヤマトが困り笑いを浮かべて「あんまりかしこまらないで」とマコトを諭した。

キョウ「それで博士、今日はどうしてオレ達を?」
マコト「天草が呼ばれるならまだしも、ボクまで声がかかるなんて......」
ヤマト「ああ、それなんだがね。暴走アクターの事件にキミ達が巻き込まれたと聞いたんだ」

ヤマトの言うとおり、キョウとマコトは立て続けにそれぞれが暴走アクターと戦った。
だが、それが今回二人が呼ばれた理由になぜ繋がるのか、まだマコト達はそれを理解できていない。

ヤマト「キミ達がこの短期間で二体もの暴走アクターと出会ったことを、単なる偶然で片付けるにはどうもキナ臭くてね」
ギロ「ちょっと待てよ、野郎が俺様達を“あえて狙ってきた”とでも?」
ヤマト「ああ、そうだ」

これを見てくれ、とヤマトが取り出したのは機能停止したアニマギアだ。
ただのアニマギアではない。
イーグ「彼らは......」
ヤマト「そうだ」

EPISODE DE14

紛れもなく、キョウとマコトがそれぞれ刃を交えた二体の暴走アクターだった。
続けて、ヤマトは携帯端末を取り出してアクターの隣に添えてみせる。
画面に表示されているのは黒地に緑色の英字の羅列だ。

ヤマト「この二体にリプログラミングされたソースコードを解析したところ、
気になる記述が見つかった。ここを見てくれ」

一文だけ赤くハイライトされた箇所を指さす。
“priority target = third gen animagear;”

ヤマト「これら二体のアクターのどちらも、共通してこの記述が書き込まれている。
“第3世代アニマギアを標的とする”......とね」
キョウ「ガオー達が......」
ヤマト「一体何処の誰がどういう理由で、遠回りにアクターを改造してまで第3世代を狙い撃っているのか......
そこまでは分からない。しかし明確な目的がある、というのは間違いないんだ」

マコト達の知らないところで、すでに他の第3世代アニマギアが被害を受けたという報告もあるとヤマトは続けた。

ヤマト「今回キミ達を呼び出したのは、このことを伝えたかったからなんだ。
特にムサシ——デュアライズカブトダッシュは、一般に流通していない特殊なアニマギアだ」
マコト「......なるほど......」

アクターを改造した誰かの目的で、明確になっているのは「第3世代アニマギアを襲う」ということだけだ。
しかしそこに別の目的があったとしてもおかしくはない。
木を隠すなら森......本当の標的を隠すために、あえて広い定義にしている可能性もある。
そして現状、その本当の標的の可能性が一番高いのは間違いなくムサシだ。

ヤマト「あくまで憶測でしかないがね。人一倍気をつけるに越したことはないだろう」
マコト「ありがとうございます」
ガオー「オレ達も気をつけねえとな!!」
キョウ「ああ、気を引き締めていこう!」

イーグとギロも頷いて同調する。
この先なにが起こるのか、マコトには想像もつかない。
しかしこの仲間達がいれば、困難にも立ち向かえるような気がした。

マコト(......あれ?いまボク、“仲間”って......)

ただの友達ではない、と彼らをマコトが認めていたことに改めて気付かされる。
そしてそれが、一方的な感情ではないことも不思議と確信していた。
あえて一人でいることを選んでいた以前のマコトでは、決して辿り着けなかった心境だった。

???「あのー、盛り上がってるところ悪いんですけどぉ、ちょっとお邪魔しますねー」

聞き慣れない声に、応接間にいた全員が驚きながら扉の方に視線を投げた。
そこには、白い制服に身を包んだ赤いロングヘアの女性が立っている。

???「紅葉ヤマト博士に、天草キョウくんですかね?いまちょうど、お二人を探してた所でしてぇ」
ヤマト「......見ない顔だが、その制服には覚えがある。IAA......国際アニマギア連合協会の人間か」
???「やだ、あたしったら名乗る前に用件から入っちゃった、ウケる」

女性は一度、深々とお辞儀して、改めて一同に名を名乗った。

アズナ「大変失礼しました。あたしはアズナ=オウガスト=キリエ。
役職としてはキョーシュクながらIAAの会長秘書を務めさせてもらってまーす」

ヤマト「会長秘書......?IAAで、しかも上層部の人間がどうしてこんな所に」

アズナ「あれ?聞いてませんでした?今日からここ、ギアティクス社はIAAの監視下に置かれますよー、ってハナシ」

あ、言ってなかったか......と。
あまりにも軽い口調で、アズナと自称した女性はとんでもないことを言ってのけた。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 13

ペンギオスA「時間稼ぎはオレらに任せナ!!」
ペンギオスB「噴水だろうが水中ならお手のもんだ!ペンギンパワーでぶっ飛ばしてやるゼ!」

街中にいた二体のペンギオスが、マコトがカスタマイズするまでの時間稼ぎを申し出てくれていた。
頼もしいと思いながらも、しかし彼らに礼を言う余裕がマコトにはない。
ギロとムサシにアドバイスを貰いながら、必死にカスタマイズを試行錯誤していたからだ。

ギロ「いいかマコト!ツインクロスアップのキモは長所と長所の掛け合わせだ!
ムサシをベースにするなら、ムサシの長所を潰さないようにな!」
ムサシ「逆に言えば、俺の足りないところをギロのパーツで補って欲しい」
マコト「ムサシの......長所......足りないところ......!」

マコトが考えるムサシの長所は『接近戦特化の体捌き』と『指令に対する反応速度の速さ』にある。
そのどちらもが互いに補完し合っているし、先日のガオーDEが射撃を苦手としていたことからも、
接近戦特化を崩すのは得策ではないだろう。
ならば彼の短所とは——。

マコト「——そうか!」
ギロ「閃いたか!あのクソッタレをぶっ飛ばすカスタマイズッ!」
マコト「でも、ギロのことかなりバラバラにしちゃうかも......」
ギロ「気にすんなよ!俺様は信頼するダチの相棒であるマコトも同じだけ信じてる!
野郎に勝てるならこの身体、好きに使ってやってくれ!」
マコト「......ありがとう!」

マコトの手が、ムサシとギロのパーツを複雑に組み合わせていく。
手慣れたキョウとは違い、決して早くはない......だが、カスタマイズは確実に彼の考える“正解”へと進んでいった。

マコト「出来た、ムサシDE(ダブルエッジ)......だ......!」

完成したカスタマイズは、まるでムサシがギロを纏うように仕上げられていた。
胸部にはギロの頭部が配置され、まさに一心同体といった風体だ。

EPISODE DE13

ギロ「好きに使えとは言ったが......“顔”に“顔”とはすげーセンスだ。考えたな」
マコト「ご、ごめん」
ギロ「バカ、褒めてんだよ。これなら俺様のパーツの使い方を直にレクチャーできるってもんだ!」
ムサシ「ああ。それに仲間と一緒に戦う安心感がある」
マコト「い、行けそうかな......!?」
ムサシ「無論だ。最初から飛ばしていくぞ、いけるなギロ!」
ギロ「ったりめぇよ!!」

ムサシは噴水へと跳び込み、再び水の戦場へと躍り出る。
つい今し方、ペンギオス達を無力化したアクターの対応は素早かった。
跳び込んでくる瞬間を待っていた、と言わんばかりに両腕に備わった銃口をムサシへと向けたのだ。

その銃が撃ち出したのは空気。
拳大の泡が、砲弾と呼ぶに相応しい速度をもってムサシに迫っていく。

ギロ「ビビるこたねえぞムサシ!思い切り左腕を突き出せ!」
ムサシ「応ッ」

左腕にはギロの尻尾を応用した爪がある。
その爪が、真っ正面から空気砲弾を突き破った。

マコト「次の弾が来そうだよ!回り込みながら接近戦に持ち込むんだ!!」
ムサシ「——!マコトの声が、鮮明に聞こえる......それにこれは!?」

指示に従いながらも、ムサシは驚きを声に出さずにはいられなかった。
カスタマイズ前までは何も聞こえなかった水中で、はっきりと相棒の声が届いていたのだ。
加えて、水中で確保された機動性。
背中に装備されたギロのハサミがブースターとなり、水の抵抗をものともせずアクターのもとへとムサシを運んでいる。

ギロ「なるほど、考えたなマコト!ムサシの短所を補う......つまり水中での機動性確保と感覚器官の強化!」
マコト「ブースターが上手く動いて良かった......!それに、水陸両用のアームズギロテッカーなら、
水中でも声が聞こえるくらいの優秀なセンサーを積んでると思ったんだ!」

これなら自分の声が水中でも問題なく届く。
カスタマイズが狙い通りの性能を発揮してくれたことに、マコトは小さくガッツポーズをしていた。
しかしその喜びを抑え込んで、戦闘に集中する。
敵に次の動きが生まれていたからだ。

マコト「相手も接近戦に切り替えようとしてるッ!上から回り込まれるよ!!」
ギロ「野郎が下見せてくれるってんなら願ったり叶ったりだ!ムサシ!“俺様のヒゲはよく斬れる”ぜぇ......!?」
ムサシ「ならば、斬ってしまおうか!!」

いままさに回り込まれる、そのすれ違いざま。
ムサシはブースターを使い縦に回転しながら、右腕の刃をアクターに叩き込んだ。
その刃がアクターを両断してみせる。
決着は、誰の目にも明らかだった。

EPISODE DE13

——それから程なくして。
ギロとムサシを元の状態に戻し終わったあたりで、ABFの隊員が現場に駆け付けてきた。
事情を説明すると、民間人が避難せずに事態に介入したことに対する軽い説教と、
それ以上の感謝の言葉を贈られマコトは解放された。

ギロ「すげーカスタマイズと指示だったぜ、マコト!ムサシ、良い相棒見つけたな!」
ムサシ「ああ。俺もマコトの成長を感じられて誇らしいよ」
マコト「ありがとう......でも、もうちょっと練習しなきゃね」

今回、破壊こそ免れたが二体のペンギオスが暴走アクターによって重傷を負った。
マコトのカスタマイズ完了がもっと速ければ、被害が抑えられたかも知れないと考えると、
素直に喜ぶことに抵抗がある。

ギロ「そう堅いこと考えるなよ。マコトの活躍で被害は最小限になったのは疑いようもねえ事実だぜ?
もっと胸張れ、胸!」
マコト「う、うん」
ギロ「それじゃ、俺様は事後処理とかあっからよ!
ここでお別れだが、また会えるの楽しみにしてるぜムサシ、マコト!」
ムサシ「お勤めご苦労様だな。俺もギロと会うのを楽しみにしている」
マコト「またね、ギロ。今回は本当にありがとう」

ギロと別れを告げるマコトとムサシ。
共に戦った仲間の背を見送りながら、更なる成長のために鍛錬を決意するマコトであった。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 12

戦いと呼ぶには、それはあまりに一方的な展開だった。
突如マコト達の前に現れた赤いアクターは、水中で身動きが取れないムサシを執拗なまでに痛めつけている。

——事の発端は、マコトが学校から帰宅するときのいつも通りのルーティンからだった。
母に頼まれた夕飯の買い出しの最中のことである。
商業施設の広場にある噴水に腰掛けた瞬間、隣に座ったムサシが何者かに引きずり込まれてしまったのだ。
それが、いまムサシを攻撃している暴走アクターだ。

EPISODE DE12

マコト「ムサシ!右から来るよ!!」
ムサシ「......ッ!!」

マコトの指示も空しく、予見したとおりアクターの刺すような突進がムサシを右側から吹っ飛ばす。

マコト「ダメだ......やっぱり聞こえてない......ボクの声が届いてないんだ......!」

戦場は声が届きづらい水中。
加えてここは絶えず水流が生まれている噴水だ。
いくら声を張り上げようとも、ムサシに指示が届かなければマコトの洞察力は活きないだろう。

マコト「せめて水から上がって来られれば......ッ」

それが中々難しいことを、マコトはよく理解している。
ムサシも同じ事を考えているというのは、動きを見ればなんとなく察することが可能だ。
しかし、アクターがそうさせない。
ムサシを水底に縛り付けるように、巧妙な立ち回りでこちらに不利を押しつけていた。

???「俺様に任せなッ!」
マコト「!?」

マコトの顔の横を、小さな赤い影が掠めていく。
アニマギア、であった。
その赤いアニマギアは勢いよく水に跳び込むと、真っ先にアクターへと体当たりする。
さすがに予想外の乱入だったのか、アクターはなにも対応出来ずにそのまま水中で吹き飛ばされた。

目にも留まらぬ速さで水中を移動する赤いアニマギアの姿をハッキリと捉えるのは難しい。
だが、それがどうやら味方であるらしいことはすぐにわかった。

水中で動けなくなっていたムサシを引っ張り上げ、陸へと連れ出したのだ。

EPISODE DE12

マコト「ムサシ!大丈夫!?」
ムサシ「ああ、なんとか......ギロ、助かったよ」

ギロと呼ばれた赤いアニマギアがムサシの知り合いだったと分かり、ホッと胸をなで下ろした。

ギロ「よォムサシ、あぶねーところだったな!そっちはウワサのマコトだな?よろしく頼むぜ!」
ムサシ「ギロは元プロのギアバトル選手だよ。第3世代へのアップグレードにあわせてABFに転属したアニマギアだ」
ギロ「そうそう。んで、街のアクターや民間人から通報があってな?近くにいた俺様が緊急出動してきたってぇワケさ」
マコト「そうだったんだ......ありがとう、ギロ」

ギロ「礼には及ばねえっての!ムサシとは昔っからのダチなんだよ。
記憶がなくなってからもそれは変わんねーって感じでさ。ダチ公助けるのは当たり前!だろ?」

ギロは得意げに胸を張って言う。
その小さな姿が、マコトにはとても大きく頼もしく見えた。

ギロ「しかしまずったな......あの暴走アクター、どうやらこの俺様より強ぇらしい。
壊すつもりで突っ込んだってのにピンピンしてやがる」

確かに、暴走アクターは健在だ。
不気味に輝く眼光が、噴水の水底からジッと機会を覗っているようだった。

ギロ「いけねぇ、アイツの使ってるニックカウルは俺様と同じアームズギロテッカー型だ」
ムサシ「このまま黙ってたら奴も陸に上がって来かねない......か」
マコト「そんな......街がめちゃくちゃになっちゃうよ......!」

ギロ「民間人の避難はペンギオス達が誘導して殆ど済ませてある。マコトもムサシを連れてさっさと逃げな」
マコト「ぎ、ギロはどうするの?」
ギロ「俺様は戦う」

問うた相手は、一切の逡巡する隙もなく宣言していた。

ギロ「なに、じき応援が来るさ。それまで一人で耐えるくらいワケねえよ」
マコト「——そんなのダメだよ!」
ギロ「......マコト?」

ムサシ「ああ、彼の言う通りだ」
ギロ「でも、お前らじゃ歯に立たなかったじゃねえか!大人しく避難してろ!」
マコト「確かに、ボクらだけじゃあのアクターに勝てなかったよ。
でも、それはボクらが逃げて良い理由にはならない......と思う」

先日のキョウ達の戦いがフラッシュバックする。
あの光景を見て、自分は果たして何を思ったのか。
否、それよりもっと前から、マコトは何を考えていただろう。

ギロ「思うって......マコト、本当は戦うのが恐いんじゃねえのか」
マコト「恐いよ、とても恐い——」

ムサシと出会って、自分はどう変わりたいと決意した?
忘れやしない......忘れてなるものか。

マコト「——でも、恐がってるだけじゃ何も変わらないんだ!」

だから、戦う。
これはアクターとの戦いであると同時に、自分との戦いなのだとマコトは確信した。

ギロ「本気、って眼してるぜ。いい顔じゃねえか、マコト」
ムサシ「自慢の相棒なんだ、俺からも頼む」
ギロ「......だはは!ダチにもそう言われちゃ断れねえやな!いっちょやったるか!」
マコト「ありがとう、ギロ!キミが一緒なら、ボクもきっと上手くサポートして見せる!」

ギロ「一緒、一緒ね。なら俺様に良い考えがある」
マコト「良い考え......?」
ギロ「俺様もムサシも第3世代だ。俺様達一人ずつで敵わねえなら、二人一緒になっちまえばいい......ッ」
ムサシ「なるほど」

ギロの提案が何を指しているのか、マコトにはすぐに分かった。
第3世代同士の特徴で、二人一緒になると言えばさすがのマコトでも察しが付く。

マコト「......ツインクロスアップ、だね」

果たして、カスタマイズ経験の無い自分が、未知数のシステムを使いこなせるのだろうか。
だが、やるしかない。
腹を括ったからにはやり遂げてみせると、マコトは拳を強く握りしめた。

マコト「二人とも、ボクに力を貸して......っ」

アニマギアDEロゴ

TO BE CONTINUED...

EPISODE 11

マコト「ちょっと待って天草!」

キョウが素早い手さばきでガオーのカスタマイズを進める中、マコトはその光景の異様さに声をかけざるを得なかった。

アニマギアの基本は骨格のボーンフレーム、外装のニックカウル、
そしてエネルギー源となるブラッドステッカーの三つから成り立っているのは周知の事実だ。
そして、ブラッドステッカーはニックカウルに、ニックカウルはボーンフレームに装着すると相場が決まっている。
しかし。

マコト「どうしてニックカウルの上からニックカウルを付けてるんだ!?数が多すぎるよ!」

もちろん例外は存在する。
他のアニマギアのニックカウルを、そのまま上からかぶせるように装着することはカスタマイズの定石だ。
しかしそのカスタマイズにも限界はある。
ボーンフレームやニックカウルの接続が多くなる程その制御は難しくなり、
度を過ぎればアニマギアのシステムを破壊することに繋がりかねないからだ。

キョウ「そうか、第3世代の特徴を知らないんだな」
マコト「特徴......?」
ムサシ「俺達第3世代の一部の機体には、ペンギオスを代表とする合体アニマギアの技術が転用されている。
アニマギア同士のニックカウルを複雑に組み合わせることが可能になっているんだ」
キョウ「そう!それがツインクロスアップシステム——」

EPISODE DE11

キョウ「——出来た!ガオーDE(ダブルエッジ)!!」

キョウの手の中から、カスタマイズが施されたガオーの姿が露わになる。
基本となるガレオストライカーの素体はそのままに、
イーグの武装や、アクターから剥ぎ取られた翼が見事に装着されていた。

キョウ「行けそうか、ガオー!」
ガオー「ああ、問題ないぜ!力がどんどん沸いてくる......かえって身体が軽いくらいだ!」
キョウ「良い感じだな!それじゃあ、攻守交代と行こうかッ」

ガオーは力強く頷くと、そのままに思い切り地を蹴る。
背中のブースターが点火し、その勢いを活かしながら翼が空気を掴むように羽ばたいた。
空を、駆けている。

ガオー「さっきはよくもやってくれたな!今度はこっちが空から攻める番だ!」

イーグから借り受けた銃口が燦めいた。
敵のアクターの武器がマシンガンだとすれば、こちらはマグナムだろうか。
大きな破裂音と共に撃ち出された弾が、アクターのニックカウルを一部破壊している。

ガオー「ど真ん中とはいかねえか......ッ」
キョウ「ただでさえ慣れない遠距離攻撃だし、いまは空を飛んでるんだ!無理せず接近戦で行こう!」
ガオー「了解!それなら得意分野だぜ!」

上空のガオーが、地上のアクターに向かって急降下を開始する。
しかし、右前腕を前に突きだし飛来する白獅子を前に黙っているアクターではなかった。
アクターの両腕から、再び無数の火球が吐き出される。

ガオー「そんな炎がオレに効くかよ————ッ!」

ガオーは迫る炎をものともせずに突っ込んだ。
獅子の爪が、ことごとく火炎を斬り裂いていく。

マコト「すごい......!」
ガオー「うおおおおおおおおりゃあああああああああッ!!」

EPISODE DE11

ガオーの一撃が、暴走したアクターを戦闘不能に陥らせる。
その場でくずおれたアクターは、もはやピクリとも動く気配はない。

............グナ、ブレイカー......

そんな折に、誰かが何かを呟いたことに気が付いて、マコトは声がした方向に目線をやる。
呟いたのは恐らく天草キョウだ。
ガオーを見つめたキョウが笑顔のまま拳を握りしめ、瞳には少しだけ涙が浮かんでいるように見えた。

ガオー「やったぜ!」
キョウ「ナイスファイトだった、ガオー!」

ガオーの元へと駆け寄ったキョウの顔に、先程までの表情は微塵も浮かんでいない。
多分、また自分が知る由のない事情を抱えているのだろう、とマコトはそれ以上深く踏み込まなかった。

キョウ「イーグもサンキュー!」
イーグ「ツインクロスアップが上手くいってなによりだ、天草少年。おっと、かたじけない」

キョウの手がすばやくガオーのカスタマイズを解除し、イーグの身体を復元する。
自分もあんな風にムサシをカスタマイズする日が来るのだろうか、とマコトは注意深くキョウの手元を観察していた。

キョウ「マコト、ムサシ。悪かったな、折角の休日だったってのに」
ガオー「あれ?なんかしでかしたのかキョウ?」
キョウ「お前が勝手に迷子になるからだよ!」
ガオー「あ!そうか!悪い!悪かった!」

マコト「まぁまぁ......無事でよかったよ。ね、ムサシ?」
ムサシ「ああ。それに、おかげでこの街の異常にも気が付けたことだしな」

ムサシの言う「異常」というのは無論、いまそこに倒れているアクターの暴走のことだろう。

ムサシ「この先、どんな暴走アクターが現れるか分からない。我々も気をつけよう、マコト」
マコト「そうだね......今回は天草がいてくれたからなんとかなったけど......」
ムサシ「マコトなら切り抜けられるさ」
マコト「......ありがと」

彼から寄せられる信頼が、どこかこそばゆく感じると同時。
......自分も、誰かを守るために強くならなければならないんだ。
そんな覚悟が、マコトの心に知らずの内に刻まれていた。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 10

マコト「暴走......なんだって?」
イーグ「A.C.T-ER(アクター)である、晄少年。
【Anything Crowds TroopER】の略称で、彼らはギアティクス社が開発した汎用アニマギアだ。一般には流通していない」

どうやら獣甲屋の事件を受け、ギアティクス社がペンギオス同様に街の警備目的で開発・配備したらしい。
首魁である黒田という男の行方が捕まっていない以上、世間にこういった試みが生まれるのは自明と言えるだろう。

イーグ「本来であれば彼らは非常時以外ニックカウルを纏わず、通報役に徹している。
しかし最近、街のアクターが不当に捕獲された挙げ句、ニックカウルを装着した状態でプログラムをいじられ、
街のアニマギアを襲う事件が起きるようになった」

キョウ「それがあの暴走アクターって奴さ。話には聞いていたけど、オレも実際に見るのは初めてだよ......!」
マコト「そうだったんだ......あ!あのアクター、飛び上がるよ!」

マコトの言うとおり、ガオーと肉弾戦を繰り広げていたアクターが、翼を大きく拡げて空を舞った。
直後、器用に翼の角度を調節しながら空中でとまってみせると、そのまま両腕を構えた。
射撃だ。
機関銃の要領で無数の火球を吐き出してくる。
連なった火炎が、まるで一束のレーザービームのようにガオーに狙いを定めていた。

キョウ「ガオー、相手の火力が異常だ!一度距離を取ろう、戻ってこれるか!?」
ガオー「......ッ!」

キョウの指示に対するガオーの反応は素早かった。
火炎弾の猛攻をかいくぐり、キョウの元へとガオーが戻ってくる。
射程距離外と判断したのか、アクターはあっさりと攻撃を中止した。
降りてくる気配はない。

マコト「いまなら逃げられるかも知れないけど......放っておくワケにはいかないよね」
ムサシ「その通りだ、マコト。しかし制空権を取られたままではどうしようも——」
イーグ「——私が行こう」
キョウ「イーグ!?」

イーグ「驚くことはあるまい。見たところ、あのアクターは私の同胞のニックカウルを纏っているようだしな。
目には目を、翼には翼をだ」
キョウ「見たならわかるだろ、あいつの火力が!違法な改造をしてるかも知れない相手に、1対1は危険すぎる!」

イーグ「なにも勝とうとは思わないさ。無理をするつもりもない。
ただ、奴を地上に引きずり込めばあとは少年達がなんとかしてくれるだろう?」

だから征く。
恐れる様子を一切見せることなく、イーグは飛び立った。
二体のアニマギアが、宙での邂逅を果たす。

EPISODE DE10

アクター「——」
イーグ「近くで見ると随分と大きい。使われているパーツが多いとは思っていたが、なるほど。
制御している中身(システム)からして“私達とは違う”な......だが臆してなるものかッ!」

腰の銃から弾をばらまきながら、イーグは鋭い爪で相手につかみかかった。
牽制しつつの突進に、しかしアクターは難なく対応してみせる。
アクターがその場で一回転し、翼の質量で遠慮無く弾ごとイーグをぶん殴った。
まるで曲芸だ。
しかし、ただ殴られるイーグではなかった。

イーグ「掴んだぞ......!」

殴ってきた相手の翼を、しっかりとイーグが掴んでいる。
二対の翼がもつれるように絡み合ったまま、バランスを失ったイーグ達が真っ逆さまに地上へと墜ちていく。

キョウ「イーグ!」
マコト「そんな......!」

イーグがアクターの両肩に備わっていた翼を根元から引きちぎった。
直後に二体は地上に激突。数回、イーグが跳ねながらキョウ達の足下へと転がってくる。

ガオー「無茶はしないんじゃなかったのかよ!」
イーグ「すま、ない......だが、奴の翼は、奪ってきたぞ......!」

墜落してなお、彼は敵の翼を離していなかった。
その翼を見て、隣のキョウが小さく頷く。

キョウ「イーグ、悪いけどもう少しだけ力を貸してくれるか?」
マコト「そんな!無理だよ天草、これ以上戦わせちゃいけない!」

イーグのダメージは決して小さくない。
マコトの素人目に見ても、イーグがこれ以上戦うのは無理だとすぐに分かった。

キョウ「イーグが戦えないのはオレにも分かってる。だから少しだけって言ったんだ」
マコト「それって、どういう......」

キョウは、イーグの身体を両手のひらで掬い上げて続ける。

キョウ「貸してくれないか、イーグのニックカウルを!」
イーグ「私のニックカウル......そうか、天草少年、キミは......!」
キョウ「ああ!イーグが奪ってきてくれたこの翼と、あと少しのニックカウルがあれば出来る——」

マコトはキョウの瞳に宿る光を見た。
傷付いた友を想う、激しく燃える炎のような光を。

EPISODE DE10

キョウ「——ガオー!」
ガオー「おう!“アレ”を試すんだな!」
キョウ「ああ、やるぞ............“ツインクロスアップ”だ!」

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 09

——ギアバトルも良いけど、アニマギアに慣れるにはまず遊ぶところから。
そんなキョウの誘いで、マコトはムサシと共に商店街へ繰り出していた。

キョウ「どうしたマコト、なんか緊張してない?」
マコト「あ、い、いや、うん、ごめん、してる、緊張」

同級生に誘われたことは何度かあっても、誘いに乗る経験が皆無だったマコトが緊張するのは無理からぬことだ。
こうして素直に「緊張している」と伝えられていることすら奇跡に近い。
自分で自分を褒めたい気分だった。

マコト「ごめん、こういうの慣れてなくって」
キョウ「気にすんなって。これから慣れていけば良いんだから」
マコト「天草......」

これから、という言葉が妙にこそばゆくて、どんな表情をすれば良いか分からない。
彼はまるで当たり前のように、これから先も共に時間を過ごそうと提案している。
そして驚くべきコトに、マコトはそれが恐いとも嫌だとも思っていなかった。
緊張はするだろうが、自分が彼と一緒にいる光景が容易に想像出来た。
いままでの自分とは大違いだ。

ムサシ「そういえばキョウ。ガオーはどこに行ったんだ?」
キョウ「うん?あれ!?」

マコトの肩の上に座っていたムサシがガオーの不在に気付くと、
キョウはマフラーやポケットの中を慌てた様子で確認した。

キョウ「あっちゃー、またか......」
マコト「また?」
キョウ「うん、また。最近ガオーと一緒に遊びに出ると、テンション上がって勝手にどっかいっちゃうんだよな......」
ムサシ「迷子、ってことか」
マコト「た、大変じゃないか!早く探しに行かないと!」

キョウ「ごめん、手伝ってくれるか?」
マコト「もちろんだよ!ね、ムサシ!」
ムサシ「ああ、そうだな」

それではまずどこから探そうか。
マコト達が今まで歩いてきた道を戻ろうとした、その矢先だった。
上空から一体のアニマギアが飛来して、キョウの右手に留まった。

キョウ「イーグ!」
イーグ「久しぶりだな、天草少年。そちらの少年は初めましてかな?」
マコト「あ、初めまして......晄マコト、です」
キョウ「マコトは最近ムサシの新しい相棒になったんだ。マコト、こいつはイーグ。
ギアバトル大会の常連でスポンサーも付いてる実力者だよ。最近第3世代にアップグレードしたんだ」

EPISODE DE09

イーグ「そうか、ムサシの相棒に......よろしく頼む」
マコト「こちらこそ」
イーグ「うむ。ところでガオーの姿が見えないようだが?」
キョウ「そうだった、そうなんだよ!聞いてくれるか!?」

イーグに事情を説明すると、彼は「なるほど」と強く頷いた。

イーグ「わかった、私も協力しよう。上空からなら効率もよかろう」
ムサシ「ならば俺がイーグと共に行く。飛んでいる最中は下が見づらいだろうからな。運んで貰っても大丈夫か?」
イーグ「問題ない。ならば早速捜索開始だ」

イーグの足が、ムサシを器用に掴んだ。
バランスを崩さないか、飛びづらくないのか、など様々な心配がマコトの脳裏を掠めたが、いらぬ心配だったようだ。
何食わぬ顔で、イーグは見事にムサシと共に軽やかに飛んで見せた。

キョウ「助かるよ、二人とも!」
マコト「ムサシ、気をつけてね」
ムサシ「マコトもな」

ムサシとイーグが高く上空へと舞い上がる。それを見届けたマコト達は、二手に分かれてそれぞれが捜索を始めた。

——それから程なくして。
マコトの元に、イーグと共にムサシが降りてくる。
どうやら早々にガオーを発見したようだ。
そのまま二人の案内で移動しつつ、マコトは携帯でキョウへと連絡を取った。

キョウ『ちょうど近くにいるから先に迎えに行ってる!』
イーグ「気を付けろ、天草少年!どうやらガオーは厄介者に絡まれているようだぞ......!」
マコト「厄介者......!?」
キョウ『......わかった、サンキュー!』

イーグの一言に不安を覚えたマコトは、一目散に目的地へと向かって行った。
辿り着いた先は、とある路地裏の一角だ。
そこには、先に到着していたキョウの背中。
その奥には——

マコト「な、なんだあれ!アニマギア......なの!?」

——人型に組まれたボーンフレーム、そして絡み合うように装着されたニックカウル。
見た目には確かにアニマギアだ。それが、ガオーと無言で刃を交えていた。
しかし、あんな機体はカタログでもテレビでも見たことがない。

EPISODE DE09

キョウ「暴走した“アクター”だ......!」

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 08

サクラ「まいりました!」

サクラギアとムサシのギアバトルが決着したあと、彼女はマコトに笑顔でそう告げた。
言葉の印象とは裏腹に、サクラはどこか吹っ切れたような表情だった。

サクラ「ムサシもマコトくんも凄かったよ。本当に息ぴったり」
キョウ「特にマコトには驚かされっぱなしだぜ!どうやったらあんな指示が出せるようになるんだ?」
マコト「あいや、ボクは別に、特別なことなんて......」

自分で意識してなにか特殊なスキルを発動した覚えはない。
ただ、マコトの感覚が危険を察すると敏感に反応しているだけなのだ。

サクラ「ムサシもちゃんとマコトくんの指示についていけてたわよね。
下手すれば指示の意図が読めずに途惑っちゃうかもしれないけど、うん。
一瞬の判断のキレは“あの頃”にも引けを取ってないと思う」

ムサシ「......むう」

EPISODE DE08

マコト「あの。やっぱり、紅葉さんとムサシは元々相棒......だったんですか?」
サクラ「そうだよ。ムサシは思い出せないみたいなんだけどね」
ムサシ「......それに関しては、本当に申し訳ないと思っている」

サクラ「だ、か、ら。ムサシは自分の記憶について罪悪感を覚える必要ないって何度も言ったでしょ」
マコト「紅葉さん......」

ムサシの相棒の話だ、あまり口を挟むべきではない。
だけど、マコトはムサシが過去を取り戻したがっていることを知っている。
そう簡単に割り切れない問題だと感じるのは、彼がムサシと自分を重ねているからだろうか。
過去は、まるで呪いのように自分を縛り付ける存在だと言うことを、マコトはよく知っていた。

サクラ「もちろん、ムサシが過去にこだわることを私は否定しないよ。私だって色々あったし、今でも悩むことはある。でも“過去”を窮屈に感じるくらいなら、同じくらい“今”を楽しまなきゃ——違う?」

その言葉に、今度こそマコトは口をつぐんだ。
まるでサクラの言うことが間違っているかのように感じていたが、それはどうやら違うと気付いて自分を恥じたからだ。

サクラもキョウも、ムサシと付き合いが長い。ゆえに、ムサシが過去に囚われていることを、
自分以上に知っているのは当然のことだ。

EPISODE DE08

だからこそ、彼女はムサシのことを第一に考えて話しているのだろう。

サクラ「というわけで!マコトくん!」
マコト「......はい?」
サクラ「急なお願いで申し訳ないんだけど、キミにムサシを預けたいの......“今”の相棒として」
マコト「へっ!?」

本当に急なお願いで三度(みたび)言葉を詰まらせる。
てっきり、このままムサシはサクラの元に戻り、自分とはお別れするものだとばかり思っていた。
だからこそ、サクラから直々にこういう話をされるとは夢にも思っていなかったのだ。

サクラ「キミ達のコンビネーションを見て確信した。いまのムサシにはマコトくんが必要だと感じたの。
私との関係じゃ越えられなかったムサシの壁みたいなものを、キミなら乗り越えてくれるんじゃないか、って」

マコト「ボクが、ですか」
サクラ「うん。マコトくんみたいな才能ある人に出会えてムサシは幸せだと思うよ。どう、ムサシ?」
ムサシ「俺は......」

ムサシは一瞬俯いたあと、何かを決意したように強く頷いて続けた。

ムサシ「ああ、俺はマコトと出会えて良かったと思えている。まだ、一緒にいたいと強く感じている。
マコトが良ければ、これからも相棒として共に歩んで欲しい」
マコト「ムサシ......」

でも、と続けるか。
よろしく、と続けるか。
ここは大きな分岐点だと思った。

——マコトはアニマギアが苦手だった。
そう思うようになったきっかけは兄の影響が強い。
だが、これまでムサシと過ごした一週間ほどの時間は、マコトにとってかけがえのないものだと感じる。
自分にギアバトルの才能があるかどうかは分からない。
強さを求めた結果、自分が兄のように変わらないか......それがどうしても恐ろしい。

マコト(......だけど)

サクラの言うとおり、過去に縛られるだけではいけない。
自分がなぜアニマギアに苦手意識を持っていたか......それよりも。
どうすればこれからアニマギアと——ムサシと向き合っていけるかを考えていく方が、よほど有意義なはずだ。

だから。

マコト「ボクの方から、お願いするべきでした」
サクラ&ムサシ「え?」
マコト「そのお話、よろこんで引き受けさせて頂きます。ボクも、ムサシと一緒にいたい」

改めて、マコトは正直な自分の気持ちを伝える。
するとムサシはマコトが差し出した手に飛び乗って言った。

ムサシ「——よろしく、マコト」
ガオー「へへっ......決まりだな!」

これから、マコトの生活は少しずつ変わっていくだろう。
アニマギアと共に歩む道が、少年の前に拓かれていた。

マコト「......あはは。まずは、母さんに報告しなきゃね」

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 07

サクラとサクラギアの動きが同期していたのは最初の間だけで、
バトルが始まってみれば彼女の“本体”はその場で立ち止まっていた。
その分、サクラギアは活き活きとフィールドを駆け回り、ムサシを翻弄している。

EPISODE DE07

マコト「ね、ねぇ!天草!あの、紅葉さんとサクラギアってどういう......!?」
キョウ「ああ、サクラ姉ちゃんはアンドロイドなんだよ。戦うときだけサクラギアと意識を同調(シンクロ)させるんだ」
マコト「アンドロイドぉ......!?」

出てくる言葉ひとつひとつの衝撃に、脳の処理がまったく追いつかない。
どこからどう見ても人間にしか見えないあの彼女が、よもやその正体がアンドロイドであるとは誰が想像できようか。

キョウ「そんなことより!ほら、戦いに集中しないとムサシがやられちゃうぜ!」
マコト「ううっ、どうしてボクが......!」

なし崩し的に始まったギアバトルに、マコトは未だ乗り切れない所が多かった。
そも、サクラの言っていた「試させて欲しい」という言葉の真意も読み切れない。
一体彼女はこのギアバトルを通してマコトの何を見極めようとしているのだろうか。

マコト「っ!危ない!ムサシ、紅葉さんが後ろに回り込んでくる!!」
サクラ「!?」

マコトの指示通り、サクラギアが正面から高速旋回しながらムサシの背後に回り込んだ。
ムサシがそれを迎撃する。

キョウ「いまの指示は!?」
サクラ「どうしてわかったの......!」

キョウとサクラが驚いたのは、その指示のタイミングだろう。
マコトからムサシへ飛んだ指示は、サクラギアが旋回を始める前に出された物である。

マコト「どうして、と聞かれても......」

感覚でしか答えられないが、マコトにはハッキリとサクラギアの次の動作が分かった気がしたのだ。

マコト「と、とにかく!ムサシ、相手の動きはボクが見る!対処はキミに任せるよ!」
ムサシ「かたじけない——ならば、こちらのペースに引きずり込むッ」

相手の動きに合わせていたムサシが、ついに自ら手札を切った。
移動速度はサクラギアに分があるものの、マコトの先読みも合わさったことで余裕が生まれたからだ。

サクラ「動きが読まれるなら、こっちにも考えがあるわ!」

サクラギアのブラッドステッカーが、一瞬強い輝きを放つ。

サクラ「ブラッドステッカーの熱エネルギーを変換する!読んでもどうしようもない攻撃なら、どうする!?」

直後、右腕に装着された剣先から雷が生まれた。
流石に読み切れないし、サクラの言うとおり読んでも光の速度ばかりはどうしようもない。
だが。

ムサシ「電撃ならば地に逃がすまで......!」

対応はマコトの判断を待たずにムサシが既に済ませていた。
電光を受け止めるようにフィールドに一振り剣を突き刺し、ムサシは剣から急速離脱する。
結果、サクラギアの攻撃がムサシに届くことはなかった。

マコト「——そうか、“剣を避雷針にした”んだ!」
キョウ「やるなムサシ!」

サクラ「......!」
マコト「ッ、相手の出力が落ちてわずかに動きが鈍ってる!いまなら行けるよ、ムサシ!」
ムサシ「応!!」

ムサシがまっすぐサクラギアへと疾走する。
途中、避雷針にした剣をしっかりと拾い、その勢いのまま横に薙ぐ動きで構えて見せた。
サクラギアとムサシの武器が甲高い音とともに激突する。

EPISODE DE07

サクラ「なんの、これしき......まだまだこれからよっ」
ムサシ「いや、俺達の勝ちだ」

ムサシが剣を捨て、直接その手でサクラギアの刃を上から押さえつける。
ムサシの独断とも言える行動から生まれたその光景に、マコトは驚いた。
どうして自分が思った戦術が、言葉にせずとも伝わるのだろう。
不思議な感覚に包まれながらも、マコトは声を張り上げずにはいられなかった。

マコト「行けーーーーーーッ!!」

押さえつけた剣の上から、ムサシはもう片方の手を添える。
そのままサクラギアの腕を掴み、武器ごと彼女をぶん投げた。

サクラ「きゃあっ!?」

——背負い投げだった。
二体のアニマギアの動きが完全に止まる。
そして数瞬の静寂のあと、ムサシはサクラギアを引っ張り上げた。
宣言通り、マコトとムサシの勝利でギアバトルが決着したのだ。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 06

キョウやガオーと共闘して次の日曜日。
マコト達はギアティクス社に訪れていた。

キョウ「ようこそ、ギアティクス社へ!」
マコト「......受付顔パスだなんて、ホントにすごいんだね、天草は」

もとより、SNSを始めとしてギアバトルの大会などでもキョウは活躍を続けていたし、
同級生から羨望のまなざしを向けられていたのはマコトも知っていた。
しかしこうして大きな会社の大きなロビーで物怖じせず自然体でいられる彼を見て、そのすごさを改めて体感した気分だ。
そのことも相まって、マコトは自分の場違いっぷりに今すぐ帰りたくなっている。

ムサシ「......むう」

ムサシはムサシで“家出”した手前、落ち着かない様子で辺りを見回していた。
お互い居心地の悪さを感じているという意味では非常にコンビらしい立ち振る舞いだ。

キョウ「それじゃ、まずはラボに行こう」
マコト「ラボ?」
キョウ「言ったろ、会わせたい人がいるって。ここの研究室で待ち合わせてるんだ」

そのまま、キョウの案内でエレベーターに乗り込んだ。
ギアティクス社の社屋となっているビルは高層ビルと言って差し支えない高さだが、
どうやら地下にも施設は及んでいるようだ。
地下五階の表示で止まったエレベーターから降りると、無機質な壁や天井で囲まれた廊下が複雑に絡み合う空間に出た。

キョウ「こっちだ」
マコト「ま、待ってよ!」

先行するキョウに慌てて追いついた。
一人になったら間違いなく迷子になる自信がある。

キョウ「着いた着いた。入るぞ、マコト」

そして、いくつかの曲がり角を過ぎたあと、キョウはとある部屋へと足を踏み入れた。
何に使うのかよく分からない機械や計器が並ぶ部屋の中央に、白衣を着た少女がにこやかに立っている。
桜色の髪が特徴的な少女だった。

キョウ「サクラ姉ちゃん!連れてきたよ!」
サクラ「キョウくん、いらっしゃい。その子がウワサの?」
キョウ「そうそう、クラスメイトの晄マコト!」
マコト「あ、えと。こん、にちは......」

綺麗な人だな、と思った。
あまり自分の周りにいるようなタイプではないがゆえに、変に緊張してしまう。

キョウ「マコト、こちら紅葉サクラ姉ちゃん。いまはギアティクス社でアニマギアの研究員してるんだ」
サクラ「もう、研究員“助手”だってば——それはそうと、初めましてマコトくん。紅葉サクラです、よろしく」
マコト「こちらこそ、よろしく、おねがいします」
サクラ「急に呼び出しちゃってごめんね」
マコト「いえいえ......あ、でも、ボクに用事って一体......?」
サクラ「それはねー......ふふ」

聞かれたサクラは不敵な笑みを浮かべて、静かに問い詰めるような声で続けた。
妙なすごみがある。

サクラ「ムサシ?いるのは分かってるのよ?」
ムサシ「......紅葉、サクラ」

観念したのか、直前にマコトの懐に隠れていたムサシが顔を見せる。
サクラがムサシを両手で持ち上げるのに時間はかからなかった。

サクラ「家出だなんて!みんなに心配かけちゃダメだよ!」
ムサシ「す、すまな、」
サクラ「それにフルネームで呼ぶだなんて他人行儀!そもそもね——」

そのまま、サクラは説教モードに入った様子で、
いままでムサシが“家出”してからどんなに大変だったかをまくし立て始めた。

キョウ「サクラ姉ちゃんがあんなに怒ってるところ、初めて見た」
マコト「......は、はは......」

戦闘の時はあんなに頼もしかったムサシもしおらしくしてサクラの話を聞いている。

サクラ「——だから、もう勝手に姿を消さない!約束できる?」
ムサシ「わ、わかった、約束する」
サクラ「まったく、ほんとに......心配、したんだからね」
ムサシ「......すまなかった」

ヒートアップしていたサクラも、どうやら全て吐き出して落ち着いたらしい。
元の柔和な顔に戻ると、ムサシの頭部を優しく撫でていた。

マコト「あ、それじゃ、ボクはこれで......」

ムサシは“家”に戻った。
これでマコトの役割も、アニマギアと共に過ごす日々も終わりだ。
少しばかりの寂しさを覚えたが、なにもムサシに一生会えないわけでもないだろう。
いままでの生活に戻るだけだ......そんな複雑な気持ちを抱えながら、
きびすを返そうとしたマコトを引き留めたのはサクラだった。

サクラ「あ!ちょっと待って!」
マコト「え?」
サクラ「いまのはムサシへの話だっただけで、マコトくんを呼んだ理由は他にあるの」
マコト「そう、なんですか」
サクラ「——場所、変えよっか」

彼女の誘導で、マコト達は改めてエレベーターに乗り込み、更に地下へと進んだ。
辿り着いたフロアは、体育館のような広大なスペース。
そしてそのスペースの用途に、マコトはすぐに気が付いた。

マコト「ここ、は」

思わず息を呑む。
テレビや雑誌でも似たような構成の施設を目にしたことがあったからだ。
観客席こそないが、間違いない。
ここはギアバトルのために作られた施設だろう。

マコト「どうしてこんなところにボクを......?」
サクラ「キョウくんからね、教えてもらったの——」

サクラは堂々とした足取りで、自分達とは反対側の陣地へと進んでいく。
これではまるで、彼女とマコトがいまから戦うかのような......。

サクラ「——マコトくんとムサシが、ギアバトルで凄いコンビネーションをやって見せたんだ、って」
マコト「ぼぼ、ボクが!?」
キョウ「そうだよ!マコトの戦いはとてもギアバトル初心者だなんて思えなかった!」
マコト「ええ......っ?」
サクラ「それでね、ちょっと試させて欲しいんだ——」

意を決した表情で、サクラは白衣を脱ぎ捨て、
うなじの辺りから何かを取りだしたかと思えばそれをそっと地面に“立たせ”た。
見れば、見たことのない型のアニマギアがそこにいる。

EPISODE DE06

しかもあろうことか、

マコト「あれ!?も、紅葉さんと......まったくおなじ動き!?」

紅葉サクラと正体不明のアニマギアの動作が完全に同期している。
ラジオ体操の要領でストレッチを始めた彼女の身振り手振りが、そのままアニマギアの動きに繋がっていた。

サクラ「——よし、こっちは準備完了!ムサシ!マコトくん!いまから私......サクラギアとギアバトルよ!」

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 05

青年「——ぱ、パワー負けしてるのか!?ありえねえだろ!!」
キョウ「出力不足だってことに気付けなかったなら、まだまだ三流だぜお兄さん達!」
青年の仲間A「出力不足だぁ?」
青年の仲間B「あっ!見ろ!」

ガオーの攻撃がすんなりと三体を退けることができた原因をマコトも察した。

——アニマギアのエネルギー源はブラッドステッカーに受ける太陽光だ。
そしてアーミーD達は夕陽によって出来た影の中にいる。
対照的に、ガオーとムサシは影まで踏み込んでいない。
つまり彼らは、攻撃を受け流しながら陽の当たるポジションをキープしつつ、
敵だけを影の中へ誘導していたということだ。

青年「だが、アニマギアは夜間行動が出来るようにエネルギーを蓄えられるんだぞ!?
こんなに早く出力に差が出るわけねえ!」
キョウ「当然だよ、お兄さん達はアーミーDの消耗に気付かず攻撃しろの一点張り——
それじゃアーミーDが可哀想だよ。もう“ギリギリ”なんじゃないかな」

キョウは続ける。
アーミーDは試作品ゆえに会話機能をオミットしてある。
しかし心がないわけでも、疲労を感じないわけでもない。

キョウ「声によるコミュニケーションが取れない分、より一層相棒とは心を通わせなきゃな!」
青年「ぐ......っ」
マコト「すごい......!」
キョウ「ほら、お前も!ムサシはマコトの指示を待ってる!」
マコト「え!?あ、うん!」

形勢を塗り替えたガオーの攻撃と、キョウの激励。
そして指示を出さなければならないという状況が、マコトの視界をクリアにする。
影に入って出力が落ちたそれぞれのアーミーDは、統率がまるでとれていなかった。
つまりは。

マコト「相手がばらけてる......そのまま行くんだムサシ!!一体ずつ確実に攻撃できる!日陰に踏み込め!」
ムサシ「——任せろッ!」

決して言葉が多かったワケではない。
しかし、ムサシはマコトの思い描いたルートが見えているかのように、
一体また一体とエネルギーが切れかけている敵を無力化していった。

だが、青年のアーミーDだけは違う。
仲間が次々と倒されようと、踏み込む姿勢のまま冷静にムサシを迎え撃とうとしていた。
したたかに獲物を狙う獣のようだ。

マコト「気をつけて、相手はまだ諦めてない!」
ムサシ「おうとも!」

しかし獣はこちらも同じこと。
ムサシは突進するルートからその場でしなやかに跳躍する。
半身を捻るように身を翻しながら、敵の頭上を越えて見せたのだ。
これも、マコトが瞬時に思い描いた光景——まるで、本当に心が通じ合ったみたいだった。

EPISODE DE05

マコト「行け......!」

背後から体当たりをかますと、アーミーDが地面に勢いよく突っ伏した。
続けざまに、ムサシが剣を振りかぶる。

ムサシ「これで最後だ!」

そのまま剣を振り下ろした瞬間。

青年「やめろ......!!」

青年の叫びが、ムサシはピタリと動かなくなった。
アーミーDを斬りつけるまであと数ミリの所で剣が静止している。

青年「オレ達の......負けだ......やめてくれ......」

先程までの勢いを失った青年達の言葉に偽りはなさそうだった。
それをムサシもガオーも察したのか、大人しくマコト達のほうへと戻ってくる。

青年「次は負けねえ......行くぞ、お前ら」
青年の仲間A&B「お、おう......!」

倒れたアーミーDを回収して、青年達はそのままマコト達の前から去って行った。

キョウ「あの人達、もっと強くなるな」
マコト「......そう、なの?」
ガオー「ああ、オレもそう思う!でもそれはお前も同じだと思うぜ、マコト!」
マコト「ボクが?」

自分がギアバトルで強くなるなんて、考えたこともなかった。

マコト「ボク、は......」

でも、それは自分が恐れていたことではなかっただろうか。
力を求めた兄の背中を追うことが、なによりも恐かったはずだ。
確かにムサシと心が通った瞬間、自分はいままでにない高揚感を得ていた。
しかし、いままでの自分とこれからの自分を簡単に割り切れるほど、マコトの思考回路は単純に出来ていない。

あまりにも、抱えている物が大きすぎる。

ムサシ「......いまはあまり思い詰めるな、マコト。ナイスファイトだった」
マコト「............うん、ありがとうムサシ」
キョウ「?」

こちらを気遣ったムサシの言葉に、少しだけ気分を持ち直す。
キョウは不思議そうな顔をしていたが、そう誰彼構わず話すようなことでもない。
今は“友達”のムサシが理解してくれるだけでいい、そう思った。

ガオー「そーれーよーりーもー!探したぜムサシ!」
ムサシ「......むぅ」

EPISODE DE05

マコト「探してた?ムサシを?」
キョウ「そうだった、ギアバトルに夢中になって本題を忘れてたよ」

キョウは「こほん」とわざとらしく咳払いをして、改まったように姿勢を正した。

キョウ「オレ達、ギアティクス社の依頼で“行方不明のムサシ”を探してたんだ」
マコト「なるほど、天草がムサシを知っていたのはそういう......」

つまり今回、青年達に絡まれている所にキョウがやって来たのは偶然でも何でもない。
ムサシの動向を掴んだ彼らがマコトに辿り着き、話す機会を覗っていた......ということだろう。

キョウ「ちょうどいい、マコトも同行してくれないか?」
マコト「ボクも?」
キョウ「ああ。いまのムサシとのコンビネーションを見たらその方が良いかなって。会わせたい人がいるんだ」

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 04

夕陽が街に影を落とす中、現れた天草キョウは何気ない足取りで近づいてくる。
大人三人を相手に、まるで緊張していないようだ。

キョウ「や!マコトがギアバトルなんてびっくりしたよ」
マコト「天草!どうしてキミがこんな所に......!」
キョウ「細かい事は気にすんなって!それより今はあいつら倒さないとまずいだろ?」

キョウがマコトの肩を軽く叩くと、彼の懐からアニマギアが一体、ひょこりと顔を見せた。
そのまま勢いよく飛び出すと、キョウの手のひらに乗り移る。

キョウ「行けるな、ガオー!」
ガオー「おう!任せとけ!」

EPISODE DE04

青年の仲間A「あ、あ、あま、天草キョウとガオーD(ダッシュ)!?」
青年の仲間B「オイオイ、ギアバトルのトップランカーじゃねえか!やべえって!」

青年「なにビビってんだよ、一人増えたところでこっちは三人!
むしろあの天草キョウを倒せばオレ達の名も上がるってもんだぜ......!」

青年の言葉で士気が上がったのか、二人もどこか浮ついた表情で首を縦に振る。
そして、三人組は一斉にカスタマイズされたアーミーDを繰り出した。

同時にマコトのもとからムサシが、キョウのもとからガオーがそれぞれ出撃していく。
かけ声も無く、三対二のギアバトルが始まっていた。

EPISODE DE04

青年「アタマを潰せばあとは素人だけだ!畳んじまえ!」
青年の仲間A&B「おう!!」

先行したのは青年のアーミーDだ。
驚異的なスピードで接近する先はガオー。
まずは主力を潰そうという魂胆らしい。

ただ、黙ってそれを受けるガオーではなかった。

ガオー「アタマ潰せば、か。冷静な判断だが、そいつはお前らも同じだよな......!」

ガオーの牙がアーミーDの剣に喰らいつく。
勢いで勝っているのは間違いなく白獅子だ。

青年「こっちは三人だって言ってるだろうが!」

ガオーの背後から、二体のアーミーDが追撃を狙っていた。
しかしその追撃が許されることはない。

ムサシ「こちらは二人だが......俺は二刀流だ」

青い甲虫の両の剣が、二体の攻撃を同時に受けている。

青年の仲間A「バケモンかよ!やべーのはガオーDだけじゃねえのか!?」
青年の仲間B「流石第三世代の中でも幻と呼ばれるアニマギア......」
青年「だからビビってんじゃねえ!第三世代はこっちも同じなんだよ!!」

キョウ「確かに。どこで手に入れたかは知らないけど、アーミーDも立派な第三世代だ。
ガオー達と渡り合えるだけの実力はあると思うよ」
マコト「そうなの!?じゃあやっぱり三対二って相当な不利なんじゃ......!」
キョウ「でも、それだけじゃオレとガオーはおろか、“マコトとムサシ”にだって勝てないぜ。
三対一だろうがそれは変わらないさ!」
マコト「天草、キミはムサシを知ってるのか......!?いや、それよりも——」

曲がりなりにもチームを組んで戦い慣れている青年達が、
ギアバトルを経験したことないマコトに勝てないと豪語するキョウの話がまったく理解できない。

青年「——トップランカーならともかく、素人に俺らが勝てねえってのは納得いかねえなァ!!」

それは当然、敵も同じだ。
キョウの言葉は単純に彼らをヒートアップさせている。

青年の仲間A「おらおらおら!オレらのどこが弱いってぇ!?」
青年の仲間B「そっちのアニマギアはどっちも防戦一方じゃねえか!」

彼らの言うとおり、明らかに攻撃の激しさが加速していた。
ガオーもムサシも攻撃を捌くばかりで、どちらも反撃する隙がないように見える。

マコト「ムサシ......!」
キョウ「不安そうな顔をするなよマコト。ムサシの目は死んじゃいないだろ?」
マコト「そんなこといったって、天草!」
キョウ「言って分からないなら実際にやるしかないよな......ガオー!」

ガオー「おっ、そろそろ良いのか!?」
キョウ「ガオーもムサシも“あったまってる”ころだ、目に物見せてやれ!」
ガオー「了解ッ」

一転攻勢とはまさにこのこと。
キョウに応えたガオーの攻撃が、三体のアーミーDをまとめて押し返した。
虚を突かれた三人組が、目を丸くして戦況を見つめている。
言葉を失っていた。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 03

マコトとムサシの出会いから一週間の時が流れた。
なし崩し的に家へと連れ帰ったは良いものの、
同級生はおろか親にも未だマコトがアニマギアと共に生活していることを明かしていない。
アニマギアが原因で兄が家を出て行ったことから、どことなく後ろめたさを感じていたからだ。

そのことについて、ムサシがマコトに問うてきたのは、ある日の帰り道のことだった。

ムサシ「マコトも親御さんも、そんなにアニマギアや兄上が苦手なのか」
マコト「いや......母さん達は兄さんと連絡は取ってるし、応援もしてるみたいなんだけどさ」
ムサシ「ならば構わないじゃないか、いまからカミングアウトしても」

マコト「どうしてムサシは、そんなにボクのこと気にかけるんだよ。
キミが幻のアニマギアだっていうなら、表沙汰になると色々面倒なんじゃないの?」
ムサシ「ああいや、うむ。理由は単純なんだ。何かをあらためようという気持ちになるのは“過去を持つ者”の特権だろう?俺には何かを悔いるような過ちも、何かを誇るような栄光も残っていないからな......」

残っているのはムサシという名前だけだ、と。
マコトの肩の上から語りかける彼は締めくくった。

ムサシには記憶が無い。
どうやらムサシはデュアライズカブトDとしてロールアウトする前は、別の機体として活動していたらしい。
大きな事故に巻き込まれたことが原因で記憶を失った、と開発者に話を聞かされたのだという。

EPISODE DE03

ショックを受けたムサシは自棄(やけ)気味に研究所を飛び出した。
失ってしまった過去を、取り戻せるかも知れないと信じて。

ムサシ「だから、マコトには向き合って欲しいんだ......というのは、俺のワガママなのかも知れないがな」
マコト「ムサシ......」

この話を引き合いに出されると、マコトはめっぽう弱い。
自分は色々な物から目を背けて生きてきたという負い目がある。
だからこそ、自分自身と真正面から向き合うムサシのことが、時々眩しくてたまらないのだ。

マコト「......わかったよ。まずは母さん達に話してみる」

その眩しさから逃げたくない、と思った。
彼との出会いが、マコトの中の何かを変えてくれるような気がしていたから。

マコト「ゆ、勇気が出たら......だけど」
ムサシ「決断をするのも勇気だ、マコト。一歩を踏み出そうと思えたキミのことを、俺は友として誇らしく思う」
マコト「ボクとムサシが......友......」

不意に聞かされたその言葉に、マコトは内心で強い衝撃を受けていた。
なにもいままでまったく友達がいなかったというわけではない。
しかし、ムサシの言う「友」という言葉は、今まで聞かされた同じ言葉よりも重く、そして暖かく感じたのだ。

マコト「うん、がんばって、みる」
ムサシ「応援させてもらおう」

だから、マコトはムサシが本当に誇れるような自分になりたいと思った。
まだ家族や同級生に話す勇気は出そうにない。
だが、ムサシと過ごしたこの一週間で自分にとって何か大きな変化が起き始めたのは、疑いようもない事実だった。

マコト「——あれ、あの人、どっかでみたことあるような......」

五十メートルほど先に、三つの人影があった。
どれも背丈はマコトの倍ほどあり、真ん中の人物に至っては一度会ったことがある。
あ、と気付いて引き返そうとする前に、その人物が声をかけてきた。

青年「探したぜ、がきんちょ」

忘れもしない、一週間前にアーミーDをけしかけてきた金髪の青年だ。

マコト「ななな、何の用ですか」
青年「んなもん、デュアライズカブトDを頂きに来たに決まってんだろうが」

わかりきった返答に身体が硬直する。
どうにかしてこの場を切り抜けられないか、マコトが高速で頭を回転させ始めた。
その矢先だ。

ムサシ「フン、先日情けない悲鳴をあげたのをもう忘れたのか?どうやらもう一度斬ってやる必要があるらしい」
マコト「ムサシ!」

肩からムサシが青年を挑発したのだ。
それを諫めて声を上げるが、すでに手遅れだった。

青年「なめたクチきけるのもいまのうちだ!おい!」

青年が声をかけると、青年の脇にいた似たような格好をした二人がずい、と身をマコトに寄せてくる。

青年「もともとオレらは三人で組んでんだ!今度は容赦しねえ!」

三人はにやつきながら、それぞれがアニマギアを繰り出してくる。
どれも同じ型——デュアライズカブトDのアーミータイプだ。

EPISODE DE03

マコト「どうしよう、ムサシ......さすがに分が悪いよ......!」
ムサシ「一人じゃ敵わなかったから三人で、というワケか。呆れて物も言えないな」
青年「いまさら怖じ気づいたって遅え、テメーはどんな手使ってでも持ち帰ってやる!」
ムサシ「このムサシが挑まれた勝負に背を向けるとでも......?面白い!」
マコト「ムサシってば......!」

マコトの制止もむなしく、ムサシが剣を抜く。
しかし、一触即発の空気に異を唱える声が、マコトの背後から聞こえてきた。

???「その勝負、ちょっと待った!オレもまぜてもらうぜ!」

その声の主は、マコトも見知った顔だ——。

マコト「キミは......!」

——クラスメイトの天草キョウが、笑みを浮かべて立っていた。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 02

青年「行け、アーミーD(ダッシュ)」

青年の肩から、緑色のアニマギアが河川敷の砂利へと飛び降りる。
アーミーDと呼ばれたそのアニマギアは、どうやらマコトの傍らにいる青いデュアライズカブトと同型機のようだ。

EPISODE DE02

マコト「な、なにするつもり、ですか」
青年「ァあ?アニマギアが二体揃ってんだぜ、ギアバトルに決まってんだろーが!」

そんな、と抗議の声を上げる間もなく青年は青いアニマギアにアーミーDをけしかける。
右腕の刃が、棒立ちを続ける無抵抗の青いアニマギアを弾き飛ばした。

青年「なんだ、てんで歯ごたえねーじゃん!第三世代の名が泣いてるぜ!!」
マコト「第三世代......?」
青年「かーっ!なにも知らねーでそんなレアモン使ってんのかよ!!」

いいか、と彼は続ける。

青年「お前が使ってるその青いアニマギアはな!最新鋭の技術が詰まった第三世代と呼ばれるアニマギア!
その中でも一般市場には出回ってねぇ、カタログだけに掲載される幻の超絶レアもの......
その名もデュアライズカブトD(ダッシュ)ッ!」

マコト「幻......このアニマギアが......」
青年「どこで手に入れたか知らねえが、出会えて幸運だぜ!大人しくオレのもんになっちまいなァ!!」

青年の指示で、アーミーDは容赦なくデュアライズカブトに追撃を加える。

青年「最新鋭機を使いこなせねえガキより、オレみたいな強い男こそお前のマスターに相応しいんだよ!」
マコト「......!」

彼は勘違いしているようだが、そもそもこの青いアニマギアはマコトの持ち物でなければ相棒でもない。
まったくの無関係だ。
しかしマコトがそれを青年に明かすことはない。
弱者が強者に虐げられて良いなんて話、あってたまるものか。

マコト「......どうして......」

自分みたいな子供相手に、大人げなくカツアゲしようとする青年に腹が立っているのは確かだ。
しかし、それ以上に腹が立つのは。

マコト「......立ってよ......っ」

反撃もせず、されるがままになっているデュアライズカブトの方だ。

マコト「最新鋭機なんだろ......!?」

彼が技術の粋(すい)を集めて作り上げられているというのならば、彼は相応の力を持っているはずだ。

マコト「戦えるんじゃ、ないのかよ!」

だと言うのに、彼は立ち上がることすらしない。
アーミーDの容赦ない攻撃が、ひたすらデュアライズカブトを痛めつけていた。

マコト「戦ってよ......もう嫌なんだ......“キミ”が傷付くのは......ッ」
デュアライズカブト「......キ......ミ......?この、声、は......」

マコトの声に反応したのか、デュアライズカブトに僅かな動きが生まれた。
ボロボロになった彼の身体が、びくりと跳ねるようにのけぞった。

EPISODE DE02

そんな彼の姿が、マコトが目をそらし続けていた記憶に重なって見える。
脳裏に蘇るのは、兄の記憶だ。

マコト「立ってよ、頼むから——」

かつて、力を求めたが故に相棒を捨て、家族を捨て飛び出した兄の姿がフラッシュバックする。

青年「これでおしまいだ!やれ、アーミーD!!」

そして、マコトは。

マコト「——立て、“ムラマサ”ァアアアアアア!!!!」

アニマギアを苦手とする理由を作った兄の、かつての相棒の名を、知らずの内に叫んでいた。

瞬間、マコトの怒りが届いた。
マコトがムラマサと呼んだデュライズカブトの眼に強い輝きが宿ったのだ。
直後、完全にデュアライズカブトを捉えていたはずのアーミーDの攻撃は虚空を切った。
この場の誰もが気付かぬうちに、青い甲虫は敵の背後に回り込んでいる。

青年「なにィ!?」
デュアライズカブト「——ッ」

そのままアーミーDへと斬りかかった。
すんでの所で敵はその攻撃を刃で受け止める。
鍔迫り合いになったが、優勢なのはデュアライズカブトの方だった。
徐々に押し込んでいく。

青年「見て分かるくらいボロボロの状態なんだぞ!?あいつのどこにそんな馬鹿力が......!」

デュアライズカブト「少年......!」
マコト「え、ぼ、ボク!?」

デュアライズカブト「キミの言う“ムラマサが何者かは知らない”し、俺は断じてそのムラマサなどではない——」

EPISODE DE02

ムサシ「——我が名はムサシ......二刀を自在に操る、誇り高き侍の名だッ!!」

押し斬った。
ムサシと名乗った彼の攻撃は、敵のアーミーDを遙か遠くへと吹き飛ばしたのだ。

青年「うわああああ!?オレの、オレのアーミーDがぁああああ!?お前ら覚えておけよぉーーーーーーッ!!!!」

相棒を飛ばされた青年は、情けない捨て台詞を残して猛ダッシュでマコト達の前から去って行った。
彼のことはすぐに忘れるかも知れないが、マコトはこの出会いのことをこの先ずっと覚えている確信があった。

自分が戦ったわけではないのに、マコトの息が上がっていたからだ。
興奮、していたのだろう。

マコト「これが......ギアバトル......」
ムサシ「......キミの名を、聞かせてくれないか」

いままさに、目の前で敵を倒したムサシが自分の名を聞いている。
なぜ聞かれたのかは分からないが、彼の声に応えなければいけない——そんな気がした。

マコト「ボクは......ボクは、晄マコト、です」
ムサシ「マコトか。良い名だ」

マコトとムサシ。
二人の出会いが、新たな物語を紡いでいく。
この先に、世界を巻き込む大きな運命が待ち受けていることを、彼らはまだ知る由もない。

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TO BE CONTINUED...

EPISODE 01

それが目に入ってきたのは、本当に偶然だった。
河川敷を歩いている最中、何かに導かれるように泳がせた視線の先に、それはいた。
たまたま、アニマギアがたった一人で座り込んでいるのを、見つけてしまったのだ。

EPISODE DE01

——時間は少し遡る。
とある小学校の放課後。
六年生の教室......その窓際で、残った何人かの生徒が他愛のない話題で盛り上がっていた。

女子生徒「ねぇねぇ、ビタースイーツの新曲聞いた?」
男子生徒「えー、うーん、聞いてない」
女子生徒「まじ?普段からあんなにアニマギアの話してるのに?」
男子生徒「アニマギアっていったらギアバトルだろやっぱ!
なんてったってウチのクラスにはキョウがいるんだぜ!?な、キョウ!」

男子生徒の呼びかけに応える声はない。
同級生の天草キョウは、不在のようだった。
荷物がないところを見ると、もうすでに帰路についているらしい。

男子生徒「なぁんだ、いねーのかー。熱いギアバトル論を交わそうと思ってたのに」
女子生徒「アニマギアといえばギアバトルなんてちょっと遅れてない?
天草くんだって元々アニマギアの写真で有名になったのに」
男子生徒「ぐ......それを言われると弱い......むむむ」
女子生徒「ねー!晄くんもそう思うでしょー?」

話を振られたのは、教室最後尾の扉側にある座席で、本を読んでいた晄マコト(ひかりまこと)だ。
マコトは一瞬、自分に話を振られたことに気が付かず反応が遅れてしまった。

マコト「え、ボク?」
男子生徒「あっ、だめだマコトは......!」
女子生徒「へ?なにかまずかった?」
マコト「なにもまずくないよ。ごめん、家の手伝いあるからそろそろ帰らなきゃ」

そう言って、マコトは本を机にしまい立ち上がる。
荷物をまとめて、なるべく平静を装いながら教室を後にした。

マコト「......またやっちゃったな」

マコトには苦手な物が二つある。
一つは人付き合いだ。

昔はそんなことなかったはずなのに、気付けば一人で過ごすのが当たり前になってしまった。

誰かに嫌われてるわけでもない。
その証拠に、同級生は頻繁にマコトに話しかけてくれるし、マコトも話しかけられれば人並みに受け答えは出来る。
冗談を言って笑い合うことだって、その気になれば出来るはずだ。

ただ、なにかに誘われたり、誰かの話の途中に振られてしまうとどうしてもダメだ。
他人の輪の中に入る、ということがどうしても出来ない。
大人数でいると、マコト一人だけが孤立してしまう......そんな漠然とした恐怖があった。

もう一つは——

女子生徒「......変なの。どうしたんだろ」
男子生徒「マコトにアニマギアの話はNGなんだよ......」

廊下に漏れ聞こえてきた同級生の言うとおり、マコトはアニマギアに苦手意識を持っていた。
少し前まで世間を騒がせていた獣甲屋というテロリストが、
アニマギアを使って大規模な犯罪を企てていたのも理由の一つだ。

マコト「うん。ボクは、いいかな」

仮にアニマギアに自分がのめりこんでいたとしたら、もう少しこの性格も変わっていただろうか、と考えることもあった。
だが、アニマギアが人の手に余る力を持っているのは事実だ。
力があれば、人はそれを使いたくなってしまう。

それが善行だろうと悪行だろうと、力を望めば先に待つのは破滅だと“マコトは身をもって知っている”。
だからこそ、マコトはアニマギアに向き合おうとしなかった。

しかし、その時は突然訪れた。

校門を出て、いつもの通学路。
マコトは直帰ではなく、朝に母から頼まれた買い物をするべくスーパーへの道を選んだ。
河川敷を通った先にある橋を渡り、駅へと続く大通りを行く道だ。

その道中、河川敷が中頃にさしかかったあたりで、視界の端に気になる物が映る。
誘われるように視線が動いた。
川沿いに座り込む、本当に小さな影。通常では目に留まりようもない“それ”が、マコトにはハッキリと見えた。

マコト「アニマ......ギア......だよな」

なら、関わることはない。
あれが野良アニマギアにせよ、相棒がいるアニマギアにせよ、関わったら面倒なことになる予感があった。
だからマコトは見なかったことにした......つもりだった。

マコト「——ああ、もう!」

自分の知らない感情に突き動かされた彼は、気付かないうちに河川敷を駆け下りていたのだ。
あえて理由を考えるならば、思い当たるものがないわけでは、ない。

座り込んでいる青いアニマギアが、かつてマコトの兄が捨てた相棒と同型だったからだ
そのアニマギアの名は——

マコト「デュアライズカブト......ッ!」

名を呼ばれたと思ったのか、青いデュアライズカブトが立ち上がる。
そして、マコトを静かに見つめていた。

EPISODE DE01

蛇に睨まれた蛙とでも言おうか。
避けていたはずのアニマギアに自分から近づいたと思えば、
そのアニマギアに見つめられることでマコトの思考は完全に停止した。

???「おいおいおい、随分レアなアニマギア連れてるじゃんキミィ?」
マコト「はい?」

だからこそ。
先ほどの教室で本を読んでいたときのように。
背後から現れた第三者にかけられた声が自分に向けられた物だと、マコトは一瞬気付くことができなかった。

マコトの背後に立っていたのは、黒い革ジャケットに同色の革パンツというパンキッシュな格好をした青年だった。
肩まで掛かる金髪をさらりとかきあげて、青年は続ける。

青年「ガキのくせにそんなレアモン使ってンのかよ。気に食わねえからオレがそのアニマギア、貰ってやるよ」

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TO BE CONTINUED...